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【朗読】35)『もどってきたアミ』第17章 アミの真実のすがた

エンリケ・バリオス著の『もどってきたアミ』の朗読と個人的な感想です。



【文字起こし】

(漢字表記も含め全て原文のままです)


第17章 アミの真実のすがた


 アミの両親となごりを惜しみながら別れ、ぼくたちはあらたな未知の目的地へとむかった。

 そのとき、ぼくは光の速さが一秒に約三十万キロメートルだということを思い出した。きゅうにアミの円盤のスピードが知りたくなった。

 「地球とキアはどのくらいの距離があるの?」

 と聞くと、

 「おおよそ八百兆キロメートルだよ」

 とアミが答えた。

 キアへ行くまでに、だいたい十分くらいかかった。ぼくはなんとかスピードを計算してみようとした。でも、ちょっと考えただけで、あまりにぼうだいなケタの数字に頭が混乱してしまった。

 「ペドゥリート、もし、われわれの円盤の動くはやさを計算しようというなら、それは時間の浪費だよ。われわれは即時に“位置する”んだ」

 「でも、ほんの数分だとしても、ある場所から別の場所へ行くのにいくらか時間がかかっているじゃない。どうして少しも時間がかからないって言うの?」

 「そうは言ってないよ」

 アミは笑って答えた。

 「そうじゃなくて、円盤はいっしゅんのうちに目的地についてしまうんだよ。別の場所へ行くのにかかる時間は、この円盤の装置が目的地への距離や位置を測ったり、通常の“時間・空間とは異なる”次を通ってから、いかに安全に目的地にあらわれるか準備するためにかかる時間なんだ。わかる?だって隕石の通過するようなところはさけないといけないからね。ハッハッハッ!たとえばそれは反対側にある回転木馬によりはやく乗るためには、自分の乗っている木馬からおりてむこうからくるのを待ってとび乗るだろう。ちょうどそんな感じだよ。でもこれはそれよりもはるかにはやいんだ」

 「アミ、これからどこへ行くの?」

 と、この話題にはほとんど興味を示さなかったビンカが聞いた。

 「きみの家、キアだよ」

 「もう、そんなにはやくぅ!?」

 彼女は不満だらけの声で言った。

 ぼくはなにか胃にずっしりと重たいものを感じた。もうちょっとすると、ほとんど自分の分身のように感じていた彼女をうしなう……それは自分のうでを切られるよりもさらにつらいことだった。まるで死刑台にむかっているような、たえがたい時間だった。全身が凍りつくようなさむいところからとつぜん、あたたかい暖炉のあるへやに通され、用意された熱いコーヒーをいざ飲もうとしたら、ふたたび「表へ出ろ!」と追い出されるようなものだった……そんなこと、あってなるものか、ぼくが許さない!

 「もし、ビンカがキアにのこるなら、ぼくものこる!」

 とつよく断言した。でもぼくのつよがりは、小さな宇宙人の笑いを誘うだけだった。

 アミは父性愛に満ちた声で、やさしく語りかけてきた。

 「ペドゥリートもビンカも、いいかい。そろそろ執着からはなれるということを学んでいかなければならない。人生は、表面的に自分の欲するままに動くのではなく、神と完全に調和のとれたわれわれの“内的存在”にしたがうということなんだよ」

 その言葉は、ぼくにとって思い切りふゆかいだった。

 「ぼくの中にはたったひとりのぼくしかいない!!」

 と挑戦的な口調で言い返した。

 「ぼくはビンカとぜったい別れない。だいいち、どうしてぼくより小さい子がぼくに命令なんかしなくっちゃならないんだ。たとえ進んだ世界の宇宙人であったにせよ、円盤のそうじゅうができるにせよ、ぼくより下だ。だからぼくの人生はぼくが決める。ビンカはぼくといっしょだ。もしキアがダメなら、彼女が地球にくるんだ。そうだろう?ビンカ」

 「そのとおりよ、ペドゥリート」

 彼女もつよい口調で言いはなった。

 「そうだ、聞いたかい。これからはずっとふたりでいて、もうきみのような哺乳ビンをくわえたような小っちゃな子どもの言うとおりなんかにはならないよ……」

 アミは大きなおだやかな目でぼくたちを見た。そしてくちびるにわずかなほほえみを受かべて言った。

 「テリは、キアにだけいるのかと思っていたよ……」

 その言葉に、ぼくたちはひどいショックを受けた。すぐにぼくたちが、テリとおなじようなおこないをしていることに気がついた。

 それじゃ、ダメなんだ……。

 少し落ちついてくると、はずかしさでいっぱいになり、顔をあげていられなくなった。

 だいぶたってから、視線を床からはなしてアミのほうを見た。

 アミはもういつものアミではなくなっていた。光りかがやいた、純粋で美しいまったく別の存在と化していた。

 ぼくは自分を歩く、みにくい、虫けらか雑菌のように感じた。光いっぱいにあふれたアミの視線に、ぼくはまったくたえることができず、ふたたび視線を下げた。

 アミは変貌していた。あのふつうの子どものように見せていたマスクを取った、ほんとうのすがたをぼくたちに見せつけた。それは神々しいまでに燦然と光りかがやく存在だった……。

 ビンカは、ぼくのよこで泣きじゃくりはじめた。彼女もまた、ぼくとおなじように顔をあげることができないでいた。

 「どうしていままで、ほんとうのすがたをあらわさなかったの?」

 ぼくは床を見たまま、敬意のかけらもなく、汚い暴言をはいたことを空しく弁護するかのように言った。

 「なんのことを言っているのか、ぜんぜんわからないよ。ぼくを見てごらん。なにか変わって見えるかい?」

 そう言われて、ゆっくりとおそるおそる視線を上げた。ぼくの目の前にはいつもと変わらぬにこやかにほほえんだアミがいた。そのほほえみは、さっきの劇的なまでに緊迫した場面を、少しずつほぐしはじめていた。

 もう、あの光りかがやいた子どもではなく、いつものアミ、ぼくたちの友だちのアミだった。

 でもなにかがちがっていた。まだ、ぼくの脳裏にはあの“別”のアミの記憶がはっきりとのこっていた。彼の顔はふだんと変わらなくなったけれども、そこには、“別”の顔、別の存在の入口がはっきりと暗示されていた。そのむこう側になみなみならぬ大きな存在がかくされていることがありありと感じられた。

 ビンカは彼の前に歩み寄り、ひざまずこうとした。

 「まったく偶像崇拝が好きだね!」

 アミは笑いながら、ビンカのひざが床につくのを阻止した。

 「どんな兄弟にも、たとえどんなすぐれた上の兄弟にも、ひざまずいてはいけない。われわれは、神の前にのみ、ひざまずくことができる。ただ、自分の心の奥底、孤独の中での内的コミュニケーション、つまり瞑想と祈りによって、はじめてその目に見えない存在にひざまずくことができる。おいで、もうひとつのへやを見せてあげよう。そこで至高の神性と通じ合うことができる」

 アミは、ひとつのドアのほうに、ぼくたちをみちびいた。引き戸をあけると、中はうす暗い闇だった。ただ奥にあるとても小さな光だけが、その周囲をわずかに照らしていた。

 中に入った。

 「われわれのすべての円盤の中には、搭乗員の数に合わせて大きさの決められた、このようなへやがあるんだよ」

 アミはとびらを閉めた。やがて暗闇に目がなれてきた。部屋の左右には、ふたつずつつながったイスが床に固定されていた。奥の正面の小さな光がうっすらと床にあるよこ長のクッションを照らし出していた。まるで小さな礼拝堂にいるような感じがした。

 アミの声がおごそかな口調に変わった。

 「奥のほうでひざまずいても、このイスにすわってもいい。ここで、われわれは瞑想したり祈ったりする。瞑想のほうがいい。祈りは自分と神と別々だけど、瞑想は神性と一体だ。その中に融合してしまう」


 ぼくたちは、ひざまずくことにした。たぶん、そうすることが必要だった。クッションの上にひざまずいたとき、アミがなにかをそうさした。室内はゆっくりと、もうこれ以上は想像できないくらいに美しい照明に満たされた。バラ色、金色、リラ色、むらさき色などの数えきれないような多様なトーンが混じり合いながら、壁面にゆれた。別の次元にすべりこんだような錯覚におちいった。

 ビンカはくちびるにほほえみを浮かべ、うっとりとしたようすで見入っていた。

 少しずつその色彩に影響されて、なんだかとてもきみょうな感じがしてきた。まるで自分じしんの内部に逃避してみたいような、そして目を閉じて感じはじめつつある、ある“気配”に身も心もまかせてしまいたいような欲求だった。すべてがとても大きくそして美しかった。だけどそれが、ぼくの心の中でのことなのか、それとも外でのことなのかははっきりわからなかった……。


 たぶんいちばんさいごに脳裏にのこっていた記憶、それは時間・空間の外にある大宇宙をさまよっている宇宙船の中にいたことだった。そして同時に、またその大宇宙の中心にもいた。だってぼくはそのとき、創造の中心そのものとも通じ合っていたんだから。

 そのあとでぼくの意識をいっぱいにしたのは、もう思考ではなく、知性を通らずに、ぼくじしんの存在の奥底にいきなり達したあの感覚、あの体験だった。

 ぼくはもう考えていなかった。ただただ、その中に、はげしく生きていた。


 金色の光がぼくをつつみこんだ。その光はひとつの存在だった。ぼくじしんがどんどん大きく、無限に、永遠に感じられた。それは意識の純粋な幸福。ぼくの頭にはもうたったひとつの疑問さえもよぎらなかった。なぜなら、そのときぼくはすべての答えをにぎっていたのだから……。


 いまはもう、いったいなにをどうやったのかはっきりと思い出せない。でもあの瞬間、ぼくは過去、現在、未来のすべてを知っていた。自分のこと、そして宇宙のことを。いやそれ以上だった。ぼくは宇宙の中心だった。ぼくが宇宙をそうさしていた。ぼくの中からすべての銀河もすべての魂も流れ出ていた。そしてそのあとで、一種のリズム、ぼくの呼吸とも脈搏とも思えるリズムにもどった。にもかかわらず、ぼくはそれよりもはるかかなたにいた。ぼくの中心には、幸福に満ちた大きな平静さと、あふれるほどの叡智があった。そこに、ぼくの平穏があった……。

 いま、あの状態をうまく表現することはかんたんじゃない。すべてがすみずみまでかんぺきであり、すばらしかった。苦悩さえもそうだった。長い時間を経てみれば、苦悩もひとつの教えであり、清めであり、あやまちの結果であり、そしてつよくなるための試練でもあった。

 苦悩とはなにかを忘れていることが原因だったということが、はっきりわかった。なにかを……でもなにを?その答えはわからなかった。

 ぼくの意識はだんだんと平常の水準にもどりつつあった。少しずつあのふだんの頭の中でのいつもの問い、いつものうたがいの中へ……。そこで答えを見うしなった……。

 なにを忘れているんだろう?自分の肉体を感じた。ぼくの重いひざはクッションの上にあった。

 ぼくの一部分はその小さなからだの中にもどるのを望まず、別の自分はその中に入るよう、ぼくを押しやった。でもその答えを知るためには、どうしてもまた、宇宙を“そうさした”あの感覚、あの無限の叡智いっぱいの中心点にもどりたかった……。

 “なにかを忘れているのが苦悩を生む原因だった……でもなんだろう?”

 いっしゅん、またあの感覚にもどることができた。でも、つよい力がそこにいたぼくをひっぱり、円盤の中へ、そして重いからだへとひきもどした。

 “きみの使命を思い出して”

 なにかの声を聞いたように感じた。

 “きみの使命は下にある”

 ぼくはちゃんと知っていた。でも思い出したくなかった。反発した。上にのぼりたかった。

 “上にのぼるには、まず下に行くことが必要だ”

 と内的な声が言った。

 なにを忘れているために苦悩が生まれるのか、思い出せなかった。

 「ほんとうの自分、内的存在を忘れているんだよ」

 とアミがぼくのとなりで言った。

 それが必要な答えだった。それが最終的に円盤へ、あの空間へ、ぼくのからだへもどることを決めさせた。


 目を開けたとき、あの美しい光はもう消えていた。ただ、ぼくの目の前に、あの小さな光だけが灯っていた。

 ビンカは小さな宇宙人のよこに立って、感動に目をうるませてぼくを待っていた。

 少しずつ、いつものぼくの現実に、いつもの無知とあやまちにまみれた現実にもどっていった。

 「そう、内的存在を忘れているんだ」

 消えていきつつあるその言葉の意味を忘れまいとして、ぼくは言った。

 「そう。それが、われわれがあやまちを犯す原因なんだ。そしてそのあやまちの代償を苦悩として支はらうことになるんだよ」

 「よくわからない……ぼくの内的存在ってなんなの?」

 「神性だよ」

 とアミはぼくを起こしながら言った。


 宇宙礼拝堂とでもいったその空間を出ながら、ぼくは幸福の中心点とか無限の叡智といったあの体験と感覚を忘れまいと努力した。

 「それなんだ。それが内的存在なんだよ。けっして忘れないようにね。いつも、きみじしんのその部分からはなれず行動すれば、けっしてあやまちを犯すことがない。だから苦しむこともないんだ」

 「そのとおりだよ、アミ。ぼくはぼくのすべてが叡智だったところを体験した」

 「わたしはわたしのすべてが愛だったところを」

 ビンカが感動をこめて言った。

 「愛と叡智、わかったろう?だから、おぎない合ったカップルなんだよ。きみたちの一人ひとりが神性の一部を明らかにするんだ」

 アミはそうじゅう室のほうへむかった。

 「見てごらん。さあキアについたよ。でももう反乱を起こさないだろうね。ハッハッハ!」

 アミの言葉は、ぼくたちが彼につきつけた暴言を、そして、あの燦然とかがやいた存在への変貌を思い出させた。

 「アミ、説明して。あの変貌はどういうことなの?」

 「その変化の大部分は、きみたちのほうにあったんだ。わずかのあいだだけど、ものごとのあるべきすがたを見ることができたんだよ。表面に見えているものの、もっとむこうにあるものをね。われわれはみな思っている以上の、なにものかなんだよ。だれもがみんな、かがやいた存在なんだ。でもある特別な瞬間だけ、われわれは自分や他人のほんとうの次元というものをとらえることができる。とても悪い行動をとっていたから、きみたちの内的存在がそのまちがっている行動を気づかせてくれたんだ。きみたちは自分たちの愛を守ることだけを望んだんだからね。別れ別れにならないってことを。愛は暴力のもっとも大きな原因のひとつなんだ……」


 あまりに理屈の通らない説明に当惑して、ぼくはビンカと顔を見合わせた。

 「愛ゆえに母狼は、自分の子に危害をくわえようとする者に対してより獰猛になる。人間も、一般的に言って自分たちの愛のためには他人に対してざんこくになりエゴイストになる。こういった愛が戦争を生み出す。こういう愛がきみたちの世界をとても危険な状態にしているんだよ」

 「いつわりの愛だね」

 と、ぼくは理解したつもりになって言った。

 「いや、そうじゃないんだ。それも愛なんだよ。ただ低い度数の愛なんだ。われわれはそれを執着と呼んでいる。執着ゆえに、盗んだり、うそをついたり、殺したりする、生きぬきたいというのはひとつの愛のかたちだ。でも、ただ自分じしんや自分の家族、小さなグループや自分の属している団体や党や派閥に対してのみだ。悲しいことに、そういった生き方のせいで、すべてのひとたちがいのちをうしなう寸前なんだ……それはみな過度の執着の結果なんだよ」

 「そのとおりだわ、アミ」

 と、少し考えこんでいたようすのビンカが言った。

 「たぶん、テリにしても、きっとそういう愛でもって行動していると思うわ。悪意ではな

くて……」

 「すばらしいよ、ビンカ! そう考えられただけでも世界が変わるよ。ずっと高い視点だ。暴力で争っている党派をこえた高い視点だよ」

 「悲しいことだけど、テリ・ワコとテリ・スンボの争いのため、わたしたちの国スワマはとても危険な状態にあるの」

 「キアにあるのは、たったひとつの国だよ。テリとスワマによって形成されたね。それがきみの世界なんだよ」

 

 この考えはビンカにとって、とても新鮮なおどろきだった。

 「彼女が自分の属しているスワマのほうにかたむくのはとうぜんだよ……」

 ぼくには、彼女の気持ちがよく理解できて言った。

 「またまた、低い水準の愛だ。執着だよ。自分の属する派とそのほかの敵対した派。執着とは制限された愛のことだ。でもほんとうの愛に制限はない。

 今日まできみたちの惑星のひとは、執着を通して生きてきた。でも、これからは第三から第四の進化段階へ通過できるよう挑戦しなければならない。もし、どうしても生きのびることを望むなら、もう執着は乗りこえて、ほんとうの愛にしたがわなければならない。そのほかの方法はありえないよ。ただ、自滅が待っているだけだ。これが宇宙の法なんだよ。

 まだ分裂したままの状態の世界では、執着は、それなりの役目を果たしている。でも、この分裂が人類全体の生存をおびやかさずにすむのは科学的な水準がそれほど発達していない状態のときまでの話だ。そのあとの、ちょうどきみたちの世界のような段階のばあいには、そのエゴイズムを放棄するか、自滅するか……道はふたつしかのこされていない。不均衡でエゴイスティックな愛である執着を放棄しないかぎり、公正で平和な世界を建設することは不可能なんだよ」

 「どうして不均衡なの?」

 「愛にはふたつの在り方があるんだよ。ひとつは自分じしんにむかう愛、もうひとつは他人にむかう愛だよ。空気が入りく出ていく。ちょうど呼吸とおなじようなものだ。執着があるとき、はき出す空気の量よりも、はるかに多く吸いこむようなものなんだ。“すべて、みんな自分のもの”、もっと自分へ、自分の家族へ、自分の党派へ。そしてそのほかの他人にはより少なく。これを不均衡っていうんだよ」

 「あなたの隣人をあなたじしんのように愛せよ(訳注:マタイによる福音書19章19節)」

 ぼくは宗教の時間に習ったことを言った。

 「それ、フストの言った言葉よ。どうしてそれ知っているの?ペドゥリート」

 「フストって誰だい?」

 「キアの歴史上の偉大な師よ」

 「それが宇宙の法なんだよ。それを説明したかったんだ。それがほんとうの愛、均衡のとれた愛なんだよ。他人のことも自分とおなじ量だけ、おなじように愛するんだよ。不均衡にならないようにね」

 「じゃ、もし自分より他人のほうにむかってよけい、愛があったらどうなるの?」

 とぼくは聞いた。

 「やはり不均衡になる。ちょうど呼吸せずにすべて空気をはき出すようなものだよ。数分後には死んじゃうよ……」

 「均衡って言葉、とても大事な意味があったのね」

 とビンカ。

 「テリをスワマとおなじょうに愛せよ」

 アミが笑顔で言った。

 「そうつとめるわ。じっさいにそうこころみてみるわ、わたし」


 そうじゅう盤のランプは、円盤がキアのひとには視覚できないことを示していた。円盤は地球のどこにでもあるような都市の郊外の空中に停止していた。でも、外を観察する気にはなれなかった。別れのときが目の前にせまっていた。“いったいだれが、いつまではなればなれでいなくっちゃならないのか知っていよう”。ぼくは悲しくなった。息もできないくらいだった。

 「つぎの本を書き終えるまでのことだよ」

 とアミが言った。

 「“もどってきたアミふたたび”とかいう題にしたらいいよ」

 「アミ、きみはとてもたくさんの知識や力があるけど……文法はあまり強くないようだね」

 とぼくは言った。

 「どうして?ペドゥリート」

 「だって“もどってきた”ってあれば“ふたたび”って言わなくったっていいんだよ。重複になっちゃうからね。だから“もどってきたアミ”でいいと思うよ」

 「そのとおりだね。語学はどうもあまり得意じゃないんだ。それは、われわれがほとんど言葉を使わないせいなんだよ。テレパシーのほうが一般的だし、ずっと正確で確実なんだよ」

 「でも、アミ。さっききみの両親と話していたじゃない……」

 「うん。でもそれはきみたちに対する礼儀なんだよ。自分たちの言葉のわからないお客がきたとき、お客の言葉をもし知っているなら、それで話すべきだからね」

 

 いま、どうしてその会話についての細かいところまでおぼえているのかわからない。あのとき、ぼくには、あの悲しい別離のことしか頭になかった。でも、いとこのビクトルに語っていると記憶がはっきりしてきた。

 そうだ、アミはテレパシーで手伝ってくれるって言っていたっけ……。


 

【感想】

 なんと!アミの真実の姿は「神々しいまでに燦然と光りかがやく存在」でした!これはアミだけでなく、人類全員が本当はその存在なのだと思います。ペドゥリートやビンカが「低い度数の愛」ゆえの執着で、アミを傷つける言葉を投げかけることは、日常的にあり得ます。それにどれだけ早く気づけるか、ということが愛を保ち、平和につながるか、という大切な鍵となっていると思います。


 アミが「ほんとうの自分、内的存在を忘れているんだよ」とペドゥリートに話しかけますが、ペドゥリートは「ほんとうの自分」も「内的存在」もどういものかがわからないでいます。それに対するアミの答えが「神性だよ」です。「神性」というのはすなわち「愛」です。ほんとうの自分は「愛」なんだということをいかに腑に落とせるか、これが人生の目的と言っていいのではないでしょうか?


 また、ペドゥリートは自分のすべてが「叡智」だったことを、ビンカは自分のすべてが「愛」だったところを体験したのです。これが男性性となる「ヒコ」の力と、女性性となる「ヒメ」の力を象徴している表現だと感じました。この小説では、ペドゥリートとビンカと別人格になっていますが、この「ヒメ」と「ヒコ」は一人ひとりに備わっています。ぜひ、ご自身のその力に意識を向けてみていただきたいと思います。

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