【朗読】55)『アミ3度めの約束』第6章 春めいたロマンス ③
- 学 心響
- 3 日前
- 読了時間: 17分
エンリケ・バリオス著の『アミ3度めの約束』の朗読と個人的な感想です。
【文字起こし】
(漢字表記も含め全て原文のままです)
第6章 春めいたロマンス ③
ぼくたち三人は庭の暗闇におり立った。アミとクラトはとりあえずかくれることにして、ぼくひとりが玄関のドアをノックした。おばあちゃんが出てきたので、ぼくはとくになんの説明もしないまま、おばあちゃんの耳に補聴翻訳器をつけた。クラトとしゃべれるようにするためだ。ちょっぴりおかしなアクセントはあるけれど、アミはスペイン語を話せる。それから、ぼくはふたりに合図した。
三人声をそろえて、“ばあーっ、おどろいた!?”なあんて言って、ぼくたちは大笑いした。おばあちゃんに会えて、ぼくたちははしゃいでいた。
それにつけてもクラトときたら、まったく礼儀作法がなっていない。だれも見てないときに庭からこっそりつみ取ったらしい赤いバラを手にして、おばあちゃんに近づくと、その耳もとで、
「わしは、宇宙をはるばるこえて、わしの人生の愛を見つけにきました!」
と、大声で言った。そしてまっ赤なくちびるからグイッと歯ぐきをむきだして、せいいっぱいの笑顔をつくりながら、バラの花をさし出した。ぼくはなんだか、おばあちゃんがあわれに思えた。食いしんぼうのクラトが、おばあちゃんに食欲を燃やしているような気がしてきたからだ……。
ところが、おばあちゃんはちっともめいわくそうじゃなかった。それどころか、反対にうれしそうな表情でクラトを見つめ、さし出されたバラをよろこんで受け取ると
「ああ……どうもありがとう、なんとご親切だこと……さあ、どうぞ、どうぞ……これは地球人にとっても、宇宙人にとっても神は神だって証拠だよ……」
「そのとおり。神はたったひとつの存在です。全宇宙の、そしてそこに住むすべてのものの創造者だよ。」
アミの言葉に、おばあちゃんはさらにうっとりと、つぶやいた。
「だから、あたしの願いをかなえてくれたんだね……」
「おばあちゃん、どんなお願い?」
とぼくはサロンに入りながらたずねた。
「こんばん、みんなといっしょに食事ができますようにってね。神が地球だけのものだとしたら、ぺドゥリートはひとりで帰ってきたはずだよ。でも、ここにこうして、アミとセニョール・クラトもこられた。神は宇宙みんなのものだから、二人についても権限がおありなんだね。……おや、それはそうと、あの女の子はこなかったのかい?ビンカにはお許しくださらなかったのかねぇ……ああ、そうだよ。だってあの娘はまだ子どもだから。
聖シリロさま、まだあたしの願いは完全にはかなえられていません。どうか、お聞きとどけください。……どうしたのかしらねえ、いままでこんなことなかったのに」
「おばあさん、神にお祈りするんじゃなくていいの?」
「そう、でも聖シリロはあたしにとって、神とお話しするための電話みたいなものなんだよ。きちんと奇跡を起こしてくれるんだ……」
「どうして神に直接お願いしないの?」
「ダメダメ。神はとてもおいそがしいから、年寄りからの自分かってな小さな願いごとの電話なんか、いちいち相手にしていたらごめいわくをかけてしまう。でも、聖シリロは神の近くにいて、神がいつお手すきなのかちゃんとわかるから、そのときあたしの願いを伝えてくれるんだよ……」
「ブッ!」
アミがふきだした。
「ようするに、ひとはそれぞれ自分のつごうのいいところに限界をおくってことだ……でもね、おばあさん。ひと言言わせてもらうけど、神は大きな電話局をもっていて、宇宙にある魂ぜんぶからの電話を、いちどに、しかも直接受けることができるんだよ」
「あたしだって、それくらい知ってるよ、アミ。でも聖人や天使たちにもなにか仕事をあげたいんだよ。仕事がなくて、自分たちを役立たずなんて思いはじめちゃったりしたら、かわいそうだし……」
アミはそれを聞いて大笑いしたけれど、クラトはまじめくさったようすで、うなずいて、
「まったくそのとおりだよ、セニョーラ。美しいご婦人のお名前は?」
「リラ、でも友だちはみなリリーと呼んでいます」
「リリー、ウム、なんで美しい名前なんだ! ところでここにはなにか精神を高めるものはありませんかな? リリーさん」
「えーっと……そうだねぇ……聖書はお好きですか?」
「では、まずコップにいっぱいだけ飲んでみて……」
それを聞いて、アミとぼくはおなかをかかえて笑った。ひとしきり笑ったあとでぼくは、クラトはなにか飲むものを欲しがっているんだって、おばあちゃんに教えてあげた。
「あぁ、うっかりしてたよ。えーと、セニョール・クラトにはワインを……それから……」
「どうぞクラトと呼んでくださいな、リリー。もしよろしければ……」
「どうもありがとう。それじゃクラトにはワインを……ふたりにはリンゴジュースでいいかい?じゃ、ちょっと待っててくださいな」
おばあちゃんはすぐに、グラス――リンゴジュースの入ったふつうのグラスがふたつ。赤ワインの入ったうすくて脚の長いグラスがひとつ――をのせたお盆を手にもどってきた。
「このワイン、お口に合えばいいんだけど、クラト……」
「あなたが選んだものなら、わしの好みに合うに決まってます……なんて美しい色をしているんだ!どれどれ……この惑星ではどんな飲みものをつくっているんだ?」
クラトは、グラスをはなに近づけて香りをたしかめてきら、ゆっくりと口にふくみ、世にも満足そうな顔で言った。
「ウムムムム……うん、うまい!これぞ洗練の味だ……肉を食べながら飲むのに最高だ。これはきっと、なにかくだものからつくるんだろう?」
「そのとおりだよ、クラト。じゃ、宇宙のよっぱらい旅行はこのへんで終わりにしておこう」
せっかくアミがストップをかけたっていうのに、おばあちゃんはなおも、クラトにお酒をすすめようとした。
「それから食前酒に、シェリー酒をいっぱい……」
「だめだよ、おばあちゃん。食前酒はいま飲んだじゃない」
「じゃ、食後に、ハッカ入りのリキュールをいっぱい。消化にいいからね……」
クラトはさしずめ、“宝の山をさがしあてた”といった気分だったろう。恍惚としたようすで、
「リリーのような奥さんさえいれば、歯ぬけのかわいそうなテリだって、幸せにちがいない……かわいいご婦人、あなたは再婚を考えていますか?」
「もし、ふさわしいひとがあらわれれば……」
おばあちゃんは目をパチパチさせて、色っぽい口調で答えた。
ぼくの目には、この年寄りどうしのロマンスが、とてもこっけいにうつった。
「いくらなんでもその年で、おばあちゃん……」
ぼくが言いかけるのをアミがさえぎった。
「きみがまだ子どもだから、おばあちゃんがかなりの年寄りに見えるだけなんだよ、ペドゥリート。でもじつのところ、彼らはまだかなり若いんだよ」
「“若い”!」
アミの言葉を聞いて、ぼくはおどろいた。
「おばあさん、いくつ?」
「エーと、五をちょっと出たところだよ……」
でも、おばあちゃんがアミに答えたところで、ぼくはやっぱり、おなかをかかえて思いっきり笑ってしまった。
「それで、若い!だなんて、ハッハッハッ!」
「まだ、やっと五百歳とは!」
クラトがあきらかに、はやトチリしておどろいているので、アミはふたりに、キアの一年は地球の二十年に相当すること――だからキア人は、地球人の二十倍はやく年を取ること――を説明した。そうしてわかったことは、クラトは地球年齢でだいたい六十歳。おばあちゃんは五十歳だから、ふたりの年齢差はさほどでもないということだった。
「ぼくはクラトのこと、七十歳くらいかと思ってたよ」
と正直におどろいてみせると、クラトはいささか不満げに、
「それはどうも……“ベドゥリート”きみはいくつ?」
「十二歳」
「そんなに!わしはまた、てっきり八歳くらいかと思っていたよ……」
ぼくはすごく頭にきた。
「ケンカしないで」
とおばあちゃんがあわてて仲裁に入った。
「さっ、食堂へ行きましょう」
食堂へ入ったとき、ぼくは家をまちがえたのかと思った。あれはまるで祝宴の席のようだった……レースのついた白いテーブルクロス、ごくごくうすい高級そうなグラス、刺繍の入った布のナプキン、火のともされたろうそく、花、それにきれいな色の模様が入ったたくさんの小さなお皿……。“信じる”って、ほんとにすごいことなんだ!あの日のおばあちゃんは、まさに“信じる”ということを実践していた……お客さまがくるなんて保証はどこにもなかったのに、あれだけの用意をして待っていた。そして、ほんとにアミとクラトはやってきたんだから。
「おお。これはすてきな食卓ですな、リリー」
「どうもありがとう、クラト。あなたたちのためだったら、できるかぎりのことはします。宇宙人を夕食に招待できるなんて、だれにでもできるわけじゃない。なんてあたしはラッキーなのかしら……さ、チキンがオーブンで待っているわ」
「チキン!ひょっとして、このテーブルでいまから、共食いの儀式がはじまるってことなのかな、おばあさん?」
「アミにはやさいサラダを用意したよ……」
「ありがとう。そのご配慮にはかんしゃするけど、ぼく、同席するのがちょっぴり苦痛だよ。……こんがり丸焼けになった同胞のからだが、ナイフとフォークでみるみる解体されていって、しまいにはだれかの口の中に入る……そんなの見ていたいかい?」
「おやまあ、ニワトリはあたしたちの同胞なんかじゃないよ」
「ぼくにとってはたいせつな同胞です。そしてそれは死骸なんだ、あなたたちは、そろいもそろってネクロファゴ(訳注:スペイン語で死肉を食べるという意味)だよ。ウワ~ッ‼……ああ、せっかくの夕食の席で、あんまりみんなをシラけさせるもんじゃない。食欲がないからって、どうかぼくを責めないでね」
「心配はいらんよ、アミ。この動物はきっとうまいし、奉仕の心を忘れておらん。わしらに食べられるのが幸せなんだよ。この動物にとって、わしらは神さまなんだからね、ホッホッホッ!」
アミには、クラトのたちの悪いじょうだんが、ちっともおもしろくなかった。
「じゃ、どこかの神がきみを食べたとしたら、それで幸せかい?クラト」
「もちろん!ウジ虫に食べられるより、神さまに食べられるほうがずっといいさ……身にあまる光栄、幸せってもんだ!」
とクラトはなおも大笑いだ。
みんながそろってテーブルにつき、クラト老人が、いままさに、こうばしくキツネ色に焼けた鶏のもも肉にかぶりつかんとしたとき、アミが言った。
「飢えを知らない人生を願うのなら、まず、この神の恵みにかんしゃしなくてはならないよ」
「カミサマアリガトウイタダキマ~ス」
はや口でつぶやくや、クラトは大口を開けて、鶏にガブリと食いついた。“カチッ”という音が聞こえて、クラトが悲鳴をあげた。
「イテテテテー!!中に石が入ってるよ、歯が折れたかもしれん……」
「かんしゃが足りないからそんな目にあうんだよ」
アミがいたずらっぽく言った。
「いまかじったのは、骨だよ、クラト。そのまわりの肉だけ食べるんだよ」
でもぼくがそう言うと、アミはもうたまらないといったようすで、
「ウワ~ッ!もうこれ以上、死体解剖の話はしないで〜!」
顔をそむけながら、さけんだ。
ぼくにとって、あれはいわば、“神聖なる晩餐”という感じだった。あの席は、“うれしいはじめて”がいっぱいだったからだ。たとえば、アミがぼくの家で夕食をとる。クラトもいっしょだ。それから、ぼくのおばあちゃんが“惑星交流”の仲間入りをして、そのうえ、新しいロマンスもめばえかけている。たしかに祝宴だったんだけれど……ぼくは、心の底からおめでたい気分にはなれなかった。だって、ビンカがいないんだもの……。そして、ビンカのおじさんががんこなばっかりに、ぼくたちふたりの未来には、暗雲すらたれこめはじめていたんだから……。
それをキャッチしたアミが、おばあちゃんにぼくのなやみを説明してくれた。
「まずは信じることだよ、ペドゥリート。そうすればかならずうまくいく、明日になったら、あたしゃすぐ、あいてるへやにビンカのためのベットを用意することにしたよ」
ひとつ屋根の下に、愛するひとが暮らす……考えただけでもあまい気持ちになってしまうけれど、ぼくは自分じしんをいましめた。そう、足はしっかりと、うたがいと現実の地面につけておかなくちゃいけないから。
「あんまり夢を見ないほうがいいよ。おばあちゃんは知らないけど、ゴロってとんでもないヤツなんだから……」
「あたしは知らないけど、神がごぞんじだよ。ときに神は、わざと障害をおいて、あたしたちの信仰心をおためしになる。あたしたちは、その試練のおかげでつよくなれるんだよ。それに、だいじょうぶ。愛するふたりをいちどいっしょにさせてから、それをひきさくなんて意地悪を、神がおやりになるわけがないもの。渇きをおあたえになったら、近くに水をおいてくださるものだよ……」
アミの腰のベルトについている機械が、とつぜん“ビーッ、ビーッ”と鳴りはじめて、おばあちゃんの話を中断した。
「緊急事態だ!」
顔色を変えたアミが応答した。
「もしもし、エッ!?………いつ!?……じゃ、すぐそっちに行く!」
「どうしたの!?」
「こまったことになった。すぐ円盤にもどろう」
「どうしたの!?」
「PP(政治警察)がビンカたち三人を、いきなり装甲別棟に連行したんだ……」
「エッッ!!」
「グァッ!なんてこった!もうちょっと年寄りだったら、わしは心臓まひを起こしたところだったよ……」
「でも、どうして……だれも知らないはずなのに!……」
「運の悪いぐうぜんだよ」
玄関口に立ち、リモコンをそうさして黄色い光がとどくのを待ちながら、アミはぼくたちに説明した。
「精神科医のところから、ゴロとクローカを連行したPPのひとりが、たまたまゴロの薬局の近くに住んでいて、ゴロの顔に見おぼえがあったらしい。そこから調べをつけていったら、三人の身もとが判明した。で、ゴロの一家がねているところにふみこんで、緊急逮捕となったわけだ。でも、心配しないで。たすけだす方法はあるからね」
「ほんとうに?……」
「ほんとうだとも。だからぼくを信じて。じゃ、行こう、光の中に入って」
「アミ、あたしにもなにか手伝えることはないかい?」
「だいじょうぶ。おばあさんは、ここでぼくたちのことを待っていてください」
だまってそのやりとりを見ていたクラトが、ポソリとたずねた。
「わしは、リリーとここにのこることにしてもいいかね?……」
アミはしばらく思案しているふうだったけれど、やがて、
「わかった。でもどのくらいかかるかわからないよ……」
アミだってかんぺきってわけじゃないことくらい、ぼくはもう、ちゃんとわかってる。だからあのとき、ひょっとすれば永久に、この地球に帰ってこられなかったかもしれないんだ……。
「……それから、このへんをとおりかかった地球人に、うっかりそのとがった耳でも見とがめられて、警察に通報されたりしたらたまらないからね。ただでさえ、キアでたいへんなんだから、せめて地球では、問題なしでいきたいよ。じゃ、クラト。ぼくといっしょに円盤にきて。その外見を少し変えることにしよう!」
「うおーホッホッホ!……」
クラトはもう大よろこびだった。そりゃぼくだって、クラトがいったいどんな地球人(!)になるものやら、おおいに興味がある。でもやっぱり、ビンカが心配で、クラトみたいにはしゃいだりはできなかった……(だからといって、アミを信用してないなんてことは、ぜったいなかったけど)。
これからいちど、三人で円盤にもどるけれど、十分したらまたここにくることを、おばあちゃんに言いおいて、ぼくたちは円盤にむかった。
円盤につくと、アミはコンピューターをそうさしはじめた。
スクリーンに、クラトのすがたが立体的にあらわれた。
「オッ! このひとはずいぶんわしに似とるなあ!……わしよりずっと年寄りだが」
「これはクラトじしんだよ。自分がそんなに年寄りに見える?」
とぼくが言うと、クラトはおどろいたようで、
「おお……じゃ、すぐにこのくたびれた、古いひふを新しくしてくれよ、アミ」
アミは言葉でコンピューターに指示をあたえていた。
「地球の白人種のモデルを使おう」
アミがそう言うと、スクリーンの中のクラトの顔が、いきなり“地球の白人ふう”に変わった。それは、たしかにクラトなのに、なぜか地球人にしか見えない。
「どう、クラト?この顔、気に入ったかい?」
「ウム……もうちょっと若くしてほしいな……できるかね?……」
「ウーン……ほんとはしないほうがいいんだけど……じゃ、ちょっと“上”に聞いてみるよ……」
アミがボタンを押すと、しばらくして、なにかの記号らしきものがスクリーンにあらわれた。
「許可が下りたよ」
「おお、そうかい!よかったよかった」
「きっと同情したんだよ」
「わしに?」
「いや、ペドゥリートのおばあちゃんに。あんまり年寄りじゃ、つりあわないからね、ハッハッハッ」
「ホッホッホッ!そりゃそうだのう……それはそうと、アミ。はやくこのハンサムなわしのおはだを、ピーンとのばしてくれんかね?」
「少ししわをのばして」
アミがコンピューターに指示を出すと、クラトのはだに、みるみるハリが生まれる。
「そう、そう、もう少し……」
「ここまでだよ、クラト」
「そんなこと言わずに……じゃ、この白髪をもう少しピンク色に」
「黒でしょ?……」
「ああ、そうそう、このあたりじゃ、かみの毛はピンクじゃダメなんだっけなあ」
「かみの色を二段階暗くする」
すると、白髪が少し黒くなった。でも。クラトはそれでは満足しなかった。
「五百段階、黒くできない?」
「これでじゅうぶん。ああ、そうだ、目の色はむらさきから青に変えよう、よーし、ここでストップだ。すばらしい」
アミがストップをかけると、クラトはすぐにスクリーンとおなじひとになった。どこから見ても地球人そのもの。かなり若々しい感じの五十代、といった風貌だ。
「痛くはないのかね? アミ」
「もう、おわってるよ、鏡を見てごらん、クラト」
「グォー!ホッホッホッ!……でも、なんかおかしくないかね?」
「いや、とってもすてきだよ、クラト」
ぼくはクラトをはげましてあげた。
おばあちゃんの待つ家にむかって、黄色い光の中をおりていきながら、アミが、
「あとでこの惑星の服を、どこかで調達してきてあげるよ」
とクラトに声をかけた。
おばあちゃんは、クラトのイメージチェンジを、とっても気に入ってくれた。
「まあ、なんてハンサムで若々しいんでしょう……クラト……」
「ホッホッホッ!できる範囲でカッコよくしてもらったんだよ、リリー」
「じゃ、ぼくはぺドロと行くよ」
「ああ……アミ、お願いなんだが、キアに行ったら、わしのトゥラスクを見てきてくれないか?きょうはいちにちじゅう、なにも食べておらんのだよ」
「わかった。でも、あんまり早くはもどってこられないと思うよ……」
「あたしには、アミとぺドゥリートが、こんばんじゅうに、こんどはビンカもつれてもどってくるって、ちゃーんとわかってるさ。聖シリロがあたしの願いをかなえてくれなかったことは、いちどだってないんだ。だからふたりも、それを信じてがんばるんだよ。ビンカの分も、タ食は片づけないで、起きて待ってるから」
おばあちゃんは、ほんとうには、事態の深刻さがわかっていなかった。アミの目には、いっしゅんあわれみの色が浮かんだけれど、すぐにおばあちゃんをがっかりさせまいと
「おばあさんの言うとおりさ。だから万が一、ぼくたちの帰りがちょっとくらいおそくなっても ――たぶん一日か二日。ウーン……もしかして、もっとになっちゃうかもしれないけど――、心配しないでね。神がぼくたちをみちびき、守ってくれてるんだから。かならずビンカと三人で帰ってくるよ」
おばあちゃんは深くうなずいて、なおも断言した。
「そうだよ。くりかえすけど、あなたたちは、かならずこんばんじゅうに帰ってこられるよ」
「そうだよ、ぜったい帰ってくるさ!」
わざとらしいくらいの明るさで、みんながさけんだ。現実は、どう考えたってきびしすぎる。そんなことは、みんなとっくに承知していたけど、悲しい別れだけはしたくなかったんだ。……だけど別れの抱擁をしたときには、だれの目からもなみだが流れていた。
【感想】
このパートで最も印象的だったのは、「信じる」って本当にすごいこと、の部分です。おばあちゃんは何の保証もないのに「晩餐」の用意をして待っていた。もしかしたら、何日も何日もそうしていたのかもしれません。いつ帰ってきてもいいように準備してい続けることは並大抵の意志ではできないと思います。なぜなら、帰って来ない日は全ての食材が無駄になるし、何よりとっても残念な気持ちになるからです。期待して、準備して、叶わなかった日の残念感はとても堪えがたいものだと想像します。
「期待してがっかりするのに疲れたので、もう期待するのはやめにします」という意見を聞くことがあります。もちろん、それによって心が安心でいられるならばそうしたらいいと思います。ただ、本当は望んでいるのに望んでいないフリをすることになることもあると思います。なぜ、おばあちゃんは「信じる」ことができたのでしょうか?
それはおばあちゃんが「信じる自分を受け入れる」ことをしたからなのではないでしょうか。誰も帰ってこなくてがっかりすることが起こるかもしれなくても、「信じる」を選択した自分を受け入れていると思います。これは「がっかりしても耐えられる自分」も同時に信じています。こう考えると「信じる」とは本当に尊いことだし、自分を含め、みんなを幸せにするな、と思いました。信じることから全てが始まりますね!



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