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【朗読】54)『アミ3度めの約束』第6章 春めいたロマンス ②

更新日:1月27日

エンリケ・バリオス著の『アミ3度めの約束』の朗読と個人的な感想です。




【文字起こし】

(漢字表記も含め全て原文のままです)


第6章 春めいたロマンス ②


「なんて無礼なやつなんだ。ビスケットはおろか、茶のいっぱいも出しやしない。ああ、そういえば……“ベドゥリート”、おばあちゃんのつくったケーキはどこにある?ああ、ここにあった……ムシャムシャムシャ……けっこう、ムシャ……いけるよ、ムシャムシャ……ウクッ……ゴックン、ああ食べちゃった……でもまだまだはらペコだなあ……」

 「どうするの?」

 ぼくはほとんどアミをとがめる口調になっていた。アミはもう、それほど楽観的ではなかった。

 「わしの小屋へ行こう、いっぱいやりながら、あったかい煮こみでも食べりゃ、元気が出てくるっちゅうもんだ」

 クラトが、舌なめずりしながら言った。

 「アミ、これからどうするつもり?」

 こんなに元気のないアミは見たことがなかった。ぼくははじめて、アミに人間くささを感じた……。そんなアミにプレッシャーをかけるなんて、いま思えばかわいそうなことをした。でも、あのときのぼくは、永遠にぼくのビンカを失ってしまうかもしれないという不安で、いてもたってもいられなくて、小さな宇宙人のことを思いやってあげられなかったんだ……。

 「どうしたらいいの!アミ」

 「知らないよ!」

 とうとうアミが気分を害してさけんだ。そしてイスにすわったまま、じっと床に目を落とした。

 ぼくの背中にさむけが走った。アミはたしかに神じゃないんだ……ぼくはあのときになってようやく実感していた。アミじしんも言ってたっけ……自分たちだってかんぺきじゃない、事故を起こすこともあるし、その事故で死者が出ることもあるって……。そう、アミにだってうまくいかないときがある。……そしてぼくは、あのときこそが、そのうまくいかないときのような気がしていた……。どんな解決法があるだろう?まったく思い浮かばなかった。ゴロは頭のかたい、頑固一徹なひとなんだ。それはすでに、アミのコンピューターにも出ていたことだった。

 「いっそ、ゴロを殺しちまったら!そうさ、そのへんに殺人光線があるだろう?それでヤツをこなごなにしちまえば、それですべては解決、バンバンザイで……」

 アミはなにも答えず、ただジロリとクラトをにらんだ。クラトが、まるでアリくらいに小さくちぢんだように見えた。

 しばらくなにも言わずに考えこんでいたアミの顔が、にわかにかがやきはじめた。

 「あまりにもバタバタしてたんで、うっかりしたよ。とっておきの方法があるじゃないか。ああ、ぼくもまだまだなんだなあ……」

 「なになに、アミ?なにかいい方法があるの!?」

 ぼくとクラトはいきおいこんでたずねた。

 「かんたんなことだよ。神にたすけを求めればいいんだ!」

 アミはひどく感動しているふうだったけれど、ぼくは(おそらくクラトも)正直いって、ちょっぴりシラけた思いだった。そんなことで問題が解決できるとは思えない……。

 どうやらアミは、そんなぼくたちの内心を読み取ったようだった。

 「きみたちに言っておくことがあるよ」

 「なに?」

 ぼくはつい、そっけない返事をしてしまった。

 「神は存在している!」

  それでもアミは、確信に満ちてあくまで力づよく、陽気な調子で言った。

 「それで?」

 「神にたすけを求めるんだよ、決まってるだろう」

 「やれやれ」

 ぼくの声にもクラトの声にも、あきらめの色がにじんでいた。けれども当のアミは、ぼくたちのほうこそ、なにもわかってないんだと言いたげだった。

 「神はたしかに存在する、具体的に存在しているんだよ……」

 「はあ……」

 「ここにいるんだよ、ここに。そして、ここでなにが起きているか、ちゃんと知っているんだ……」

 「ふうん……」

 「すべてに影響をあたえられるんだよ……そして、われわれの信仰をとおしてたすけてくれるんだよ……」

 「へえ……」

 どこまでも気乗りのしないようすのぼくたちを見て、アミは大きなため息をついた。

 「とうぜんながら、きみたちの世界では、恐怖なしでは神を理解できないんだ……」

 「エッ?どういうこと?」

 そのときとつぜん、円盤がガタガタゆれはじめた。

 「故障だ!、墜落する!」

 とアミがさけんだ。

 ぼくたちはパニックにおちいった。

 「アミ! どうしたらいいの!?」

 ぼくはまわりの機械にぶつからないように、イスにしがみつきながらさけんだ。

 「どうしようもないよ!」

 めずらしく、恐怖に顔をひきつらせたアミもさけんだ。

 ぼくたちは、かなりの高さのところにいた。まどの外のくもが、ものすごいスピードで下から上に流れていった。円盤は落下していた……アミが言ってた、宇宙船の死亡事故が、ついにぼくたちの身の上に起こったんだ。

 ああ、これでもう、ぼくはおしまいなんだ……。ぼくはギュッと目をつぶって、心の中で思わず神に祈った。死ぬ瞬間は痛くありませんように。それから、どうかビンカとおばあちゃんをお守りください。そしてつぎの人生ではビンカの近くに生まれることができますように……。

 クラトの祈る声は大きかった。

 「どうかトゥラスクの世話をしてくれますように。それから畑の世話もしてくれますように。それから……」

 そのとき、すぐそばで大きな笑い声がした。ぼくは目を開けた。もう円盤はゆれていない。そして大笑いしていたのは……なんと、アミだった。

 「まったく、なんてこった!自分のいのちが危険にさらされたときだけ、ちゃっかり神にたすけを求めるんだから……」

 円盤はいつもどおり安全飛行していた。ぼくたちに神を思いださせるために、わざとアミがやったんだ……。

 「死の恐怖を前にしたら、きみたちだってかならず神を思いだす。でも、なんでもないときには、まるで無関係になっちゃうんだから、こまったものだよ」

 いまは、アミの言わんとすることが、はっきりわかった。

 「ぼくたちはいま、死の危険にさらされているわけじゃないけど、数分間だけ、神に近づこう。そして、われわれをたすけてくれるように祈ってみよう。くりかえすけど、神は存在しているよ」

 ぼくとクラトは、アミについて、円盤のうしろのほうにある、瞑想するためのへやに入った。そこには小さな光がひとつだけともっていた。

 クラトとぼくはひざまずき、アミは立ったまま、それぞれ意識を集中させた。

 ぼくはたすけを求めて祈った。するととつぜん、なにか胸に重苦しいものを感じた。ビンカのなげきだ。……ぼくの胸の中からビンカのなげきが聞こえてくる!いっしゅんだけど、ビンカがベッドで泣いているすがたが、目の裏にうつった。となりにはゴロとクローカがいて、ビンカをなぐさめようとしていた。

 ぼくは立ちあがった。

 「アミ、ビンカが泣いてる!いま、ぼく、ビンカが見えたんだよ!」

 「それなら、ビンカはきっと、ほんとうに泣いているんだ。すぐにモニターで見てみよう」

 ぼくたちはあわててそうじゅう室にもどった。アミがそうさすると、モニターのひとつが明るくなった。

 ……ぼくが見たとおりだった。ビンカはやっぱり泣いていた。はげしくしゃくりあげるさまは、いっしゅんなにかの発作かと思うほどだ。そのとなりではクローカが、とほうに暮れたようすで、ただおろおろと泣いてばかりいた。

 ゴロの顔は、完全にひきつっていた。不安でいっぱいになっていたんだ。ぼくには、ゴ口の心の中が手に取るようにわかった。

 ビンカの望みは、ゴロじしんにとっての正しい考えとは相反するものだ。けれども、その望みをかなえてあげなければ、ビンカは死んでしまうのではないか?永遠におかしくなってしまうのではないか?ビンカのつよいつよい願いと自分の信念とのあいだで、ゴ口はゆれ動き、もがき、苦しんでいた。

 「これはいいことだ」

 アミは明るい表情で言った。そのひとみには、希望の光がやどっていた。

 「これで、ゴロも心を開いてくれるかもしれない……」

 「でも、ビンカも死んじゃうかもしれないよ!」

 アミとは対照的に、ぼくはほとんど絶望しかかっていた。

 「いや、ビンカは死んだりしないよ。いまはきみを失うくらいだったら、死んだほうがマシくらいに思ってるかもしれないけど。でもこれは、いいきざしだよ。こんなふうに苦しい思いをすれば、さしものゴロも、少しは思いなおしてくれるかもしれない」

 「わかった!わかった!ビンカ!」

 とつぜん、ゴロの大声が響いた。ついでビンカの泣き声がピタリとやんだ。そうしてビンカはゆっくりとふりあおぎ、射るようなまなざしをゴロにむけた。その目は“なにがわかったの?ほんとにわかったの?”とでも言っているようだった。

 「わかったよ、ビンカ」

 「わかったって……なにが?……わたし、地球へ行ってもいいの?……」

 「頭がおかしくなったのか!?」

 「ウワアアアアー……!!!」

 「静かにしなさい!ビンカ!静かに!

 おまえが永遠に地球に行ってしまうことは許可できない。でも、明日、アミと出かけるのは許そう。なにか見てこなくっちゃならないんだろう?それならかまわん……」

 モニターのむこう側でもこちら側でもシーンとなってしまった。ゴロがそう言いだすとは思ってもみなかったからだ。とびあがるほどのよろこびではないにしても、許可がないよりはずっとましだった。

 「どう、見たろう?神がぼくたちをたすけてくれたんだよ。神はいつも、ちゃんと役目を果たしてくれる」

 「これで時間がかせげる」

 とクラトがよろこんだ。

 「そのとおりだ!」

 ぼくの声もはずんでいた。

 「時間?いったいなんのための時間だ?」

 自分で言っておきながら、クラトはふしぎそうにくびをひねった。

 「ウーン……ビンカといっしょにいるための……それから、少しでも状況がよくなるのを待つためかなぁ……わかんないや……」

 ぼくがつぶやくと、

 「とりあえず、きみたちが行くべきところに行くためだよ。そして運がよければ、そのかたく閉ざした心を、ゴロがもう少し開いてくれる可能性だってあるんだ!」

 アミはとってもうれしそうだ。

 クローカの顔にも、ようやくほほえみがもどってきた。事態が一歩前進したことよりも、たいせつな少女が少なくともいますぐ死んだりする心配がなくなったことに、ホッとしたのだろう。

 ビンカのくちびるが、よろこびにほころびはじめた。

 「約束する?ゴロおじさん」

 「約東するよ。でも、ひとつ条件がある」

 「なあに?」

 「ウム……、その……あの地球の少年と、不道徳なことはしないっていうことだ……」

 それを聞いたビンカが笑いだした。ぼくもおかしくてたまらなかった。ぼくたちはまだ、そのことについてはいっぺんも話し合ったことはなかったけど、ぼくじしんは、そういうことはきちんとしたいと考えていた。もしもそのときがきたら、ビンカと結婚しようって……。だって、そういうことは、ないがしろにしちゃいけないんだ。愛し合うふたりにとっては、とってもたいせつなことなんだから……。あとで聞いたら、ビンカもぼくとおんなじような考えをもっていた。なんていったって、ぼくたちはやっぱり双子の魂なんだから。

 「ゴロおじさん、わかったわ、約束します」

 ビンカはゴロにだきついて、かんしゃのほおずりをした。

 よろこびと安堵とで、みんながため息をもらした。そうして緊張がとけて、ビンカの家でも円盤の中でも笑い声が起こった。

     “ゴロ、ありがとう。じゃ、ビンカ、明日の朝いつものところで待っている。おやすみ”

 とアミはマイクをとおして声をかけた。

 ぼくは地球人とキア人とのあいだで、はたして内密な関係が成立するのかどうか、考えこんでしまった。ひょっとしたら、彼女は別の器官をもっているとか、それが別のところにあるとか……。でも、そんなこと、どうしてぼくにわかるだろう。そういったことは、ごく最近になって、ほんの少し知ったばかりのところだった。もちろん、学校で教わるばっかりじゃない。友だちの中には、その手のじょうだんが大好きなヤツもいたし、そういうたぐいの雑誌をじまんげに見せてくるヤツもいた。だからぼくは、前みたいなまるっきりの無知じゃなかったけど……でも、そういうことは、しかるべきときに、しかるべきかたちで、きちんとしたいと思ってたんだ。だって愛の関係なんだもの。

 またじょうだんのタネにされそうな気がしたから、クラトには聞かれたくなかった。ぼくは、こっそりアミにたずねてみることにした。すると、

 「できるよ」

 ぼくの考えていたことを、アミはすでにキャッチしていた。

 「でも、子どもはつくれない、遺伝子の修正をしないかぎりはね」

 「エッ!? いったいだれの話なんだい?」

 なんのことやらさっぱりわからないでいるクラトが、アミにたずねる。

 ぼくたちはクラトを無視して話をつづけた。でもぼくは、頭の中だけで、アミにたずねることにする。

      “アミにはそういうことができるの?"

 「子どもが欲しいの?」

 「わしが?ホッホッホッ!それにはまず奥さんが必要だよ、ホッホッホ!」

      “うん、きっと欲しいと思う……あたりまえの夫婦みたいに”

 「それなら、ますますゴロの決断がたいせつになってくるよ」

 クラトはまったく気づいてなかった。あいかわらず、アミは自分と話しているものと思いこんでいる……。

 「エッ!!!どうしてわしのプライベートな問題に、ゴロが関係あるんだい?……」

      “もしゴロが、ビンカの地球行きを許可してくれたら、ぼくたちの遺伝子を修正してくれる?”

 「伝道師の仕事はかなりいそがしいから、自分の子どものめんどうをきちんと見られないかもしれないんだよ……」

 「伝道師。……わしのことか?ウム……そのとおり」

      “うん、わかった、アミ。自分に耳の先っぽがとがった子どもができるなんて、すばらしいことだよ……”

 「ほんとはね、ひとりでも多くの子どもが、飢え死にしないことのほうが、すばらしいんだよ。そうなるためには、この世にはもっともっと愛が必要だし、もっともっと伝道師もがんばらなくちゃならない」

 「ウーム、わしもそう思っておるよ。いつか、わしも自分の使命がわかったときには、いっしょうけんめいにそのつとめをはたすよ……。ところでアミ。そのはらペコのことなんだが、わしの小屋にこないかね?わしゃもうはらがへってはらがへって……」

 「それより地球へ行こう。たったいま、うれしい情報が入ってきたよ。ペドゥリートのおばあちゃんが、ぼくたちのためにおいしい夕ごはんをつくって待っててくれてるんだ」

 「ホッホッホッ! それじゃうまそうなものがあるにちがいない。それにかわいいばあさんもいるんだからな。そうとわかれば……アミ、いそいでくれよ。ホッホッホッ!」

 浮かれきったクラトをながめながら、ぼくは、自分がまた、やきもちをやいてるのに気づいた。おばあちゃんのこととなると、もうほとんど自動的に、やきもちのスイッチが入っちゃうのかもしれない。こんなことじゃダメだ。おばあちゃんは、ぼくだけのおばあちゃんじゃないんだから……。

 「ヤッホー!ペドゥリート、すごいよ」

 とぼくの心を読んだアミが、よろこんでくれた。

 「ありがとう、アミ。ぼくはただ、おばあちゃんがさいごには、からいソースの鍋の中におさまってしまわないことだけを祈るよ……」

 それにしても、さっきはどうして、泣いてるビンカが見えたんだろう?ぼくの内部に彼女の姿がうつったんだ。

 「だってきみたちは愛で結びついているんだもの。その上さっきは緊急事態だったから、きみたちがおたがいにもってる、つよい感覚がはたらいたんだよ。ほら、もうきみの家に着いたよ」

 円盤は視覚不可能な状態で、海岸の近くにあるぼくの家の上に停止した。太陽はほんの少し前に、すがたをかくしたばかりで、まだ時間ははやかった。


 

【感想】

  アミが言う「神はたしかに存在する、具体的に存在しているんだよ」という言葉は、確かに今一つピンと来なくて「はあ……ふうん……」ものです。だからこそ、アミが恐怖体験で気づかせてくれました。これは残念ながらきっと人類全員に当てはまることなのだと思います。絶対絶命のときには神さまに頼るのに、普段は神の存在を信じていない、ということは確かにあります。これはどういうことなのでしょう?今度また考察してみたいと思います。

 

 また、アミは「この世にはもっともっと愛が必要だし、もっともっと伝道師もがんばらなくちゃならない」と言っています。この文章を読んでいるあなたも「伝道師」です。ただ、わたしは今はがんばらなくちゃならないとは思っていなくて、「伝道師」の方々もどんどん楽しんでいただきたいと思っています!嬉しいエネルギーが全てのモチベーションとなりますからね!


 そして、ペドゥリートがビンカが泣いているシーンが「見えた」理由として、アミは「愛で結びついているから」と言っていました。昔から「虫の知らせ」というものがありますが、それはやはり相手を思いやる気持ちがそれを受け取る条件なのかもしれません。誰かを大切に想う気持ちは目には見えないけど、きっとつながっているのだと思います。その想いは時空を超えて存在するのだと考えるとワクワクしますね!





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