【朗読】33)『もどってきたアミ』第15章 アミの惑星、銀河人形を行く
- 学 心響
- 8月31日
- 読了時間: 12分
エンリケ・バリオス著の『もどってきたアミ』の朗読と個人的な感想です。
【文字起こし】
(漢字表記も含め全て原文のままです)
第15章 アミの惑星、銀河人形をゆく
まるでおもちゃの世界を見ているようだった。
そこは子どもむけのアニメーションに出てくるような小人の町によく似ていた。色とりどりのあざやかな色でねられた、キノコのかたちをしている家があるかと思うと、球体をして空中に浮かんでいる家もあった。
ほとんどの家のまどは、美しい花や植物でいっぱいにかざられていた。
そして、ぼくの見たかぎり、ひとりの例外もなくすべてのひとがみんな子どもだった。
「ぼくたちが子どものすがたでいるのが好きだからといって、みんながみんな子どもだっていうわけじゃないよ。でも、心の中はいい意味で、ふざけ好きの、むじゃきな子どもみたいなもんだけど。だからわれわれの世界を“人形”と呼ぶんだ」
「ぼくはまた、文明世界はみなおなじようなものかと思っていたよ」
と言うと、
「とんでもない!もしそうだったらとてもたいくつだよ。それぞれの世界が自分たちの好みの傾向にしたがって、それぞれ独自のスタイルをもっているんだ」
「見て!あれ」
空をとんでいる乗りものが近くを通過していくのを見て、ビンカがさけんだ。
リンゴのようなくだもののかたちをしていて、そこに笑っている動物や花や星やくもが描かれていた。
「宇宙船をのぞいて、ここの乗りものはみな、われわれのファンタジーをもとにしてつくられている。中をのぞいたらもっとびっくりするよ」
「でも、どうしてこの円盤はちがっているの?」
「この円盤は宇宙船だから“親交世界”の規定にしたがってつくられている。視覚的混乱をさけるためなんだ。ほら、きみたちの世界の都市にはよくあるだろう。鉄鋼とガラスでできた高層ビルのそばに中世の大寺院や教会があったり、看板や電柱や電線がむき出しになっていたり……まさに視覚的な大不協和音を奏でている……。あれじゃあの愚鈍なグァラポダクティロの神経だっておかしくなっちゃうよ……」
なんのことを言っているのか聞こうと思ったちょうどそのとき、遠くのほうからぬいぐるみの白熊のような巨大な動物が近づいてきた。それは巨大なビルぐらいの大きさはあっただろう……。
アミは笑って言った。
「あの熊がいま、われわれを飲みこんでしまう。でも心配無用だ。これはとてもゆかいなおもちゃなんだよ」
まさにそのとおりだった。建物のように大きな“熊”はぼくたちの前にくると、その大きな前肢をひろげて円盤をつかまえた。前肢がまったく円盤にふれなかったところを見ると、なにか磁気のようなものが使われたのだろう。そしてそのばかでかい口をあけたかと思うと、ぼくたちを一気に飲みこんでしまった。
アミはぼくたちが仰天しているようすを見て、おかしくてたまらないようだった。
でも、なんとなく遊園地にでもきているような気分もあったので、まっ暗な口の中に入ってもそれほどはおどろかなかった。
そうじゅう室の中がバラ色に楽まった。“熊”の内部では、胃袋とか内臓とか肋骨とかのかわりに、目を見はるような光景が展開していった。
現実ばなれした幻想的な森、夢に出てくるようなお城、架空の風景などをバックにして、まるで子どものおとぎ話に出てくるような、いろいろなすがたをしたひとたちが、たくさんおどり出てきた。それは笑顔をたたえた小さなひとたちの行進だった。
それがほんとうに実在する人物なのか、それとも映像による虚像なのか、まったくわからなかった。ひょっとすると電気じかけの人形なのかもしれないと思ったりしたが……。
「ペドゥリート、これはむかしの子どもむけの童話の登場人物なんだよ。人々が仮装したものをうつしたものなんだ。じゃ、これから三次元の“超リアル”な立体映画を見てみよう」
巨大なおもちゃのからだの内部をさらにくだっていった。ずっとくだっていくと、こんどは明るいみどり色の美しい光がさしこんできた。
さっきの光景よりさらに幻想的だった。たえずうつり変わりゆく色彩の、ひとのようなシルエットとあざやかな色の背景のあいだに、透明なすがたをしたひとたちが何人か浮かんでいるのが見てとれた。
「これは別の次元に住んでいるひとたちの映像なんだよ。彼らは地の精、水の精、空気の精、火の精など、みな妖精たちだ」
ビンカはおどろいて聞いた。
「じゃ、このひとたちはほんとうにいるの……!!」
「もちろんだよ。きみやぼくやトゥリッピングとおなじように、ちゃんと実在しているんだ」
アミがまたヘンな名前を言ったけど、ぼくはもうなにも質問しなかった。確信はなかったけれど、たぶん、またじょうだんでも言っているんだろうと思ったからだ。
「これからいちばんさいごのところに入るよ。でもこわがることはないからね」
こんどは琥珀色(飴色)のような光が円盤の内部にさしこんできた。
まどの外を見ると、もっと信じられないような行進が目にとびこんできた。そのひとたちは人間のかたちはしているが、全身が火でおおわれていた。赤やむらさきや黄色や青、みどり、白の炎だった。すべて火に包まれていて、目をのぞけば顔ははっきりしていなかった。
でも、なんという目!魅惑するようにするどく、見透すような目。それでいてやさしく凛とした視線だった。
そのうちのひとりが、ぼくたちをしっかりと見つめながら近づいてきた。そしておどろいたことには、円盤のまどを通りぬけ、そうじゅう室の中に入ってきた!……ぼくはみんな燃えて火事になってしまうかと思った。もしその赤く燃えているひとがぼくに少しでもさわったら……と考えただけでもとてもこわくなった。
「こわがらないで」
とアミの声。
「これ、みんな遊びだよ」
大きく目を見開いて、目の前ですべてを炎に染めておどっているその存在を、見つめていた。
赤い炎のひとは、まどをつきぬけ、また円盤の外へともどっていった。そして、こんどは黄色い炎のひとが中に入ってきて、すさまじい炎のダンスをくりひろげはじめた。
「もし、動きの中に秘められている言葉の意味が理解できたなら、宇宙の大きな真実が発見できるよ」
とアミが説明してくれた。
黄色い炎のひとが出ていくと、別の色の炎のひとが入ってきた。そうやって順々にすべてのひとが入れかわり立ちかわりそのダンスを披露し終わり、さいごの白い炎のひとがしりぞくと、大きなとびらが開いて、ぼくたちは巨大な“熊”の背中から外に出た。
アミは、ぼくたちが質問してくるのを、うれしそうに待っていた。
「あのひとたちはだれなの?」
「彼らは太陽に住んでいるひとたちだ。でも、みな映画だよ。映写だ、とうぜんのことだけどね」
「映写であるわけがないよ。彼らは円盤の中に入ってきた。それにどこにもスクリーンなんかないし……」
「光線がガラスを通して映像化されるんだよ」
そのシステムをぼくはまったく理解できなかったけれど、アミの言葉を信じるしかなかった。
「もし、彼らのひとりがじっさいに円盤の内部に入ってきたとしたら、われわれは溶けてなくなっちゃうよ」
「とても高い温度なの?」
「温度だけじゃなくて振動の水準が、われわれにはとてもたえられるものじゃないんだよ……じゃ、こんどはぼくの住んでいるところへ行こう」
円盤は猛スピードを出すと、数秒後には惑星の極の近くについていた。
あたりは一面、雪におおわれていた。もう夜になっていた。
「この近くにぼくの家があるんだ。見てごらん」
小さくてとても魅惑的な村があった。その村を見ているうちに、いつだったかずっと前にぼくの家にあった、水で満たされた球状のおき物を思い出した。その中には小さな家や田園の風景が入っていた。ひっくり返すと細かな白い断片がいっせいに降り落ちて雪のように見えた。円盤から見えた外の風景はそれによく似ていた。やわらかそうな大きなかたまりの雪がたくさん静かにふっていた。
木々も丘も家もみなすべて白くおおわれていた。家はみな球体をしていて、地面から数メートル浮かんでいた。
家々にはみな大きなまどがあり、内部の光が外にもれていた。なかにはガラスのようにまったく透明な家もあるが、どの家にもカーテンは見あたらなかった。まどは住人の好みで、暗くも透明にもすることができるらしかった。
たいていの家は、中で生活しているひとのようすが外からよく見えた。
「ぼくたちには、とくにかくすようなものがあまりないんでね」
アミが笑って言った。
「このあたりは、あまりおもちゃみたいな印象はないわね」
とビンカ。
「ここはさむいところだからね。地理的、気候的な特徴に合った建物の型を取り入れているんだ。さっき見た町はあついところに位置している。あの町をここにもってきたら不調和になってしまうだろう」
あついところに住んでいるひとは、さむいところに住んでいるひとより、ずっと遊び好きなのかと聞いてみた。
「一般的に言って、あついところに住んでいるひとは陽気な傾向にある。さむいところに住んでいるひとの遊びはずっとおだやかだ。でも、宇宙のすべてが遊びなんだよ。それぞれにみな独自のスタイルがある。世界、村、施設、そして一人ひとりがね。あるひとは未開人のようなおそろしい遊びが好きだ。彼らの遊びは“神の遊び”からずっとかけはなれている。また、別のひとたちはもっと進歩した遊び、より平和な遊び、みんなのための、愛に基づいた遊びが好きだ。こっちのほうがずっと宇宙の真実の方向に近いんだよ」
ビンカは少し考えこんでから言った。
「神が遊ぶなんていちども考えたことなかったわ。わたし、いつも神ってすごくまじめかと想像していたの。愛に満ちあふれてはいるけれど……アミの言うその“神の遊び”って、どういうことなの?」
「宇宙とは神の想像による創造なんだ。それは芸術であり、一種の遊びだよ。人生とは、“遊びのルール”のほんとうの意味を魂が正しくとらえることができるようになるまで、学びつづけていくことなんだよ。人生には、われわれをまっすぐ幸せにみちびくためのたったひとつの秘密、たったひとつの方法があるんだよ」
「行儀よくふるまうこと」
とおばあちゃんの口ぐせを思い出して言ったら、アミもビンカも笑った。そしてアミは間髪を入れずに言った。
「“行儀よくする”という言葉は、いろいろな意味にとれる。もしおこられるのがイヤで規約や命令を守るのだとしたら、それは幸せには結びつかない。でも、その言葉には、幸せへと確実にみちびく別の意味もあるんだよ」
「あまり気をもたせないで、はやく言って」
ビンカが少しイライラして言った。
「幸せな人生を生きるためのゆいいつの秘密、たったひとつの方法、それは愛とともに生きることだ」
とアミはそうじゅう席から立ちあがりながら言った。
「それだったら、もう前にも言ったと思うけど……」
「もちろん言ったよ。いろいろかたちを変えてなんども言われてきていることだ。いや何千回と言われてきていることだよ。宇宙のすべての偉大な師は、それ以外のことは言わなかった。すべての本物の宗教はすべてそれを説いている。もし、それを説いていなかったとしたらその宗教は本物じゃない。だって宇宙の基本法にのっとっていないからね。
愛に関して少しも新しいものはない。宇宙でもっとも古いものだ。
それなのに愛とは感情的な、センチメンタルなことであり、人間の弱さであり、愛を云々するのは、バカのすることであると思っているひとは、数えきれないほどたくさんいる。人間にとってほんとうによいこと、すばらしいこと、それはかならず知能や理論、物質的収益やずる覧さ、あるいは、肉体的な強さのほうにあると思いこんでいる。これじゃまるで外のきれいな空気をけいべつして、洞穴の中で窒息しかけている原始人みたいなもんだよ。
この人間のもっとも基本的なもの、つまり愛の必要性はなんどくりかえしても、いくら言っても言いすぎるということはない。中にはそれを知っているひともいる。でも、かりに知っていたとしても自分の人生でそれを実践しようとしないし、じゅうぶんではない。それでは、けっして幸せにはたどりつけない。
いいかい。ひとや社会や世界にとって、もっとも基本的で必要なものが愛であるということ。これはいくら言いつづけてもじゅうぶんということはないんだよ」
「世界にとっても?」
「ある世界が、その破滅からすくわれるための、ゆいいつの力が愛であると認識したときに、はじめてその世界は生きのびることができる。文明の基本としての愛を認識できないでいるかぎり、その惑星はつねに滅亡の危険にさらされるんだ。だってライバル意識や混乱が消えないからね。それがいま、きみたちの惑星で起きていることなんだ。このような危険な時期に、人類の救済に貢献する仕事ほど重要なものはないんだよ」
【感想】
アミの惑星では邪気がない子どもの心を持った人たちのことを「人形」と呼んでいるそうですね。さらに、アミは「みんな同じようだったら、とてもたいくつ」と言っています。確かに、バリエーションがたくさんあることは豊かなこと、それ自体が幸せなことだと思います。それぞれの好みを受け入れ、違いを受け入れ合える社会は成熟しています。肌の色の違いや文化の違いはあっても、それを客観的に見ると、ただの違いなだけで、優劣もなければ、正解・不正解もありませんものね。だんだん、それが当たり前になっていくのが「親交世界」に入るということなのでしょう。
「熊」のお腹の中にいて、最後に出てくる全身が炎でおおわれている人のシーンはなかなか想像するのが難しかったのはわたしだけでしょうか?目以外の顔ははっきりとせず、しかも目が「魅惑するようにするどく、見透かすような目。それでいてやさしく凛とするような視線」というのはどんな感じでしょう?太陽に住む妖精で、とても高振動だということなので、興味が尽きませんね!
「幸せな人生を生きるためのゆいいつの秘密、たったひとつの方法、それは愛とともに生きることだ」というアミの言葉があります。ここはとても大切なところだし、アミが言うように何度繰り返しても言いすぎることはない、というのもその通りだと思います。ただ、「愛とともに生きる」という言葉の意味は理解しても、それがどういうことなのかが漠然としているというのが多くの人に起こっていることなのではないかな、と想像しています。これに関しては、自分の中の「愛」に気づけば、「愛とともに生きる」ということが腹落ちするのではないかと思います!
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