【朗読】49)『アミ3度めの約束』第4章 宇宙のおばあちゃん ③
- 学 心響
- 2025年12月21日
- 読了時間: 13分
更新日:2025年12月27日
エンリケ・バリオス著の『アミ3度めの約束』の朗読と個人的な感想です。
【文字起こし】
(漢字表記も含め全て原文のままです)
第4章 宇宙のおばあちゃん ③
アミがこう言った。
「彼女が類推推理で話しているのに対して、テリはただ自分の頭の中にある論理だけでしゃべっているんだ」
「なに?その類推……」
「いまは説明している時間がないよ」
モニターの中のビンカは、なおもテリに語りかけていた。
「科学者にとって、愛は神のいることの証拠とはならないの?」
テリの顔には、あいかわらずいやみな笑いが浮かんだままだ。それから、まるでバカな子どもの話はもうたくさんといったように、
「そうだね、よくわかったよ、ビンカ。たしかに“世界をよくする”なんて大きな理想をかかげるのはうるわしいことだ。思わず熱も入るものさ……ビンカ、きみはまったく“詩人”なんだね!ヘッヘッ……。
こう見えても、わたしもひまなときには詩を書くんだよ、ヘッヘッ……。さて、きみのおじさんたちもそろそろ待ちくたびれているだろう。きみの友だちとやらも待っているんだろう?しかたあるまい、きみに協力することにするよ。きわめて異常なことで、わたしはまだ、受け入れたくはないが……」
と言って、また、あのいやみな笑いを浮かべた。それでもぼくたちは、医者の“協力”というひと言に、希望をふくらませずにはいられなかった。
「じゃ、ゴロおじさんを説得して、わたしが地球に行けるようにしてくれるの?」
「そうは言ってないよ、ビンカ。きみに協力するとは言ったけど、わたしは医者だ。医者の仕事は患者のいのちを守ることだ。そのうえ、わたしは法を守る善良な市民だ。まずだいいちに、地球に行くことがほんとうにきみのためになるかどうかをたしかめる必要がある。それには、初等教育の専門家に意見を聞き、国家初等委員会に報告書を書いて提出し、管轄の裁判所に許可を申請しなければならない」
彼の話を聞いているうちに、ぼくたちの希望はあえなくしぼんでいった。
「それから、地球の社会的、生物学的環境がきみのために望ましいかどうかを判断する。そのためには専門家が地球の環境状態を調査できるように、各国政府が正式な取り決めをぶことになる。そしてなによりかんじんなのは、ぜったいに、地球文明がキアの脅威とならないようにすることだ。きみの友だちとやらが、こうした惑星どうしの歩み寄りに協力してくれるかどうかも、じつのところまったくわからないんだからね……。いいかいビンカ。これはけっしてかんたんなことじゃない。VEP(惑星外生命)の問題っていうのは、とくべつにやっかいなんだよ。なぜならこの問題については、すべてが政府の監視下にあって、PPの委員会が情報の管理・収集をおこなっている。この国で集められた情報は、この惑星でもっとも強大な国の秘密情報部まで、報告する義務があるんだ。みんなもよく知っているように、PPの警官っていうのは、まるで友好的とは言いがたい。おまけにVEPの問題にかんしては“特別な”命令のもと、PPが、政府にとって不都合な情報をにぎりつぶす役目を負っているんだ……。たぶん、それなりの正当な理由があるからだろうが……。くりかえすけれど、これはけっしてかんたんなことじゃない。障害だらけといってもいいくらいだ。でも、しかたあるまい。ほかに法にかなったやり方がないんだから」
ぼくたちの美しき未来像は、いまや、ガラガラと音をたててくずれるところだった。
「この医者は頭がおかしいぞ、アミ。こりゃまったくのお役人だ。なんでもかんでもふくざつにしなけりゃ気がすまない」
クラトの心配には、アミも同感だった。
「まったくだ。もしキアの政府にでも連絡されたら……かわいそうなビンカ……」
「かわいそうなペドゥリート」
あまりの心細さに、ぼくは自分じしんにつぶやいた。
モニターの中のビンカは、とてもくるしげだ。
「いったい先生はわたしをたすけたいと思っているの。それとも、わたしの人生をメチャメチャにしたいと思っているの?」
「もちろんたすけたいよ。わたしは医者だからね」
「だったら、ゴロおじさんと話をすればすむことよ。どうしてものごとをそんなにふくざつにしようとするの?」
「ビンカ、わたしは、わたしにうそをついたゴロとはもう話はしない。わたしにとっては、つねに“正しさ”がいちばんたいせつだ。自分の主義に反することはできない。ゴロは事実だと知っていながら、わたしにすべてはビンカの空想だと言ったんだからね。だからもうこれ以上ゴロとは友だちでいることはできない。それにこの件を当局に通報することは、法を守る市民としての、そして祖国や民族やその文明を愛する市民としての、つとめでもあるんだ」
「この男は、ゴロよりもはるかに頭がかたい!」
アミはさも不快そうにさけんだ。
「すぐ目の前にすぐれた現実があるっていうのに、まったに気づかないなんて!そしてけんきょになってなにかを学ぼうとするかわりに、自分の水準までものごとをひき下げ、自分たちの規則を押しつけようとする。まさに典型的なテリじゃないか!
もしも空から天使が舞いおりてきたとしても、この医者はきっとこう言うんだよ。『ビザもパスポートももってないぞ、刑務所に入れろ!』って。手あつく保護しようなんて考えは、頭をかすめもしないんだ。頭の中はエゴだらけ。なんだってエゴで支配できると思ってる!感受性のかけらもありはしない」
「これじゃ、スワマになるまでには、ものすごい時間がかかるな」
クラトがつぶやくと、
「おそらくそのとおりだろうね。見てごらん、どこかに電話をかけようとしているよ……」
アミがモニターを指さした。
「PPへ?」
モニターの中では、ビンカがあわてたようすで電話機に手をかけて、医者の通話をじゃましたところだった。
テリはさもはら立たしげにふりかえって、ビンカをにらんだ。
「なにをするんだ!?この生意気なスワマの小娘め!礼儀を知らんのか!」
「あなたこそ、いったい、なにをするつもり!?わたしを密告してPPにひきわたすつもりなの?」
「とうぜんだ。それが法を守り、祖国と民族とその文明を愛する市民のつとめなんだ」
「さっきからおなじようなことを……針のとんだレコードじゃあるまいし!」
クラトがはき捨てる。
「それが先生のやり方なの?それでほんとうにわたしのためだっていえるの?」
ビンカの悲痛なさけびに、医者はへいぜんと答えた。
「そのとおり、政府の専門家はなにがきみにとっていちばんよいかちゃんと知っているだろう。だからわたしがPPに電話するのを、じゃましないでくれ。わかったな、小娘」
アミは少しうろたえていた。
「科学者としてはどんなに優秀か知らないけど、これじゃいまだにけものと変わらない……」
「たすけて、アミ!たすけて、ゴロおじさん!」
ビンカはさけんでいた。
「アミ、なんとかしなくっちゃ!」
クラトとぼくは同時にさけんだ。
その声を聞いたゴロが、診察室へ入ろうとした。でも内側からさし錠がおりていて中に入れなかったので、おこってはげしくドアをたたいた。
ビンカの最大の危機を前にして、ぼくはなにもできないでいた。あれはぼくの人生でも最悪のときだった。クラトは、いまにもモニターの中の医者につかみかかりそうないきおいだった。あれがもし、目のまえで起きたできごとだったら、クラトはなにをしていたかわからない。モニターのこちら側にいるぼくたちにむかってビンカがさけんだことを、ここでいま再現することは、とてもとてもできない。
「落ちついて、落ちついて」
アミはそう言うと、計器盤のボタンやキーを、すばやくそうさしはじめた。彼の手は信じられないようなはやさで動いていた。まるで映画を早送りしているみたいで、あまりのはやさに、ブンブンといううなり声さえ聞こえてきた。しかも、なんと!彼の手からはうっすらとけむりまででていた!そのときはただもう、ビンカが心配で心配で気にもとめなかったけれど、いま、あらためて思いだしてみると、アミの手の動きは、ほんとうにすごかった……!
精神科医はふたたび受話器を手に取った。
ビンカはすかさずその手を取って、かっぷくのよいテリの医者があまりの痛さで悲鳴をあげるほどつよく、彼の指をかんだ。激怒したテリが、彼女をドアのほうへ投げとばすと、その衝撃でビンカは意識を失った。ドアのむこう側でその音を聞いたビンカのおじさんとおばさんは、もはや死にもの狙いになってドアをぶちこわそうとしていた。
「だいじょうぶ、心配するほどのことじゃないよ」
アミの言葉にちょっぴり安心できたのもつかのま、テリがマストドン(訳注:化石獣。現在のゾウに似ているが、ゾウよりもはるかに大型。上あご・下あごの両方に牙がある)のようにドスドスと、ぐったりとしたままのビンカに歩みよった。大きな歯をむきだして、ゲンコツをつくり、からだ中の筋肉をこわばらせているさまは、まさしくいかり狂ったゴリラそのものだ。
「テリというのは、感情が自分の内深くねむったまままひしてしまっているんだよ。だから自分の動物的衝動に対して、ほとんどコントロールができないんだ。すぐやめさせないと、あのテリはビンカを殺してしまうよ」
アミがいそいで計器盤をそうさすると、そこで信じられないことが起こった。テリの動きが、凍りついたかのように、ピタッととまったのだ。
「うわー!すごい、アミ!ほんとにどうなるかと思ったよ。よかった……でも、どうやったの?遠隔催眠をかけたの?」
「緊急時には、遠隔催眠をおこなうための精神集中ができないからね。だから光線を発射して、からだをまひさせる方法をとったんだ」
「おお、さすがだな、アミ。効果はどのくらいつづくのかね?」
「ぼくが光線を切るまでは、ずっと効果がつづくよ。さ、いそがなきゃ。たくさんのひとたちが、この円盤を目撃したんだ。すぐにでもPPがかぎつけてくるよ。こういうことがあると決まってそうなんだ。ああ、もう階段をのほってきている。ゴロが診察室のドアをこわそうとしたから、よけいにさわぎになったんだ。もう時間がない。なんとかビンカだけ救出してこよう」
アミは立ちあがって、円盤の入口のほうへ歩いていった。入口はゆっくりと開いていくところで、そこからみどり色の光のトンネルがのびて、ぶあつい建物をつきぬけ、まっすぐに診察室の中までつづいていった。その光のトンネルの中を、アミはまるでなにかかたいものの上を歩いているように、進んでいった。いままさにビンカを殺さんとばかり、凶悪な表情で、ただし指一本動かせないでいる医者のいるところまで……。
PPはすでに診療所のある階までたどりつき、とびらをこじ開けようとしていた。アミとテリには大きな身長差があったけれど、アミはそのままスーッと浮かびあがって、ちょうど男の顔の高さでとまった。
「おおっ!“ベドロ”、あの子はとぶこともできるのかね!?」
「そうだよ、クラト。ほかにももっといろいろできるんだ。すごいんだよ」
アミはじっとテリを見つめながら、小さな器具をえりくびのところにつけ、耳もとでなにかをつぶやいた。ぼくはすぐに、さいしょにアミと出会ったとき、アミがふたりの警官に催眠術をかけたのを思いだした。そして、たぶんあのときとおなじように、このテリの記憶を消しているんだなと思った。だけど、あのときとはちがって、こんどは器具を使っていたから、ほんとうにはなにをしているのかわからなかった。
とびらはかろうじてまだ破られないでいたけれど、それももうほとんど時間の問題だった。
アミはゆっくりと着地すると、彼よりはるかに身長のあるビンカを、両手でかるがるとだきあげた。―――これもまた、あらためて思いだしてみればおどろきだ!!!そして、そのままみどり色の光のトンネルの中をもどりはじめた。
円盤にもどると、アミはじゅうたんの上にそっとビンカを下ろした。ぼくはすぐさま彼女にかけより、アミはそうじゅう席にもどった。
光のトンネルが消えて、円盤の入口が閉まると同時に、診察室のとびらが破られ、黒い服を着た数人のテリが部屋の中になだれこんだ。そしてまた同時に、精神科医もからだの自由を取りもどして、すぐ目の前にきていたPPに、いきなりしがみついた……。
「これからこのかわいそうな男は、自分の投げた“ブーメラン”を受け取ることになる」
アミの口調には、あわれみがこもっていた。
PPであるテリの、正確で強力なパンチを雨のように浴びて、医者は床にたおれた……。
それから少しして、手錠をかけられた精神科医が、両側をPPにはさまれて連行されていった。なにが起こったのか、まるでわからないにちがいなかったんだ。彼はしきりと“説明しろ!”とわめいていた。ゴロとクローカも連行された。ふたりもおなじように声をからしてさけびつづけていたけれど、それは悲痛なものだった。“ビンカを返せ!”“ビンカを返して!”
PPの何人かが診療所にのこり、へやじゅうをひっかきまわし、目につくものすべてを証拠として押収していった。ときどき、円盤が浮かんでいたという目撃現場のまどの外を見たりしていたけど、ざんねんながら、ぼくたちを見ることはできなかった。もちろん、円盤が視覚不可能な状態になっていたからだ。
「あの精神科医のせいで、なにもかもが、しちめんどうなことになってしまったわい」
とクラトがなげくと、
「いや、もともとはゴロがいけない」
アミがきっぱりと言った。
「ゴロにしろあの医者にしろ、彼らがああした行動に出ることはわかりきっていたことなんだ。テリっていうのはそういうものだからね。だからこそ、コンピューターにははっきりと、不ー可ー能と出ていたんだよ。どうしたって手ごわい」
ぼくはといえば、ビンカがちゃんと目をさますかと、ひたすらやきもきしていた。さいわい彼女は、少しずつ意識を取りもどしていたけれど。
「ゴロとクローカがPPに対してどう証言するか。これからは、すべてそれしだいだ」
そうじゅう棹をにぎりながらアミが言った。円盤はものすごいスピードで上昇をはじめた。
「精神科医の証言も重要じゃないかね」
とクラトが言うと、アミはそうじゅう棹をにぎったまま、
「いや、彼はもうなにもしゃべらない。だってもう、彼は、ビンカやわれわれにかんすることはもちろん、友人のゴロのことや、自分じしんについてまで、ありとあらゆる記憶を永遠に失ってしまったんだ。ぼくが彼に、ちょっとしたことをしたせいでね。あの小さな器具はそのためのものだよ」
「おお!そうだったのかね!ホッホッホッ!」
ビンカはもうすっかり回復して、元気になっていた。頭に小さなコブができていたけど、それだけだった。ビンカが意識を失っていたあいだに起こったことを説明すると、ビンカはしんけんなまなざしになって言った。
「アミ、わたしのおじさんとおばさんをたすけて!」
「みんなで全力をつくしてがんばろう、ビンカ。そのために、これからたすけを求めにいくところなんだよ」
「どこへ行くの?アミ」
「とても、特別なところだよ」
【感想】
精神科医のテリが言うことはまさにアタマで考えて生きている人の状態だと思いました。わからないことが多いから、情報を集めて、議論して、慎重に判断することが大切だ、ということはもっともです。キア人なのに地球に行きたいなんてわがままだ、そんな勝手なことばかり言って!という見方もあると思います。それが価値観の違いです。わたしたちは様々な価値観の違いの中で生きています。価値観の違いが受け入れ合える心の距離感の人もいれば、そうでない人もいます。だからこそ、その都度、話し合うことが必要ですし、少しずつ歩み寄ることが相互理解につながると信じています。
アミが言うところによると「テリは感情が眠ったまま麻痺している。衝動に対してコントロールがきかない」のだそうです。衝動に対してコントロールが効かないときには、人を殺してしまうほどの怒りが湧くのでしょう。テリからスワマになるためには、その眠った感情を起こしていくことなのだと理解しました。きっと、クラトはこれをやったのですね!
今回はアミの様々なチカラを見せてもらえた回でした。ファンタジ―ではあるけど、あったらいいな、便利だな、というところから人の発想って広がっていくものだと思います。どこでも行かれたり、宙に浮いたり、記憶を無くさせたり、、、そういえばドラえもんの道具にありますね!



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