【朗読】56)『アミ3度めの約束』第7章 PP(ポリシア・ポリティカ)の地下牢 ①
- 学 心響
- 2 日前
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エンリケ・バリオス著の『アミ3度めの約束』の朗読と個人的な感想です。
【文字起こし】
(漢字表記も含め全て原文のままです)
第7章 PP(ポリシア・ポリティカ)の地下牢 ①
キア星へともどる円盤の中で、アミはPPに潜入している仲間とずいぶん長いことやりとりしていた。今回、彼らの中で、ぼくたちに協力できるひとはだれもいなかった。一連の事件のせいで、政府側はかなり神経をとがらせており、いつにも増して厳重な警戒態勢に入っている。そのため、仲間たちはそれぞれ、とても忙しくなっているのにくわえて、その動きまで制限されてしまっていた。
「ペドゥリート、こんどはわれわれだけで解決しなければならないよ。」
「うわ……ふたりの子ども vs キアで最悪の公安機関か……」
「でも成功させよう!……そうだろう、ペドゥリート」
「う、うん、ぜったいにね……でも、なにか
いい計画でもあるの?」
「ぼくはこれからPPの総司令部の地下におりていって、ビンカたち 三人をたすけだす。ペドゥリート、きみはここにいて、ここで円盤を操作するんだ」
ぼくは、アミがどうかしちゃったんじゃないかと思った。
「アミ、なにを言ってるのか自分でわかってる? あんなところに行ったら、きみは生きて帰ってはこられないよ。しかもビンカたちまでつれてくるなんて、ムチャもいいところだ」
それにはなにも答えず、アミはぼくに、円盤のそうさ方法を教えはじめた。円盤を視覚可能/不可能にする、円盤を前進/後退、上昇/下降させる、黄色い光を出す、モニターでアミの様子を見る、指向性マイクを使う……といったことだ。
ちょっとじまんたらしく聞こえるかもしれないけど、たとえ NASA(アメリカ航空宇宙局)の宇宙飛行士だって、宇宙船のそうじゅうじゃ、ぼくにはかなわないと思うな。ほにゅうビンをくわえた赤んぼうみたいなものだよ……。
ちょっとじまんたらしく聞こえるかもしれないけど、たとえNASA(アメリカ航空室宙局)の宇宙飛行士だって、宇宙船のそうじゅうじゃ、ぼくにはかなわないと思うな。ほにゅうビンをくわえた赤んぼうみたいなものだよ……。
教えたことをあっというまにマスターしていくぼくを、アミは満足げにながめていた。
「これで準備ばんたんだ。ぼくがいないあいだ、安心してきみにこの円盤をまかせておけるよ。願わくは、きみの仕事が、せいぜい黄色い光を出すくらいのものであってほしいけどね。順調にいけば、一時間はかからないはずだから」
ふと、ぼくの頭の中を、コワーイ考えがかすめた。
「アミ、もし、もしもだよ。もしもこれっきりきみがもどってこなかったら?……ぼく、いったいどうやって地球に帰ったらいいの?」
「それは取りこし苦労というものだよ、ハッハッハッ。だいじょうぶ、そんなことにはならないから」
アミは自信たっぷりに言いきったけれど、ぼくはちっとも安心できなかった。
だって、“100パーセントの保証”なんてどこにあるっていうの?……でも、ぼくは、気をつよくもって、もっと楽観的になって、悪い方向に考えるのはやめようと考えなおした。
ぼくたちはPPの総司令部についた。
円盤はビンカたちが収容されている建物の上空に、視覚不可能な状態で停止した。ビンカたちは、この建物の地下深く、四方のかべをがっちりと装甲されたへやの中に、監禁されていた。
「鉛で装甲されているんだよ。あのかべには、われわれの振動ゾンデ(訳注:地中の状況を調べる装置)も役に立たない。だから、モニターでようすをさぐることもできないし、遠隔輸送も不可能だ」
「つまり、ぼくもきみが見えないというわけだよね?」
「そのとおり、でも、ぼくのことは心配いらないよ。これで身を守りながら行くから」
そう言って、アミがひょいと計器盤のキーボードをもちあげると、ひきだしがあらわれた。そのひきだしを開けると、中からは、いっけんエンピツのような、金属でできた細長い棒が出てきた。アミはそれを取り出して手のひらにのせ、親指でチョンと押した。すると、棒はたちまち、光をおびてかがやきはじめた――まるでちっちゃな太陽みたいに。
「うわあ、なんてきれいなんだ! それなんなの? アミ」
「武器だよ、ペドゥリート」
「武器!?……きみたちでも、武器を使うの!?」
アミはいたずらっぽくほほえんで、
「もちろん。ときには自衛が必要になるからね。そういつも、催眠術をかけるだけの余裕があるわけじゃない。とくに、こうふん状態の未開人の群れがワーッ! と押し寄せてくるようなばあいにはね」
「アミが武器を出したってことは、つまり、これからまさにそういうことが起こるってわけだね。この下で、テリのPPたちが……」
アミは、ただだまってその棒をぼくにむけた。棒の先っぽから金色の光線が飛び出して、ぼくの胸に当たった。とたんに全身があまくしびれ、ぼくは幸せな気分になった。……人生ってほんとは、ひたすら美しいものなんじゃないのかなあ。不安や危険があるなんて、きっとなにかのまちがいだよ……。ふとアミを見やると、こんどはきゅうに、彼がすばらしい存在だってことが意識されてきた……アミみたいに、大きく内的進化を果たしたひとが、いま、こうしてぼくの目の前にいるんだ。ぼくはなんてラッキーなんだろう!……ぼくはなんだか、自分の中のいつもよりもずっと高いところから、アミのすばらしさが理解できているような気がした。
アミはそんなぼくを見て笑っていた。そのほほえみには、なにものをもひきこんでしまいそうな魅力があった。しかも感染力まであったらしい。ぼくも知らず知らず、ほほえんでいた。なんだか、とっても楽しかったんだもの!
やがてアミが、ふたたびぼくに棒をむけた。こんどは明るいみどり色の光線がとび出して、ぼくのからだに当たった。するとぼくは、いつものぼくの現実へ、日常の考えにもどった。
なるほど。あの棒は、ひとの心のはたらきをこわしてしまう器具なんだ……。
「そうじゃない、その正反対だよ、ペドゥリート。ぼくはいま、きみの中の俗っぽくて野蛮な部分に麻酔をかけて、ずっと高い意識に切りかえたんだよ。でも、切りかわったのは意識だけだから、進化レベルの低い現実社会とは、どうしてもズレが生じてしまう。だからいつもどおりの生活ができなくなるんだ。そのままにしておけば、地球時間にして十時間くらいは効果がつづくんだけど、みどりの光線を浴びれば、ね?すぐにもとにもどるんだ」
「すごーい!アミ、それはすばらしいよ! でも、おおぜいの敵がいっぺんにおそってきたときには、どうするの?まさか一人ひとりに光線を当ててくわけにもいかないでしょ?」
「そういうときには、こっちを使うさ」
アミが、さっきのとは別の棒を手にとって、その先っぽを円盤のかべにむけた。こんどはガスライターの炎のような濃い青い光がとび出した。それがかべに当たるや、ピシッと高い音がひびいて、そこから何千ものちっちゃな金色の星々が、目にもとまらぬはやさで円盤のそこかしこにとびちった。そのいくつかがぼくのからだに当たって、とたんにぼくはまた、人生の美しさをかみしめはじめたのだった……。
「ハッハッハッ、こっちは、“散弾発射”だよ。まるで花火みたいだろ? この光に当たっても、なんら実害はないんだ。それどころか、光が当たったひとは、、“悟りを開いた”ような気分になれる。いわば、努力のいらない解脱だ……。もちろん、こうして棒をもっているひとには、なんの影響もないんだよ」
そう言ってアミは、ぼくにむけてみどり色の“弾”を発射した。たちまちに、ぼくはまたいつもの自分にもどった。
「アミ、これもすごいよ!」
「これはそんなに時代おくれでもないはずだよ。きみたちの惑星の“天才たち”がつくりたした武器の数々ときたら、まったくもって、破壊的だからね。われわれの武器は破壊とは無縁だ。それにもちろん、自分の発射した“弾――つまり原因――”が、自分にはねかえってきたりするような、おそろしい“結果”をまねくこともない。さあ、ぼくはこれから、PPのボス・トンクに変身しなくっちゃ」
「あのくさい怪物の? でも、ヤツはあんなにでっかいんだよ。ちっちゃなきみがいったいどうやって!?」
「ペドゥリート、きみは忘れているみたいだね。われわれは自分たちのすがたを変えることができるんだよ」
「ああ、そうだった。それでクラトも変身できたんだものね。でも、いくらなんでも身長は変えられないんでしょ? それとも、そこまでできるの?」
「もちろん」
「手術するとか、義足をつけるとかして?」
またアミは笑った。
「ちがうよ、ペドゥリート。たんに再構造振動変化させればいいんだ」
「ああ、なるほど?……ぼくにはなんのことやら……でも、それでどうして体重をふやしたりできるの?」
「肉体的ボリュームをふやすこと? その必要はないんだ。ただぼくをもっと大きく見せればいいんだから。このコンピューターには、セニョール・トンクのエネルギーの特徴についてのデータが入っているんだけど、これだけあれば、変身にはじゅうぶんなんだ。われわれの機械なら、望みどおりの人物になるのに、ものの二秒もかからない。それはすでに、クラトで証明ずみだね。おなじように、もとにもどるのもかんたんさ」
アミはコンピューターに、いくつかの命令を出した。いまにもにおってきそうなテリが、3D映像(立体映像)になってあらわれた。
「あとはきみが、このキーを“プロップ!”と押すだけでいいんだ。それでぼくはPPのボスのコピーになる。でも、ぼくの体重はまったく変わらないし、彼みたいににおったりもしないよ、ハッハッハッ!」
「すごい!」
「あとちょうど二分したら、三十分の予定で幹部会議がはじまる。トンクがそれに出席しているあいだに、ぼくが彼になりすまして、ビンカたちのところまで行く。そして、黄色い光がとどくところまで彼らをつれだして、この円盤にもどってくるというすんぽうだ」
「ハッ! かんたんじゃない!……」
「見ててごらん。うまくやってのけるから。そろそろキーを押してくれるかな、ぺドゥリート。変身すると、いっしょに声まで変わっちゃうんだけど、中身はぼくのままだから、おどろかないでね。それじゃ、よろしくたのむよ」
言われたとおりキーを押すと、アミはぼくの目の前で、あの、おぞましいテリになった。まなざしからして、いつものアミとは別人だ。とうぜん、太くこもった、われるような大声がふってきた。
「ペドゥリート、こわいかい?」
「ウへー!き、きみ、ほ、ほんとうに、アミなの?……」
「もちろんだよ。だからこわがらないで。さ、こんどは黄色い光を出して」
ぼくは、さっき教わったとおりにやった。アミ・テリは光のほうへむかいながら言った。
「ぼくはいまからこの光の中をとおって、できるだけ深いところまでおりていく。ビンカたちがいるところより二階上のフロアだ。そのあとどうするかは、そこからまた考えるよ」
とんで火に入る夏の虫とは、このことだ……ぼくはブルッとからだをふるわせた。
「きみがとつぜんすがたをあらわしたところに、テリのヤツがいないともかぎらない。アミ、だいじょうぶなの?」
「ぼくがすがたをあらわすのは、だれもいないへやだよ。そのへんはぬかりなく手を打ってるさ。ぼくが下についたら、ちゃんと黄色い光を消すんだよ。幸運を祈っててね。じゃ、行ってきます」
アミ・テリがすがたを消すと同時に、ぼくはモニターをのぞきこんだ。よかった、無事についてる。アミ・テリは、だれもいない小さな医務室の中にいた。ぼくは黄色い光を消して、マイク越しの、太くこもった声に耳をすませた。
“これより地下に下りていったら、ぼくの姿は見えなくなる。そうしたら、忍耐と、それから信念。このふたつを忘れちゃダメだよ……”
あれは、ぼくの人生最大の危機だった。アミがちょっとミスしたり、はたまたハプニングのひとつでも起きようものなら、ハイ、サヨウナラ……。ぼくはひとり、そうさもおぼつかない円盤の中で、地球にも帰れず、だだっぴろい宇宙を永遠にさまよいつづける。運がよくても、クラトの山小屋で、トゥラスクの世話をするだけのさみしい一生を終えることなるんだ……それだって運がよければの話で、だいたいぼくは、どうやってあそこに行くのかもわからない……どっちにしたって、ぼくの人生が最悪になるのは決定だった。だって、もう二度と、ビンカにあえなくなっちゃうんだから……。
ぼくは、“そのときには、男らしくすっぱりと死んでしまったほうがいい”とまで考えた。
【感想】
突然、アミの物語が「冒険もの」になりました!アミとペドゥリートが二人で力を合わせて解決しないとならなくなりました。自分のためだけにがんばるより、誰かのためにがんばるときの方が力がでます。だから、アミもペドゥリートもビンカのために勇気を出せるのでしょう!
また、ペドゥリートは「100パーセントの保証」はないことに一瞬不安になりましたが、意志の力で悪い方向に考えるのはやめることができました。「恐怖」に乗っ取られると、その恐怖をベースにした空想がどんどん広がっていってしまいがちです。ペドゥリート、偉い!!それにしても、アミの持つ「武器」はほしいなぁ!
そして、最後にアミの一言が秀逸でした。「忍耐と、それから信念。このふたつを忘れちゃダメだよ。」というものです。この言葉はどれだけペドゥリートの勇気になったでしょう。恐怖に乗っ取られそうになるときに耐える「忍耐」。そして、ビンカを助ける「信念」。これらが苦境を乗り越えるときのお守りですね。



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