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【朗読】45)『アミ3度めの約束』第3章 新しい人生 ②

エンリケ・バリオス著の『アミ3度めの約束』の朗読と個人的な感想です。





【文字起こし】

(漢字表記も含め全て原文のままです)


第3章 新しい人生 ②


 彼女は円盤をおりて、玄関にむかって歩いていった。

 ぼくたちは注意深くモニターに見入った。

 「ただいま、おじさん、おばさん」

 とへやに入って、ビンカはおじさんにほおずりのあいさつをした。

 「あんないやなやつにほおずりなんかして!」

 とぼくはさけんだ。

 「静かに。彼らの話を聞こう」

 そんなぼくをアミがたしなめた。

 「ねえ、クローカおばさん……宇宙人っていると思う?」

 アミはそれを聞いてちょっと不快そうな表情で言った。

 「まったくビンカったら、なんの前おきもなしにいきなりだ!……なんてせっかちな女の子だ!それにさいしょは、まずおばさんにだけと話せって言っておいたのに……なんて不注意な子なんだ!」

 「いないわよ、そんなの」

 と、モニターの中ではクローカが、少しおどおどしながら答え、新聞のむこう側にかくれて見えないゴロのほうを指さして、だまるように合図した。でも、ゴロはそれを聞いていた。

 「やれやれ、なんということだ!妄想にとりつかれている……この子は大きくなっても、ふつうのおとなになれないよ。わしらにはずかしい思いをさせてくれなければいいが……」

 「もし、わたしのこと、頭がおかしいと思っているなら、もうわたしここからずっと遠いところへ行って暮らしてもいい?」

 ゴロはびっくりして新聞をほうりだし、ビンカをじっと見すえて、ちょっとだけすごんでみせた。

 「いったい……なにが……言いたいんだい!?」

 かわいそうに、ビンカは青くなった。でも、すぐに戦法を変えて言った。

 「わたしは頭がおかしい女の子なんだし、一家のはじ。だから、わたしなんかいっそどこかへ行ってしまったほうがいいんだわ」

 といまにも泣きださんばかりだ(お芝居だってこと、ぼくたちにはわかったけど)。

 それを聞いてゴロは心を動かされたようだ。立ちあがって彼女のそばに行き、そっと頭をなでた。

 「ごめんね、ビンカちゃん、おまえの言うとおりだよ。わしは少しきつく言いすぎたよ。これからは家を出ていくなんて気持ちにさせないように気をつけるからね……」

 「ウワーッ!ダメだ、これは!」とぼくはいらいらして言った。

 「これはかんたんにはいかんのう、ウム……」

 とクラトはひげをなでながらつぶやいた。

 「元気をだそう、みんな、元気を」

 とアミはぼくたちをはげました。

 ビンカは、ぼくたちが彼女をずっと見ているのを知っていたので、天をあおいで、これから、どうしたらいいの?って顔をした。あれには、はりつめていたぼくたちの緊張の糸も、いっしゅんにしてゆるみ、みんなふきだしてしまった。

 そのあとで、ビンカは新しい作戦を思いついて言った。

 「たとえわたしが、キア以外の惑星にも生命がいるって信じていても……」

 “いいぞ、ビンカ”と思った。

 ゴロはビンカにやさしく言いふくめようとした。

 「いいかい、おまえのそのみょうな思いこみについてはだな……」

 彼女は立ちあがり、いどむようにゴロを見つめて言いはなった。

 「わたし、空とぶ円盤を見たわ!」

 「それはきっと、幻覚か夢か、なにかの自然現象だよ」

 「ああそう、じゃ、いまこれからあらわれる円盤が幻覚かどうか見てよ! さあ、中庭に行って、自分の目で確かめたらいいのよ、幻覚かどうか!」

 とビンカはさけぶと、中庭へでた。

 アミは動揺して、頭をかきむしりながらさけんだ。

 「ダメだ!ダメだ!そんなふうにしちゃダメだ!まったく……みんなぼくのせいだ。もっと注意深く、じゅうぶんな指示をあたえるべきだった。なんてこった……」

 「アミ、いまがチャンスだよ。はやく円盤を見せてやれば……」

 とぼくが言うと、

 「とんでもない!もしそんなことをしたら、ゴロはショック死するか、気がふれてしまうよ。それにぼくひとりの判断で、円盤を見せることはできない。ちゃんとした理由がなければ、許可はもらえない。ビンカはもっと少しずつ、あせらずにやらなくっちゃダメなんだ。ちゃんと言ったのに……」

 ぼくは自分の双子の魂のことはよく知っているので言った。

 「わざとしたんだよ、アミ。彼女、せっかちだから」

 「そうだよ!なんてバカなんだ、ぼくは……。それになんて反抗的なんだ、ビンカは……。これはすべてぼくのせいだ。ほんの少ししか自己コントロールのできないひとを相手にしているんだってことを忘れていたよ。まったく……とにかく、なにを言っているか、聞いてみよう」

 モニターの中では、ゴロがとても心配そうに、クローカを見て言った。

 「重症だ。はやく医者に診せたほうがいい。これはなにかの発作だよ……」

 「ねぇ、さっさと中庭へでて!!自分たちの目で、直接確かめたらいいのよ。わたしは宇宙人と友だちよ。わたしが言えば、円盤があらわれるわ。わたしの頭がおかしいかどうか、自分たちの目で確かめてみればいい!」

 「ウッ……なんて、かわいそうな子……」

 クローカは言って、顔にハンカチをあてた。

 正直いって、ほんとうに彼女は気がふれたのではと思えたほどだった。こんなビンカを見るのは悲しい。そして、これもすべてぼくたちの愛から出た行動だと思うと、ぼくはとても責任を感じた。彼女のおじさんもおばさんも、ビンカはほんとうに気がふれてしまったのだと信じこんでいたので、中庭にほんとうに出てみようなどという考えはさらさらないようだった。

 「アミ、このうたぐり深い人たちにいちど、円盤を見せてあげて、はやく!」

 ビンカは逆上して、見えない円盤を見あげて言った。

 アミはマイクを取りあげた。そのマイクははなれたところから、めざすところへ声を送ることができるものだ。

    “ビンカ”

 とぼくの双子の魂の耳もとへむけて、アミは話した。

 「なに、アミ!?すがたは見えないけど、わたしの耳もとで声が聞こえる……はやくきて……」

 「ああ……なんてかわいそうな子だこと……」

 「なんていうことだ、まったく。クローカ、おまえがちゃんと教育しなかったからだ、道を踏みはずしてしまったよ、この子は」

 「あたしのせいじゃないわ、ゴロ。あたしの姉は、あたしがまだ、ほんの子どものころ爆撃を受けて、いっしゅんにして死んでしまったの。戦争のまっさいちゅうに、あたしがこの子の面倒をみなくちゃならなかったのよ。だれも子どもの育て方なんて教えてくれなかったし……」

    “ビンカ、落ちついて、落ちついて”

 とアミが言った。

 「どこにいるの?アミ」

    “もっと声を落として、ビンカ。落ちついて。いいかい?円盤からマイクを使ってしゃべっているんだ。ゴロにはまだ円盤は見せられないんだ”

 「あぁ、そうだったわ、いまはおばさんだけね……クローカおばさん、すぐにきて!」

 「ダメだ、ダメだ」

 とアミはさけんだ。

 「まずさいしょ、おばさんだけに、少しずつ話していくようにって言っておいたのに。そんなにとつぜん、円盤を見せるわけにはいかないんだ」  

 「ちょっと、ビンカを見てくるわ……ああ、まったくあの本、あの本がいけないんだわ」

 とクローカが言った。

 「そうだ、あの本だ……これからわしは精神科医の友人に電話するから、おまえはビンカのようすを見てきたら、あの本をもってきなさい。それから、近所に気づかれるとまずいから、なるべく、ビンカに静かにするように……」

 クローカは中庭へでて、ずっと空を見あげているビンカを、そっとだきしめた。

 「ねえ、アミ、いまだよ。はやく円盤を見せてあげてよ」

 ぼくは言うと、アミは計器盤をそうさしながら、

 「まずだいいちに上から許可が下りるかどうか聞いてみなければ……クローカがはたして、円盤を見たときのショックにたえられるかどうか……えーと……」

 別のスクリーンに、ビンカのおばさんの頭部のアップが、それからすぐに頭の中からつった。いろいろなエネルギーの閃光がたくさん見えた。でも、アミはそのスクリーンではなく、きみょうな記号があらわれている、また別のスクリーンを見ていた。“ビップ”という音がした。

 「いいぞ、リミットぎりぎりだけど、なんとかたえられる。クローカに害はのこらない。許可が下りたよ。じゃ、これから近距離でのコンタクトをはじめよう。かわいそうなクローカおばさん……」

 円盤は視覚可能な状態になった。ぼくたちはとても低いところにいて、ビンカとクローカのまわりを、ゆっくりと円を描くように動きはじめた。 

 「見て!見て!おばさん!」

 ビンカはもうすっかり有頂天だった。おばさんはさいしょ、まったく取り合うそぶりを見せなかった。けれどもとつぜん、中庭が強烈な光に照らしだされてまっ白になったのに肝をつぶして、思わず空をあおいだ。クローカの目が、それはそれは大きく見開かれた。その口も負けじと、大きく開きっぱなしになっていた……。

 「これでじゅうぶんだ」

 と言ってアミはまた、円盤を見えない状態にもどした。十五秒ほどクローカに円盤を見せたことになる。

 「見た?おばさん、あれがわたしの友だちの円盤よ」

 電話をかけようとしていたゴロも、家の外からものすごい光のきらめきを感じたらしく、すぐに中庭に出てきた。そこには、大きく目を見開いてぽかんと口を開けたまま、放心状態で空を見あげている妻のすがたがあった。ゴロもおなじように空を見あげたけれど、とうぜん彼の目にはなにもうつらなかったはずだ。やがてゴロは、いそいでふたりを家の中にひっぱりこんだ。ひどく心配しているようすだった。ぼくはといえば、クローカおげさんがほとんど失神寸前だっていうのに、とっても幸せな気持ちになっていた。

 「クローカ、どうしたんだ?いったいなにを見たんだ?」

 ぼうぜんとしている妻をソファにすわらせながら、ゴロはとても心配そうなようすでたずねた。

 「わたしの友だちの円盤を見たのよ、決まってるじゃない」

 「ほ、ほんとうよ、え、え・ん・ば・ん・を見たのっ!!!……ほんとうだわ。この子は気がふれてなんかない、あたし、見たわ、ゴロ、見たわ!」

 「ま、まさか……幻覚だよ。クロー……?……でも、わしもとてもつよい光を見たぞ……あれはなんなんだ!……でも、空にはなにも見えなかった……」

 「おじさんはまだダメ。だって、その準備ができてないから。だから、わたしの友だちは、おじさんが外に出てきたときに、円盤が見えないようにしたの。だって、おじさんが、ショックのあまり気がふれたり、死んじゃったりするとこまるから」

 ゴロもよろよろとソファにすわりこんだ。目を閉じ、こめかみに手をやって、なにごとか考えはじめた。

 「空とぶ円盤……目に見えない……これはきっと悪いじょうだんだ……。もっと根拠のある説明ができるはずだ……クローカ、ほんとうに見たのか?」

 「もちろんよ、ゴロ。幻覚なんかじゃないわ。ほんとうにこの目で……」

 「隕石じゃないのか……流れ星とか……」

 「銀色をした金属の?……」

 とクローカ。

 「うむ、じゃ、飛行機かもしれない……」

 「まるい?」

 「じゃ、惑星だろう……」

 「ピカピカ光の色を変えながら、クルクル家の上をまわって……それに、おなかのところにはなにかマークが描かれてあっても?……」

 「マークだと?どんなマークなんだ?」

 「ゴロおじさん、わたしの本にでてくるマークよ。翼のはえたハートのマーク。すべてほんとうのことなのよ。わたし、アミの円盤に乗ってほんとうに別の惑星に行ったのよ」

  ぼくたちはあの会話を聞いていて幸せだった。

 「それだけじゃないの、彼らはいま、モニターをとおしてわたしたちを見ていて、わたしたちの会話はぜんぶ聞いているのよ」

 「彼らだって?あの例の本の、アミとかいうヤツのことしか聞いておらんぞ」

 「うん、でも、クラトもいるの。現代でさいしょにスワマに変わったテリよ。でも、なにも知らないでずっとウトナ山にかくれ住んでいたの。クラトはあそこの人なの。それからペドゥリートも円盤にいるの。彼はキアによく似た惑星に住んでいて、わたしたちは双子の魂なの。ふたりともそれぞれの世界で使命をあたえられてはたらいているの。わたしたちは愛の神に奉仕しているのよ……」

 空とぶ円盤、別の惑星の人、双子の魂、使命、愛の神……ゴロは、顔のよこにはえたみどり色の毛をひっぱりながら、このあまりにも突飛な(と彼なら思うだろう)話に聞き入っていた。

 「いいかいビンカ、どうか、いまの言葉はみんな、おまえのファンタジーだと言っておくれ。現実とおとぎ話とを、まぜこぜにしちゃいけない。わしの頭は破裂しそうだよ……。

 この宇宙は、おまえが本に書いたようなものじゃない。あれは空想で現実じゃないんだ。それとも、なんだね。わしはずーっとまちがえているとでもいうのかね?わしだけじゃない。科学者だとか先生だとかジャーナリストだとか、常識あるおとなたちはみんなまちがっているということかね!?」

    “そう、ゴロ、何千年ものあいだ、みんなまちがっていたんだよ”

 とアミがマイクを通して語りかけると、ゴロは飛びあがった。

 「だれだ!」

 「アミよ、ゴロおじさん。円盤にあるマイクで、どこにいるひとにでも自分の声を聞かせることができるの」

 “それに、彼はどんな言葉でもしゃべることができるんだな”といまさらながら、ぼくは感心していた。

 「あたし、こわいわ、幽霊かもしれない……悪霊かも……」とクローカはふるえ声で言った。

 「おばさん、こわがることないわ、アミはとてもいいひとよ。ちゃんとした生身の人間で、あの本に書いてあるとおりのひとよ」

 ゴロは、しばらくぶつぶつ言っていたけど、やがてひとつの答えをだしたようだった。

 「だれにわかろう……だが、はっきりしていることは、たしかにここに未知の科学技術があることだ。でも、それはよその惑星のものなんかじゃない、そんなバカなことがあるものか……いや、ひょっとすると、そういうこともあるかもしれない……考えるだけでも、おろかしいけど……わからない……ヤツらにはほんとうに敵意がないのかどうか、はっきりしない……きっと、おまえを利用して……うむ、これはPPに連絡したほうがいい。ひょっとすると、キアに攻め入ってくるつもりかもしれない。キアにたいする脅威なのかも……」

 「PPってなに?」

 とぼくがアミに聞くと、アミより先にクラトが答えた。

 「おおこわい、政治警察だよ」

 「ああ……」

 「よりによってこんな職業を選ぶヤツもいるんだ。まったくごりっぱなことだ」

 クラトの言葉は皮肉たっぷりだ。それにつづけて、さとすようにアミが言った。

 「職業っていうのは、そのひとの魂の質を現像して、一枚の写真にしたようなものなんだ。だからって、職業でひとを差別しちゃいけないよ。いまにわかるけどPPにだってよいひとはいるんだから」

 「愛が……キアにとって脅威なの?」

 モニターの中では、ビンカが、やや皮肉をこめた調子でゴロにたずねていた。

 「トゥコのかっこうをしたチェグもいる」

 とうたぐり深いゴロは言った。

 「アミ、これはぜったい、“羊のかっこうをした狼”っていうような意味だよ」

 アミは笑って、

 「そのとおりだよ、ペドゥリート。うたがいの心っていうのはどの世界へ行ってもおなじだよ。いつもおなじイメージを想像する。見たろ、テリの精神構造がどういうものか?

 せっかく上の現実を受け入れられるってチャンスなのに、わざわざ自分の水準にひき下げないでは考えられない。たとえ受け入れられたとしても、それはただただおそろしいものでしかない。なぜって、彼の頭の中の風景が、いつだってさむざむしいんだから、しょうがないよね。そしていま、ゴロはやっと、キア以外の惑星にも生命がいるということを、半分だけ受け入れた。でも、それは彼にとっては、とうぜん邪悪な存在でしかないんだ……ああ、かわいそうなゴロ!まったくあわれだよ!もし彼が、宇宙のもっと美しい世界のことを知ったとしたら……」

 モニターの中では、あいかわらずビンカががんばっている。

 「ゴロおじさん、でも、変装していないトゥコもいるわ」

 「もしそんなのがいたら、これほどすばらしいことはない……でも、そんなの、いるわけない。いるわけない!」

  “いない?とうぜんだよ”



【感想】


 ビンカがおじさんとおばさんを実際に説得しにいく場面では、まさに地球の人々の意識と同じだな、と想像しました。地球でも「頭がおかしい」というレッテルを貼られるのだろうな、と思います。その状況の中で、必死に伝えようとするビンカの純粋さ、それを見守る円盤の中の仲間たちの気持ちを想像すると、ハラハラドキドキしました。アミの小説では珍しいシーンに感じました。


 印象的だったのはアミの言葉で「せっかく受け入れられるチャンスなのに、わざわざ自分の水準に引き下げないでは考えられない」というもの。これはわたし自身も無意識のうちにやってしまっているなぁと思いました。「自分の水準」しかない、と思ってしまっていることが原因だと思います。もっともっとたくさんの水準があって、いい悪いではなくて、それらの水準を受け入れていかれたらもっと彩が豊かな世界が見えるだろうな、と思いました!


 マイクでアミの声が聞こえるなんて、ぜひ、いつか聞いてみたいものです。今後の展開が楽しみです!


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