【朗読】65)『アミ3度めの約束』第10章 援助 ①
- 学 心響
- 4月13日
- 読了時間: 13分
更新日:4月14日
エンリケ・バリオス著の『アミ3度めの約束』の朗読と個人的な感想です。
【文字起こし】
(漢字表記も含め全て原文のままです)
第10章 援助 ①
ぼくたちが家に着くと、クラトはおばあちゃんからヨガのレッスンを受けていた。
「リリー、どうやってこのもつれたからだをもとにもどせるの? このままじゃ背骨が折れちゃうよ……ああ、帰ってきたか、ホッホッホッ」
「あたしには、みんなの顔を見ただけでわかったよ。許可がもらえたんだね、そうだろう?」
とおばあちゃんが言った。
「うん、もちろん。もう、ビンカはこれからずっとここにいられるよ」
「ああ、よかった。主よ、聖シリロよ、どうもありがとう!それからアミ、ありがとう!」
「ゴロが許可しただって!? あのけものみたいなヤツが許可するわけがない」
と若返ったクラトが言った。
「いやいや、許可したよ、とてもよろこんでね……」
「そんなこと、あるわけない……あのテリは、石みたいに頭がかたいんだ……いったいどうやって説得したんだい? 催眠術でも使ったのかい? アミ」
「バカなこと言わないでね、クラト。そういうことはしちゃダメなんだよ」
「ウム……じゃ、スワマになったんだ……そうだ、変身したんだ……そうだろう?」
図星だった。みんなびっくりしてしまった。
おどろきの表情でクラトを見やりながら、アミはたずねた。
「そのとおりだよ。まさにそれが起きたんだよ……でも、どうしてわかったの?」
するとクラトは、自分がさもすごい人物であるようなふりをしながら、
「ハッハーッ、この小さな宇宙人だけが超能力をもっていると思ったら、大まちがいだよ……」
「ほんとうにクラト、どうしてわかったの?」
ビンカもおどろきで目を大きく見開いたまま、たずねた。
「わしもテリだった。だから、テリというのがけっして自分の考えを変えたりしないということぐらいわかっているよ……スワマにならないかぎりはね、ホッホッホッ!」
それを聞いたアミは、少し考え込んでしまった。
「たぶん、クラトの言ったことは正しいよ。もしゴロがスワマに変わりはじめなかったとしたら、はたして許可がもらえたかどうか?……」
「あたしが聖シリロをとおして、神さまにすべてを解決してくださるようにお願いしておいたからね。ちゃんと神はあたしの願うことを聞いてくれたんだね。いるんですよ、神はほんとうにね」
「うん、ちょうどそれとおなじことを、クラトとペドロにも言ったんだよ」
「そう、そのとおり。これはすぐに、上等なワインで祝わなくっちゃ」
「とんでもない、このクラトの酔っぱらいが……」
「酒の通と言ってほしいね、通って。わしは酒をたしなむ美食家なんじゃよ、ホッホッホッ!……で、ゴロとクローカは、わしの天国についてどう言っていたかね?……ぜったい、あそこに住みたいって言ってただろう、そうだろう?」
ぼくはまたびっくりしてしまった。アミは笑って、つぎのようにだけ言った。
「クラト、また当たったよ。彼らはいま、とっても幸せだよ」
ビンカはすっかり混乱したふうで、
「ほんとうに、クラトには超能力でもあるのかもしれないわ……」
「そうは言うけど、ひょっとして、わしにその能力がないとでも思っているんじゃないかね?……ホッホッホッ、でも、こんなかわいい子をだましちゃいけないな、なーに、とうぜんのことだよ。だって、彼らはどこにも行くところがない。あそこにはもうちゃんと、畑も山小屋もある。行ったらそのまま住めるようになっているんだ。ムフロスの発酵ジュースもたくさんあれば、ガラボロもいる。こんな掘りだしものはない! ホッホッホッ! でもかわいそうなのはトゥラスクだ、どうしていた?」
「幸せだよ、クラト。いまは“パパ”と“ママ”がいるから、もっと幸せだよ」
「ウム……裏切り者のブゴめ! わかるかね? ブゴは女性とおなじだよ。忠実でない! ホッホッホッ!……でも、ほんとうのことを言ってうれしいよ、わしのおいぼれた心も、これで少し晴れやかになった。ああ、それは以前の話だった。アミのおかげでいまはずっと若返ったんだ。ところで、ガラボロはなん匹かもってきてくれたかい?……」
「いやいや、もってこなかったよ。だって、クラトの鍋の中で細切りにされたガラボロを見るより、幸せそうに空をとびまわっているガラボロを見ているほうが、ずっといいからね……」
「うむ……たしかにそのとおりだよ。これからはもう、そんな悪いことするのはやめるよ……」
「じゃ、クラト。もう、これからは肉を食べるのはやめるの?」
「もう、ガラボロを食べるのはやめるよ、ホッホッホッ! だって、もうここじゃいくらさがしても手に入らないからね……」
「なんてひょうきんなんだ」
とアミはまじめな顔で言った。
少ししてから、小さな宇宙人はひとつの決定をくだした。
「この世界できみたちが新しい生活をスタートさせるにあたって、こまかい準備をいくつかすることにしよう。まずは、この女の子の容姿にかんする問題を解決しよう。これはすぐにできることだ。じゃ、いまから円盤に行こう、ビンカ」
「うわ!!! やったあ!!!」
とビンカは幸せいっぱい、大よろこびで言った。
「ぼくもいっしょに行くよ、どう変わるか確かめたいし……」
「ダメダメ。ペドゥリート、きみはここにいること。ぼくの仕事のじゃまをする“コンサルタント”はいらないからね、じゃ行こう。クラトもいっしょにこなくっちゃ」
「でも、わしはもうこんなに若返って、こんなにハンサムだ……」
「この世界にうまく適応するために、ちょっとやることがある。ほんの少しのあいだだけだから、さあ、いそいで」
三人が行ってしまったので、ぼくはおばあちゃんと話しはじめた。
「ビクトルがきたら、クラトとビンカのこと、どう説明したらいいの? おばあちゃん」
「ほんとうのことは言えないよ……でも、あたしゃうそはきらいだよ、ペドゥリート……」
「それにふたりともスペイン語がしゃべれないし、ビクトルはきっと、どこの国のひとかと聞くだろうから、ふたりはどこかの国を答えなくっちゃならない。で、もし、ビクトルがその国の言葉をちょっとでも知っていたとしたら……」
「ほんとうだねえ。それにビクトルの前じゃ、ふたりの名前は言えないよ。だって本の中に出てくる名前とおんなじなんだから……」
「うーん、そのとおりだよ、おばあちゃん……」
「おまけに身分証明書もないし……ビンカはいったいどうやって勉強したらいいの? それにあたしたち、どうやって結婚したらいいの?」
「おばあちゃん、あの年寄りと結婚するの!?」
おばあちゃんはけわしいまなざしで、ぼくをちらっと見た。
「ああ……そうだった。おばあちゃんはとても信心深いからね……おなじ家の中に住むとなると……ほかにも問題があるよ。クラトはここでなにをするの? なにか仕事をしなくっちゃならないでしょう?」
「それは、アミと聖シリロをとおして、神がたすけてくれるよ……」
ちょうどそのとき、男のひとの声が聞こえ、だれかが庭に面したドアから家の中に入ってきた。
「だれかいる?」
その声はスペイン語だったから、てっきり近所のだれかが、きたんだろうと思った。女のひとの声も聞こえたんだ。
「わたしたちを見ても、きっと信じないわよ」
「おばあちゃん、だれなの?」
「だれだろうね、聞いたことのない声だし……こんなところに、アミがもどって来たりしなければいいけど……」
そこに、
「やあ、おばあさん、もどってきたよ」
と言いながら、アミが入ってきた。ぼくは不安でいっぱいになった。だって、だれだか知らないふたりと、アミがはち合わせしてしまったと思ったからだ。そこにクラトも入ってきた……。
「スペイン語を話すって、とてもおもしろいよ、ホッホッホッ!」
ぼくはびっくりしてしまった。クラトがかんぺきなスペイン語を話しながら、こっちにやってきたのだ。
「やあ、かわいいペドゥリート」
とややカールのかかったまっ黒なかみと黒い美しい目をした、すてきな女の子が言った。
美しいからだにぴったりフィットしたスポーティーな服を着ていた。彼女もスペイン語を話した。
でも、すぐにわかった。ビンカだった!とてもかわいかったけど、以前の彼女とはかなりちがっていた。ウム……でも、顔はおなじだったし、おまけに身長がぼくとおなじくらいになっていた……。
あまりのおどろきにぼくたちが心臓まひを起こさないうちに、アミが説明をはじめた。
「むらさき色のひとみにピンク色のかみの毛じゃ、ビクトルにあやしまれるからね。これでかんぺきに地球のふつうの女の子だ。身長も少し低くした。それからビンカがスペイン語をしゃべれるようになったのは、円盤の中にある器械のおかげだ。その器械があれば、どんな言葉でもすぐに、ほんのいっしゅんでマスターできるんだよ……」
「ホッホッホッ! ほんとうにすばらしいことだよ。わしの頭の中にはいま、すべてのスペイン語の文法や単語が入っている。それに一万八千の詩、五百四十の小説、地球の歴史のあらまし、地球人のすべての知識をまとめたものや、宇宙のもっとも重要な原理や秘密なども。これはすごいよ、ホッホッホッ!」
クラトの発音は、ほとんどかんぺきだった。
「わたしもおなじだけ知っているのよ!」
とビンカは幸せそうにさけんだ。
おどろきのショックから立ち直ると、ぼくはやっと状況が理解できるようになった。ビンカの耳をすぐにでも見たかった。彼女はかみの毛を少しもちあげた。
「ウム……。ふつうの耳だ、きれいだけどふつうの。ビンカ、とってもすてきだよ……外側は少しちがっているけど、中身は以前とまったくおなじって感じがするよ。それにもうきみを見るのに、見あげなくてもすむようになったし……」
そこでぼくたちは、不要になった翻訳器を耳からはずした。
「それに、アミはわたしの脚を少し太くしてくれたのよ」
「うん、だってふつうの地球人としては、ちょっと細すぎだからね。でも、彼女がみえをはれるように、そうしたわけじゃないんだ。そんなの空しいことだからね」
「“空の空。すべては空”」
とビンカが言った。
「ビンカ、なに言っているの?」
「別に。ただ、アミが“空しい”って言うから、聖書の伝道の書の一部を思いだしたの」
「なに?その伝道の書って?」とぼくはたずねた。
「聖書の中にあるのよ」
と彼女はぼくの無知を笑いながら、答えた。
ぼくはちょっと気に入らなかった。
クラトはそうとうなよろこびようで、イギリスの俳優をまねて、おおげさに腕をふりながら、(とてつもなくこっけいだったけれど)詩の朗読をはじめた。
「“羨望が無知であり、模倣が自殺であり、よかれあしかれ、あたえられた自分じしんをそのまま受け入れるべきであるということを、だれしもが理解したときが、すべてのひとの内的成長のときである”。ホッホッホッ! ラルフ・ウォルド・エマソン、アメリカの詩人、1803年、マサチューセッツ州、ボストン生まれ、ホッホッホッ!」
ビンカも負けずによろこびいっぱいで、そのつづきを暗唱しはじめた。
「“たとえ、広大なる宇宙には、福が満ち満ちていたとしても、もし、自分につとめとしてあたえられたその土地を、たがやすことをしなければ、なんの収穫も得られないだろう”」
ビンカは自分もクラトの朗読した詩を知っていることを証明するために、おなじ詩のつづきを朗読したのだった。ぼくはといえば、これから予想されるビンカとぼくとのギャップに、目の前が暗くなるような思いだった。
「これはひどいよ。ビンカは知ったかぶりをする人間になっちゃった……彼女の前では、ぼくはまったくの無知だ……これはぜったい、不公平だよ、アミ」
でも、だれもぼくの言うことを聞いてくれなかった。
「ペドゥリート、わたしの新しい脚、好き?」
と彼女はおませに、短めのスカートをちょっぴりもちあげながら聞いてきた。
「ウム!」
とぼくは不満の気持ちをろこつにあらわして、庭へ出た。
じっさい、彼女の外見の変化は不満どころか、かえって好きだった。ぼくの気に入らないのは、あまりにも大きくなってしまった、彼女との知的ギャップだった。アミはぼくのあとをついてきた。
「ペドゥリート、きみが不快に感じるのは、もっともなことだよ」
「まったく、親切なことしてくれて、どうもありがとう」
彼は笑ってから話しはじめた。
「ふたりの知的、精神的水準が、あまりにかけはなれているのはよくない。ふだん会話をするにも、ふたりがカップルとして生きていくという意味においてもよくない。ペドゥリート、これからきみのおばあちゃんといっしょに円盤に行こう。きみたちにも、クラトとビンカにあたえたのとおなじ知識をあたえてあげるよ」
それを聞いて、ぼくは人生がふたたびかがやいて見えてきたように感じた。
「ほんとうに?」
「ほんとうだよ。ぼくについてきて。リリー、ちょっとぼくたちといっしょにきてください」
おばあちゃんがやってくると、アミは状況を説明した。おばあちゃんはあんまり関心がなさそうだったけど、とにかくぼくたちといっしょにきた。
円盤の中に入ると、アミはヘルメットのようなものを取りだして、ぼくの頭にかぶせた。それからアミは、キーをたたいてなにかのそうさをした。ぼくの脳がとても活発になってきたように感じた。なにか、こころよい感じがしてきた。数秒後に、もうおわったとアミが言ったので、ぼくはヘルメットを取り、それをおばあちゃんに渡した。こんどはおばあちゃんがおなじことをした。
でもぼくは、とくにどこか変わったような感じがしなかったので言った。
「アミ、ちっとも変わってないよ。いままでのぼくとおなじだ……」
「そう? じゃ、ワシントンに住んでいるロバート・ジョンソン氏の電話番号を言ってみて」
「えーと、ロバート・ジョンソンというひとはたくさんいるからね……住所も言ってくれないと……エッ!? ぼ、ぼくどうしてこんなこと知っているの? でも、たしかに知っている!……世界中の電話番号、すべて暗記している!」
「それから、インターネットにあるすべてのページの住所もね」
とおばあちゃんが幸せそうにつけくわえた。
「ほんとうに? おばあちゃん……ああ!もちろんだ!」
アミは彼女に質問した。
「じゃ、webページの動物園の住所を言ってください」
「かんたんだよ。http://netvet.wustl.xxx」
と考えこみすらしないで、スラスラと答えた。そしてぼくは、その答えが正しいことを知っていた。
そのあとアミは、ぼくたちに歴史上の戦争や発見の日、重要人物のたんじょう日、有名な小説の内容、原子の構成、地球の比重とか重さ、宇宙生命にかんする基礎知識、とてもだいじないくつかの秘密なんかについて、質問をした。
おばあちゃんもぼくもすべて知っていた。ほんとうに、すべてを! ぼくはとても幸せに感じた。そして、とくにうれしかったのは、もうこれからはぼくの本を書くにあたって、いとこのビクトルのたすけを借りる必要がなくなったということだった。だってもう、ぼくは文法のエースになっているんだし……ウム……、エースほどではないにしても、その手前までいっていることは確かだったんだから……。
【感想】
クラトは、ゴロがテリからスワマへと変化したことを、瞬時に察知しました。それは、テリという存在がいかに自らの意思を曲げないかを、よく理解していたからです。テリのその強い意思は、何かを成し遂げるうえで大きな力となります。しかし同時に、「譲る」という方向へは向かいにくくもあります。互いに譲り合うことで生まれる調和の世界は、そこにはなかなか立ち現れません。だからこそクラトは、ゴロが「譲る」という選択をするには、テリのままではなく、スワマへと変化する必要があると見抜いたのでしょう。
テリは、これまでに深く傷ついてきたのかもしれません。だからこそ、強い意思を持ち、ただ前に進むことだけを価値としてきたのだと思います。その力によって、科学は発展し、多くの建造物が生み出されました。けれど、心を大切にする感覚が伴わなければ、争いはなくなりません。むしろ、高度な技術によって、より大きな破壊が生まれてしまう可能性すらあります。テリがスワマへと変わるとき、歯が抜け落ち、身にまとっていた鎧が外れていくように描かれていました。それはまるで、心の鎧が静かにほどけていくような姿です。私たちの内側にある防衛もまた、気づきとともに、自然と溶けていくのかもしれません。
ビンカやクラト、そしてペドゥリートやおばあちゃんは、アミの装置によって、スペイン語やさまざまな知識を一瞬でインプットされました。そのような力は羨ましくも感じられますが、現代の私たちにも、形を変えた同様の環境があります。AIという存在によって、私たちは日々、知識を受け取ることができる時代に生きています。では、その知識を使って、私たちは何を選ぶのでしょうか。利己のために使うのか、それとも利他の心で、地球全体の調和と繁栄に向かうのでしょうか?その問いが、いま、わたしたち一人ひとりに投げかけられているように感じます。



コメント