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【朗読】40)『アミ3度めの約束』第1章 待ちぼうけ③

エンリケ・バリオス著の『アミ3度めの約束』の朗読と個人的な感想です。



【文字起こし】

(漢字表記も含め全て原文のままです)


第1章 待ちぼうけ ③


 松林は海岸から少し離れたところにあった。村まで走っていき、このへんではいちばん大きな街道まで出て、そこをよこ切って、いちめんの灌木の茂みの中を分け入って、きゅうな山の斜面を松林のほうにむかって登っていった。

 とちゅうで、はたしてビンカは来ているだろうかと少し不安に思った。でも、まえの旅でアミは、さいしょにぼくのところへきて、それからビンカの惑星へ行くと言っていたのを思い出して、また新しい宇宙の旅を頭に思い描いた。

 くもがちりはじめ、灰色だった海は美しいエメラルドグリーンに変わっていった。

 松林のさいしょの松のところまでたどりついた。

 数分後には、アミに会える。そしてそのあとにはビンカに!ぼくの胸は期待ではちきれんばかりだった。

 林の中に入り、周囲を見わたした。でもなにも見えなかったし、なんの音も聞こえなかった。アミはぼくを円盤のモニターで見ているはずだから、ほくの居場所は知っているはずだ。

 ぼくはさがしまわるのはやめて、林の中の空地にすわって待つことにした。

 もどかしい気持ちのまま草の上にすわっていると、ひょっとすると、アミはぼくのうしろからそっと近づいてきて、ぼくを目かくしして“わたしはだーれ?”なんて言うかもしれないと想像した。それは自分ながら気のきいた想像だと思った。そしてほんとうに、だれかがぼくのうしろから近づいてきたときには、ぼくはわくわくどきどきするのをできるだけおさえ、目を閉じてじっとしていた。思ったとおり、あたたかな手がぼくの目をおおった。アミはなにも言わなかった。そのとき、ぼくはまったく予期していなかった香りと振動を感じ、とびあがらんばかりにおどろき、そして感動した。あの美しく深い感情がぼくの中にふたたびよみがえってきた。ビンカのにおいだ!……。

 彼女がそこにいたんだ!

 まだ目を閉じたまま、ぼくはあの細くて長い指を、あのやわらかいかみを、そしてあの先のとがった耳をやさしくなでた。むきなおってひざまずくと、おなじ姿勢をしたビンカがいた。あの愛らしい、底知れぬ深さをたたえたむらさき色のひとみが、ぼくの目の前にあった。もうアミのこともほかのことも、なにも頭になかった。たぶん、消えうせてしまったか、あるいはもっとも深い愛につれられて、ぼくたちはもう、別の次元にゆきついてしまっていたのかもしれない。ぼくたちはただ、うっとりと酔いしれ、なにかとてつもなく大きなものに身をまかせた。なにも話ができなかったし、また、その必要もなかった。たとえ話そうにも、おたがいに相手の言葉は理解できなかったし、翻訳器もなかった。

 ぼくたちは草の上にむき合うかっこうでねころがった。ふたりの視線が合うたびに、このままひとつにとけ合っていきそうな幸せをおぼえて、ただ、ほほえまずにはいられなかった。

 夢よりももっとやさしく、そよ風よりもそっとおたがいにふれ合って、再会の感激が落ちつきはじめると、やっと少し現実にもどってきた。

 ようやく、ぼくたちはたいせつな友だちのことを思いだした。

 「アミはどこにいるの?」

 と彼女に翻訳器のことも忘れて聞いた。

 彼女はぼくのほうを、少しおどろいたように見て、「sdgdtnjfhadr div znfivghaer」となにかそんな感じの、まったく聞きなれない音で言った。ふたりとも、小さな翻訳器のないことを思い出し、笑い出してしまった。

 そしてそのときはじめて、ぼくの心の奥までとどく、彼女の美しい声に気がついた。

 「ビンカ、なにを言っているのかはわからないけど、きみの声、とてもすてきだよ。なんでもいいから話して……」

 たぶん、なんとなくぼくの言いたかったことが理解できたのだと思う。彼女はその美しい声で話しはじめ、ぼくはその声にうっとりと耳をかたむけた。目を閉じて、まるで彼女の心の底から発しているような心地よい声を、ずっと音楽を聴くように聞いていたかった。

 「もういいだろう、禁じられたロマンスはそのくらいで」

 とアミが笑いながら陽気にじょうだんぽく言った。あの白い服を着たほくたちの友だちが、こっちにむかって歩いてきた。きっとおなじ意味のことを言ったんだろう、ビンカの言葉でもなにかしゃべった。いつものように明るくかがやいた彼が近づいてくるのを見たら、ぼくの心はよろこびでいっぱいになった。

 立ちあがってあいさつをしょうとしたら、彼の背が前よりもずっと低くなっているように感じた。

 ぼくは最近すごく背が伸びているから、彼とだき合うのに少し身をかがめなければならなかった。ビンカは草の上にすわったまま、ほほえんでいた。心あたたかい幸せな再会だった。

 アミは翻訳器をぼくたちに手渡しながら言った。

 「いま、きみは、ぼくよりかなり背が高くなっていることで、とてもいい気分に感じているだろう、ペドゥリート、えっ?」

 「うむ……いや…とくに悪い気はしないけど……でも、アミはどうなの?イヤな気はしないの?」

 「いや、たぶん、きみがビンカを見たとき感じるほどじゃないと思うけどね……」

 アミがなにを言おうとしていたのか、まったくわからなかった。ぼくは美しいビンカを見た。でも、なにも変わったところはなかった。

 「でも、彼女、少しも変わったところなんかないけど……」

 「立ってごらん、ビンカ」とアミが言った。

 彼女が立ちあがると、ぼくはぼうぜんとした。いままでひざまずいたり、よこになったりしていたのでわからなかったけど、彼女もずいぶん背が高くなっていた。こうして立ってみると……えーっ!ぼくよりはるかに大きいじゃないか!•••…ぼくの頭は彼女のはな先のところまでしかない。こうなるとは予想もしていなかった。みじめな気分になって、コンプレックスを感じた。きっと彼女はぼくに幻滅して、もうぼくのことを愛せなくなるだろうといったようなことを考えた。

 ぼくは地面に目を落とした。でも、彼女はやさしくぼくにだきつき、ぼくのほおにキッスした(うん、でも、もちろん、少し身をかがめてね)……。

 「まったく、この未開人は、ものごとの外側しか見ないんだから。外見だけしかね」

 アミがあどけない笑顔で言った。

 「ペドゥリート、心配することないのよ。わたし、あなたのこと、前とおなじように愛しているわ。知ってるでしょう、わたしたちの愛は容姿なんかよりも、もっとずっと奥深いってこと」

 ビンカもぼくを元気づけるように言った。

 「ウーン……わかっているよ……でも、ビンカ、きっとふゆかいなおどろきを感じたろう……」

 「そんなことないよ」とアミが話しはじめた。

 「こっちにくるとき、ぼくがビンカにペドゥリートはきみほど背が伸びてないって警告したら、彼女はそんなことまったく問題じゃないって言ったんだよ。たとえ、きみをポケットに入れて運べるようであってもってね、ハッハッハッ」

 「ほんとうよ、ペドゥリート。たとえあなたがわたしの親指くらいに小さかったとしても、わたし、あなたを愛さずにはいられないわ、わかるでしょう?少しくらいの背の高さのちがいなんて、どうでもいいことよ。それにアミが言ってたけれど、あなたはこれからもまだまだ伸びるって」

 「うん、これからもね。でも、きみがぼくよりさらに背が伸びつづけなければいいんだけど。それにしても、いまのぼくはやっときみのはなのところまでしかない。これ、少しどころじゃないよ」

 「正確には、前髪のはえぎわだよ。でも、きみはとてもコンプレックスを感じたんで、彼女の前では知らず知らずのうちにからだを少し曲げていたんだよ、じっさいより小さく思いこんでね。でも、背をまっすぐに伸ばしてごらん。ぼくの言ったことが正しいのがわかるよ」

 アミの言うとおりだった。ぼくは少し背を丸めていた。背を伸ばすと、ふたりのちがいはそれほどではなかった。彼女はよろこんで、ぼくにだきついた。彼女のあたたかい視線に、なにも気にすることはなかったんだと思えた。自分に自信をとりもどした。ビンカの腰に手をまわし、むかしの映画のたくましい二枚目スターをまねてみた。

 「ほんとうさ、たとえおまえがオレより少しくらい背が高くても、オレがおまえの男だってこと、わかってるだろうね、ベイビー」

 ビンカもぼくも、そしてアミも笑いながら、

 「その先史時代の男性優位主義を、本気にとってはいないだろうね、ベドゥリート」

 と言った。

 「なーに、たんなるじょうだんだよ」

 「わかっているよ。でも、その男性優位主義がいくらか意味があったのは、ほら穴に住んでいた状態のころの話だってこと、くれぐれも忘れないでね。その時代には、筋肉やからだの大きさが、生きのびていくのに重要だったんだ。そこでは、たぶん男のほうが女よりからだが大きく背が高いほうがよかった。でも、きみたちの惑星は、もうその段階を乗りこえつつあるんだからね……」

 ぼくには、ぼくたちの惑星やここに住む人間についての現実を、アミがまだよくわかっていないような気がした。だって、いまだにぼくたちの世界では、背の高いこととか、がっちりした筋肉といったものは、男にとってほとんど知性やお金とおなじくらいに重要だし、たいていの女の子だってそういう男の子が好きなんだから……。

 ビンカも少し混乱していたようで、アミの言葉をさえぎって、

 「キアではテリがわたしたちを支配しているのよ、アミ。それは彼らが、わたしたちスワマよりもずっとからだが大きくて、がっちりしているからよ。まだまだわたしたち、その時代を乗りこえてないと思うわ」

 「きみは乗りこえているよ。そうだろう。きみにとって、ペドゥリートの背が少し低いことなんか、どうでもいいことだろう?」

 「うん、わたしのばあいはね。でも、たいていの人は……」

 「いいかい、ビンカ。みんなが、大多数のひとがそう考えているみたいだからって、けっしてそれにしたがっちゃダメだよ。そうじゃなくて、きみの心がめいじるところに、きみの知性にしたがうんだよ。多くのひとは、ひとと意見がちがうのがこわくて、あるいは自分できちっと判断できるところまでいってなくて、他人とおなじ意見をもっているようなふりをする。でも本心は、きみとおなじように考えているかもしれない。ただ、きみのほんとうの意見を知らないままだから、自分の考えに確信がもてないし、きみの意見を支持することもできないでいるんだ」

 アミの言っていることはおもしろいと思った。

 彼はビンカに話しつづけた。

 「もしきみがみんなのためになるような、よい考えをもっていたとする。でも、きみにそれを発言する勇気がないとする。そうしたら、そのよい考えはけっしてみんなに知られることもなく、闇にうもれてしまうよ。きみの恐怖心のせいでね……。ほんとうはきみに賛成するひとだっているかもしれないのに」

 「アミの言うこと、部分的には正しいと思う。だって、アミと知り合って、あのすばらしい惑星オフィルみたいな進んだ世界を訪ねたあとでは、ぼくたちの地球はあまりにも矛盾だらけだし、ざんこくだと感じるよ。たくさんの音節をかかえすぎている。ほんの少しの良心さえあれば、すべてが解決するっていうのにね。でも、ぼく、気がついたんだ。地球ではそう考えることさえ現実ばなれした“たわごと”なんだって。このテーマを口にすると、アブないと思われちゃうんだよ。だからもうだれとも話さないって決めているんだ。このテーマだけじゃなくて別のことでもね。ほんとうはそう思わなくても、みんなとおなじょうに行動して、おなじように発言して、そうしてけっきょくは口を閉ざしてやりすごすんだ。もちろん、内心スッキリしないし、イヤだけど……」

 「よくわかるよ、ペドゥリート。みんなきみとおなじようにしているのさ。自分だけがちがった考えをしていると思っているから、自分のほんとうの気持ちは言わずにね。だって、それでひとに笑われたり、白い目で見られたり、怒られたりするのはイヤだからね」

 「そう、そう。それになぐられたりとかね」

 アミは笑って言った。

 「でも、できるときは、そのつど自分じしんにすなおでいるように心がけてごらん。冷静さと尊敬の念をもって、相手を攻撃したり傷つけることなく、ほんとうに感じていることを表現することをね。とくにきみの考えが、愛の叡知に照らされているときには、きみじしんでもおどろくよ、たくさんの共鳴者がいることにね。だってきみたちの世界は、ちょうどいま、変わりはじめたところなんだからね」

 そう言われても、ぼくにはそれが現実というより、たんなる理論にすぎないような気がした。

 「もし、ぼくが自分の思っていることをすべて言ったとしたら……イヤイヤ、やめておくよ、殉教者みたいにはなりたくない。苦しみを味わうのはイヤだよ、アミ」

 「でも、きみたちの世界が変わりはじめていることで、いまではたくさんの人々がもっと自然にしたがった真実の生き方を望むようになってきている。そのことに、まだきみは気がついていないんだ」

 ビンカは自分がひきずっているたくさんの疑間を、アミにぶつけた。

 「わたし、ひとって根本的にそんなにちがっているとは思わないわ。わたしの惑星では、若いひとも年寄りもだいたいおなじようにふるまっている。とてもよいひとたちもいるわ、でも一般的にはすごく表面的で利己的で、かたちのないものは信じないひとが大部分よ……地球はどうか知らないけれど、ペドゥリート」

 「おなじだよ、まったく。ビンカ」

 アミは大きく息を吸いこみ、少しほほえんで言った。

 「どっちの惑星でも大部分の人々がだいたいおなじようなふるまいをしている。だって、いまだに人々やその生活に対する尊重も配慮もない古いシステムのまま、変わらずにいるんだからね。こういうシステムは、物質的なものばかりに重きをおいて、愛を基調にしていない。なんであろうと、愛にもとづいてないものは幸せをつくりだせないんだから、大多数のひとたちはよろこんでいないだろう。でも、しかたないとあきらめて口をつぐんでいるんだ。こうしてときだけはすぎても、なにも変わってこなかった。でも、いまはちがってきている。多くのひとたちは変わりつつある。それは周囲を見れば感じられるよ。きみたちは、より大きな力となれるように、そのプラスの流れに合流すべきなんだ。善や人生を守ることは、自分たちじしんを守ることでもある、ということを忘れちゃダメだよ」

 いま、アミがそのときどう言ったのか、すべてをはっきりとは思いだせない。でも、最終的にはなっとくさせられてしまった。だからこれから先は、そして、ただ書かなくちゃならない本を書くだけじゃなくて、もっと正直に、自分の考えや感じたことなんかをあんまりかくさないで生きていこうと思う。

 「でも、世の中にはらを立てながら生きていっちゃダメだよ」

 とアミは陽気に笑いながら言った。

 「暗いところばかり見ないようにね、だって影は明るいところよりも、ずっと少ないんだから」

 ぼくたちの周囲を見わたしてみた。夏の朝の林の中は、息をのむほどきれいだった。いまはすっかり晴れあがって、太陽がかがやいていた。アミの言ったことがほんとうなんだってよく理解できた。そうだよ。ひとは暗いところにばかり目をむけて生きていちゃダメなんだ。だってそうじゃないところのほうが、もっとずっとたくさんあるんだから。

 花や松やユーカリの香りをふくんださわやかなそよ風が、ぼくたちのほほをやさしくなでていった。

 アミは草の上に腰をおろすと、のばした片脚の上にもういっぽうの脚をのっけるようなかっこうになった。ぼくたちも彼とおなじようにすわった。

 「よかったね、ふたりともまた会えて……。ほんとうに幸せそうだよ」

 そう言って、アミはちょっといたずらっぽく笑った。

 「うん、とても幸せ」ぼくたちはふたりで言った。

 「じゃ、前の旅で、あんなに大さわぎしなくてもよかったって気がついたろう。ぼくの円盤の中で、別れるときに……」

 ぼくたちは少しはずかしくなって、おたがいを見つめ合った。アミの言うとおりだ。別れたくないといって、ぼくたちがひき起こしたあの“反乱”、あんなことはすべきじゃなかった。

 いま、こうしてまたいっしょにいる。いま思えば、あれは過去のいっしゅんの夢のようだった。

 「ほんとうにぼくたち、バカだったよ、アミ」

 「ヤッホー、自分たちで気がついてくれてよかったよ。じゃ、きょうまた別れるときには、もうあのさわぎはないよね」

 「エッ!? また、ぼくたち別れなくっちゃならないの?」

 ぼくたちは動揺して、おたがいにだきついた。

 そんなぼくたちを見て、アミは笑いながら、

 「またいつもの、無意味ないちゃつきだ……」

 彼の言葉は、ぼくたちの関係がけっして、“無意味ないちゃつき”ばかりのものじゃなくて、大きな愛で結びついているということを気づかせてくれた。一年のうちで、ほんの数時間しか会わせてもらえないなんて、ざんこくすぎる。そう思ったら、ビンカはぼくの思っていたことをもう話しはじめていた。

 「愛はいちゃつきなんかとはちがうわ。それにわたしたちのような双子の魂はなおさらよ。また別れなければならないとしたら、どんなにつらいことか」

 「気持ちはよくわかるよ。きみたちはまだ、自分たちの肉体のもっとむこうにある出会いを楽しむということを学んでいない。ざんねんだよ……」

 アミの言葉を聞いて、ぼくは思い出した。そうなんだ。いまではもう、ぼくの心の中には、いつだってビンカがいる。それに毎晩のようにぼくは、想像のなかでビンカに会っていたんだ……。その想像のデートはあまりにもリアルで、ほんとうに彼女といっしょにいるような、一体になっているような気がした。そうアミに言ったら、ビンカもまったくおなじように感じていたと言った。

 「ほんとうに一体だったんだよ。肉体としてではなく、魂としてね」

 「ああ、もちろん。でも、おなじじゃないよ……」

 とぼくは言った。

 「ほんとうの愛とは、肉体ではなく、魂にかかわることからなんだ。だから、肉体の外観だけに魅かれた愛情というのは長くはつづかないんだよ。ちょっとしわができたり、ちょっと体重が増えたり減ったりしただけで、もう愛情がなくなる。これは愛じゃない。外側の魅力にひきつけられたそのときだけの愛情だから、深さも力もないしね。ほんとうの愛には、背の高さとか年齢とか見た目なんかは関係ない。ほんとうの愛っていうのは、魂と魂のあいだに生まれるものなんだ。つまりその人が放射するエネルギーを愛するってことなんだよ。だって、そのエネルギーがそのひとのことをいちばんよく教えてくれる、内的なものなんだからね。だから、この段階の感情には、もう距離も時間も存在しない。死でさえも、その愛をじゃますることはできないんだよ」

 ビンカは感動に目をうるませてぼくを見た。ふたりとも、自分たちを結びつけている愛こそが、アミの話す愛なんだって知っていた。

 ぼくたちはまただき合った。するとたちまちあの時間の止まった、ぼくたち以外のものをみんな忘れてしまう次元の中に入りこんでしまった。

 何分後だったろう?アミはちょっと皮っぽく言った。

 「正直に言うけど、このメロドラマの章はちょっと長すぎたね……」

 ぼくたちはその言葉でわれにかえった。なんだかちょっと照れくさい。アミはいたずらっぽい笑みを浮かべてはいたけれど、その視線には感動をかくせないでいた。

 「そのとおりだよ、ペドゥリート」

 ぼくの頭の中を読んだアミが言った。

 「その“無意味ないちゃつき”は感染しやすいよ。きみたちの発する振動波は、化石のグァリサウリオまで感動させるよ。ハッハッハッ!」

 ぼくはそのとき、あたりに色とりどりのたくさんのチョウが、ひらひらととびまわっているのに気がついた。

 「小鳥たちまでとっても元気にさえずっているわ、ペドゥリート」

 注意して見るとほんとうだった。松林全体が歌ったり、おどったり、小鳥や虫や花々が、まるでぼくたちの幸福を祝ってくれているかのように、色彩のコンサートをくりひろげていた。

 「きみたちの幸せに誘われたんだよ」

 とアミが言った。

 「なんて、すばらしいの!」

 ビンカが草の上にすわったままで、ぼくたちの周囲の陽気なお祭りを見ながら言った。

 「これはきみたちの発した高い振動のせいだよ。もうわかっているように、愛は宇宙でもっとも高いエネルギーだからね。だから、このすべての光りかがやいた“ダンス"はきみたちの発している“音楽”のせいなんだよ……」

 ビンカはひとつの結論に達した。

 「ああ、つまり、愛はひきよせ、よろこびを生みだすんだわ……」

 「そのとおりだよ、生きものはみんな、自然と宇宙の愛のほうへむかう傾向があるんだよ。愛はぼくたちの源だからね。だから、愛がないと遠のいていくんだよ」

 そのとき、ふゆかいなひとがどうしてふゆかいなのかわかった。それは彼らが愛を発してないからなんだ……。

 「だって、ふゆかいなひとというのは自分の心を開くことができないか、開こうとしないひとたちのことだからね。じゃ、そろそろ円盤へ行こう」

 と言って、小さな宇宙人は立ちあがりながら、腰につけていた円盤のリモコンをそうさした。



 

【感想】

 アミの「未開人は、ものごとの外側しか見ないんだから。外見だけしかね。」という発言にドキッとしました。今の地球では「ルッキズム」という言葉が時折聞かれる状態ですから。しかも、「男性優位主義」もまだまだ根強いです。ただ、それに対するアミの意見も痛快です。「大多数の人がそう考えているからって、それに従う必要はなく、自分の心が命じるところ、自分の知性に従うこと」が大事だと教えてくれています。その上で、本当はよい考えがあったとしても恐怖心で口にしないのであれば、それは賛成する人との出会いの可能性を無くしていることになると言っています。この言葉は今のわたしにとって、ものすごく背中を押してくれるものでした。ただ、やはり、人と違う考えを言うのは怖いですよね。さらにアミは「できるときは、冷静さと尊敬の念をもって、本当に感じていることを表現してみよう」と言っています。


 また、アミはほんとうの愛とは、肉体ではなく、魂にかかわるものだ、だからこの段階の感情には、もう距離も時間も存在しない、死でさえも超えると言っています。この言葉は大切な人を亡くした人にとって、とても大きな支えになると思います。ほんとうの愛は意識の中で常に在り続けるのですから。それを知って、悲しみや寂しさの中に安心を持てるといいな、と思いました。


 ペドゥリートとビンカが松林全体が美しい色彩のコンサートを繰り広げていることに気づいたときにアミが「きみたちの幸せに誘われた」と言いました。生き物はみんな自然と「愛」へ向かう傾向があるのだそうです。だから、愛がないと遠のいて行ってしまうのだと。愛を感じていたら、必ずそれに共鳴してくれる人がいる、ということが信じられますね!




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