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【朗読】32)『もどってきたアミ』第14章 羊皮紙とふたつの可能性

更新日:8月28日

エンリケ・バリオス著の『もどってきたアミ』の朗読と個人的な感想です。





【文字起こし】

(漢字表記も含め全て原文のままです)


第14章 羊皮紙とふたつの可能性


 円盤がまた、別のところに“位置”しているあいだ、ぼくはアミの手で書かれたクラトの羊皮紙の翻訳文を読みはじめた。


   愛とは意識の繊細な一成分のことである。

   それは存在の深い意味を教えてくれる。

   愛はゆいいつの合法的な“麻薬”でもある。

   まちがって、愛が生み出すものを酒や麻薬の中にさがすひともいる。

   愛は人生においてもっとも必要なものである。

   賢者はその秘密を知っていて、ただ“愛”だけをさがした。

   ほかのひとはそれを知らないから“外”ばかりをさがした。

   どうやったら愛が手に入るかって?

   愛は物質でないから、どんな技術も役に立たない。

   それは思考や理性の法には支配されていない。

   思考や理性の法が愛にしたがっているのだ。

   愛を手に入れるには、まず愛が感情ではなく、存在であるということを知ることだ。

   愛とはなにものかであり、実在している、生きている精神である。

   だから、われわれの中で目ざめるとわれわれに幸福を、

   そしてすべてのものをもたらすもの――。


   どうしたら愛がくるようにできるのか?

   

   まずさいしょに存在していることを言じること(愛は見ることはできない。

   ただ、感じるだけだから)(それを神と呼ぶひともいる)。

   それができたら、心の奥底にある住まい、つまりハートにさがすことだ。

   それはすでにわれわれの中にいる。呼ぶ必要はない。

   きてもらうように願うのではなく、ただ自由に出るようにさせてやること、

   ひとにそれをあたえてやるようにすることだ。


   愛とは、求めるものではなく、あたえるものなのだ。


   どうやったら愛が手に入るかって?


   愛をあたえることによって


   愛することによって


 「愛ってひとつの存在のことなんだね。それって、ぼくがいままで読んだどの本にも書いてなかった……」


 アミはそうじゅう桿を動かしながら笑って、

 「いや書いてあるよ。ある本に」

 「どの本?ぼくそれ読んでないよ」

 小さな宇宙人はおもしろがって言った。

 「いや読んでる。読んでるどころか、それはきみがじっさいに書いた本だよ。あそこにちゃんと書いてある」

 「エッ!『アミ小さな宇宙人』?」

 「そう」

 「よく思い出せないな……」 

 「じゃ、もういちど読み返してみることだね。

 でも、ほんとうにきみたちはおかしいと思うよ。だれかが目もあてられないような野蛮なことをしでかしたりすると、あのひとは“悪魔に取りつかれた”なんて言う。ネガティブな力は、ひとつの存在のかたちだって想像できるのに、だれかが愛とともにいるとき、だれも“神に取りつかれた”とは言わない。思いつきさえしない。そのことをちょっと考えてみたらいい。でもそれよりも、老人クラトのアドバイスを実践するほうがもっといいけどね」

 ビンカがぼくのよこにきて言った。

 「いまのわたしにとって、それって、やさしいことよ」

 「きみの愛をペドゥリートだけでなく、さらにもっとひろげていってほしいものだよ、ビンカ。キアの人々はきみを必要としているんだよ。

 そうだ。きみがそこにもどる前にひとつ録画を見てみよう……」

 「どうして、またキアへ行くのI?」ビンカはおどろいて聞いた。

 「いまキアにむかっているとは言っていない。でもそのときは、おそかれはやかれやってくるよ」

 「じゃ……しかたないことなの?」

 「ビンカ、きみはいつまでもここにいるわけにはいかない。自分の惑星にもどり、また本を書いて、人々に奉仕しつづけるべきだ。ペドゥリート、きみもおなじだ。

 さあ、その前にこれを見てみよう……」

 まどの外に暗い灰色の世界があらわれた。まったく興味がわかなかった。ビンカもおなじだった。ただふたりで手をにぎって悲しい視線を交わし合っていた。

 「もう、たくさんだって……安物のメロドラマは」

 アミは笑ってさけんだ。

 「だって、離れなくっちゃならないんだもの、ぼくたち……」

 「だとしてもどこに問題があるっていうの。いつまでも別れ別れでいるわけじゃないんだ。永遠にいっしょになれる可能性があるっていうのに……いったいなにを言ってるんだい。さあ、これを見よう。ある世界が破滅してしまったときの録画だ!」

 アミはなんとか興味をもたせようと、こうふんしたように言った。

 でもぼくたちはとても悲しくて、それどころではなかった。

 アミはぼくたちのようすを見て、映像のスイッチを切った。

 「いいかい、進歩するということには、執着を乗りこえることを学ぶということもふくまれているんだ。だって精神はいつも自由を求めているからね」

 「でも、ぼくたちは愛し合っているんだ……」

 「ほんとうの愛は執着とはちがうんだよ。おたがいに束縛し合ったりなんかしないんだ。ほんとうに愛し合っているひとは、いつもいっしょにいる必要はない」

 アミがほんとうのことを言っているのか、それともじょうだんなのかまったくわからなかった。でも、それはぼくたちの悲しみを克服するのに役立った。

 ふたたびスイッチが入れられた。まどガラスに映像がうつりはじめた。

 「これは救済計画に参加したこの世界の人々のすべての努力もむなしく、暴力と悪とを克服できなかった世界のじっさいの記録なんだ。見てごらん」

 その惑星の大気はこい灰色のくもの層にどっぷりおおわれていた。

 たくさんの空とぶ円盤が地上にむかって下降していった。

 「いま見ているのは“救出作業”だ。円盤が“七〇〇度”以上あるひとたちをさがし出しているんだよ。ほんとうに悲しいことだ。失敗してしまったんだ。すべての努力がまったく水の泡となってしまったんだからね……」

 地表はどこもはげしくゆれ動いていた。海岸線にあった都市は、大津波で一掃されていた。映像はドキュメント映画のように淡々と荒涼とした風景をうつし出していった。

 司令官が乗っていたのとおなじ大型宇宙母船があらわれた。

 「数百万ものひとを避難させなければならないからね……」 

 「数百万だって!」

 ぼくはおどろいて言った。

 「度数の高いひとというのは思った以上にたくさんいるんだよ。悪いように見えるひとでもその悪いおこないは、たんに“不正”に対する反逆にすぎないばあいが多い。ただまちがった表現方法をとってしまっているんだ。また別のばあい、悪い機構、悪いシステムによって生み出された集団的な悪習とも言える。一般的に言って世の中の習慣や必要性が、悪いおこないを強要している。だからこそ、われわれの送っているメッセージをひろめることが重要になってくるんだ。多くの人々がメッセージに耳をすまし、目ざめていくことで、いま見ているような破滅への危険が少しでもへってゆくんだ」

 つぶさにうつし出される都市上空での円盤の作業。たくさんの人々がかがやく光を受け、空にむかって“浮上”していった。

 おどろきと恐怖の表情を浮かべた顔もあったが、多くのひとたちには安堵とよろこびの表情があらわれていた。

 「どうして、こんなに暗いの?」

 「何千もの核爆弾が破裂したところなんだ。すぐに放射能の雨がふりはじめるよ。このあと惑星は人々が生きのびるには不可能なほど冷却するんだ」

 ある円盤が山の上を通過した。下から一団のグループが合図を送っているが、その円盤は見むきもせずに通過していった。

 「どうして、たすけてあげないの?」

 「彼らはじゅうぶんな水準に達していないんだよ」

 とアミが言った。

 「ああ、“センソ・メトロ(感覚計)”で進歩度を測ったんだね……」

 「いやこのばあい、その必要はない。このグループのひとたちは文明の危機に背をむけてきたんだ。みんなで協力して、直面している問題を解決するかわりに、そこからにげ出すことを選んだんだ。ただ“自分たちだけ”のいのちの救済を求めたひとたちは、いま、そのいのちをうしなう……別の人生の別のチャンスを待たなければならない……」

 映像はアミの解説とともに数々の無残なシーンをうつし出していった。

 汚染されたちりのくもにおおわれまっ黒になった世界。ゆれのおさまらない中で死んでゆくたくさんの人々。山のように高い大津波が、海岸線を乗りこえてすべてのものを破壊してゆくようす。同時に何千もの円盤が、ほんの数百万のひとだけを救出して、ほかの大多数のひとたちを死の中におき去りにしていくありさま……。

 ぼくたちには息がとまるほどのつよいショックをあたえた。

 ビンカは泣いていた。

 「もうすべてがおしまいだとわかったとき、山にひきこもって自然にかこまれた生活を求めたひとたちをこのまま見捨てていくなんて、あまりにもひどすぎると思うよ、アミ」

 「そうじゃないんだよ、ペドゥリート。彼らはまだすくいの道がのこっているときに、なにもせずににげ出したんだ。彼らがもし、なにかをやっていたら、それだけでこの世界は自滅しないですんだかもしれないんだ。水がめの水があふれ出すにはさいごの一滴でじゅうぶんなんだよ……」


 アミにそう説明されたけれども、かわいそうなあのひとたちをおき去りにするのは、なにか彼らに対する報復でもあるかのような気がした。

 「そうじゃないんだ。ただ“よい種”の選択をしているんだよ。よいひとたちだけによって、戸を開けはなしたままでも安心してねむれるような、自分のものを兄弟とおなじょうに他人が自由に使ってもいいような、安全な社会をつくり出せるんだ。

 いま見ているようなにげ出したひとたちというのは、ざんねんなことだけど“よい種”ではないんだ。もし、かりに新しい世界に住むチャンスをあたえられたとしても、彼らは人々に奉仕したり協力したりする行動はとらないよ。ほんとうに単純なことだけど、彼らには愛が不足しているんだ。じっさいに彼らは、そのエゴイズムによってにげるという行為に走ってしまったんだよ。健康な生活とか、心身の浄化とか、精神の進歩とかいった名目にカモフラージュされたエゴイズムだ。ちょうど自分の健康が第一だと言って、病気に感染するのをおそれて病院をにげ出す医者のようなものだよ。もし、すべての医者がそうしたとしたら、かわいそうなのは病人たちのほうだよ」


 アミの説明のおかげで、前よりもずっと状況が理解できるようになった。でも彼らの運命を考えただけでほんとうに胸のつまる思いだった。

 「こんなにたくさんの犠牲者を出さないで、平和な世界を手に入れる方法はないの?アミ」

 「とてもいい質問だ!ペドゥリート」

 「どうして?」

 「だって、それは可能だからさ。これから別の惑星の映像を見てみよう。ここに別の世界の記録がある」

 アミはあらたにコントロールボタンをそうさした。まどに新しい映像がうつった。こんどは地球やキアにとてもよく似た世界だった。人々もさまざまな人種まで地球人にそっくりだった。

 ある主要都市にある巨大な建物の入口に、たくさんの人々が集まっていた。

 「いま、きみたちは歴史的な瞬間に立ち会っている。たったいま、この惑星の世界政府が成立したところなんだ。各国から選ばれた代表者はふつうの政治家とはちがうんだ……」

 「じゃ、なんなの?」

 「宇宙計画の奉仕者たちだよ。この世界ではいま、宇宙の法、神の法による統治がはじまったところなんだよ」

 「すばらしいわ!とっても」

 ビンカはひどく感動して言った。

 「このグループは宗教界や精神界において活動するグループをはじめ、生態学者や平和主義者から構成されている。彼らが、すべての文明世界で実践されている兄弟愛に基づく共同生活を提案したんだ。そして人々が彼らの言うことをじることにしたんだよ……もうほかにはまったく選択の道がなかったんでね……」

 「どうして?」

 「世界的な規模の経済恐慌があったんだよ。それと並行しておびただしい数の核実験や環境汚染、そして地下資源の過剰乱開発。生態系の不均衡が起きて、気候の異変が農産物をおかしはじめていた。そして新しい伝病やペスト、疫病、さらに世界各地でたくさんの戦争があった。社会システムの対立が原因でひき起こされた戦争もあれば、国境をめぐる戦争、異なった宗教間の戦争もあった。すべてのお金が戦争につぎこまれ、飢餓や貧困、恐怖が世界じゅうのいたるところに生み出されていた。人々はもううんざりしていたんだよ。そんな世の中にね。

 そしてこの集団狂気をなんとか食いとめる可能性のある道が、ひとつだけのこされた。そんなわけで、みんなの合意を得て平和的にそれをこころみることにしたんだよ」


 まどガラスを透していろいろなシーンがうつし出された。

 「いまちょうど世界政府のあらたなる法が、執行されるところだよ」

 すべての都市の何千、何万という人々がぼうだいな量の戦争兵器の前にいる。ぼくの惑星のあるひとたちにとっては、まさにほこりの対象である小銃、機関銃、大砲その他あらゆる破壊的な武器が山積みにされている。

 「なにしているの?」

 「すべての国、いやいまとなっては元・国、つまり世界政府の州の自治体が武器を別のものにかえているところなんだ」

 大きな袋が金属を溶かしていた。港では戦艦を輸送船に、空港では戦闘機や爆撃機が旅客機に、戦車はトラクターにと、つくりかえられていた……。

 ぼくはそれを見ていて、アミからさいしょ教わっていた預言者イザヤの言葉を思い出した。

 聖書にあるその言葉をここに書いておこう。


 “……そして彼らは、その剣を鋤の刃に、その槍を、かまに打ち直し、人々は人々にむかって、剣を上げず、二度と戦いのことを習わない”(イザヤ書2章4節)


 炎が金属を溶かしているあいだ、人々は感動にうち震えながらある歌を合唱していた。そして、多くの人々は熱いなみだを流していた。まさに友愛と平和の象徴的な場面だった。

 「これからよく注意して見ていてごらん。いちばんいいシーンだ」

 とアミはぼくたちに言った。

 空に何干、何万というかがやく飛行物体があらわれ、円を描いて炎のまわりをとびはじめた。人々は感動とよろこびのあいさつを送っている。いくつかの円盤は下降し、搭乗員が円盤からおりて、破壊と暴力を永久に放棄したその惑星の人々と合流してよろこびを分かち合っている。


 空からの訪問者が拡声器を通して地上の群衆にむけて話しはじめた。

 「この惑星のみなさん、きょうの記念すべき行事は、宇宙からの建設的なインスピレーションの力を受けています。それはあなたがたのハートのいちばんすばらしい部分に影響をあたえ、未来をすくうための戦いを推進させました。あなたがたは自分たちのエゴイズムや無知や不信や暴力を克服しました。これは“宇宙親交世界”に仲間入りできる証でもあります。

 これからはもう未来に、あなたがたの前に、苦悩は待っていません。宇宙の調和と合致した、愛によって総治されるシステムづくりができるよう、豊かな科学や精神上の知識をすべてあなたがたに提供しましょう。そうするためにわれわれはきたのです……」

 人々は幸せいっぱいの表情でだき合ったり、驚嘆したり、円盤のほうに両手を大きくひろげたりしている。

 そのあまりにも感動的な場面を前にして、ビンカは人目もはばからず、大声を出して泣きはじめた。

 ぼくは胸につきあげてくるつよい感動をなんとかおさえ、アミにひとつの質問をした。

 「どうして、ここにいるひとたちは、空とぶ円盤の出現にまったく恐怖心をいだいていないの?」

 アミは笑って答えた。

 「とてもかんたんなことだよ。前もって情報は知らされていたんだ、この惑星にいるわれわれの仲間によってね。

 愛によって動いているすべてのグループや団体は、われわれの存在と援助のことを知っていて、人々がすべての武器をなくし統一を果たしたあかつきには、自分たちの兄弟にあたる宇宙人の円盤があらわれるというわれわれのメッセージを、予言として人々に説いていたんだよ。そのおかげで、ここのひとたちは世界主義的な意識をじょじょに受け入れつつあったんだ。だから、きみたちの使命というのは、とても重要なんだよ」


 ビンカは目の前にくりひろげられていた兄弟愛的な光景に感動してさけんだ。

 「わたし、あそこに行きたい!お願い、アミ、つれていって……」

 アミはそれを聞いて笑って言った。

 「ぼくになにを注文しているのかまるでわかっていないようだね。いいかい、この映像はずっとむかしのことであって、このできごとが起きているときには、きみたちの世界では、まだ文字すら生まれていなかったんだよ」

 「そんなこと、信じられないわ……」

 「とにかく信じることだね」

 「どうして、そんなむかしの古い映像をうつしているの?それともこれ以後、たすかった文明はひとつもないとでも言うの?」

 アミの笑いからぼくは、また自分が見当ちがいのことを言ったのだとすぐにわかった。

 「この映像を選んだのは、このひとたちのすがたが、きみたちにとてもよく似ているからなんだよ。そのほうがずっと身近に感じるだろうと思ってね。もし、その気になれば、おなじような光景はこの銀河系に数千とあるし、どんな時代のものでも見せてあげることができるよ」

 「とにかく、わたし、じっさいに行ってみたい。そして、数千年後にどんなふうに進歩したかということをたしかめてみたい」

 「つれていってあげたいけど時間がない。いま見た世界は現在、きみたちが行ったことのある文明世界にとてもよく似ているとだけ言っておこう。でもいまではもうたったひとつの人種しかいないんだよ。そして……」

 「たったひとつの人種だって!?でも、いろいろな人種のひとがいるじゃない……」

 「そう、でも時とともに混血し合って、ひとつになっているんだよ。だから、もうもともとあったそれぞれの人種の原型っていうのは、まったく存在していないんだ」

 ビンカはちょっと悲しそうな顔をして言った。

 「じゃ、いまここにうつっているひとたちは•••…もうみな死んじゃったんだ……」

 アミはそうじゃないと言わんばかりに明るい表情をして、

 「とんでもない。いまでもみんなピンピンしているよ」

 ぼくたちはとてもじられないといった顔をして、説明を求めるようにアミを見た。

 だってオフィルでは、六十歳くらいに見える男のひとがほんとうは五百歳近い年齢だった。いま、うつっているひとたちは、オフィルで見た男のひとよりもずっと若く見えるのに何千歳ということになる……。


 「いちど、ある未開世界がそれを脱して“親交世界”に入ると、そのひとたちは永遠に生きつづけられるんだよ……」

 ビンカもぼくも目と口を大きくあけたままだった。

 アミはそれを見てまた笑った。

 「笑ってごめん。でも、きみたちの顔を見たら、ついおかしくてね……でも、とうぜんだよね。とてもびっくりするだろうけど、これはほんとうのことなんだ。われわれの科学と精神界における発見が、細胞の老化を食いとめることを可能にしたんだ。“親交世界”に入れば、その知識すべてを受け取ることができるからね」

 ぼくにはほとんど理解することができなかった。あのオフィルの男のひとは五百歳だというのに、いまここにうつっているひとよりも年をとっているように見えた。つまり細胞の老化が起こっていたわけだ。

 「どうして、オフィルのあの男のひと、若く見えなかったの?」

 「それは、彼のからだがそれほど若くないからだよ……」

 アミは少しいじわるげに答えた。

 「それ、どういうこと?……」

 「すべてのひとが、永遠に自分の細胞が老化しないことを望んでいるわけではないんだ。なかには、ほかのひとよりもはやく進歩するひともいる。そうなるといままで住んでいた世界が“小さく”なるんだ。もっと上の世界に行かなければならない。それにはいままで使っていたからだを返さなければならない。そのからだのまま行くわけにはいかないから、古いからだがもう使えなくなるまで老化させる必要があるんだよ……」

 「死ぬまで?」

 「からだだけね。“親交世界”のひとたちは、肉体からはなれても目ざめたままで、どうやったら意識を持続させることができるのかを、ちゃんと知っているんだ。こうして、意識も記憶も失わない状態で、古いからだから新しいからだへとうつるんだよ……永遠のいのちというのは、“親交世界”の文明にたどりついたひとたちにとっては、はっきりと保証されている事実なんだよ」

 「保証されている?」

 「うん、それにはきみたちの世界の“聖書”を正しく解釈できなければならないんだ。そこには永遠のいのちが約束されているだろう、あるひとたちの……」

 「じゃ……死はどういうことなの?……」

 「死なんて、どこにも存在していない。神がそんなことを許すほど悪だと思っているの?ただ状態の変化があるだけで、魂は永遠なんだ。未開文明のひとたちは前世の記憶を維持したまま肉体が変わるということを許されていない。それが“死”という幻想を生み出すんだ。でも“文明世界”のひとたちはみな過去の経験をはっきりとおぼえているんだよ」

 ビンカはうっとりとして聞いていた。

 「じゃ、上の世界にはどうしても行かなくちゃならないね」

 「そのとおりだよ。でも、くりかえすけど、それは自分で手に入れなくっちゃならないんだ。努力なしにはなにも手に入らないからね。アンブロキィータは種をまかなければ収穫できない」

 「なに?そのアンブロキィータって?」

 「ぼくの惑星の、とてもおいしいくだものだよ……」

 それを聞いて、ほくはアミが前の旅で、ぼくを彼の惑星につれていってくれると言っていたのを思い出した。

 「ところで、アミ……」

 とぼくが言いかけると、

 「そうそう、ところでアミ、わたしをアミの家に招待してくれるって言ったでしょう?」

 とビンカが言った。

 「ぼくの家だって?」

 アミはおどろいたふりをして見せた。

 「ぼく、そんなこと言わなかったよ。ただ、両親を紹介するって言ったんだ。知っていると思うけど、文明世界に行っても、まだ円盤から出ることはできないからね。じつは、これから、まさにぼくの惑星にむかうところなんだよ。銀河人形へね」


 「銀河人形?それなぁに?」

 「ぼくの住んでいる惑星のことだよ。すぐにつくよ!」

 「なんてかわいい名前なんでしょう」

 とビンカ。

 「少なくともきみたちの惑星の名前よりは聞いた感じがきれいだよね。だって、キアとか地球とかいうのはあまり詩的じゃないからね」

 文明世界の名前って、みなロマンチックなのかどうか聞いてみた。

 「ほとんどすべてがね。なかには古い名をのこしているのもあるけど。一般的にはたいてい詩的な名前を選んでつけるんだよ。世界や地方や山や川や沼や湖、道などにね」

 「キアでは英雄の名をつけるのよ」

 「英雄って、はっきり言えば軍人や戦士のことだろう?きみたちの世界は暴力的で好戦的だからね……。もしきみたちがもっと進歩していたとしたら、芸術家や科学者、師の名前をつけるだろう。そして、もっと進歩したら、もっと美しい名前をつけるようになるよ」

 それを聞いたビンカはよろこんで、ぼくのよこにきて言った。

 「ねえ、ペドゥリート。この野原をいっしょに散歩しましょう。“青い鳥通り”を通って“魔法の鏡広場”まで行って……」

 ビンカはぼくの手をとってうしろの空間へぼくをつれていった。とてもいい考えだと思ったけれど、どうもついていけなかった。

 ぼくは小心だから、第三者がいると、いつも思っていることができなくなってしまうんだ。

 「もし、しようと思っていることが他人のためになることなら、ほかの他人の意見なんてポケットにしまいこんでしまいなよ」

 アミがそうじゅう室からぼくに言った。

 「ペドゥリート、他人の言うことばかり気にせずに自分じしんになれることを学ぶんだ。翼のついたハートの意味をもっとよく理解するようにね」


 ビンカはふたりの遊びに、アミがテレパシーで干渉してくるのをいやがった。彼にむかってマイクロフォンでアナウンスするまねをして言った。

 「搭乗員の方へ申し上げます。ほかのメンバーのプライバシーには、どうか干渉なさいませんようにお願いいたします」

 「まったくそのとおりだね。“文明世界”には、個人のプライバシーを軽視しているという罪がある」

 とアミが言った。ビンカはそれを受けてじょうだんを言った。

 「じゃアミ、どうして牢屋の中に入っていないの?」

 「申しわけない。ぼくには他人が考えていることをキャッチできるという大きな欠陥がある。きみたちはとてもよい未開人だから、考えるときにものすごいボリュームの雑音を出す。ボリュームをいっぱいにあげたラジオの音を聞かないでいるというのはやさしいことじゃないよ。

 まだ、きみたちは自分の思考を鎮めるってことを学んでいない。もし、その方法をわれわれが知らなかったとしたら、どうなると思う?テレパシーが発達しているから、聞こえてくる不協和音だらけでもうたえられない状態になるよ。だから、われわれがきみたちの世界で仕事をするときは、その“雑音”が少ない場所を選んで、そこを経由するんだよ」

 この話にはとても興味をそそられた。でもビンカは、ぼくとふたりだけで話をすることを望んでいた。彼女に悪いから、口に出さずに頭の中で話しかけるやり方でアミに聞いてみた。

  “地球のどんなところが、思考の〈雑音〉の少ないところなの?”

 「惑星という巨大な有機体の中では、よりせんさいな部分があるんだよ……」

  “すべての場所がみなおなじじゃないの?”

 「かみの毛の細胞と脳細胞はおなじじゃないだろう?それとおなじように惑星にも特別なところがあるんだよ。その地点はエネルギーの放射がほかの場所に比べてずっとせんさいなんだ。そこに住んでいるひとは“雑音”がより少ない。だから、われわれにとっては、その地方を経由するほうが望ましいんだよ」

 「もうこのへんで、わたしたちふたりだけで話をさせてくれたほうがずっと望ましいわよ」

 とビンカがじょうだんとも本気ともわからない声で言った。

 「わかった。わかった。でもなるべくきみたちの混乱した思考やコントロールをうしなった感動の“雑音”をたてないようにね」

   “感動も雑音をたてるの?”

 と、また頭の中で話しかけてみた。

 「ネガティブな感動や、コントロールできない感動は、最悪の“雑音”の原因なんだよ。

 でもこのへんにしておこう。ビンカに円盤から追い出されてしまうとこまるからね」

 と笑ってつづけた。「きみたちの安っぽいメロドラマはそんなに長くつづけられないよ。もうついたからね。ぼくの惑星、銀河人形だ」


 

【感想】

 とうとうクラト老人の書いた羊皮紙の内容が読めました!これは画期的な内容だな、と思いました。確かにこのように「愛」を定義している言葉にはなかなか出会えません。「愛は感情ではなく、存在」なんだ、と。これが誰しもの中にあるんだ、ということをいかに確信できるか。そして、愛はあっても、冷めきっていると「度数」700度にはならない。そうするとアミが見せてくれた惑星の過去のように、失敗した場合に救出されない、、、。なんだか、怖い感じがしますが、自分の愛の存在に気づいたら、「度数」は間違いなく上がっていくと思います!ぜひ、ご自身の愛の存在に確信を持ちましょう!!

 

 また、“親交世界”に入った後の「死」の定義も興味深いですね!地球上でも「不老不死の薬」とか「永遠の命」とかを探しにいく物語はありますが、まさに、「死」そのものが無くなる世界の実現方法を知ることができましたね!イエス・キリストが復活したのも、キリストだけではなく、誰もが「愛の度数」が上がれば可能だということです!!

 

 さらに、アミのテレパシーの能力も同じで、「愛の度数」が高まれば、みんな頭の中がわかってしまうようになるのですね。取り繕ってみたり、ばれてしまうから嘘がつけない世界であれば、みんながみんな本当の気持ちで生きるようになる、それは「愛の度数」が高まっていたら全く何も気にする必要のない、心地よい温かい気持ちで生きられる世界なのでしょうね!

 

 アミの物語の中だけの世界観ではあったとしても、想像するだけでワクワクします!

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