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【朗読】31)『もどってきたアミ』第13章 カリブール星で双子の魂を知る

更新日:8月19日

エンリケ・バリオス著の『もどってきたアミ』の朗読と個人的な感想です。





【文字起こし】

(漢字表記も含め全て原文のままです)


第13章 カリブール星で双子の魂を知る


 「じゃ、ふたりとも聞いて。これからきみたちが想像もつかないおどろくようなところへ、この宇宙船が“位置する”あいだ、ぼくはクラトが半皮紙に書いたものをきみたちの言葉に訳さなければならない。だから、そのあいだふたりでそのへんで遊んでいてね」

 とアミは笑って言った。

 そのとき、ぼくはこの円盤が時間・空間を通過しているあいだに、もしこのとびらをあけたとしたら、いったいどうなるのだろうかという疑問が浮かび、とても知りたくなった。

 それを聞いたアミは、考えただけでもゾッとするといった身ぶりをした。そして、“なんてとんでもない考えを起こすんだ”と言わんばかりの顔つきをして、同意を求めるかのようにビンカを見た。

 でも、ビンカもぼくとおなじようにそのことをとても知りたがった。形勢は二対一となった。

 「わかった、わかったよ。きみたちがいま、知りたがっていることは、じつはぼくも知らないんだ。とてもいい考えだよ!とびらをあけてみよう。いったいどうなるかね」

 アミはそう言うと顔色を変え、イスから立ちあがった。そして完全にとびらをあける決心をしたかのように、とてもかたい表情をして応接室のとびらのほうへとむかった。

 ぼくたちは、とてもおどろいて、あわてて彼をひきとめた。

 アミが身をよじって大笑いをはじめたとき、それがまた彼のじょうだんだということに気がついた。

 「そのへんでふたりして、いろいろ話でもしていたらいい。ぼくは目的地につくまでにこれの訳を終えたいんでね……。でもどこにもさわっちゃダメだよ。宇宙のちりになりたくないんだったらね……ハハハ……。ウーン、それにしても、この仕事はほくにとってかんたんなことじゃない。だってまったく知らない文字で書かなくちゃならないんだからね……」

 彼の前にあるスクリーンには、ぼくたちの使っているアルファベットとならんで、いろんなきみょうな文字が書いてあった。アミはボタンを押し、スクリーンを見ながら文字を書いていった。 

 彼のやることをとても興味深く見ていたら、ビンカがぼくのかたに手をのせて言った。

 「ねえ、じゃまにならないようにアミをそっとしておきましょ。ふたりで円盤の中を探険してみない?」

 「それはいい!うしろからスパイされるのは、なんとなく気分のいいものじゃないからね」

 とアミがじょうだんめかして言った。

 ぼくはそのときまで、この円盤の細かいところまで注意して見たことはなかった。そこでビンカとふたりでひとまわりしてみることにした。そのときの記憶をもとにして描いたかんたんな図をのせておくことにする。


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 そうじゅう室のうしろに別の空間があったので、ふたりでまずそこに行った。

 まどの外はキラキラした白い霧が見えるだけだった。

 「まどの外にいったいなにがあるのか知りたい……」

 ぼくはなんだか夢見るような感じでつぶやいた。

 いま、彼女をこうしてつぶさに見ていると、別世界の女の子と話しているということが、どうしても信じられない気持ちだった。

 彼女はぼくのよこにきて、言った。

 「ねえ、ペドゥリート、わたしをはじめて見たとき、どう感じた?」

 「どうって……えーと……ほんとうのこと?」

 「ええ」

 ぼくはうそをつくのがあまり得意ではないので、正直に感じたとおりのことを言った。

 「あまりいい印象じゃなかった……。で、きみはどう感じたの?ぼくのこと」

 「わたしもおなじ、さいしょは。でもすぐに気持ちが変わってきて、いまはもうぜんぜん

ちがうの……」

 「どう感じるの?いまビンカ……」

 「わたしがいつも夢見ていたひとはこのひとなんだって……」

 ぼくもまったくおなじことを感じていた。でも、彼女の言ったように、かんたんに、しかもぴったりと自分の気持ちを表現できなかった。

 「ぼくもまったくおなじだよ。とても深い思いがどんどん大きくなるような……」

 彼女のむらさき色のひとみは、まるで光をはなっているかのように、かがやいて見えた。美しすぎるくらいだった。ただおたがいに見つめ合っただけなのに、ぼくたちはトランス状態におちいって、まったく別の次元にいるように感じられた。

 「禁じられたロマンスには要注意!」

 とアミがそうじゅう席のほうから言った。

 でも、ぼくたちは彼の言葉を無視して、そのまま見つめ合っていた。

 「ビンカ、いつまでもきみとこうしていっしょにいたい」

 ぼくは彼女の手をとって言った。

 アミがまた遠くから干渉してきた。

 「ふたりともそれぞれに、ほんとうのパートナーがいるってことを忘れないようにね。そのことに忠実であるべきだよ」

 そう言われると、考えこまざるをえなかった。

 しばらくして、彼女がこう言った。

 「ほんとうにわたしたちのこと、禁じられているって感じる?」

 「ううん、ぜんぜん。でも、もしそうだとしてもかまわないよ。だいいち、いったいどうやって感じているものを、感じないようにできるっていうんだい?意志の問題とはちがうんだよ」

 「未来の出会いのこと、未来のパートナーのことを忘れないようにね……」

 ふたたびアミの声がふたりのあいだにわって入ってきた。

 ぼくはあの日本人の顔をした女の子のことを考えた。あのふしぎな体験をしていたとき、ぼくはたしかに彼女に対してとても大きな愛を感じた。でもいまは……ビンカがこうしてぼくの目の前に現実として存在している。あの子はもうただの思い出にすぎない。

 「ビンカのほうを永遠に選ぶ」と確言をもってはっきりと言った。

 「わたしもペドゥリートを……」

 アミはそうじゅう席からぼくたちを見て笑った。

 「熱しやすい乗客のおふたりさん、その熱い火を消すのはかんたんだよ。それにはほんのちょっとのそよ風があればいいんだ。ガラボロや子羊の肉の件のようにね」

 アミはぼくたちのはれ物にふれた。おたがいにきびしく非難し合ったことを苦々しく思い出した。ぼくたちは手をにぎり合ったままでいた。

 しばらくしてからビンカが言った。

 「ぺドゥリート、いいこと、わたしもうどんなことがあっても、あなたのどんなことを知ろうと、けっしてこの愛にうたがいをもたないわ。たとえどんなに距離がふたりをひきはなそうと、たとえどんな障害がふたりのあいだをひき裂こうとしても、あなたはわたしにとって、ゆいいつのひとよ」

 彼女の目には小さななみだがかがやいていた。ぼくもまったくおなじように感じていた。だから、そのときのぼくの言葉は、ぼくの心の奥底からわき出た正直な気持ちだった。

 「ビンカ、ぼくは、きみと知り合う前にはいつも自分はひとりだって感じていた。でも、もうたとえいっしょにいられなくなったって、きみはいつもぼくの心の中にいる。ぼくたちはこれからずっと永遠にいっしょだってことがわかった。きみといれば、ぼくはもうさびしくない……よく説明できないけど、きみはもうぼくの中にいて、これからもずっといつづけるんだ」

 ぼくたちはだき合った。あれはいままでのぼくの人生の中でいちばん美しい瞬間だった。あのときからぼくたちふたりはたったひとつの存在のように感じ合えるようになった……。


 いつの間にか時が過ぎていた。アミはいつもの上きげんなようすで言った。

 「罪つくりな愛はもうたくさんだ。ふたりともこっちにおいで、コピーができたからね。それにもうすぐカリブールにつくよ」

 まどを通して、目を凝らすと、暗くて青い天空を背景に、くっきりとコントラストをなした星々が見えた。

 そうじゅう室のほうへむかって走った。前方のガラスをすかして強烈な光景が目にとびこんできた。ふたつの巨大な太陽が見えた。その大きいほうは青っぽく、そして小さいほうは白っぽかった。

 「あれがシリオだよ」

 「シリオ?どっちが?」

 とぼくはとまどって聞いた。

 「両方ともだよ。地球からだとこのふたつの太陽はひとつのように見える。地球からはずっと距離があるし、ふたつともすごく近くにならんでいるからね」

 「ぼくはシリオって惑星かと思っていたよ」

 「いや、はっきりとは説明しなかったからね。あのかがやいている点、見える?」

 アミはブドウ粒くらいの大きさに見える青い球体を指さした。

 「カリブールだよ。これからあそこへ行こう。植物を研究栽培するために使っている惑星なんだ。広大な“宇宙植物園”といったところかな。あらゆる植物がわれわれの手で栽培されていて、なにか優れた品種ができると、それを必要としているところへもっていくんだよ」

 「何人くらいのひとが住んでいるの?」

 「ほんの数人の遺伝技師が住んでいるだけなんだよ」

 円盤はあっという間に、そのかがやく球体に接近していった。どんどん近づいていってまどいっぱいにひろがったとき、地球とはかなりちがうことに気がついた。すべてがやわらかそうなうす青い色調を帯びていた。

 リラ色の静かな海に接して大きくひろがったむらさき色の砂浜の上をとんだ。

 ビンカは歓喜の声をあげた。

 「わー、なんてきれいなの……!下におりられないの?」

 「うん、おりられるよ。ペドゥリートにここにつれてきてあげると前の旅で約束していたんだ……。シリオの見えるむらさき色の海岸だよ」

 アミの言うとおりだった。

 「ここの空気や重力、気温や植物群がきみたちに対してなにか異常をおよぼすような心配はまったくないよ。もちろん、きみたちもこの惑星に対して安全無害だ」

 円盤はいったん空中に停止し、それから下降し着陸した。

 「ぼくはこれから行く旅の準備をしておかなければならないから、きみたちはそのあたりを散歩していたらいい。なにもこわがることはないよ。きみたちに危害をくわえるようなものはないからね。でもなにも食べちゃダメだよ。わかった?」

 「うん」

 とびらがあいた。贈段をおりて、砂浜の上をふたりで歩きはじめた。オフィルで見たのとおなじような大きな太陽の青い光が、砂浜を照らして、とても美しかった。

 「ウーン……なんてすがすがしい空気なの!まるでお花と海草をミックスしたような香りだわ……」

 胸いっぱい、空気を吸いこんでビンカが言った。

 とても大きな太陽なのに、あついガスの層があるため、光のつよさは地球やキアやオフイルよりもずっと弱かった。それは地球の日没時の海岸を思わせるようだけれども、それよりははるかにせんさいな印象だった。それに地球にはむらさき色をした砂浜もリラ色をした海もない……。

 ふたりで手をとり合って歩きはじめた。しばらくするとまがり角にたどりついた。そこをまがるとあたりは一面、お花畑が海までひろがっていた。

 ビンカは顔をかがやかせて言った。

 「ここはまるで天国だわ!」

 ぼくたちは海岸に背をむけ、お花畑に入りこんでいった。前方に低い木の林が見えてきた。まるで人工的につくったような木で、葉のかわりに細い繊維が生えていて、幹の樹皮はみがかれたように光っていた。


 巨大な太陽が海面にむかってゆっくりと沈みはじめた。夕陽が水色にかがやいてビンカを照らし出した。ふたりで木の下にすわった。地面に落ちて積もった繊維が、咲き乱れた花々のあいだにやわらかなクッションをつくってくれていた。

 長いあいだ、鏡のような海面にうつった夕陽の反射を見つめていた。

 いままでこんなにふしぎな、そして美しい夕陽を見たことはなかった。

 背後からの光に照らし出され、ビンカのかみの毛がかがやきはじめた。ほくたちの背後にある木のむこう側から、もうひとつの太陽が顔を出したのだ。

 「見て!別の太陽だ!」

 「うわあ!日の出と夕陽が同時に見られるなんて……」

 ぼくたちは幸せいっぱいな気持ちになり、なぜだかわからないけれど笑い出してしまった。

 しばらくすると、ビンカは少し悲しい表情になってぼくに言った。

 「たぶん、これって正しいことじゃないのかもね」

 「これって?」

 「わたしたちふたりとも、だれかが未来でわたしたちを待っていることを知っている……」

 ぼくはだまりこんでしまった。彼女の言うとおりだった。

 「アミは結果的にぼくたちを傷つけてしまったよ。ぼくたちをこうして知り合わせたんだからね。こうなるって可能性は予測できたのに、さけることだってできたはずだ……」

 ビンカは時間がこのままとまってしまうことを願っているかのようだった。

 「でも、いまがわたしの人生でいちばん美しいときよ……ありがとう。アミ」

 ぼくもまったく同感だった。皮肉にも“未来の出会い”だけが、ぼくたちのこの幸せをさまたげるゆいいつのものだった。

 「ビンカ、きみの未来のひとってどんなひと?」

 たぶん、しっとからだろう、ぼくは彼女の相手のことが無性に知りたくなった。

 「ペドゥリート、もう、それは永遠に忘れてしまったほうがいいわよ、おたがいに」

 「そうだ、そうだね。ぼくはもうあのひたいにほくろのある女の子のことは忘れよう。ビンカ、きみも“青い王子さま”のことを忘れるんだね」(訳注:スペイン語圏では、とくに十代の女の子が理想の男の子のことを“青い王子さま”と言う。異星人ビンカにその意味はわからない)

 「でも、どうして青いって知っているの?ペドゥリート」

 「どうして、そんなこと言うの?ビンカ」

 「だってほんとうに青い色していたんだもの……」

 「それじゃ、たぶん双子の、魂はすべて青い色をしているんだよ。だってぼくが見た女の子も青いはだをしていたもの」

 そう言うと、ビンカはきゅうに興味を示して、もっとくわしく説明するようにぼくをうながした。

 「ぼくは沼の上の空中をゆらゆらと浮いていたんだ。白鳥がぼくにあいさつしてね。野や花や草が歌を歌っていた。そして彼女がぼくを待っていたんだ……」

 「バラ色のつる草としまもようのざぶとん?」

 ぼくは度肝をぬかれた。どうして知っているんだ?

 「ビンカ、きみはぼくの本を読んだんだろう?」

 「もし、私の本を読めばおなじことが書いてあるのがわかるわ。その女の子の立場からね」

 

 「じゃ、あれ……、きみなの!!」


 ぼくたちはつよくだき合った。ふたつのからだがこのまま溶けて一体になってしまうくらいに。

 もうなんの罪の意識も感じる必要はないんだ。幸せで息もできないくらいだった。あの“未来の出会い”のときに感じたのと、とてもよく似た気持ちだった……。

 「もう、そのくらいでいいだろう?ロマンスは」

 アミの声がした。花のあいだから笑顔でぼくたちのほうを見ていた。

 「アミのうそつき!」

 ビンカはおこったふりをして言った。

 アミはぼくたちの双子の魂は、それぞれがいま住んでいる惑星にいると言って、ぼくたちの仲のことを禁じたんだ。

 「ただ、きみたちじしんで発見してほしかっただけなんだよ。だってそのほうがよかったろう?」

 「でも、うそをついたわ……」

 「たとえばもし、“きみのパートナーを紹介するよ”なんて言って紹介したとしたら、なにかさけられない関係みたいに感じたろうし、それにおどろきも感動もないよ。このほうがずっと自然でいい。わざと障害物をおいて、はたして乗りこえられるかどうか試してみたんだよ。でも、ふたりともとてもじょうずにやってのけたよ」

 円盤にむかって三人で歩きながら、ぼくはアミに聞いた。

 「あの“バラ色の世界"での出会いはいつのことなの?」

 「なんどもいっしょになったり別れたりしたあとのことだよ。これからきみたちは未来にむかう人生の中で、そのつどそのつどおたがいをさがし合い、そのたびに出会うようになるんだ。そうしたなんどもの出会いのあとでバラ色の世界に住むようになるんだ。そして、さいごにはふたりは合体してひとつの存在となる。そうなったら完全だ。いまはまだおたがいにひとつの存在の半分でいる。はなれながら進歩・進化していくんだ」

 「じゃ、いまは別れなくっちゃいけないの?」

 ビンカが悲しそうに言った。

 「そうだよ、ビンカ。きみはすぐにキアにもどらなければならない。ペドゥリート、きみは地球にね。きみたちは使命のことをけっして忘れちゃダメだよ。きみたちが自分たちの惑星の兄弟に奉仕しなかったとしたら、それはエゴのあらわれだ。エゴイストはよい水準に達していない。よい水準に達していないひとは、双子の魂に出会うことができない。

 これはほうびなんだよ。より進んだ世界に住めるようになるのとおなじで、それぞれが努力して勝ちとらなければならないものなんだ。もしきみたちが愛に奉仕しなければ、その分だけますます運命は、きみたちが出会いから遠のいていくようにはたらく。反対に他人に対してはやく役立つようになれれば、出会いはよりはやくなる運命にあるんだ」

 円盤の階段に足をかけるのが悲しかった。

 「別れなくちゃならないのはつらいよ……」

 ぼくは言った。

 「そんなことはないよ。もうおたがいにおぎない合うパートナーがいるってことは知っているんだ。思い出して待つことができる。それに話すことだってできるんだ……」

 「エッ?どうやって?アミ。なにか特別なマイクでも貸してくれるの?」

 「そんなもの必要ないよ。ふたつの魂が愛によって結びついたときには、コミュニケーションはもう時間や空間に支配されないんだよ」

 とアミはほほえんで言った。

 


【感想】

 カリブール星はリラ色の海とむらさき色の砂浜があるのだそうですね!リラ色ってご存知ですか?リラというのはライラックの別名で、うすいピンク紫みたいな色ですね!想像しただけで、幻想的です。広大な海全体がリラ色だなんて!!!


 この章で双子の魂の正体がドラマチックにわかりましたね!それにしても、アミが「嘘」をついて、二人の間に障害物を設けましたが、これもアミがちゃんと考えてくれていて、二人が自分の双子の魂だと自分たちで感じ合える機会を与えてくれましたね!なんでもそうですけど、人に言われて気づくより、しっかりと自分自身でつかみ取ることの方が何倍も楽しいし、嬉しいものですものね!


 この後、ペドゥリートとビンカは別れて生きる運命ですが、離れながら進歩・進化していくことができるし、なんといっても、「コミュニケーションは時間や空間には支配されない」とのことです。これをわたしはテレパシーのようなもので、いつでも意識の中で意思疎通ができるのかな?と想像しました。なんてステキ!

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