【朗読】51)『アミ3度めの約束』第5章 サリャ・サリム ②
- 学 心響
- 1月6日
- 読了時間: 19分
エンリケ・バリオス著の『アミ3度めの約束』の朗読と個人的な感想です。
【文字起こし】
(漢字表記も含め全て原文のままです)
第5章 サリャ・サリム ②
ぼくはよこにすわっている巨大な(にせ)テリを見た。はっきりいって、かなりくさかった。ちょうど、ずっとまえに行った動物園にいた、クマのようなにおいだった。でも、ぼくは勇気をだして、巨大な歯や筋肉や体毛といった、直接に目に見えるものの、さらに奥にかくれているものを見ようとした。小さな努力をして、そう、ぼくの仲よしの友だちを見ているようなつもりになって……すると、数分後には彼の体臭は少しもいやじゃなくなり、ずっとまえに飼っていた、かわいい子犬のにおいを思いだすようになった。
となりのにせテリは、ぼくの考えていたことをいくらかキャッチしたんだと思う。だって彼は、かがやいたひとみでぼくを見つめて、せいいっぱいの親しみをこめた笑顔をつくり、ぼくのひざをやさしくつかんだからだ。
ぼくはそのとき、またひとつ理解できた。愛があれば、ひととひととを分裂させてしまうどんな見かけのちがいだって――そうしたちがいはごく表面的なものなんだ――乗りこえられるんだってことを。
「だって、すべての生物は愛の神の創造物であると同時に、そのあらわれでもあるんだからね、ペドゥリート。すべてはみなおなじ起源をもち、おなじ運命をさずけられているんだよ」
「テリでさえも」
もうひとりのにせテリが、そう言ってほほえんだ。
クラトがすかさず得意のじょうだんをとばした。
「そう、でもテリをつくったとき、神はふだんよりかなり飲みすぎていた。そして酔いがさめてからつくったのが、スワマなんだよ。ホッホッホッ!」
「フン!」
アミは、クラトのじょうだんが気に入らなかったみたいだ。
ビンカが話題を変えて、
「この街、あまりにぎやかじゃないわね……」
と言うと、ぼくのとなりにいたにせテリが説明をはじめた。
「この都市の施設の大部分は地下にある。でも、厳密にはここは都市というよりは、仕事をするための基地といったほうが適切だと思う。だから、ここに住んでいるひとはみなそれぞれ、特定の分野のプロなんだ」
「で、この基地の目的はなんですか?」
建物の屋上に大きなパーキングがあった。機体はそこにむかって下降していった。ぼくの質問にはアミが答えて、
「ここでは宇宙親交の仲間たちが協力して、キアの社会発展を監督しているんだ。このふたりが属している文明社会がこの仕事を担当しているんだけど、ほかにもさまざまな文明社会から専門家がやってきていていこれに協力している。でも、この仕事にかかわっているひとたちは全員が、キアと性格のよく似た惑星からやってきたことで共通しているんだ。つまり、おなじような重力があって、大気の主成分は酸素で、有機物でできた人類が、社会生活をいとなんでいるような惑星だよ。そのほうがなにかとつごうがいいからね」
「ということは、アミ、おなじ“親交世界”に属していても、惑星によっては、まったくちがった環境もあるってことなの?」
「もちろんちがうよ。ひと口に文明世界といってもそれはもうさまざまで、そんなたくさんの惑星が集まって宇宙親交を形成している。われわれ“親交世界”の仲間には、キアや地球の魚のように、水の中に住んでいるひとたちもいるんだよ」
「そういうひとたちはぼくたちみたいなからだつきをしているの?」
「とんでもない。だってわれわれのからだは、水の中じゃなくて、陸上で生活するようにできている。だからひれやえらはなくて、地上を歩けるように足があるんだよ。それにわれわれのからだは水の中を進むようにできていない。水の抵抗がありすぎるからね」
「じゃ、知的な存在で、おかしなからだつきをしているのもいるってこと!?……」
「ハッハッハッ!彼らがそれを聞いたら、きみのほうがよっぽどおかしなからだつきだって言い返してくるよ」
「でも、アミは以前言ったじゃない、人間のかたちは全宇宙共通だって。頭と胴体と手足からできているって……」
アミはまた笑って言った。
「ハハハハ、はじめて会ったときのことだよね。あのとき、きみの頭の中は“侵略者映画の怪物”でいっぱいだった、おぼえている?あのときはあまりおどろかせたくなかったんだよ。どうしたってきみは、“視覚的な人種差別”をしてしまうからね。だから、きみやビンカやぼくやオフィルのひとやここで見られるような人間のタイプだけについて話したんだよ。宇宙には、ほかにもたくさんのタイプがあるんだよ。生命は、いっけんそれがまったく適してないような条件のもとでも生まれる。そうすると生命は、そのさだめられた環境の中でよりよく生きられるように、からだのかたちを変えていくんだよ。つまり、宇宙にはなんでもあるっていうことだ。でも、いまのところは、われわれの近くにいる人々を知るだけでじゅうぶんだろう」
ぼくたちの乗った透明な乗りものは、建物の屋上に着陸した。ぼくたちは外におりて、近くのエレベーターに乗った。にせテリのひとりがなにか言うと、エレベーターのとびらが閉まり、動きだした。ふたたびとびらが開くと、目のまえはろうかだった。
そのろうかをとおって、小さなへやに入った。楕円形の長いテーブルがあった。そのテーブルの表面は、ピンク色の大理石のようなものでできていた。そのまわりには十脚ほどのイスがならべられてあって、それぞれの席のまえには、うすくて四角い、板みたいなものがおいてあった。たぶん、コンピューターのディスプレイみたいなものだと思う。奥のほうには大きなまどがあって、そこから美しい海の風景がひろがっていた。波が岩にあたってくだけ、しぶきをちらし、遠くには二本のマストのある漁船が見えた。さらにそのむこうには陸地があって、漁村らしきものも見えた。これはそのまま地球の風景といってよかった。でも、もちろんぼくたちは地球にいたわけじゃなくて、キアの、海からさえ遠くはなれた、山の岩盤の下の、ずっとずっと奥深いところにいた……。
この前の旅で、ぼくたちは、地球の“救済計画”を管理している巨大な宇宙船の中に入った。そこで案内された司令官のへやの中にも、ちょうどこれとおなじようなまどがあって、それには司令官の故郷の風景がうつしだされていた。カラーテレビに見えないこともなかったけれど、それにしてはあまりにリアルで、ぼくにはどうしても、ふつうのまどと見分けられなかった。そしてこのへやのまどからは、漁船がこちらに――つまりこの映像を撮影しているほうに――近づいてきているのが見えた。船がかなり近くまできたとき、そこに乗っている漁船員たちはスワマだったのがわかった。
「いったい、どうしてこの地中奥深くのまどから、海が見えるんだい?」
クラトがしきりに首をひねる。
ビンカがそのしくみを説明すると、クラトはびっくりしてただひと言、
「ウワォッ!」
と言ったきりだった。
「じゃ、みなさん、すわってください」
にせテリの言うまま、ぼくたちはそれぞれ、席についた。
もうひとりのにせテりがしゃべりはじめた。
「この女の子のおじさんとおばさんが、いま、PPにつかまっています。キアで目撃された円盤と、その円盤につれ去られた女の子との関係を調べるためで、その友人の精神科医もまた、つかまって、取り調べを受けています。もっとも彼はすべての記憶を喪失していて、ゴロという名の男のことも、その男がスワマと結婚していることも、そして彼がスワマの女の子のおじということなども、もうけっして思いだすことはないのだけど。まあ、見てみましょう、どうしているか」
彼が目の前のコンピューターのディスプレイのようなものに、その毛むくじゃらの指でタッチすると、テーブルの上のディスプレイがいっせいに起動して、すでに見なれた記号がいくつかあらわれた。宇宙親交の文字だ。たぶん、いまスクリーンにでているのは、いろいろ選択できるメニューのようなものなんだと思う。にせテリが、タッチするかわりにこんどはその画面にむかってなにかしゃべると、スクリーンには大きな建物があらわれた。その建物のまわりには庭があって、武装した警備員のいる見はり台のついた、高くてぶあついへいがめぐらされている。
「ここがこの国のPPの本部です」
とにせテリが説明した。
それから画面はきゅう降下して、建物の中に入りこんだ。にせテリが、自分の画面の中の矢印や、手もとのコントローラーを動かすたびに、ぼくたちの画面も動いていく。ちょうどテレビゲームみたいな感じだ。
こうやって、しばらくPP本部内をかけまわって、ビンカの国の“極秘中の極秘”の組織の中を、すみからすみまでじっくりと観察した……。さいごに、かなり太った、これまで見てきた中でもいちばんおぞましい感じのするテリがあらわれたところで、画面は落ちついた。
彼の体毛はあかじみた暗いみどり色をしていて、ろくにとかしてもいないらしく、ベタベタとあぶらじみた感じだ……。きっとすごくくさいだろうなって感じた……。
「きみはとても直感的だね」
とアミがゆかいそうに笑って言った。
「彼がボスのトンクです。これから、彼がいままでにどんなことを話していたか、録画で見てみましょう」
“文明”世界はこうやって、“未開”世界の人々をスパイしているんだってわかった。
にせテリはビデオとおなじように、画面を早送りしたり、巻きもどしたりしながら、これまでのPPのボスの会話を、とても注意深く聞いていた。アミはぼくたちに説明した。
「われわれはキアの進化にかんした重要な分野において、テリがどんな決定をくだしてきたか、見すごすわけにはいかないんだ」
そう聞かされても、ぼくはどうも、腑に落ちなかった。どんな理由があるにせよ、こういったスパイ行為は、キアという惑星の独立と自由を侵害していることになるんじゃないかと思うから……。
ぼくの考えに気づいたアミは、この少々ややこしいテーマについて、ぼくたちに説明する必要を感じたらしかった。
「まず、未開世界にはたくさんの基地があって、そこではわれわれの仲間がおおぜいはたらいていて、もしも監視をおこたっていたら、われわれのほうこそ被害にあいかねないってこと、忘れないでね。乱暴な未開世界の人々が、宇宙の大さんじをまねくかもしれないような知識を手に入れることを、われわれは見すごすわけにはいかないんだ。まだ正しい使い方のわからない子どもにナイフを渡すようなものだからね。これ、前にも言ったことだけど、おぼえてる?」
「うん、おぼえている。でも、アミ。こうやって、自分たちの領土でもないところに秘密の基地をつくるのは、正しいことなの?」
ぼくの質問を聞いて、にせテリのひとりはほほえんだ。アミはこう答えた。
「もし、こういう基地がなかったとしたら、きみたちの文明だって存在してないよ……」
もし、彼らの監督がなかったとしたら、ぼくたちの文明はとっくに消滅してしまっている……。そう、アミは言っているんだ。アミはぼくの考えを注意深く読み取ってこう言った。
「それはたしかにそのとおりさ、ペドウリート。でも、未開文明にとって、われわれの存在がどれほど重要であるかは、ちょっといまのきみにはまだ、想像もできないくらいだよ……」
それを聞いてぼくは、もっともっとちゃんと知りたくなった。
「でも、いま、その質問に答えている時間はない。もっとあとになったら、すべてわかるよ。もう少しのしんぼうだ」
画面をそうさしていたにせテリが言った。
「トンクはまだ、容疑者にかんしてなんの決定もしていません。軍隊と大統領のところへ問い合わせをして、その決定を待っているところです」
画面はふたたびめまぐるしく動いて、PP本部内をくまなくうつしだしていた。武器をもったふたりの警備員の見はっているとびらの前まで来たとき、にせテリが説明した。
「ここが容疑者を入れておくへやのあるところです。これから、われわれの目のひとたちをさがすことにしましょう」
画面はとてもあつい鋼鉄の柵をとおりぬけ、警備員のすぐ目の前をとおりぬけていった(もちろん、彼らにはぼくたちが見えない)。そのままつき進んでいくと、両側にたくさんのとびらのならぶろうかに出た。画面はその一つひとつをのぞいて、中をあらためていった。大部分のへやはからだったけれど、いくつかのへやには身柄を拘束されたひとがいた。そのひとつには、あの精神科医のすがたもあった。あざだらけになって、かなり動揺しているみたいだ。すぐとなりのへやには、ビンカのおじさんとおばさんがいた。それを見たビンカは、ホッと安堵のため息をもらした。とりあえず元気そうなのはよかったけど、ふたりはひじ掛けイスに腰掛けて、不安げな表情を浮かべている。へやの中にはほかにだれもいなかった。
にせテリのひとりが言う。
「きっとすぐに、上がこの件を“優先Ⅰ”のカテゴリーに入れることを決定し、彼らをここから装甲別棟にうつすでしょう。いったんあそこに入ったら、なかなか出ることができません。それをすくいだそうとすれば、スズメバチの巣をつつくようなもので、厳重に武装したおおぜいのテリと正面から立ちむかわなければならない……だから、いまがここにつれてくる絶好のチャンスです」
「ここにつれてくる! ほんとうに!? でも、どうやって!?」
とぼくがおどろくと、
「遠隔輸送はむずかしいことじゃない」
ぼくにそれほどの注意をむけないまま、にせテリのひとりが言った。
「すごーい」
とビンカ。
「じゃ、さっそくやってみよう。でも、そのまえに、指向性マイクでこれからすることをふたりに知らせておいたほうがいいと思うけど」
「それはできない。独房の中は、いたるところに監視カメラがそなえつけられているからね」
「ああ、そうだった。ふたりにはなにも説明できないんだ。しゃべったことは、なにからなにまで録音されてしまうし」
「あのふたりを無事、ここまでつれてきたら、われわれはすぐ身をかくします。われわれのすがたは見せないほうがいい。進化の仕事にたずさわっていないひとたちの安全のためには、そうした措置が必要なんです」
クラトはじょうだん好きだけど、バカではない。すぐにひとつの結論を出した。
「ということはつまり、わしもその仕事にたずさわっているということだ、ホッホッホッ!」
「そのとおりだよ、クラト。そうでなかったらここにつれてきたりはしないよ。自分が未来にどんな愛の奉仕をするのかについては、いまのところまだまったく知らないでいるけどね」
クラトは自慢げな表情をぼくたちにむけると、“わしをもっと尊敬せよ”とでもいわんばかりに、なんどもまゆ毛を上げ下げした。
……なにかのまちがいだと思った。
この、飲んべえで、太っちょで、大食いの肉食らいで、かなりのうそつきかじょうだん屋の、ちょっとこまった老人クラトが、愛の奉仕者だって!?……ヘッ!
ぼくが考えていることをキャッチしたアミは、静かにこう言った。
「他人の心の奥のことは、だれにもわかりっこないはずだよ……それに、他人の進化の過程を、いったいどうやって知ることができるんだろうね?」
自分の顔が赤くなっているのがわかった。ぼくはなにも言わなかった。
にせテリは話をつづけた。
「宇宙計画に関係していないひとは、いまはまだ、この基地の存在を知るべきではないんです。だからあなたたちも、このふたりはもちろん、ほかのだれにも、われわれの許可なく、サリャ・サリムのことを話さないでほしい。約束してもらえますか?」
にせテリは、ビンカとクラトとぼくを見ながら言った。
「わしは口がかたいので有名で、戦争のころには、“石のクラト”といわれたもんだよ。ホッホッホッ!約束するよ、心配無用だ」
とクラト。
「約束します」
ビンカとぼくもうなずいた。
「では、まずさいしょに、ふたりをねむらさなければならない。それからここにつれてきます。じゃ、遠隔輸送のへやへ行きましょう」
ぼくたちはへやを出てろうかをとおり、科学装置だらけのへやへ入った。ふたりのにせテリは、制御器をそうさしながら、ぼくたちにはチンプンカンプンの技術専門用語を使ってなにごとか話していた。ほどなくしてスクリーンのひとつに、ビンカのおじさんとおばさんがうつしだされた。
「まどろみ段階、準備完了」
とにせテリのひとりが言うと同時に、ふたりは深いねむりに落ちていった。
「遠隔輸送段階、準備完了」
つぎのにせテリの言葉で、とつぜん画面の中のふたりが、ぼくたちの目の前にひじ掛けイスごとあらわれた。ふたりは赤んぼうのようにスヤスヤとねむったままだ。
かけよろうとしたビンカを、アミがとめた。
「われわれの友だちが仕事を終えるまで待つべきだよ」
毛むくじゃらの男たちは、二台のストレッチャーに、ゴロとクローカをそっとねかせた。
それからこんどは、ひじ掛けイスをもとあったところへ遠隔輸送するための作業に取りかかった。イスがもとのところへもどってから数分もしないうちに、とびらがいきおいよく開いて、何人ものテリがドカドカと入ってきた。からっぽのへやを見た彼らは、みるみるすさまじい形相になって、怒りの感情を爆発させた。
「このイスにはまだぬくもりがある……たったいま、宇宙人のヤツらが遠隔輸送したんだ!なんて悪がしこいヤツらなんだ!」
ぼくはふしぎに思った。
「アミ、あのテリたちは、きみたちが人間を遠隔輸送できるのを、ちゃんと知っているよ……」
「そうだよ、ペドゥリート、遠隔輸送は以前にもなんどかおこなっているからね」
ビンカは混乱していた。
「じゃ、わたしたちの政府は、あなたたち宇宙人がいるってこと、ちゃんと認めているのね。あの石頭の精神科医もそんなようなことを言っていたようだけど……」
「もちろんだよ、ビンカ。診療所のまどの外に円盤があらわれたとき、彼らはすぐにとんできて調査をはじめたろう」
「ぼくはまた、ただ調査しただけかと思っていたよ。調査はしたけど、いまだなにひとつ証拠が見つからないままで終わってきたんじゃないかって……。政府がなにごともなかったような顔をするから、(地球でもそうなんだけど)宇宙人を信じるひとが変人あつかいされるんだ。どうして正式な発表をしてくれないんだろう?」
「カムフラージュだよ。この国の政府は、われわれについての情報を徹底的にかくしとおすつもりらしいんだ。それもとてもたくみにね。だから個人が調査するのをじゃましたり、デマを流して人々の目をくらますなんてことまでするんだよ」
「ほんとうに!?」
「ほんとうだよ、とてもざんねんだけれど」
「そんな……わたしの国の政府がそんなことを……わたし、ちっともしらなかった……」
「でも、想像はできたはずだよ。政府が宇宙人問題にかんしてとても熱心に動いていること、ちょっとでもおかしいことがあればどこへでも出かけていくことは、あるていど情報に通じたひとならだれでも知っている。そうして出かけていった先では、地元の警察や、はては軍隊まで動員して現場を保存し、あらゆる手段を使ってなんとか証拠をつかもうとするんだ。考えてもごらん。もしも政府が、宇宙人の存在についてあるていどのデータをもっていなかったら、そうは必死にならないんじゃないかい?ましてや本気で空想の産物なんて考えていたとしたら、わざわざぼうだいな予算をつぎこんでまで、捜査したり、情報かくしをしたりするわけがないよ。これはわれわれについて知りたがっているひとならとうぜんわかることだし、そうでなくてもちょっと考えてみればけんとうがつくことだ」
「でも、どうして知っていることをかくしたりするの?」
「いい質問だ。それについては、またあとで話してあげよう。いまはとにかく、目の前の問題を片づけなきゃ」
そこでにせテリのひとりが言った
「ここでいったん整理してみましょう。ゴロの友人の精神科医は、もうなにもおぼえていない。彼の記憶は、とつぜんあらわれたゴリラどもにボコボコになぐられたところからはじまっている。まもなくPPの警官が、まどの外にあらわれた円盤について、いろいろと質問をするでしょうが、かわいそうに彼はなにひとつ思いだせません。ゴロ・クローカ夫婦と自分との関係についてもどうようです。どんなにしぼられてみても、精神科医はまったく答えられない。となればPPもさすがに、彼がほんとうになにも知らないのだとわかるでしょう。運がよければ、彼はそのまま釈放されるはずです。あくまで運がよければの話ですが……。ただしそのときにはもう、われわれが彼の記憶を消したことも気づかれてしまっているでしょうね。これまでに、もうなんどもやっていることだから……」
アミはその点をもう少し説明してくれた。
「われわれは必要とあらば、人間の記憶の一部分を完全に消してしまうことができる。そうなったらもう、どんなに高度な催眠術を使っても、もとの記憶を取りもどすことができないのは、PPもよくわかっているんだ。ゴロとクローカのふたりが目をさましたら、PPにどう証言したかを聞いて、それからどうするか考えよう」
ぼくたちにむかって、ふたたびにせテリのひとりが説明した。
「くりかえすけど、おじさんとおばさんには、自分たちがいま、どこにいるか教えてはいけない。宇宙計画に参加していないひとはだれも、この基地のことをまだ知らないほうがいいからね」
「ということは、本に書くのもダメなの?」
それにはアミが答えて、
「それは別問題さ。本に書かれたことなら、みんな空想だって考えるからね。いずれにせよ、もう少ししたら、どれを書いてどれを書いちゃいけないか、ちゃんと教えるよ」
ふたたびにせテリが話をひき取って、
「かんじんなことは、われわれふたりが親交世界に属していることを、政府側にはぜったいに知られてはならないということなんです。わずかなうたがいもかけられてはならない。もしうたがわれはじめたら、われわれだけでなく、この国の政府機関にしのびこんでいるにせテリみんなに危険がおよぶことになってしまいますから」
こんどは別のテリが言った。
「じゃ、となりのへやへうつりましょう。ふたりにはそこで目をさましてもらうことにします」
【感想】
「見かけの違い」はごく表面的なものであり、愛があれば分裂を乗り越えられる――そのことをペドゥリートは、にせテリとの関わりを通して理解しました。このように、「出会い」から何を学び取るかは人それぞれであり、その受け取り方の違いが、人生そのものの質の違いになっていくのだと感じました。世界は「良い」「悪い」で成り立っているのではなく、どのように受け取るかによって、その人の人生が形づくられていく。つまり、どんな世界観で生きるかを、自分自身が選び取っているということなのだと思います。
地球やキア星のような未開文明は、もし「彼ら」の監督がなかったとしたら、とっくに消滅してしまっていた――。この小説がフィクションだと分かっていても、この考え方を受け入れることには、正直なところ少し抵抗を覚えました。しかしそれは、地球が劣っているという意識に目が向いている状態だからなのかもしれません。地球が誕生してから50億年という長い歴史を経て、この現実を知ったとき、もし確かにサポートを受けているのだとしたら、劣等感ではなく感謝に意識を向けたい――そう思いました。
アミは、ペドゥリートが心の中でクラトを蔑んでいることに気づき、他人の心の奥や、他人の進化の過程を知ることはできないのだと告げます。その場面を読んで、仏教の十善戒の一つである「不邪見(ふじゃけん)――誤った見方をしないこと――」を思い出しました。自分の価値基準だけでものごとを見ていることに、いかに気づいていけるか。アミはそれを静かにペドゥリートに教え、指摘を受けて顔を赤らめるペドゥリート。そのやり取りに、二人の心の美しさを感じ、深く心を打たれました。



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