【朗読】59)『アミ3度めの約束』第8章 エクシスの世界 ①
- 学 心響
- 5 時間前
- 読了時間: 15分
エンリケ・バリオス著の『アミ3度めの約束』の朗読と個人的な感想です。
【文字起こし】
(漢字表記も含め全て原文のままです)
第8章 エクシスの世界 ①
「もうすぐ家に着くよ、ペドゥリート。モニターでちょっと家のようすをのぞいてみよう」
クラトとおばあちゃんが、テーブルでおなかをかかえて笑っているところがモニターにあらわれた。
「……だからそのあと、こっちの手でテリのくびねっこをつかみ、もういっぽうの手でもうひとりのテリをつかんで、頭と頭をぶつけ合わせたんだよ。カボチャみたいにつぶれたけれど、中はなにもなかった。だってテリの頭はからっぽだからね、ホッホッホッ!」
「ハッハッハッ!」
とおばあちゃんはクラトといっしょにゆかいそうに笑った。
クラトはぼくのおばあちゃんにうそを――いや、正しくは笑い話というべきかな。だって、クラトじしん、だれかが自分のホラ話をまに受けるとは思ってないんだから――話していた。
ビンカはちょっぴりとまどっていた。
「どういうことなのかしら? あのひと、よく似てはいるけど、クラトじゃない……」
少々クラトの外見を変えたことをビンカに説明すると、彼女はすぐさま、自分の脚を少し太くしてくれるようにアミにたのんだ。でもアミは、ビンカはまだそのままでいなくてはならないと言った。
「ぼくはそのままが大好きだよ」
ぼくがお世辞を言っても、ビンカは自分の脚を見おろして、ちっともなっとくしていなかった。
モニターの中では、おばあちゃんがクラトに話のつづきをうながしていた。
「で、クラト、三人めのテリはどうしたの?」
「あぁ……エーと……うん、思いだした。そいつはきのうテレビで見た闘牛みたいに、からだが大きくて、ガッチリしておった……」
「まあ……」
「テリのヤツめ、口からあわをふき、目からは火花をちらしておった。いまにもわしにとびかかろうとして、全身から憎悪がほとばしっていたよ。そして土をうしろにけりあげながら、わしにおどりかかってきたんだ。そのとき、わしはがけっぷちに立っていて、この身を守るものは、ただ自分のこぶしだけだった」
「それで、どうしたの?」
「相手が指一本の距離まで近づいてきたときに、わしがすばやく身をかわしたんだ……」
「それで?……」
「わしが“オレッ!”とひと声発すると、テリはそのままがけ下に落ちていったよ。ホッホッホッ!」
「ハッハッハッ!」
「見たところ、このカップルはすごく気が合うようだ」
アミがぼくたちをふりかえって、ほほえんだ。
はじめてぼくのおばあちゃんを見たビンカは、感激の面持ちで、
「ぺドゥリートのおばあちゃんは、とても明るくて感じがいいわ。きっとわたしたち仲良くやっていけるわ」
「うん、おばあちゃんもぜったいに、きみを大好きになるよ」
アミは円盤を海岸の家の上にとめた。
「さあ、着いたよ。下におりて、お祝いの食卓にくわわろう」
黄色い光の中をおりて、ぼくたちは、おばあちゃんたちの前にあらわれた。すべてがこんなにあっさりと解決してしまうなんて、まったく信じられない思いだった。お祝いの宴は再開された。こんとはビンカもいるし、欠席者はなしだ。おばあちゃんはすっかり、ぼくの永遠の恋人を気に入ってしまったようだ。うっとりとビンカを見つめながら、こう言った。
「ぺドゥリート、ビンカってとってもすてきな子だよ!見た目はここらへんのひととは少しばかりちかうけど、性格はとってもいい子だって、あたしにはよくわかる。聖シリロは、けっしてあたしたちをがっかりさせないんだよ。どう、みんなもわかっただろ?」
「アミはまさに、チャンピオンだよ。でも、いったいどうやって、あのPP(政治警察)の地下牢から三人をすくい出したんだい?」
とクラト。アミが救出劇のあらましを話すと、みんなが彼にむかって拍手をした。すくにアミが、ペドゥリートもそれを手伝ったんだから、拍手にあたいすると言うと、みんなはぼくにも拍手をしてくれた。
おばあちゃんはとても幸せそうだった。
「この家はいま、よろこびでいっぱいだよ。もうおそいけど、いまはバカンスだし、明日はだれも仕事をしないでいいんだし……。じゃ、ビンカの夕食を持ってくるよ。すぐもどるから、そのへんでくつろいでいて。それにしても、なんてうれしいんだこと!」
「おばあちゃん、ぼくにも二番めのお皿をもってきて」
とたのんだ。だって、さっきは半分しか食べられなかったからだ。
少しすると、食事が運ばれてきた。
「うわー!! おいしそうなにおい! ム……でも、わたし食べられるかしら?」
ビンカはちょっぴり心配そうだ。
「きっと口に合うよ、ビンカ。想像してごらん、これがガラボロだって……」
「エー……と、どれどれ、ちょっと食べてみるわ。このお肉、とってもやわらかそう……ウーン……おいしい!」
「ブフーッ!ぼくは円盤に行って、健康な食事をしてくるよ。まるいちにち、ほとんどなにも食べてなかったからね。すぐもどるよ」
「アミ、ここにもってきてみんなといっしょに食べたら」
とおばあちゃんが言った。
「それはむりだよ、リリー。みんなが食べてるところを見たり、においをかいだだけで、ぼくはもう、食欲がなくなっちゃうんだ。すぐもどるから」
ビンカは赤ワインに見とれていた。
「その飲みもの、とってもきれいな色だわ」
「とってもおいしいよ、ビンカ」
とクラト。
「ちょっとだけ飲んでみる?」おばあちゃんがビンカに聞いた。
「はい、じゃ、少しだけ」
「子どもたちはこの小さなコップで、はい。クラト、ワインをもう少しいかが?」
「いまはけっこう。どうもありがとう、リリー」
ぼくはてっきり、クラトって人がものすごい飲んべえだとばかり思っていたから、彼の返事にはびっくりさせられた。
「クラトがワインをえんりょするなんて……」
「なにが言いたいのかね?“ベドゥリート”。わしはいそいで酒を飲んだりしない。たくさん飲みたいからね」
「エッ!? どういうことなの? クラト」
「わしは、酒を飲むときはゆっくり飲むんだよ、“ベドゥリート”」。一口ひと口味わうようにしてさ。あんまりはやいペースで飲むと、すぐにねむくなってきて、高いびきでねてしまうんだ。いまはとくに気をつけんといかん。このすばらしいひとときを失うなんて、もったいなさすぎる。そうはいっても、このワインとかいう、地球のうまい飲みものを楽しまない手はないよ。これにくらべたら、ムフロスの発酵ジュースなんて、まるでいなかの酒だ。味わいもなにもあったもんじゃない。いったい、この神のジュースは、どんなくだものからつくるんだね?」
ぼくは冷蔵庫へ行って、ぶどうをひと房もってきた。
「これだよ。ぶどうっていうんだよ」
「なんとりっぱなくだものなんだ」
「なんて、きれいなの。ひとつ食べていい?」
ビンカまで目をかがやかせた。
「もちろんだよ」
「うん、おいしい!」
「ここに聖クラト酒造の支店をつくれそうだな。ホツホッホッ!ああ、そうだ、だいじなことを思いだした……トゥラスクにえさをやってくれたかね?」
「うん、ちゃんとあげておいたわ、クラト。いま、あの小屋には、わたしのおじさんたちがいるの。だからトゥラスクの世話はふたりがやってるのよ。もう、かなりなついてるわ……」
「わしの小屋で、あのテリがなにをしてるんだ!?」
そこにアミがもどってきた。
「ゴロたちはしばらくかくれてなきゃいけなくなったんだよ。それにはあの小屋がいちばんだったんだ。きみが迷惑に感じなきゃいいなとは思ってたんだけど……」
「ウム……」
クラトはそのとき、愛らしいほほえみをむけているおばあちゃんと目が合った。
「も、もちろん。もちろんめいわくじゃないよ。それなら、トゥラスクにさみしい思いをさせることもないし……で、あそこにはどのくらいいるつもりなんだい?」
クラトはつとめて顔には出さないようにしていたものの、とうていよろこんでいるようには見えなかった。
「きみがもし帰りたいって言うなら、いますぐ帰ろう。クラトにはあそこにもどってもらうことにして、ゴロたちをどこか別のところへつれていくよ。そしてバイバイ、またねだ。じゃ行く?クラト」
「いやいや、たんなる好奇心から聞いたまでのことだよ。それに……」
「それになに? クラト」
「うむ……わしもここでずっと暮らせるのかもしれんのだろ?……」
「アミ、クラトはもう地球人に変わったんだから、ここにいさせてあげて!」
とぼく。
「でも、どこに住むの?」
アミがぼくたちにたずねた。
「ここだよ。ぼくたちといっしょにだよ。ねえ、おばあちゃん?」
「あたしは大賛成だよ……ビンカはあたしのへやにねて、クラトはあいているへやを使ってもらえばいいわ」
ぼくたちの意見に、アミも異存はないようだった。
「ぼくはかまわないと思う。でもね、クラト。きみは覚悟ができているの? もう二度と、あの小屋には帰れなくなるんだよ」
それを聞いたクラト老人が動揺を見せた。
「ウム……正直言って、こんなきゅうなことになるとは、考えもしなかった。わしはずいぶん長いこと、あの美しい土地に住んでいたんだから…… (クスン)……。スワマに変わったときも、そうだった。わしはあのとき、歯ブラシ一本、自分の過去をもってこられなかったんだよ。いまだから言うけれど、テリだったときのわしは、かなり重要なポストについていて、大金持ちでもあったんだ。それをぜんぶぜんぶ捨ててきた……いやいや、そんなことはもうどうでもいい。過去ってのは、あとにおいてこなきゃならないもんなんだから。そうだろう? アミ」
「そのとおりだよ、クラト。まさにそのために死というものがあるんだ」
「それはどういうことかね? アミ」
「宇宙は、自分たちの創造物が、あらたな経験、あらたな環境、あらたな場所、あらたなひと、あらたな考えにふれることで、進化し、成長していってほしいと考えている。ところがそれをはばむのが、きみたちじしんの執着心なんだ。きみたちはあまりにいろいろなものにしがみつきすぎている。自分たちの場所、自分たちの愛するひと、自分たちの物、自分たちのすがた、自分たちの考え、思い出……すべてを手ばなしたがらない。きみたちが、そういったもろもろの執着から自由になって、別の状態へ、別の幸福へととおりぬけるためのたったひとつの道は、いま、その身にまとっている“服――つまり肉体のことだね――”を脱ぎ捨てることだ。肉体がほろび、死をむかえたときにようやく、きみたちは執着からのがれて、あらたな状態に入ることができるんだ。でも、そのかわりにきみたちは、かつての人生でのことをなにひとつ――どんなに愛着のあるものでも――おぼえてはいない。ほんとうは、一人ひとりの心の奥の奥に、記憶はひっそりとねむっているんだけど……」
「わたしたちが死ぬのは、そのためなの?」
とビンカがたずねた。
「そう、ざんねんながら、いまのきみたちがあらたな状態にうつるためには、“死”を利用するほかに道はないんだ。でも、もしもきみたちが、もっと進化した段階のひとたちのようにもう少し執着からはなれることができれば、“死”という、痛ましくて苦しいプロセスはいらなくなる。進んだ魂たちは、もはや“死”を通過しなくとも、自分の意思だけでかんたんに、宇宙が用意してくれた新しい状態の中へとびこんでいけるんだよ。しかも前の人生でのことを忘れたりしないでね。ぼくの中にも、自分が半分ゴリラだったころからいまにいたるまで、記憶はぜんぶのこっているよ」
アミのはっきりとわかりやすい説明を聞いて、みんな考えこんでしまった。ぼくはいままで、なんどとなく神の善良さをうたがってきた。どうして神が、“死”のような痛ましいものを創りだしたのかが、わからなかったんだ。でも、アミの説明のおかげで、“死”が、愛の神が創りだしたものだという考えは、矛盾するものじゃなくなった。だって、愛がぼくたちの進化や完成を求めつづけるのはとうぜんのことだ。ぼくたちが自力で自分たちの執着を克服できないのだとしたら、新しい状態にうつるためには、むりやりにでもいまのところからひきはなしてもらうしかない。それしか道はのこってないんだから。
「まったくアミの言うとおりだ。いつかわしがあの土地を捨てなきゃならんとしたら――どうしてもそうしなきゃならんのだとしたら――、いまがそのときなんだよ。わしはここで一生暮らすことにするよ……もちろん、この美しいご婦人のそばにね」
おばあちゃんのかたに手をまわすと、クラトはそう言った。おばあちゃんもクラトの胸に頭をあずけ、うれしそうにほほえんだ。ここにもまたひとつ、ロマンスがたんじょうしたのはあきらかだった。
ぼくだって、もう、めいわくどころか、その正反対。身近にいつもクラトがいてくれるのは、とってもうれしいことだった。
クラトがふとなにかを思いだした。
「トゥラスクは?……」その目には、なみだが光っていた。
アミは笑いだした。
「トゥラスクはずっと元気でいられるよ。ぼくが責任をもつ。クラト、ぼくを信用できるかい?」
「ウム……(グスン)……信用するよ、アミ。かんしゃするよ、ありがとう」
「かんしゃだなんてとんでもない。もうちょっと落ちついたら、地球社会に同化できるように、ぼくがいろいろお膳立てするから、まあ見ててよ。……話はつきないけど、そろそろこの夕食会もお開きにするとしようか。もうおそいし、子どもたちはまた明日も、見にいかなきゃならないところがあるからね」
「ビンカのベッドは、もう用意したからね。あたしのベッドのとなりに」
「こんばんは楽しかったけど、みんな、浮かれっぱなしでいちゃダメだよ。ゴロがどういうひとなのか忘れないでね。じゃ、ぼくはもう行くよ。明日の朝、むかえにくるから」
ぼくたちはアミに、いっときの別れをつげた。ぼくはベッドにむかいながら、いままさに起こっていることが信じられずにいた。ビンカがぼくの家でねむる!ぼくの幸せは、もう限度をこえていた。あとはただ、ゴロが今後どういう決定をするかだけが問題だったんだけど……ともかく、かなりハードな一日だったし。夜もふけていた。まくらに頭をのせるや、ぼくはあっというまにねむりに落ちてしまった。
よく朝、やわらかいノックの音で目がさめた。ぼくはまだ半分ねぼけていて、ゆうべどんなことが起こったのかさえ、まったく思いだしてはいなかった。
「入って、おばあちゃん」
ぼくの声にドアを開けたのは……おばあちゃんじゃなくて、うるわしのビンカだった。両手でお盆をささげもったビンカが、ぼくのへやの中に入ってきたんだ。
まるでこの世でいちばん美しい夢を見ているようだった。でも、夢じゃなかった。現実に、ぼくの双子の魂が、お盆に朝食(と愛情)をのせて運んできてくれたんだ。
「あぁ……ビンカ!……そんなめんどうなことしてくれなくてよかったのに……ありがとう」
「ちっともめんどうなんかじゃないわ。あなたのために朝食を運べるなんて、ほんとうにうれしいことよ。よくねむれた?ペドゥリート」
ベッドに腰かけてぼくを見つめるビンカは、なんとも愛らしい。
「うん、とっても……ビンカはよくねられた?」
「ええ、とっても。わたしの人生の中で、もっとも美しい夜のひとつだったわ。ペドゥリートがこんなに近くでねむっていたんだもの」
おばあちゃんが入ってきた。
「おはよう、ペドゥリート。早く起きて、したくしないかい。アミとクラトがお待ちかねだよ」
「エッ! アミ、もうきてるの?」
「ちょっとばかり前にね」
「どうしてもっとはやく起こしてくれなかったの?」
「ビンカがもう少し休ませてあげたいって……これからもきっと、あれこれ世話をやいてくれるだろうよ」
へやのすぐ外でさわがしい声がした。
「ねぼすけ“べドロ”がなにをやっとるのか、ちょっとのぞいてみよう、アミ」
そうして、クラトとアミもへやの中に入ってきた。
ぼくはひとりっ子だから、家の中でもひとりぼっちでいることになれている。だから、なんだかふしぎな感じだった。
ふだんぼくがねているときは、寝室にはだれも入ってきたりしないのに、ぼくのベッドのまわりにはいま、おばあちゃん、クラト、そしてアミ。そのときふと、クラトの服装に目がいった。スポーツシャツ、半ズボン、ズック、白い靴下、防水仕様の赤いプラスチックベルトのうで時計、ひさしのついたぼうし……。いまやクラトは、どこから見てもふつうの地球人だった。
「クラト、いったい、その服どこからもってきたの? ハッハッハッ!」
答えたのはアミだった。
「ぼくが用意したんだよ。どう、気に入った?クラト」
「ウム……??……でも、この子はわしのこと笑っているし……パハラコ(注:スペイン語でみにくい鳥の意味)みたいかい?」
「うん、そのとおりよ」
とビンカは笑った。ビンカにもやっぱり、クラトのかっこうはこっけいにうつるらしかった。
「そんなことないわ、クラト。スポーティーで若々しくて、とってもお似あいよ」
おばあちゃんだけがクラトをほめた。ぼくもあわてて言いわけした。
「なかなか似あってるよ、クラト。ぼくが笑っちゃったのは、おどろいたせいなんだよ。だって、いつもの“預言者”からいきなり、“海辺のプレイボーイ”に大変身だもんね」
アミが笑いながら、ぼくにたずねた。
「出かける準備はできた?ペドゥリート」
「あーっ、ごめんごめん、まだまだなんだ。いそいでシャワーを浴びなくっちゃ……」
「その必要はないよ。ぼくの円盤のあのへやへ入ればそれでOKだって、きみも知ってるはずだよ」
「ああ、そうだ。忘れてたよ」
ぼくが手ばやく朝食をすませて少ししてから、ビンカとアミとぼくの三人は、おばあちゃんに、「行ってきます」のあいさつをした。
「クラト、なにか必要なものがあったら、小屋によったついでにもってくるけど?」
「なにもありゃせんよ、アミ。キア人のわしはもう、死んだんだ。死んだひとが別の世界になにかもっていったら、おかしいだろう?だからわしも、地球になにももってこない……(クスン)……かわいそうなトゥラスクの世話をくれぐれもたのんだよ……(クスン)……それから、ウム、よく太ったうまそうなガラボロを二羽ほど、つかまえてきてくれないかね?ホッホッホッ!」
【感想】
今回、クラトが地球にこれからも住み続ける決断をする場面でのアミの言葉は、とても衝撃的でした。「死」とは「執着を手放すためのもの」だという考え方です。それは「修行」というよりも、人が進化し、成長していくことを願うがゆえに、執着を超えていくプロセスが必要なのだ、という意味なのだと感じました。だからこそ「死」は恐れるだけのものではなく、必然として用意されているのかもしれない――。これまで自分の中で曖昧だった「死」の解釈に、ひとつの光が当たったようで、とても新鮮でした。けれども、頭で理解できたとしても、もし自分が余命宣告を受けたなら、心はきっと大きくざわつくだろうとも思います。
クラトが故郷を永遠に離れる決断をするように、私自身も、そっと握りしめている手を離せるものは何だろうと考えてみました。すると、本当に大切にしているものたちの存在が、静かに浮かび上がってきました。だからこそ今は、それらを愛おしむ気持ちでしっかりと抱きしめながら生きていたい。そして、いずれ離れる時が来たなら、「ありがとう」と感謝を込めて手を放そう、と。
クラトのように、新しい地球での生活が始まるとしたら――それはきっと、悲しみだけではなく、希望でもあるはずです。手放すことに目を向ければ喪失に心が揺れますが、共にあった日々に感謝し、これから出会う新しいものを慈しみながら生きることもできる。すべては、自分の選択なのだと改めて感じました。



コメント