【朗読】66)『アミ3度めの約束』第10章 援助 ②
- 学 心響
- 4月24日
- 読了時間: 13分
エンリケ・バリオス著の『アミ3度めの約束』の朗読と個人的な感想です。
【文字起こし】
(漢字表記も含め全て原文のままです)
第10章 援助 ②
クラトはぼくのパソコンでインターネットに熱狂していた。ビンカは村の中心のほうにでかけていた。
クラトが言うには、彼女は新しい自分のすがたとたんのうなスペイン語でもって、ぼくの世界をいろいろと見たいと、でかけていったとのことだった。
「クラト、どうやってぼくのインターネットにアクセスしたの? ぼくはアトレスを教えてないはずだけど……」
「どれ?……“スキビンカ”? ……なんて独創的なんだ……なあに、どんなシステムのコンピューターのアドレスでもわかる、とても巧妙なトリックを思いついてね、ペドゥリート」
クラトはいまや、ぼくの名前をかんぺきに発音した。
ぼくは少し赤くなった。それがぼくのプライバシーへの干渉にたいするいらだちからか、それともはずかしさからかはわからなかったけれど。でも、彼がwebページのニューヨークの株式市場のところを見ているのに気づいたときには、好奇心がおさえられずにぼくは彼にたずねた。
「クラト、ニューヨークの株式市場にアクセスしてなにをしているの?」
「コロンビアのコーヒーを買っているんだよ。いまは安いけど、来週には大雨がふってコロンビアのプランテーションにひどい被害をあたえる、そうしたら、コーヒーの値段はもうくもの上までウナギのぼりだよ、ホッホッホッ!」
ぼくはまた、どぎまぎした。
「でも、どうしてコロンビアに大雨がふるってわかるの?」
「それは、わしの広大な気象学の知識のおかげだよ、ホッホッホッ!」
ぼくはそのとき、クラトが言っていることを考えてみた。そして、クラトの言っていることは、ほんとうだということがわかった。たしかに一週間後、コロンビアに大きな嵐が発生するということが、ぼくにもわかった。アミがぼくたちにあたえてくれたぼうだいなデータのおかげで、近い未来の天候はかんぺきに推測できた。
「そして、いちばん被害を受けるところは、ちょうどあのコーヒーを植えてある地域だよ」
とおばあちゃんが言った。おばあちゃんもぼくたちとおなじ、すぐれた、高い知識をもっていた。
「これで最終的に、ぼくたちの経済問題は解決したようだよ、おばあちゃん……でも、クラトは身分証明書もなければ、ここでの正式な名前もない、お金もないし……いったいどうやって株のそうさをしようっていうの?」
「わしはなんにももってはいないが、必要なものはペドゥリートがぜんぶもってる。わしは、きみの資金をきみの名前でそうさしてるんだよ。なにしろわしはいま、きみの責任者なんだからね。きみはまだ未成年だから、ゴロがビンカの責任者をつとめているのとおなじように、わしもペドゥリートの責任者というわけだ……そうだろう?アミ」
「うん、クラトの言うとおりだよ、銀河系当局の観点からすればそのとおりだ」
「でも、ぼく、お金なんかないよ……」
「いや、あるよ。国立銀行の口座番号432837の1だよ。知らなかったのかい?」
「知らなかったよ。でも、それなにかのまちがいだろう、クラト」
「まちがいじゃないよ。“わしのシステム”を大活用して、この国の税務関係のところへアクセスして、そこの口座リストを見ていたらペドゥリートの名前があったんだ、そうやってきみの口座のデータを手に入れたわけなんだよ。そのあとで、インターネットできみの銀行に入れて、知っているだろう? どうやるか、そしていま、ニューヨークにむけて銀行振替しているところなんだよ」
おばあちゃんが話しはじめた。
「ペドゥリート、クラトの言うとおりだよ。じつはビクトルが口座を開いておいてくれたんだよ。あの本が売れてビクトルに入ってきたお金の10パーセントを入れておくためにね……ビクトルだけが知っているらしい口座にね」
「でも、ぼくそんなことまったく知らなかったよ……」
「だって、言わなかったからね。お金に目がくらんでバカなこと考えたりしたらこまるから。おまえがかなりのビデオゲームマニアだってことを考えるとね……でも、もうかなりたまっていると思うよ。だいたい……」
「家一軒と車一台くらいは、じゅうぶんに買えるだけのお金だよ。もちろん高級なものはむりだけど。でも、そのお金はコーヒーに投資して、来週には二倍になっているよ、ホッホッホッ!」
とクラトが言った。
アミはあんまりよろこんでいないようだった。
「それは投機だよ。ペドゥリートのお金はきれいなお金だ。たくさんのひとたちによいことをした見返りにきたお金だ。でも、投機からくるお金はそうじゃない。なにも生産しなければ、なにも生じない。集団にたいする盗みだ。もうわかっているはずだよ。原因と結果の法則、ブーメランの法則を……」
「でも、これはまったく正当なことだよ、アミ」
「資材の交換システムという地球の法からすれば正当だけれど、宇宙の法からすればそうじゃない。もっと悪いのは、“いかさま”をしていることだよ。ほかのひとよりずっと多くの情報をもっているんだから……。だから、この取り引きはやめたほうがいいよ、クラト」
「ウム!……まさにこのマウスで“OK”をクリックする寸前に、ひとの楽しみに水を差そうとする小さな子どもがあらわれた……わかったよ、わかった。マウスポインタを“キャンセル”に合わせて、クリックして取り消しそうさ終了だ」
ビンカが外から帰ってきた。
「ほんとうにすばらしいわ。まるで、まったくの別人になったみたいだわ」
と言いながら、ビンカはこちらにやってきて、ぼくを抱擁した。とたんにぼくたちはまた、あの時間の止まった次元に入りこんでいきそうになった……。
「エヘン!……」
「ああ、失礼」
「どうして中断させるの、アミ。とても幸せそうじゃない……」
「リリー、ぼくにはもう、ほんの少ししか時間がのこってないんだ」
ぼくは、アミに知識をあたえてもらってからまだ一時間もたっていないクラトが、どうしてあんなにはやくたくさんのことができるようになったのか、まったくわからなかった。それでぼくは聞いてみた。
「わしにもわからん……電話番号もこの世界を組織するシステムのことも、なんでも知っている。わしは情報科学のチャンピオンだよ。だれにもなんにも質問する必要がないんだ。どうやって情報を手に入れるか、かんぺきにわかっているんだよ。かんたんなんだ。たぶんわしは、ここでの暮らしも、とても気に入ると思うよ……ああ、ところで、アミ。商売することは“罪”なことなのかね?」
「なにで商売するかにもよるよ、クラト。ひとに害をあたえるようなことは罪だよ。だってそれは、愛の法を破ることになるからね。でも、よいものを、それがないところへ、それが必要なひとのところへもっていって、とんでもない値段をふっかけてもうけたりしなければ、それはよいことだよ。そのばあい、ブーメランの法からしても、悪い見返りはないよ」
「なにかよいこと、もたらす?」
「うん、利益が出る。でも、それだけだよ」
「おおっ、そりゃすごい。たったいまわかったけど、国際ランクに準じた上等のボルドーワインをとても安く売りたがっているところがある。そして、オーストラリアの輸入業者がちょうど、そういう条件のワインを望んでいることがわかった。コーヒーほどの利益はないにしても、たったいちどの取り引きでわれわれの資金を七・五パーセントも増やすことができるよ。ホッホッホッ!お金をたくさんもうけて、みんなで楽しもう。これはわしがひき受けるよ」
「うまくいくよ」
とアミは笑って、
「そしてきみたちはすぐに、“利益”以上のなにかのために生まれてきたってことを思いだすよ。そうしたら、きみたち四人は、この世界の進歩にもっと役立つことができるようになる、いまもっているばくだいな知識を活用してね」
ぼくはそこで、いまはもうエマソンの詩を知っていることをみんなにしめしてやろうと思い、詩のつづきを朗読しはじめた。
“ひと、一人ひとりの中に宿る力は
新しい種類の力であり、
なにものも、ただ自分だけが、なにが自分でできるかを知っている
でも、それをじっさい試みてみないかぎり、自分でもわからない”
おばあちゃんはとてもよろこんでいた。
「あとは、ビンカとクラトの身分証明書を手に入れるだけだね」
「ぼくがここをはなれたらすぐ、この国の戸籍課ではたらいている宇宙親交の仲間に連絡を取って、ふたりの指紋と写真を提出することにしよう。そうしたら数日で、身分証明書がここに送られてくるよ。ところで、これからどういう名前にする?」
「ジェームズ・ボンド!」
クラトはすっかり感激したようだ。
「じょうだんはよして。ウム……ふたりのアクセントは、ちょっとだけ東ヨーロッパの人たちに似ているから、そのへんの名前にしたらいい」
クラトは、自分の驚異的にぼうだいなファイルの山の中から、てきとうな名前をさがしだし、そして言った。
「これはどうだろう。ペトゥレ・ポペスク。ルーマニア、ブダペストの出身、サッカーはラピド・デ・ブカレストの大ファンだ、ホッホッホッ!」
みんなで大笑いした。アミはクラトがとてもいい名前を選んだと思っているようだった。
「少し、ルーマニア語を勉強しておくようにね」
「じゃ、わたしはナデア・ポペスク。ペトゥレ・ポペスクの娘よ。どう思う?アミ」
「かんぺきだよ、ナデア!」
「でも、わたしの友だちはわたしのこと、ナディって呼んでいるの……」
と、ビンカがちょっぴり色っぽく言ったので、みんな笑いだしてしまった。
これですべて解決した。でも、おばあちゃんがとつぜん、学校のことを思いだした……。
「アミ、この子たちは学校で、ひどくたいくつするだろうね。だって、学校で習うことはみんなとっくに知っているんだし、それ以上のたくさんのことも……」
「ほんとうだ!きっと先生たちが無知に見えてきちゃうんじゃないかな……」
アミも同感だった。
「もう、ふつうの子どもとはちがうんだから、このふたりを学校へわせるなんてバカげているよ。授業を受けずに試験だけ受けるという手もある。そうすれば、本を書く時間もじゅうぶんに取れるし、この世界の進歩のために、なにか重要なこともできるよ」
「うわー!!」
それはすごいとばかりに、ぼくは歓声をあげた。
(でも、だれでもこうかんたんに、学校から自由になれるわけじゃないよ。しかもなんの事件も起こさずにね……うん、それに、だれもが、宇宙のはるかかなたへ旅できるわけでもないし、双子の魂に出会えるわけでもないし、ぼくのようにいいアミーゴ(友だち)と知り合いになれるほどラッキーでもないけれど)
夜がきて、そろそろアミとさよならしなければならないときがきた。みんな目をうるませていた。
「アミ……ぼくたちといっしょに……(クスン)……いるわけにはいかないの?……」
ぼくはとてもとても悲しくなってしまって、アミにたずねた。彼はぼくたちをやさしく見て、それから一人ひとりを抱擁すると言った。
「ぼくはちょっとのあいだいなくなるけど、自分たちの内部を見れば、そこにいつもぼくがいることがわかるよ••••••いつもね」
でも、ぼくたちがあいかわらず悲しい顔をしているので、アミはさけんだ。
「元気を出して! 一年もしないうちに、ビンカの書いた原稿を取りにくるよ。そして、そのとき、キアのほうへひとまわりしにつれていってあげるよ」
それを聞いて、ぼくたちは元気づけられた。
そのあとぼくたちは、アミの円盤が、どんなふうに遠のいて、小さくなっていくかをながめていた。空の上のほうではなく水平線のほうにむかって、光の点がだんだん小さくなっていった。
感動で胸にあついものがこみあげてきた。でもいっぽうでは、ぼくたち四人の希望に満ちた新しい人生が、まさにはじまろうとしていたのだ。
星がちりばめられた夜空は、ほとんど透明に見えるくらいみごとに晴れわたっていた。水平線のあたりから、ピンク色をした光が、まっすぐ空にのぼっていくのが見えた。そうしてそこから、花火のようにハート形の火花の房がひろがって、じょじょに消えていった。みんながもの悲しい気持ちになる前に、クラトがさけんだ。
「グッ!」
「どうしたの?クラト」
「わかったよ。なんのために生まれてきたのかが!わかったよ、わしが、いや、わしらがなにをしなければならないかが!」
“ペトゥレ・ポペスク”はよろこびに酔いしれていた。
「みんなで、宇宙の法にのっとって、星の未来の平和共存を築くためのプロジェクトを用意しよう。そして、それができあがったら、国連に提出しよう」
そしてクラトは笑いながらつけくわえた。
「きっとみんな、わしらのことを頭がおかしいとか異常だとかって思うよ。ホッホッホッ! でも、かまいやしない、戦おう! そうだろう、みんな」
「そうだ、そのとおりだ!」
と、確信に満ち満ちて、みんなが声をそろえた。
それから、ぼくのおばあちゃんが言った。
「そのほかにも、人類がもっと、自分の内的成長にめざめるようなプロジェクトを用意しましょう」
こんなことを言いだせば、この世界ではとんでもない“たわごと”と受け取られるってことを、みんなよく知っていたから、思わず笑いだしてしまった。でも、おばあちゃんの提案がまた、ぼくたちの世界でもっとも重要で、いちばん必要なことにふれていることもわかっていた。
「そのあとで、未来の宇宙文明との出会いを容易にするプランを提出しましょう」
とビンカがとても感激して言った。そしてみんな、このプロジェクトについて聞いた国連職員が、はたしてどんな顔をするのかと想像して、ふたたび大笑いしてしまった。
「さいごに、これはそれほど“たわごと”ではないけれど」
とぼくは言った。
「地球上でまったく農耕に使われていない土地を刺激する計画だよ。そうすれば飢えや栄養失調も完全に克服できる。だって、いまの地球の人口は、六十億ほどだ。人口過剰ってわけじゃないからね。使われていない土地を、現在のテクノロジーでもって有効利用すれば、地球には、幸せに太ったひとたちが、八百億も暮らすことができるんだ」
「そのとおりだ!」
三人もそれぞれ、自分たちのデータを確認してからうなずいた。
“そうだよ、みんな。足は大地に……”
という小さな宇宙人の声を、ぼくたち四人ははっきりと聞いた。アミはさいごに遠隔マイクを使ったんだ。
そしていま、
地球だけでなく宇宙をふくめたぼうだいな知識を
おなじようにもった四人は、未来にむかって、
すばらしい仕事への使命感をおぼえながら、
感動とよろこびをいっぱい胸にかかえて、
はたらきはじめた。
【感想】
クラトが「商売をしてもよいのか」と問いかけたとき、アミはこう答えました。「『愛の法』に則っているのであれば、利益を得ること自体は問題ではない。ただし、人はやがて、利益以上の何かのために生まれてきたことを思い出すだろう」と。さらにアミは、今ある知識を使えば、この世界の進歩にいくらでも貢献できるとも語ります。この物語が書かれたのは約40年前ですが、現代の私たちはAIというかたちで、その「知識」を手にしています。その力をどのように使うのか――それを決めるのは、他でもない人間です。平和のために使うこともできれば、争いのために使うこともできる。いま私たちは、その分岐点に立っているのだと思います。
ペドゥリートが朗読した詩の意味も、ここでさらに深く響いてきます。「一人ひとりの中に宿る力は、自分だけが知っている」という言葉です。本当に大切なのは、その内側を見つめにいくこと。「何かが足りない」と外に求め続けるのではなく、自分の内にすでにあるものに気づくことなのだと感じます。別れのとき、アミはこう言いました。「自分たちの内部を見れば、いつでもぼくがいることがわかるよ」と。それをどれだけ信じられるか――そこに、大きな意味があるのでしょう。
そして最後に、4人は宇宙の法に基づき、星々の平和共存を実現するためのプロジェクトを進めていくこと、さらに人類が内的成長に目覚めていくための取り組みを行うことを目標として定めました。「商売」という営みもまた、一つのゲームのように楽しむことができるものです。けれど、本当の喜びに触れたとき、人はその先にある人生の意味を、自然と見出していくのかもしれません。



コメント