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【朗読】57)『アミ3度めの約束』第7章 PP(政治警察)の地下牢 ②

エンリケ・バリオス著の『アミ3度めの約束』の朗読と個人的な感想です。




【文字起こし】

(漢字表記も含め全て原文のままです)


第7章 PP(政治警察)の地下牢 ②


 アミ・テリの笑い声が聞こえてきた。アミは、すがたが変わっても、いつものユーモアのセンスは失ってなかったし、そばにいなくても、いつもどおりぼくの考えをキャッチしていた。

     “まったくきみはいつもいつも、あきれるほど楽観的なんだから……”

 そしてちょっぴり皮肉まじりに言った。

 小さな宇宙人アミは、いまや、PPのにせボスとなって医務室を出た。ちょうどそのとき、ふたりのテリが近くをとおりかかった。ボスのすがたをみとめたふたりの顔に、ボスがこんなところでなにをしているんだとばかり、不審の色が浮かんだ。さいしょのピンチだった……。

 ぼくの胃がぐっと重くなるのがわかった。出だしからつまずいちゃうなんて……。

 彼らが口を開くまえに、アミが言った。

 「きみたち、どこへ行く?」

 「青の地区です。ボス」

 「それはあとにして、ちょっときみたち、こっちを手伝ってくれたまえ」

 ふたりはボスの命令にいっしゅんしたがいかけて、すぐに顔を見合わせた。やっぱりなにかおかしいと思ったらしく、ひとりが言った。

 「戦争の旗!」

 「戦争の旗がどうしたんだ?」

 なにも知らないアミがたずねた。

 それを聞いたふたりのテリは、すぐさま銃をぬいて、ぼくのたいせつな友だちにその銃口をむけた。どうしよう! ? ぼくは、自分のひざがガクガクふるえているのがわかった。

 “戦争の旗”というのは、ヤツらの合言葉だったんだ……。

 「手をあげろ!ちょっとでも動いたら、ハチの巣にしてやるぞ!」

 アミには、ポケットの中の“武器”――あの幸せの光線を発射する棒――を取り出す時間さえなかった。テリのひとりが、片手でアミのくびもとを押さえこんで、みけんに銃口を当てた。そのすきに、もうひとりがアミの背後にまわりこんで、うしろ手に手錠をかけた。

 「気をつけろよ。こいつの目を見るんじゃないぞ。こいつはきっと、あの一味だぜ。目を合わせただけで、催眠術をかけられるっていうからな」

 「おい、おとなしくかべのほうを見てるんだ!こっちをむいたら、ぶっぱなすぞ!(相棒にあごをしゃくって)おまえはろうかの奥まで行って警報器を鳴らしてこい。ああ、その前に粘着テープだ、医務室から粘着テープをもってこい。こいつの目と口をふさいでやるんだ。とにかくこの宇宙人が、おれたちのほうを見ないようにしないとな。好きにしゃべらせるのもまずい」

 粘着テープくらいで、アミの強力なメンタルパワーをどうこうできるわけがなかった……。テリのひとりがはなれていくと、アミが目を閉じた……意識を集中させているんだ。すると、銃をつきつけていたテリが、やにわにうでをおろして銃をしまい、かわりにアミのポケットに手を入れて、あの棒を取り出した。視線の先には、半開きになった医務室のドア。テリは、ロボットのような動きのまま、医務室めがけて青い光をはなった。ものすごいスピードで、金色の星々がろうかにまでとび出してくる……やがて、医務室の中から、粘着テープをさがしていたもうひとりのテリが、まるで別人のようになって出てきた――くちびるにはほほえみを浮かべ、ひとみには愛さえあふれている!!

 「お……お……このすばらしいひとを自由にしてあげよう……」

 そう言って、そのテリはニコニコしながら、アミの手錠をはずしにかかった。

 もうかたほうのテリはといえば、はたして金縛りにあったように、身じろぎひとつできないままでいた。アミが言ったとおり、あの棒を手にしていると、せっかくの光の影響を受けないらしい。アミがゆっくりと近づいて、その手から棒をはずすと、こんどは彼にむけて光を発射した。

 とたんにそのテリの顔までかがやきだす。

 「おお……すばらしき存在よ……」

 アミを見つめる目は、うっとりと幸せそうだ。先に光を浴びたほうのテリも、すでにしっかりとアミをあがめていた。ぼくには、彼らが自分の心の動きをとめてしまっているように見えた。

 「聖人だ……天使だ……こんなに近くで見られるなんて、なんて幸運なんだろう……」

 ぼくはそのとき、こんなことを考えていた……ぼくたちの世界では、とかく精神的なことは弱さを生みだすと誤解されがちだ。だから人々はそうしたものからできるだけ距離をおくし、自分を守ったりだれかを支配しようとするときには、もっぱらお金や暴力にたよる。それなのに、目の前のこの光景ときたら、どうだろう! ふたりがキアの中でもかなり凶暴なのはまちがいない(なんてったってテリでPPなんだから)。日々、武器のあつかいや格闘技の練習にはげんでもいるはずだ。いまやアミのなすがままになっている。もちろん暴力なんかでじゃない。アミは内面の進化の道を進んできたんだ……。

 「合言葉はいま、どうなっているんだ?」

 アミがたずねた。

 「あーッ、はい。数分まえに変更がありまして、“戦争の旗”と言われたら、“ほこり高きはためき”と答えなくてはなりません、はい」

 テリのひとりは、アミの質問に答えられるのがうれしくてならないのが、ありありだった。

 「どうしてわしに合言葉を言わせた? わしのどこがあやしい?」

 「あーッ、声がやさしくて言葉づかいがていねいだからであります……ここで“ちょっときみたち”などと言う者は、ひとりもおりません」

 「ああ、なるほど。まったく、下品になるのはラクじゃないよ」

 「それに、トンクはとてもいやなにおいをさせてますし……」

 「わかった。じゃ、カルドゥメン事件で逮捕された、わしの友だちをたすけるのを手伝いたまえ」

 「あの、その事件の名前は変更されています。いまは、“カルドゥメン”ではなく、“エンブレマス”です。それから合言葉も変更されました」

 「ああ、ありがとう。じゃ、彼らのところへつれていきたまえ。それからくれぐれも、軍人らしい態度を忘れないように」

 「はい、よろこんで。神よ、われらをたすけたまえ。かくも高貴なるもののために……かくも進化した存在を、どうかたすけることができますように……ところでおれはいったい、なにを言ってんだ?……かんぺきな無神論者だったはずだぞ……」

 「いまはそんなことをグズグズ言っとるばあいではない」

 「ああ……そうでした」

 「“あぁ……そうでした”じゃなくて、“はい、ボス!”だ」

 「はい、ボス!」

 「それから、ニタニタ笑うのはよせ!ここではだれも笑わない」

 「ああ……そうでした」

 「はい、ボス!だ」

 「はい、ボス!」

 三人は移動をはじめた。ニワトリ小屋の中のゴキブリ以上に、ぼくは神経をピリピリさせていた。

 「もっとはやく、おこったように歩くんだ。このへんのことは、監視員がモニターで見はっとるからな」

 「あぁ……そうでした……いや、はい、ボス!」

 とびらのまえで、ふたりの監視員に合言葉を求められた。

 「戦争の旗!」

 「ほこり高きはためき!」

 こんどのアミの声は、トンク本人より荒々しかった。さっき学んだことを、さっそく実践に移したわけだ。

 「どちらへ」

 「エンブレマス事件の容疑者のところだ!」

 「前進!」

 ぼくは思わずほっとため息をもらした。でも、ピンチを逆手にとって有利な展開にみちびいたアミはたいしたものだけど、それもいったいいつまでつづくものやら……。

 「どうやらボスは、生まれてはじめてふろに入ったようだぜ」

 監視員のかたほうが、意地悪く言うと、もういっぽうもそれに答えて、

 「そうらしいな。いつもの香水のにおいがしなかったぜ……」

 と、ふたり顔を見合わせて、しのび笑いをもらしていた。

 ほかには気にとめたことはないようだった。ぼくはほっとして、ふたたびため息をもらした。

 さらに移動をつづけて、エレベーターの前にきた。三人がそのままエレベーターのはこの中に入ると、とびらが閉まった。この時点までは、ぼくにもまだ、アミたちのすがたが見えていた。

 「戦争の旗!」

 エレベーターの中でさえ、スピーカーごしに合言葉を求められている。

 「ほこり高きはためき!」

 とアミ・テリの声。

 「許可!」

 さっきはピンチだったけど、正しい合言葉がわかったからよかった!まさしくケガの功名ってやつだ。もしもここでまちがえたら、そくざに武装調査員のところへ連行されてたはずだったから……。

 ふたりのテリは、あいかわらずアミをあがめ、幸せにひたりきっている。そんなふたりにアミは、ボタンのならぶパネルを指さして、どこを押すのかたずねた。

 かたほうがボタンを押すと、エレベーターはするすると、PP本部のいちばん奥深く、いちばん厳重に装甲された地下室へとおりていった。同時にそこからは、彼らのすがたがモニターにうつらなくなった。




 

【感想】

 いきなりアミが「侵入者」だということが、合言葉に答えられなかったからわかってしまったときに、絶望を感じました。それでも、アミが目を閉じて、意識を集中させて、テリを動かしました。この意図の力は「どうせできっこない」という考えからではなしえないことです。知らず知らずに、「人はコンクリートの壁を通り抜けることなんてできない」「他人の考えは変わらない」と信じていることが現実化しています。アミの物語は魔法物語のようでもありますが、どこか真理を語っている気がするのはわたしだけではないと思っています。

 

 そしてペドゥリートが語るこの部分には大いに共感しました。「僕たちの世界では、とかく精神的なことは弱さを生みだすと誤解されがちだ。だから人々はそうしたものからできるだけ距離をおくし、自分を守ったりだれかを支配しようとするときには、もっぱらお金や暴力にたよる。(中略)いまやアミのなすがままになっている。もちろん暴力なんかでじゃない。アミは内面の進化の道を進んできたんだ」内面の進化が平和で幸福な世界を創る唯一の方法だと思います。


 ピンチをチャンスに変えたアミは運がよかっただけでなく、必ず成し遂げるという持続的な意志と、平和的な解決を強く願う想いがそうさせたのではないでしょうか。無我夢中という言葉は、我を無くすと書きますが、自我がある状態ではなく、利他の状態になっているということかもしれません。





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