【朗読】46)『アミ3度めの約束』第3章 新しい人生 ③
- 学 心響
- 4 日前
- 読了時間: 14分
エンリケ・バリオス著の『アミ3度めの約束』の朗読と個人的な感想です。
【文字起こし】
(漢字表記も含め全て原文のままです)
第3章 新しい人生 ③
アミはマイクで話しはじめた。
“宇宙に存在する生命はみな、キア人とおなじように野蛮でなければならない……とうぜんのことながら、自分たち以上の文明世界や、自分たち以上に進化した人間は存在するはずはない。キア星が何千万、何百万とある星や銀河系の中でいちばんすぐれていて、キア人こそが全宇宙生命の中で最高に進化したものなんだ。そうだろうゴロ?……”
ビンカもクラトもぼくも、笑ってしまった。アミの皮肉を聞いて、ゴロはやや動揺しているふうだった。
「わしの知ったことか。わしはまともに顔を出せないようなヤツと話すことなどない……それも、顔があったらの話だが……少し考えねば……頭も痛いし、もうベッドへ行こう」
「でも、おじさん、まだ日も暮れてないわ」
「じゃ、おまえたちはここにいたらいい。わしはベッドへ行って、おまえの本を読んでみる。少し情報が必要だからな」
「おじさん、まだ読んでなかったの?」
「わしはまじめな本しか読まん。子どもだましの……ウオフォン!(と大きなせきばらい)、じゃ、お休み。ああ、ビンカ。それからおまえの“友だち”にくれぐれも言っておきなさい。個人のプライバシーは尊重するように、かくしカメラでのぞき見なんかするもんじゃないってな」
ビンカは笑いだし、こちらをふりあおいで言った。
「ねえ、聞いた?」
アミはまた、マイクを取って、
“おやすみ。さいごに言っておきたいんだけど、あなたが考えているほど、すべてがそんなにおそろしいわけじゃない。もう少し、われわれの言うことも受け入れるように。それから、このことはけっしてだれにも話してはいけない。そうしないと問題がひどくこじれるからね、わかった?”
「わかったよ」
とゴロはいやいやながら言うと、大きな音をたてて、自分の寝室のドアを閉めた。
アミはスクリーンを消した。
「考えていたよりも、ずっとうまくいった。いちどにかなりのところまで進んだよ。でも、まだよろこぶのは早い。テリの頭は世界の暴君の影響を受けているから……」
「それ、なんのことなんだ?アミ」
アミは、ぼくたちにしたのとおなじように、クラトに暴君のことを説明し、スクリーンで、それを見せた。
「(プルップルプルプル)……あ、ありがとう、アミ。もうけっこうだよ。こんどはよいほうを見てみようじゃないか」
金の剣をもった若い男があらわれた。でも、こんどはスワマのような、ピンクのかみの毛とむらさき色の目、先っぽがとがった耳をしていた……。
「その世界に住んでいるひとたちがもっているイメージによって、モデルは変化するんだよ」
とアミが説明してくれた。
ぼくは、テリもこの神の代理人の影響を受けるのかたずねた。
「うん、そうなんだよ、ペドゥリート。この影響を受けるにつれて、少しずつ、テリでなくなってくる。やがてすべてのテリがテリでなくなってくる。いつだって愛が勝利を手にするって決まっているんだよ。どうしてだか知っている?」
「ううん、わからない」
「だって愛は神だからね」
とアミは答えると、それを受けて、クラトがまじめな面もちで言った。
「そのとおりだよ、アミ。わしはそれを知っているよ。自分で体験したからね。わしがあの羊皮紙を書いたのは、ちょうどテリからスワマに変わりだしたときだった。そしてわしはテリでなくなった」
「テリでいながら、その啓発的な体験をしたの?」
アミがたずねると、クラトは力づよくうなずいて言った。
「ゴロのようなテリのときにね」
「これでわかったろう?神は自分の迷い出た小羊を軽くあつかったりしないんだ(訳注:マタイによる福音書18章12ー14節、ルカによる福音書15章4-7節)」
とアミが言うと、
「自分のなにを?」
とクラト。
「自分の迷ったトゥコだよ」
「ああ、わしもだよ、アミ」
「だれもかろんじたりしないのかい?クラト」
「どんなトゥコでもね。わしの山で迷っているのがいれば、すぐにつかまえて、ウムウム……辛いソースにつけて……ホッホッホ!ところで、はらがすいたのう。家に帰ろう」
アミは笑いながらそうじゅう棹を動かした。
「ぼくはきみを地球につれていってあげようと思ったんだけど。ほんとうにむこうに住みたいのかどうか、その目で確かめたほうがいいよ、クラト」
「おお、それはすばらしい!!じゃはやく、このおんぼろマシーンで直行しよう。でも……はやく出発しないと……ここにあれがないかぎり……きみたちはあれを使うのかどうかわしにはわからんが……」
「あれって?」
とぼくは聞いた。
「トイレだよ」
アミが老人の考えていることをキャッチして、笑いながら言った。
その大問題については、ぼくもおおいに興味がある。
「ぼくもいっぺん聞いてみたかったんだけどさ、アミ……きみもトイレを使うの?」
「ぼくがどっかそのへんの、木のそばででもするとは思っていないだろうね」
とアミはなんだかゆかいそうだ。
「ということは、つまり、きみも……」
「いったいぼくをなんだと思っているんだい。ぼくはまだ、ずっと高い水準の存在みたいに、ただ愛の、太陽の、酸素のエネルギーだけを摂取して生きることはできない。クラト、そのうしろのほうにトイレがある。左から二番めのとびらだよ」
「ほいじゃ、行ってきまーす」
と老人はトイレにむかって走っていったが、すぐもどってきてしまった。
「あれ、トイレなんかじゃないじゃないか。なにもない、ただのがらんどうだ……」
「そのとおりだよ。説明するの忘れてた。ただ中に入ってとびらを閉めればいいんだ」
「わしはたしかに山男だが、それにしたってそんなきたないことはできないよ。あそこに水たまりをつくることなんか……排水口すらないじゃないか!……」
それを聞いてアミはもうこれ以上笑えないくらいの大笑いをして言った。
「ハッハッハッ、そうじゃないよ、クラト。中に入ったらなにもしなくていいんだ……」
「でも、わしはしたいんだよ……なにもしないんだったら、どうして中に入る必要があるんだ。なにもしないために?」
アミはなんとか笑いをこらえて、
「まず、あのへやへ入って、とびらを閉める。なにもしないでいいんだ。そのあと、ここにもどってくればいい。そうすれば、もうしたくなくなっているよ」
「ああ……、つまり、そのへやはしたいのがおさまるところなんだ……でも、いつかはしなくっちゃならないだろう……ちっともわからない。ああ、もうがまんできない、とにかくいってくるよ」
すぐにうしろのへやから彼の声が聞こえてきた。
「アー……ッ、すっきりした……これはすごい!」
「アミ、これ、どういうこと?」
ぼくがたずねると、アミはすずしい顔で、
「いや別に。あの中に入ると何種類かの光線がはたらいて、きみのからだからでてくる老廃物を非物質化するんだよ。このトイレは前の円盤のよりも、ずっと進んだモデルなんだよ。
その光線っていうのが、この生きものにはこのウイルスはダメ、このウイルスならだいじょうぶっていうのを見分けることもできるんだ。それに合わせて殺菌したり、ウイルスの動きをおさえたりする。だから、よその惑星へ行くひとが、自分のもっているウイルスでその惑星をよごさないように、あのへやを使ったりするんだよ」
ぼくが、“前の旅”で、進んだ惑星へ行ったときには、円盤から出ることができなくて、まどやスクリーンをとおして外のようすを見るだけだった。だってぼくのウイルスが環境に悪い影響をあたえるかもしれないから。
「ということは、つまりこの円盤に乗れば、ぼくも、進んだ世界に直接おりられるってこと?」
「そのとおりだよ。あのへやのおかげでね。でも、まあむしろ、ふだんはトイレとして使うことが多いんだけどね。いまクラトが使っているみたいにして……」
「トイレットペーパーは使わないんだよね?ほんとにそれでへいきなの」
「ウップ!……使わないよ、あんなもの。われわれにしたら、あれはまったく先史時代のしろものだからね、さいわいなことに……」
「じゃ、おふろに入るときは?」
「おなじだよ。からだやかみや着ているものについたよごれも、非物質化してしまうから」
「服を着たまま、おふろに入るってこと!」
「もちろん」
「じゃ、きみたちは、けっして服を脱がないってこと?……」
アミは笑って、
「やれやれ、まただよ。どうしてきみは、ものごとをそうきょくたんに考えてしまうんだろうね?……たとえよごれてなくたって、ときどきは新しい服にかえるし、日光浴をするのも、はだしになって草の上を歩くのも、服を脱いで泳ぐのも気持ちがいいし……」
彼らもはだかになって愛し合うのかどうか、ぼくが知りたがっているのをキャッチして、すかさずアミが言った。
「うん、そのとおりだよ、ペドゥリート」
「エッチ!」
とぼくはおこったふりをして、アミのほっぺたを軽くつねった。アミは笑いながら説明してくれた。
「われわれにとって、“性”はとても尊いものなんだ。性については小さなころからきちんと教えられているから、そこにみょうな興味だとか、意味のない嫌悪感だとかをおぼえたりすることはないんだ。性には神聖な力がある。新しい生命を生みだすのはもちろんだけど、愛し合うふたりの人間がわかり合い、より深く結びついて、高め合っていくのをたすけるんだ。つまり、愛するひとへの最高のプレゼントになるんだよ。だからわれわれはけっして、性をちゃかしたり、バカにしたり、憎んだりはしない」
クラトがもどってきた。
「あ~、まるで生まれ変わったようだ!あそこはいったいなんのへやなんだ、アミ?トイレに行ったはずが、ふろに入ってせんたくしてきたみたいな気分だよ。服は洗ったばかりのにおいがするし、かみの毛はきちんととかしつけたようになっているし……あれは魔法だよ!アミ」
「たんに技術だよ、クラト。それだけのことだよ」
ぼくもその技術とやらを体験してみたくなった。
……うわ~、これはすごいや!!……クラトが言ったとおり、ほんとに魔法みたいだ!!……。
ぼくはすっかりこうふんして、そうじゅう室にもどるとアミにさけんだ。
「もしこんなものが家にあったら、もっとおふろに入るよ。時間もかからなければ、さむかったりあつかったりもしない。それにシャンプーが目に入ることもない。せっけんで足をすべらすこともなければ、ふろ場をびしゃびしゃにすることもない。タオルを使う必要もない、……ああ、地球もはやくオフィルのようになーれ!」
「ぺドゥリート、でも、それは自分たちで手に入れなくっちゃならないんだよ。暗闇が生みだす毒素やよごれを根気よくあらい流して、あたかも愛という洋服を着るように、きみじしんにもきみのまわりのひとにも、愛がみなぎるようにならなくてはいけない。そうやって暴君の力が弱まっていって、ヤツの支配からだれもが自由になったとき、われわれは、はじめてすがたをあらわすことができるんだよ。なぜなら、そのときはじめてわれわれの開かれた、おしみない援助に、こたえられるようになるんだよ……さあ、地球に着いたよ」
「“ベドゥリート"の惑星、とても美しいよ」
「でも、ぼくたちは、それを破壊しているんだよ、クラト」
「キアではヤツらがおなじことをやっている」
とクラトが言った。
「“ヤツら”って?」
とアミがたずねると、
「もちろん、テリのことに決まってるじゃないか。わしは、そんなことはしとらん。わしはわしの山で、なにも悪いことなんかしていない」
「でも、よいこともなにもしてない。なにに対しても干渉しない。まるで、自分にはまったく関係ないみたいにね。もしだれひとりよいことをしなかったら、憎しみや無情の支配する時代は、何千年もつづいていくよ………」
「わしにはなにもできないよ、アミ。テリを殺しにいくことなんかできないし、教えることだったら、もうしたよ。羊皮紙を書いた。だから、いまは静かに生活する権利があるはずだよ、ホッホッホッ!……なにか、そのへんに食べものはないかね。胃ぶくろがからっぽだよ」
「まったく、この老人は、自分に都合が悪くなると、すぐ話題を変えるんだから。これがクラトのいつもの手なんだよ」
「いやいや、マジメなところ、ほんとうにおなかがペコペコなんだよ、アミ」
と、なおもとぼけた調子だ。
「じゃあ、ぼくもマジメなところを言うけど、奉仕する仕事はけっして投げだしちゃいけないんだ。いちどだけよいことをしたらあとはハイサヨウナラで、その利子で生きていくなんてね……ほんとうに神と調和したひとは、奉仕する仕事をやめられなくなるものなんだよ」
「どうして?」
とぼく。
「愛さずにはいられないからさ……だから文明世界では、だれも、“退職”しないし、“ストライキ”もやらない。社会に対する自分の仕事の手をぬこうとするひとなんか、ひとりもいないんだ」
「ほんとうに!?」
「ほんとうだよ。そして、これもほんとうのことだけど、銀河系当局は、一人ひとり、そのひとにいちばんむいてる仕事をたのむんだよ。そうするとやっぱり、やるほうのやる気もやりがいも、ぜんぜんちがってくるからね」
「そうなんだ……地球じゃそんなことあんまり考えてもらえないよ……だから、一人ひとりが、できる範囲でなんとかやっている……」
「そうやって、たくさんの適性や才能を失ってしまうんだ。地球には改善しなくてはならないことがたくさんある……ぼくにとっては、仕事がいちばんの楽しみなんだ。たしかに、ぼくは仕事をとおして、報酬を受けているよ。さっきも教えたブーメランの法則、つまり原因と結果の法則がはたらくからね。でもぼくは、仕事をしながらそんなことを期待したりしたことはないよ。仕事ができるってことだけで、もうじゅうぶんに満足なんだ。奉仕できるってことじたいが、楽しくってしかたがないんだから」
アミの言葉を聞いて、ぼくは少し考えこんでしまった。たしかにぼくは二冊の本を書いたけど……。
でもそればっかりじゃない。広場や温泉場のゲームセンターでたくさんの時間をつぶした。それにパソコンのゲームにもずいぶん熱中しちゃったし、インターネットでなにかおもしろいものはないかさがしまわったり、ずーっとテレビを見ていたり……。
ぼくの考えていたことをキャッチしたアミが、笑って言った。
「そんなこと、これっぽっちも言ってないよ!あんまり自分を責めたりしないでね。奉仕したいって気持ちは、じょじょに育っていくものなんだよ。ぼくもかつてはきみのようだった。だから、きっと、きみはいずれぼくみたいになるよ。安心して。なにごとも全体とのバランスをとりながら、少しずつ変わっていくものなんだから。もしまだ、奉仕への欲求が生まれていないならなにもすることはない。ひとに言われたり、自分で決めて義務的に奉仕しなければならないというものじゃないんだ。愛にかんすることは、すべて自由であって、けっして義務じゃない。もし、自由でないとしたら、それは愛には属していない」
「おなかがすいているときも愛はない。ホッホッホッ!」
クラトはほんとうに空腹だった。
「ぺドゥリート、クラトに“クルミ”をもってきてあげて」
さいしょの旅で食べた、あのとてもあまくておいしい宇宙食のことだ。
「これ、食べられるのかい?」
「もちろん。ひとつ食べてごらん」
「どれどれ……ウム……プーッ!まずい!あまい“トパ”みたいだ。ちっともからくない……この子の家へ行こう。そうすればきっと、おばあちゃんがわしのからっぽの胃ぶくろに同情してくれて……」
「じゃ、行こう。でも、円盤をおりることはできないよ、クラト。宇宙人を見たら、みんなびっくりするからね」
「宇宙人はきみたちのことだ。わしじゃない。ウッ!ここじゃ宇宙人はわしのほうか……じゃはやくこの子を家に帰して、すぐキアにもどろう。家でガラボロのピリッとからいソース煮が待っている……ガラボロが鳴いているのが聞こえるよ“早く帰ってきて、クラト。早くわたしを食べてー”ってね。ホッホッホッ!」
ぼくたちは温泉場に着いた。夜空には星がいっぱいかがやいていた。
「よかったらいっしょに行ってもかまわんかな、“ベドゥリート”?おばあちゃんを紹介してくれんかね?」
クラトがまたじょうだんを言う。
「とんでもない!おばあちゃんをからいソース煮にされちゃこまるからね」
「どうして?……やわらかい肉、しているのかい?ホッホッホッ!」
「ペドゥリート、明日の朝はやく、松林で待っているよ」
とアミは円盤をおりようとしているぼくに声をかけた。
円盤をおりるときに悲しくならなかったのは、あのときがはじめてのことだった。こんどは長い別れじゃなく、たったのひと晩ねたら、またみんなに会えるからだ。もちろん、ことはそうかんたんに運んではくれなかったけど(とんでもないことになってしまうんだ!)、そのときはさいわいにも、そんなこと知るすべもなかった。
アミはぼくを、いつもの岩場におろした。海岸の岩の上のハートのマークのそばにおりてから、空を見あげてみた。でも、そこにはキラキラとかがやく星以外は、なにも見えなかった。
【感想】
アミは「神と調和したひとは、奉仕する仕事をやめられなくなる」と言います。これは「エゴ」が減っていき、自分と他人との境界線がなくなっていく「ワンネス」を体現していくことと同義なのだと思います。これは完全にこの領域にいくのではなく、一歩一歩これに近づいて行くイメージです。アミが「いずれぼくみたいになるよ」と言っています。「愛に関することは全て自由であって、義務ではない」というところはとても大事なのではないかな、と思います。
また、アミの円盤にある「トイレ」は本当にうらやましい装置ですね!自分に必要ないものが「非物質化」できるなんて!!わたしもペドゥリートと同じように、すぐにでもほしい!と考えたけれど、それに対するアミの「自分たちで手に入れないとならない」という考えを聞いて、納得しました。便利な道具をただ手に入れることを望むのではなくて、自分たちに出来ることをしっかり取り組むことが大事なのだ、ということです。自分たちに出来ることというのは、「エゴ」に気づいて、少しずつでも調和の世界を目指すということだと思います。
キア星のテリの話として読んでいるけれど、全く持ってこれは地球の自分の「エゴ」の物語りだなぁと耳が痛いです。



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