【朗読】48)『アミ3度めの約束』第4章 宇宙のおばあちゃん ②
- 学 心響
- 2025年12月14日
- 読了時間: 17分
エンリケ・バリオス著の『アミ3度めの約束』の朗読と個人的な感想です。
【文字起こし】
(漢字表記も含め全て原文のままです)
第4章 宇宙のおばあちゃん ②
円盤にもどるとサッカーの試合は終わっていて、クラトは別の番組を見ていた。ぼくたちに気づくと、ひどくこうふんしたようすでこちらに近づいてきた。
「勝ったよ。ホッホッホッ!白いほうが……」
そう言ってクラトは、試合の経過をじつにこまかく報告した。
ぼくはあんまりびっくりして、ぽかんと口をあけたまま、クラトの話を聞いていた。クラトってなんてすごいんだ。サッカーのルールがもうみんなわかっている!ぼくがやっと理解できた“オフサイドの位置”のようなふくざつなルールまで、彼はたったひと試合見ただけで理解してしまった……。
「ほんとうに好きなものに対しては、脳はとってもよくはたらく。だってすべての注意をそこに集中させられるからね。注意力というのはとても大きな力なんだよ、ペドゥリート。それに、この老人はけっしてバカじゃないからね……彼の注意力を、ほかのもっと重要なことに使わないのがざんねんでならないよ……」
「サッカーはすばらしいスポーツだ、アミ!キアにも似たようなものはあるが、これとはくらべものにならん」
「ぼくも好きだよ。でもきたないプレーがあると、とたんに見る気がうせちゃうんだ。乱暴なことは好きになれない」
とぼくが言うと、クラトが、
「サッカーは男らしくて、力づよくて、しかもちっとも乱暴じゃないよ、“べドゥリート”。さっき見たあのスポーツにくらべたらな。ほら、あれだよ。赤い布をもった男が、それをヒラヒラさせて巨大な動物をおこらせるやつがあるだろう。大きな角をつき立ててやろうと、ものすごい勢いで走ってくる動物を、すんでのところでかわさなきゃならん。ホッホッホッ!たしかに、度胸じまんでないとつとまらないけどな……でも、あれは動物がかわいそうだ。さんざんいたぶられたあげく、さいごにはへいぜんと殺される……ざんこくすぎやしないかね」
「そのとおりだよ、クラト。あの動物は背中にバンデリーリャ(訳注:かざりのついたもり)を打ちこまれて、少しずつ弱っていく。そして動きまわっているうちに傷口はどんどん大きくなり、その痛みでますます狂暴になる。想像してごらん。長いナイフが何本もきみの背中につきささって、きみが走ってもがけばもがくほど、ナイフも動いて、傷が大きく深くなっていくとしたら……」
アミの言葉に、さいしょに闘牛がざんこくだと言いだしたクラトまで、ひどいショックを受けていた。
「考えただけでわしはもうたまらんよ、アミ。ああ、まだほかにも野蛮なスポーツがあった……」
「どんなの?」
「男がふたりで、床に倒れて半分死んだようになるまで、なぐり合いをつづけるやつだよ……」
「ああ……ボクシングのことだ。ほんとうに死んでしまった人や頭にひどいケガをしてしまったひとも少なくないんだ……」
ちょっとだけいたたまれないような気がして、ぼくは小さな声で言った。
「こういうのはよくないスポーツの例なんだ」
とアミが話しはじめた。
「こういったスポーツを見ているうちに心の中に生まれたこうふんとか、闘争心とかは、それじたいとっても乱暴なものなんだ。これが低い振動に変わって、ほかのひとたちにも伝わってしまう。伝わるだけじゃない。振動は、“磁気”をおびているから、この振動がとどいたひとたちの心の中にも、おなじような乱暴な感情をひき起こしてしまったりもするんだ。世界が悪くなるきっかけは、こんなところにもあるんだよ。はじまりはやっぱり、一人ひとりの心の中なんだってこと、わかるよね?」
クラトが口をはさんだ。
「だから、わしはサッカーが好きなんだ。これこそスポーツだ!」
ぼくはさっき白チームの選手が、相手チームのひとりをけとばしたのを思いだして言った。
「でも、ときどきかなりきたないことをするよ……」
「きたないのは青のほうだ!」
クラトは自分のひいきじゃないほうのチームのせいにした。
「もうちょっと意味のあることを考えられないものかなあ……」
アミはうんざりしたように言った。
「ところで“ベドゥリート”、いまもってきたそのつつみはなんなのかね?」
「ああ、ケーキだよ」
「ちょっと食べてみよう。どれどれ、ウム……ムシャムシャ……ウッ!これはあまいぞ。きみたちの食べるものはみなあまくなくっちゃいけないのかい?」
ちょっとだけクラトをこまらせてやりたくなって、ぼくは言った。
「みんなじゃないよ。おいしいものだけね……」
「このケーキはペドゥリートのおばあちゃんが、ぼくたちのためにつくってくれたんだよ、クラト」
「……ああ、そうか……それじゃおいしいよ、なんておいしいんだ、ムシャムシャ……そういえば“ベドゥリート”、わしからのあいさつ、ちゃんと伝えてくれたかね?」
「エッ!ああ、うん」
「それで、なんて言っていた?」
「エ……と、ありがとうって……そうそう、アミ、ゴロおじさんのこと、なんとかなるかなあ、心配だよね」
「ペドゥリート、きみはもうひとつ正直じゃないね。真実をかくすのはうそをつくのとおなじことなんだよ」
「ちがうよ。ぼくはただ、ゴロおじさんの頭が、もう少しやわらかくなってくれればと思っているんだ……」
「きみは話題を変えるのがうまいね、だれかさんとおなじように……」
「わかった、わかったよ。ぼくのおばあちゃんが、ありがとうって言ってたよ、クラト」
「それはもうさっき聞いたよ、“ベドゥリート”。ほかにはなにか言ってたかい?」
「ああ……それから、クラトにもよろしくって……あ、ビンカにとても会ってみたいって……」
「それだけかね?“ベドゥリート”」
「それだけだよ……ここ、ちょっとあついね……」
「ぺドゥリ――――ト」
アミの声音は、少しだけぼくを責めていた。
「ああ、それからアミに信号をちゃんと守れって……アミ、それだけだよ、おばあちゃんが言ってたのは。だからもう、ビンカの話をしてもいいよね?」
アミは笑いだした。
「この未開人ときたら……すべて正直に、ほんとうのことを言うのが、どうしてこうもむずかしいんだ……」
「もう言ったよ。アミ、ぼくはもうちゃんと言ったってば」
ぼくはだんだんいらいらしてきた。
「だいたいはね。でもまだなにか言い足りないことがあるんじゃないかい?ペドゥリート」
「おばあちゃんの言ったことは、もうみんな言ったよ。お願いだからいいかげんにして、アミ」
「羊皮紙の作者に対して大きな尊敬と称賛をささげていたことを言い忘れているよ。それから、クラトがよろしくって言ってたって伝えたら、おばあちゃんがとっても感動してたってことも、かくしてる。それに、おばあちゃんがクラトを招待したことも、クラトがきたときのために、クラトが好きそうな飲みものを用意しておくつもりだってことも、きみは言ってない」
「そんなに?……なんとすばらしいばあさんなんだ……どうしてかくしたりしたんだね、“べドゥリート”?」
「なにもかくしてなんかいない。ぼくの頭はコンピューターじゃないんだ。こまかいところまでいちいちおぼえてなんかいられない。これ以上ぼくを問いつめるのは、ほんとにもういいかげんにしてよ」
クラトはこまったふうに言った。
「この子はいったいどうしたっていうんだ?アミ」
「しっとだよ、クラト。この子はセンチメンタルな面では少し独占欲がつよくて、利己主義なんだよ……」
「あーあ……なるほど……」
「エッ!?……しっと?ぼくが?……おばあちゃんのことで?ハッハッハッハッ。ぼくの頭の中はビンカのことでいっぱいだっていうのに……」
「うん、でもね、ペドゥリート、きみは気づかないうちに、おばあちゃんのことでもやいているんだよ。ビンカは恋人として、おばあちゃんはおばあちゃんとして、それぞれのことでやきもちをやいているんだ」
とアミが言った。
「……そう、そのとおりかもしれない。だとしたって、それのどこがそんなに悪いっていうの?」
「きみひとりだけのおばあちゃんにしたがってるところがだよ、ペドゥリート。そうして、あのすばらしいおばあちゃんを、ほかのだれとも共有しようとしない。それは、おばあちゃんじしんの可能性を封じこめていることにもなるんだよ。つまり、おばあちゃんじしんの幸せなんか、どうでもいいんだ。自分の幸せしか考えてないってことじゃないかい?」
ぼくはまた、自分でも気づかなかった欠点をアミに指摘されてしまった。この前の旅のときもそうだった。ただ、あのときは、ひたすらショックで、思わずガックリとすわりこんでしまったほどだったけど、こんどはちがっていた。こんどははっきりと、アミの言ったことが正しいとわかった。アミは、ぼくを傷つけたくてこんなことを言っているわけじゃない。ぼくのことをぼく以上に知っている、ほんとうの友だちだからこそ、ぼくの欠点を教えてくれているんだ……。
ぼくは目を閉じた。はずかしさでほおがあつくなっているのがわかった。立ち直るまでしばらくのあいだ、だまっていようと決めた。
「おお!!もうキアに着いたよ、アミ」
「うん、でもなにかへんだよ、クラト」
「どうかしたのかい?」
「ビンカが中庭にいない……なんだかおかしいよ、これは」
「家の中を見てみよう!アミ」
ぼくはびっくりしてさけんだ!
「家の中にもだれもいない!」
「どうしよう?アミ、どこをさがしたらいいの?」
ぼくはひどく胸さわぎがしていた。
「だいじょうぶ。いま、彼女のコードをコンピューターに入れてみるから……ほら、いたよ」
ビンカのすがたがあらわれた。ストレッチャーの上に、目を閉じてよこたわっていた。
白衣を着たテリが彼女のそばにすわって、なにか話しかけていた。
「きみの書いたものは、すべて空想にすぎない」
“わたしの書いたものは、すべて空想にすぎない”
まるで彼女はロボットのように、言われたことをくりかえしていた。
「催眠術をかけているんだ!……ビンカに催眠術をかけている!」
アミもすっかり取り乱している。
「まずいぞ、PP(政治警察・ポリシア・ポリティカ)のところへつれていかれたんだ!」
クラトの言葉に、ぼくは天地がひっくりかえったような気がした。
「いや、PPじゃない。あれは精神科の医者だ。催眠術をかけて、ビンカにすべてを忘れさせようとしているんだ!」
「はやくビンカをつれださなきゃ!」
ぼくはほとんど絶望しそうになりながらさけんだ。
「アミ、あのテリに殺人光線を発射したらいい」
クラトの声も、いつになくきびしい。
「みんな、落ちつこう。ぼくの頭を彼女の頭と接続してみる。いままでより高いレベルでだ」
「アミ、おねがい、はやくはやく!!」
ぼくはもう、不安でパンクしそうだった……ビンカが!ビンカが!!
アミは立ちあがって、円盤のうしろのほうのへやにむかって歩いていった。
「ぼくはこれから、瞑想するためのへやに入るよ。そうじゅう室は、きみたちだけになってしまうけど、ほんの数分だけだから、落ちついてたのむよ。あとでぼくに報告できるように、モニターから目をはなさないようにね」
「あの中になにか電子装置でもあるのかい?」
クラトがぼくにたずねた。
「ううん、そうじゃなくて、意識を集中してなにかをするんだよ。あっ!なにか言っているよ」
「きみの書いたものは、すべて空想にすぎない」
“わたしの書いたものは、すべて空想にすぎない”
「ペドロってだれだい?ビンカ」
“ペドロはわたしの双子の魂です……”
「いいぞビンカ!そうだ!」
ぼくはちっちゃくさけんだ。
「そうじゃない。彼は実在していないんだ。ペドロは主人公ロナの双子の魂だ。でもきみはビンカであってロナじゃない」
“わたしはビンカで、ロナではない……”
「そうだよ。じゃペドロってだれ?」
“彼はロナの双子の魂です”
「そう、そうだ。もうわかったろうけど、アミは架空の人物なんだよ」
「なに言いやがる、そういうおまえこそ消えちまえ!」
とクラトはもうカンカンだ。
“アミは架空の人物だということがわかりました”
「そう、よくできた。アミはだれですか?」
“アミは架空の人物です"
「そう、そう、だからすべてきみの書いたことは空想だっていうこと、わかったね」
“はい、わたしの書いたことは、すべて空想だということがわかりました”
「じゃ、キアの外の世界へ行ったというのはすべて空想したことだから、これからすべて忘れる。わかったね」
“はい、わかりました”
「クラト、ぼくのことすべて忘れるって!彼女の記憶からぼくがいなくなる!……」
あまりのことに、ぼくはがくぜんとした。
「だいじょうぶ。忘れたりなんかしないよ、ペドゥリート」
接続はうまくいったらしい。アミがそうじゅう室にもどってきた。
「ビンカの頭脳と、うまくコミュニケーションが取れたよ。これでもうビンカには、精神科医の暗示はきかない。これから彼女は催眠術にかかっているふりをつづけるけど、じっさいにはちゃんとした意識をもっているから、なにひとつ忘れたりなんかしないよ」
「ほんとうにうまくいくの?」
「安心して。たったいま、ビンカがテレパシーで言ってきたけど、これはゴロが彼女をわれわれからひきはなす目的でたくらんだことだそうだよ。あの医者とは家族ぐるみでつきあっているから、とうぜんビンカの本のことも知っている。そこでゴロが、ビンカはいま、精神的に混乱状態にあって、自分の書いたことをじっさいに体験したことだと思いこんでいるから、目をさまして、“現実にもどしてほしい”とたのんだんだよ。そうとわかれば……よし、これから医者をちょっとおどろかせてやろう」
そう言うと、アミは計器盤のキーをそうさした。
「いいぞ。許可がおりた。医者に円盤を見せてやろう」
ぼくたちの円盤は、すぐさま自動的に移動して、十階のまどの外に停止した。まどガラスのむこうには、医者とビンカのすがたが見える。
「空とぶ円盤は実在しない」
テリの医者が言うと、
“空とぶ円盤は実在しない”
ビンカがおなじ言葉をくりかえしていた。
アミは円盤を視覚可能な状態に変えて、まどのむこうに強烈な光を当てた。おどろいた医者がこちらをふりかえった瞬間、ぼくたち三人は、アミの指示どおりそろってニッコリと笑い、数メートルの至近距離から医者にあいさつした……。
「円盤なんか存在しな……い、いや、存在する……存在する……存在する」
精神科医は、うわごとのようになにやらブツブツ言いながら、ぼくたちをじーっと見ていた。彼が見たものは――空とぶ円盤、その中から笑いかけてくる、陽気なスワマがひとり、宇宙人(!)がふたり。
まどの下には通行人が集まりはじめ、口々になにごとかわめきながら、しきりと上空を指さしている。アミは、いったん人々の目から円盤をかくし、すぐにまた見せ、そしてつぎには視覚不可能な状態にもどした。テリの医者は、あわてて催眠をといて(ほんとはかかっていないんだけど)、かみつきそうないきおいでビンカにたずねた。
「アミって、いったいなにものだ?」
小さな宇宙人はマイクを取って、かすかな声で彼女の耳もとにささやいた。
“ビンカ、アミは、あなたがいま、まどの外に見たあの白い子どもだって言いなさい”
「アミは、あなたがいま、まどの外に見たあの白い子どもです」
「それじゃ、つまり、すべてほんとうのことだったのか!」
「そうです、先生。真実の前では、催眠術はまったく用をなさないんです」
アミはふたたびマイクを取り、ビンカにすべてを正直に話すように言った。
ビンカは順を追って医者にすべてを話した。
話が進むうちに、医者の表情はみるみる興味深げになり、ぜんぶを聞き終えたときには、彼はひとつの結論に達していた。
「ということは、つまりゴロはわたしにうそをついていたということだ……。わかった。きみに協力してあげるよ、ビンカ。あの円盤の中にきみの希望と愛情があるんだからね。それがわれわれの健康な生活にとっても必要だということは、科学でも証明されているから」
「愛よ」
とはっきりビンカは言った。
「だって、愛が神なんだから」
「ウム……愛とか……神とかいうことはだね……」
医者は口にするのもけがらわしいといったふうだ。
「愛と神は同意語よ。だって愛と神はおなじものなんだから。わたしたちにいちばん必要なものが愛なの、つまり神なのよ」
「科学の世界ではそういう言葉は使わないんだよ、ビンカ。われわれ科学者の耳には、けっしてよくはひびかない。うかつに口走ろうものなら、医者としての信用を失うことになるからね。愛情っていうほうがそういう……ウム……そう、女々しいセンチメンタルな表現にはいいんだよ」
「愛が女々しいセンチメンタルな言葉!?神のことよ!……」
「やれやれ!じゃビンカ、ひとつ質問するけどね、人間は神かね?」
「もちろんちがうわ。どうしてそんなわかりきったことを聞くの?」
「空腹や愛というのは、たんに生命を維持していくうえで必要なものなんだよ。われわれが空腹を感じるのは餓死しないためだし、愛を感じるのは親がわが子を守るためだし、種の保存のためだ。ただそれだけのことなんだよ。空腹や愛だけじゃない。われわれの中にそなわった憎しみの感情とか攻撃性だって、われわれが生物として生きぬいていくための、たいせつな道具なんだ。
ビンカ、愛が神だという、バカげたきみの言葉にしたがえば、空腹だって、憎しみだって、攻撃性だって神ってことになってしまうよ。わかるかい?はっきりと確認できるだけの根拠のないものを、みとめるわけにはいかない」
アミは少し悲しそうに見えた。
「これまでずっと、愛を知らずにきたひとには、愛っていうのはふわふわとした、とらえどころのないものでしかない。そうでなければ、執着のような、ごくふううの本能的な感情と大差がない。だからこそ、この医者にとっては空腹も憎悪も愛もみなおなじなんだ」
ビンカは、目の前のテリが、自分とはまったくあいいれない考えのもち主だって、気づいたようだ。でも、ひるまずこう問いかけた。
「じゃ、あなたがたは、神についてどういう表現をするのですか?」
「われわれはそういうことは話さないんだよ、ビンカ。まったく科学的な厳密さに欠けるからね。そういうことは、迷信深いひととか、無知なひとたちの話すことだとわたしは考えている……」
ビンカもぼくも、その言葉にびっくりしてしまった。
「じゃ、科学者にとって、神について話すのははずかしいことなの!?」
「とうぜんだよ。きちっと実証されていることじゃないからね」
「わたしにとっては、神の存在はかんぺきに実証されていることよ」
とビンカが言うと、ドクターはゆかいそうに笑って、
「そうかね。じゃ、そのきみにとっての証拠とやらを教えてもらおうじゃないか、ビンカ?」
「わたしよ」
ビンカは、医者の目をじっと見つめて、力づよく答えた。
「エッ!!なにが言いたいんだね?」
「神はちゃんといるわ。だって、わたしがその証拠よ……」
ビンカがあまりに堂々としているので、医者はあきらかに混乱しているようすだ。
「先生、そこにかかっている絵、見えるでしょう?」
とビンカはかべにかかっているくだものの静物画を指さした。
「ああ、見えるよ。で、それがどうした?」
「この絵があるっていうことは、この絵を描いた画家がいるってことの証拠じゃなくて?」
「そうかもしれない……それで?」
「この手も、このつめも、この声も、わたしじしんがつくったものじゃない。つまり、わたしをつくったすぐれた知性が存在するということよ。これだけじゃまだ、科学者たちにとってはじゅうぶんな証拠にはならないの?星や銀河系や海の色や花の香りだけじゃ、じゅうぶんじゃないの?その存在について研究できるだけの能力をあたえてもらっておきながら、科学者たちはどうしてすぐれた知性の存在をうたがうことができるの?」
ビンカがこの医者にむかって話をしているようすは、まるで教師が生徒に授業をしているみたいだった。ぼくはビンカのことをとてもほこりに感じた。でも……テリには、ビンカの言葉がまったく心にひびかないみたいだ。顔をゆがめてあざけるような笑いを浮かべていた。
【感想】
アミがペドゥリートの嫉妬を指摘したときに、「嫉妬は相手の可能性を封じ込めることにもなる」と言っていました。なるほど、新しいな、と思いました。同時にアミはいつも「愛」から物事を観ているな、と改めて感じさせてもらいました。ペドゥリートはおばあちゃんの可能性を封じ込めることをしたかったわけではない、おばあちゃんに幸せになってもらいたいし、おばあちゃんの可能性を拡げることがペドゥリートの「ほんとうの気持ち」なのだと思います。アミはいつも優しく「ほんとうの気持ち」に気づかせようとしてくれます。ペドゥリートは前回は座りこむほどがっかりしたけど、今回はすぐにアミの優しさに気づけました。それでも「はずかしさでほおがあつくなっているのがわかった」と言って、しばらくだまっていようと決めたのですから、ペドゥリートも偉いです!!
また、ビンカが精神科医のところに連れていかれて、催眠術をかけられたシーンにはショックを受けました。ゴロにとってはこれがビンカへの愛のカタチなのです。想いの形がこんなにも違うのか、と衝撃的でした。愛から見ているか、怖れから見ているか、どちらにより近い場所から見ているか、ということの違いなのだと思いました。
精神科医のテリはビンカが「愛」の話をしようとすると、科学者は科学的な厳密さに欠ける話はしない、と遮りました。実際に目の前に自分が円盤を見て、それだけは信じるけど、他は信じない、ということなのです。神も実証されていないから、という理由で、迷信か無知かのどちらかになってしまうとのこと。実証されていないものを「採用」するかどうかは個々人の自由として、その自由が保証されている中で生きていくには、「共通言語」がないと話が通じ合わないものです。そこの難しさに取り組みながら、挑戦して、調和の世界を目指したいものです。



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