【朗読】29)『もどってきたアミ』第11章 愛を知る老人クラト
- 学 心響
- 8月4日
- 読了時間: 16分
更新日:8月4日
エンリケ・バリオス著の『もどってきたアミ』の朗読と個人的な感想です。
【文字起こし】
(漢字表記も含め全て原文のままです)
第11章 愛を知る老人クラト
キアにおりてまずさいしょにつよく感じたこと、それはその独特のにおい、あのなんとも言えない未知の芳香だった。とてもすがすがしかった。まるで別世界の聖地にでも足を踏み入れたような気がした。見知らぬ惑星の表面にはじめて自分の足をつけて歩く歓喜をぼくはいま、どう表現したらいいんだろう……。
ぼくたちが小屋のほうにむかって歩いていくあいだ、老人はおどろきもせずにぼくたちをとても好意的に見つめていた。
“イヌ”(?)は長いくびをふりながら、こっちにむかって近づいてきた。とても大きく見えたので、ちょっとおどろいた。でもビンカはその異星の動物に近づいて、その長い毛をなではじめた。その動物はまるでネコがよろこんでいるときにするように、頭をビンカのからだにこすりつけた。
その動物に対するビンカの信頼しきったようすにもおどろいた。見た目は大きくてこわそうだけど、きっとあまり獰猛な動物じゃないんだろう。
「とんでもない」
とアミが言った。
「なかにはとっても狂暴なのもいる。地球のイヌとおなじようにね」
「でも、ビンカ、どうしてこの動物が、危険じゃないってわかったの?」
「ああ、だってくびをふってきたでしょう、だから……」
地球のイヌがうれしいとしっぽをふるのとおなじように、この動物は長いくびをふるんだ。
「なんていう名前なの?」
「ブゴっていうの。とってもかわいいでしょう?」
ビンカが言った。
「トゥラスク、トゥラスク!こっちにおいで。お客さんのじゃまをしちゃダメだ」
とこんどは老人がその動物にむかって言った。
「ブゴという名前だと言ったのに、彼はトゥラスクって呼んでいる。なんだかぼくにはわけがわからないよ」
ビンカはまるでぼくの頭のていどをうたがうかのようにして見て言った。
「この動物はブゴっていうの。でもこのブゴにつけた名前がトゥラスクなのよ」
「あ~あ、なんだ。そうだったのか」
とぼくはなっとくして、頭をかきながら言った。
“空とぶ両生類”とでも呼べそうな、とてもきみょうな動物が少しずつ、すがたをあらわしはじめた。なかにはぼくたちの頭上にまでとんでくるものもいた。
そのうちの一匹がアミのかたにとまった。ビンカはおどろき、その動物に近づこうとした。すると、それはサッとアミのかたから空高くへととび去ってしまった。
「信じられないわ!」
とビンカは言った。
ぼくにはなんのことを言っているのか、さっぱりわからなかった。
「ガラボロはとてもおくびょうでけっしてひとに近づかないっていうのに、アミのことはぜんぜんこわがらないなんて……」
彼女がアミから遠のくと、またさっきの動物はその長い足でアミのかたにとまった。
「ぼくはすべての動物の友だちなんだよ、ビンカ」
と言って、アミはきみょうな言葉でその動物と話しはじめた。
「ハハーッ、わかったよ。だからわしに会いにきたんだ」
と老人がじょうだんを言ったので、みんなは大笑いをした。
アミが老人に近づいていくと、またガラボロは小屋の上空へととび去っていった。
ふたりは再会を祝い、おたがいにだき合った。
「きょうこそ準備してあるごちそうをいっしょに食べてくれよ。鍋いっぱいにガラボロがある。ひと晩じゅう、辛子ソースにつけてあるんだ。ウーン、すごいごちそうだよ。それに発酵させたうまいジュースもひとビンあるんだよ。ときどき、こうやって楽しむのも悪いことじゃない」
「とんでもない。このネクロファゴ!このかわいそうな動物たちが、けっしてきみたちに近づかないのはとうぜんだよ。だって彼らは、もしつかまったがさいご、きみたちの胃袋の中におさまってしまうってことを、ちゃんと知っているからね」
ぼくはそのときこの会話を聞いて、なんだかこの老人に少し反感をおほえた。いったい、どうしてこんなにかわいい罪のない動物をへいきで殺して食べることができるんだろう?
「でも、とてもおいしいのよ、アミ」
と言ったのは老人ではなく、なんとビンカだった……!
彼女もそれを食べるとは!! そしてそれだけではまだ不足とばかりにつけくわえて、こう言った。
「ももを焼いたのが、いちばんおいしいの。つばさのスープも大好き……」
これを聞いてビンカに対するイメージがきゅうげきにガラガラとくずれ落ちた。彼女のことを、まるでジャングルに住みヒトを食らう野蛮人のように感じた。
どうしていままで、こんな彼女にちょっとでも惹かれたりなんかしたんだろう。
アミはそのとき、老人の耳に翻訳器をつけているところだったが、ぼくの考えていたことをキャッチしてビンカに言った。
「この愛らしい動物をつかまえて殺して食べるなんて、とても悪いことだよ、ビンカ。われわれの地球の友だちは、そのことにとてもショックを受けているんだよ、いま」
彼女はおどろいたようにぼくを見た。そして、なんとか自分の正当性を理解してもらおうと説得をこころみた。
「ここでは、みんなガラボロの肉を食べるのよ。子どものころからの習慣なの。とってもおいしいから……ちょっと食べてみたら……」
「イヤだ。ぼくはぜったいに食べない!」
ぼくはうで組みをしてプイッとそっぽをむいて言った。
「ブラボー!そうこなくっちゃペドゥリート」
アミはよろこんで言った。
「ペドゥリートはガラボロの肉なんかぜったいに食べない。彼にとってそれはとても心の痛む、よくないことなんだ。だからビンカ、彼はいま、かなりきみに失望しているんだ。彼はガラボロは食べない。もっと別なものを食べるんだよ。おぼえているかい?あの地球の、とってもかわいくって、きみが一匹ペットとしてつれて帰りたがっていた動物を……」
彼女は目をかがやかせた。
「ああ……とてもかわいかった、えーと、なんていう名前だったかしら?」
「子羊だよ。でもそう、じつはそれはペドゥリートの大好物のひとつなんだよ……」
こんどはビンカが、ぼくのことをまるで罪人か頭のおかしい者であるかのように見た。
ぼくはなんとか弁解しようとした。
「で、でも、子羊の焼いたの、とても……」
ビンカは目からなみだを流していた。
「あのかわいい子羊を殺して焼いて食べる!なんてひどいこと!なんていう幻滅!ペドゥリート、ほんとうにはき気がするわ!」
アミは笑いをこらえながら、彼女をなだめはじめた。
「これは、他人のまちがいをはたから見たときに起こることなんだよ。自分のじゃなくてね。
きみたち三人はみな、おなじことをしている。子羊やガラボロを食べるのに、どちらがよくてどちらが悪いということはない。みなおなじことだ。だけどぼくはきみたちを非難したりはしない。きみたちの気持ちはよく理解できるよ。でもきみたちときたら、おなじまちがいをしておきながら、おたがいにはげしく非難し合っている。まったく、この未開人たちときたら……だからもうこのあたりで仲直りしてあくしゅしたら?よい友だちとして……ん?」
ぼくたちは、気はずかしい気持ちのまま、おずおずとおたがいの顔を見合わせた。
このアミのレッスンは、ビンカにもぼくにもとてもよく理解できた。
おたがいに手をさし出してあくしゅした。
「うん、そうだ、そうするんだよ」
老人もよろこんで言った。
「じゃ、アミ、このあたりでみんなの仲直りを祝っていっぱいやろうや。さあ」
と老人が言うと、アミはじょうだんで答えて、
「この山男はまったく礼儀作法を知らないんだから。礼儀正しいひとはまずさいしょに紹介し合うもんだよ。彼はペドゥリート。別の世界に住んでいるんだ」
「ホッホッホッー。どうりで、もしわしがそんな名前だったら、どこか別の世界へ行ってかくれて暮らすよ。ホツホッホッ――」
彼のじょうだんにぼくはムッとした。
「この子はビンカだ」
アミが彼女を紹介すると、老人は彼女ににっこりほほえみながら言った。
「たぶん、この子も別の世界からきたんだろう。キアには、こんなにかわいい女の子はいないからね」
これは、もっと気に入らなかった。彼女は老人のお世辞に笑顔で応えていた。
「このひとはクラト。キアのお百姓さんだ」
「ハッハッハッー!」
ぼくは仕返しをするために笑ってやった。彼の名前をひやかしたつもりだったが、ぼくの笑いはかなり不自然だった。
「どうしたんだい?いったいこの子は。アミ?」
「きみの名前だよ。きみが彼の名前を笑ったからその仕返しに笑ったんだよ」
「こりゃ、なんて感じやすい子なんだろう!おこらないで、“ベドゥリート”。たんなるじょうだんなんだから。でも“ベドゥリート”ってなかなかいい名前だよ……」
クラト老人がぼくの名前をきちんと発音しなかったことに抗議しようと思ったら、その前にアミが話しはじめた。
「彼にはきみの名前の音がよく発音できないんだよ、ペドゥリート。きみもかんぺきには彼の言葉を発音できない。名前や発音でけんかするなんてつまらないことだよ。そのうえ、クラトは“石”という意味だからね」
「石だって!?ハッハッハッー。でもどうして石なんていう名前なんだろう……」
ぼくはこんどはほんとうにおかしくて笑った。
「きみたちは同名異人なんだよ……」
「エッ! それどういうこと?」とぼくはおどろいて聞いた。
「だってペドロ(ペテロ)は石を意味しているだろう?きみだって“石”っていう名前だよ」
みんないっせいに笑った、ただぼくひとりをのぞいて……。
みんなはおしゃべりをはじめた。ぼくはすみのほうへ行って自問した。どうしてほくはいつもこううまくいかないんだろう……?いつもこうだ……。
アミはぼくに近づいてきて言った。
「ペドゥリート、いいかい。きみは、本来のきみの水準以下で行動しているんだよ」
ぼくはもっとわかりやすく説明してくれたらいいのに、といった目つきで彼を見た。
「小さな子どもが食事のときに服をよごしても、だれもそれを本気になってしかったりしないだろう。それはその子どもの水準による行動だからね。
でも、もしおとながおなじことをしたら、きっと周囲のひとからとがめられるだろう。だってそれは彼の水準に見合った行動じゃないからね」
「それとぼくとどういう関係があるっていうの?アミ」
「ほんとうの自分に見合った行動をしていないんだ。自分のあるべき水準で行動していないんだよ。だから、なにかをしたり考えたりするたびに、こらしめを受けて苦しむことになるんだよ。反対にきみがあるがままの自分じしんのよい部分にしたがって行動すれば、きみの人生はいつも天国そのものになるよ」
しばらくのあいだ、アミの言葉を反芻してみた。そして、そのとおりだと思った。ぼくはいまの自分とは別のひとになる努力をしようと決心した。
「いや、ほんとうの自分じしんになることで、じゅうぶんなんだよ。手に入れなくっちゃならないのはそれなんだよ……。じゃ、ぼくの友だちと話をしよう」
とアミは言った。
クラトとビンカは小屋のむこう側にある畑にいた。老人は彼女に自分の小さな畑のやさいやくだものの木々や、そのほか、そこここにあるいろんなものを見せていた。
ビンカがクラトとふたりでいるところを見たら、不快な気分が少しだけどぼくの中に生まれかけた。でも、すぐさまその感情を打ち消すようにした。行動も思考もよりよくすべきだと思ったからだ。
「ブラボー!そう思えるようになったら、それはもうひとつの進歩だよ、ペドゥリート」
とアミがよろこんで言った。
「エッ!それどういうこと?」
「きみは進歩しているんだよ。自分の思考を観察しはじめたんだからね。もう、それほどねむっている状態じゃない。ふつう、ひとはけっして自分の思考に注意をむけてみるということをしない。
悪い考えが頭の中をよぎったとしても、まったくそれに気がつかないでいるから、とうぜん自分はすばらしい考えをいだいていると思っている。これじゃ少しも進歩はない。ペドゥリート、きみはいま、自分の心を監視しはじめたんだよ。自分じしんをより深く理解しはじめたんだ。そのうえ、自分の意識の中のふさわしくないものを、取りのぞく力も獲得しつつある」
「ちょっときみたち、こっちにきて、このムフロスを見てごらん、大きいだろう……」
老人がプラスチックのようなものでできた、赤く光ったビンをいくつか両手にとって、ぼくたちに見せながら言った。
ビンカはそのひとつを手にとり、ビンのくびのところを口に近づけたかと思うと……とつぜんガブリとそれにかじりついた!そして、なんと、それをとてもおいしそうに食べはじめた……。
ぼくはびっくりした。アミはぼくが当惑しているようすを見て、笑って言った。
「プラスチックじゃないよ。ちょうど地球のビンのようなかたちをしたくだものなんだよ」
「ペドゥリートも食べたら?」
ビンカがひとつ手にとってぼくのほうにさし出した。ぼくはアミのほうを見て食べられるのかどうか聞いた。
「ひとかじりだけしてごらん」
とアミが言った。
それをかじってみた。リンゴのような舌ざわりだった。その味はほかにたとえようがなかったけれど、そのあまさはとても気に入った。
「どうしてこんなに大きなムフロスができるの?」
ビンカがクラト老人に聞いた。
「なあに、とてもかんたんなことだよ。毎晩、木に歌を歌ってやるんだよ。それが好きでね。そうするととてもよろこぶんだよ。よろこべば、ひとも動物も植物もすべてが愛をもって成長するからね」
「愛をもってすることはみな、よい結果を生み出す。だからおいしい大きな実がなるんだよ」
とアミが言った。
この木はきっと耳や口をもっていてクラトと話すことができるんだと思って、ぼくは興味深くその木を見つめた。でも、その葉も枝も幹も、まったくふつうの木と変わりなかった。
ビンカは笑って言った。
「ほんとうに!!木に歌を歌ってやるなんて……」
アミはクラトのしていることは正しいと言った。
「木や植物はちゃんと意識をもっているんだよ。とても小さな意識ではあるけれど、自分にそそがれる愛情に対してナイーブな感受性をもっているんだ。悲しがったり、よろこんだり、恐怖をいだいたり、信頼したりね」
クラトはビンカに言った。
「もっとお食べよ。ムフロスは力が出るよ。わしのようにね」
そう言うと老人は、にぎりこぶしをつくって、それを腰にあて、ほおをふくらませるポーズをした。
これを見たビンカはとてもおもしろがって言った。
「でも、それは都会の女の子が望んでいることとはちょっとちがうわ!」
アミはクラトのじょうだんを笑って、
「この老人の言うことをまに受けちゃダメだよ。流行についてはまったくわかっていないからね」
クラトはじょうだんをとばしつづけていたが、アミはきゅうにまじめな顔つきになって、一点に意識を集中しはじめた。そして言った。
「テリが近づいているようだ……」
「じゃ、きみの見えない乗りものにはやくかくれなきゃ」
とクラト老人は言った。
アミはさらに意識を集中しつづけていたが、こうつけくわえた。
「もうその時間はない。すぐそこまできている。小屋の中へかくれよう。はやく!」
そう言ってぼくたちを追い立てた。
ぼくはなんのことかさっぱりわからずちょっとおどろいたが、ビンカはとても動揺していて、ぼくにつよい力でしがみついてきた。
遠くで聞こえていたエンジンの音が、だんだん近づいてきた。
クラトはゆりイスにすわって平静をよそおった。
アミは小屋の中のかべのすき間を見つけ、そこから外のようすをうかがった。そしてロに人さし指をあてて、静かにしているよう合図すると、ぼくたちにも外のようすを見るように言った。
こちらに近づいてくる車が見えた。鉄格子にかこまれた黒光りする金属製のはこのようなものに車輪がついている。鉄格子の中にはやはり黒いガラスがあって、中のようすはまったく見えなかった。
そのとても陰気そうな感じの車は、ひどい騒音とモウモウとした排気ガスをまきちらしていて、さっきまでいた動物たちは、いつの間にかどこかへすがたを消してしまっていた。きっと、まだ消音器が発明されていないのだろう。
アミが小声でぼくにささやいた。
「消音器はあるけれど、彼らはひとを威嚇するのが好きなんだ」
黒い箱型の車が小屋の近くにとまり、中から四人がおりてきた。そのすがたを見ただけでおそろしくなった。彼らは肥満した毛むくじゃらな巨体で、ゴリラのように見えた。
ヘルメットにもかた当てにもくつにも、くび輸にもすね当てにも、すべてのものに、角のようなたくさんの突起が出ていた。服のかわりに金属の鎧をつけ、四人とも手には棍棒をもっていた。顔はサルというより人間に似ていた。ピンク色をした顔以外、見えるところはすべてみどり色の体毛でおおわれていた。
「やい、おいぼれ! 身分証明書を出せ!」
クラト老人は彼らに目もくれず、灰色のマントのひだのあいだから機械的に証明書を取り出し、さし出した。
テリのひとりがそれを乱暴にひったくり目を通した。
「このあたりでワコを見かけなかったか?」
「テリは見たけと、テリ・ワコもテリ・スンボも区別がつかない。わしにはみなすべてテリだ」
老人はあたりの景色を見ながら、少しも取り乱さずに答えた。
「生意気な!人間とけだものの区別がつかないって言うのか?」
「ああ、それならつくよ。人間はおたがいに愛し合い、建設し合うけれど、けだものは憎み合い破壊し合うんだ」
老人の答えに、武装した毛むくじゃらは気分を害した。
「頭、どうしましょうか。この老いぼれ、ちょっと棍棒で痛めつけてやりましょうか?」
「ほっとけ、ほっとけ、どこにでもいるすきっぱらを抑えた夢想家のスワマのことだ。ほっとけ。ハッハッハッハッ……」
ここまではすべてなんとか順調だった。問題はそのあとだった。
「おい、掘っ立て小屋の中をちょっと見てこい!」
ぼくははらに一発パンチをくらったようなひどいショックを受けた。ビンカはぼくのうでを前よりもさらにつよくつかんだ。
アミは両手を大きくひろげてぼくたちふたりをつつみこみ、ほほえみながら、こわがらないようにとささやいた。
クラトは少しでも彼らの気をそらそうとして言った。
「小屋を見たって、さがしているものはなにも見つからないよ。武器もスンボも……あ、失礼、スンボはあなたがただったね。いつも混同してね。つまり武器もワコも……」
「うるさい、老いぼれ。いいかげんにだまらないと肉体労働にかり立てるぞ!武器工場にはワコもスワマももっと必要だからな」
テリはとうとう小屋の中に入ってきた。そして、すみずみまで調べた……。ただぼくたちのいるところだけをのぞいて。見つかってもいいはずなのに、ふしぎに見つからなかった。
「頭、だれもいませんぜ」
「そうか、じゃ、ひきあげよう。やい、老いぼれ、もしこのあたりでワコを見たら、すぐに知らせるんだぞ。たっぷりほうびをやるからな」
そう言うと、四人は車にもどり、キーンというするどい、不快な音をたてながら遠くのほうへと消えていった。
【感想】
キア星で出会った新しい動物や人を想像するのには正直、ちょっと大変でした。いかに自分が想像力を使わずに生活しているのか、思い知りました。
「ブゴ」は大型犬のような姿をしているけど、喜ぶときは首を振り、猫みたいに体を摺り寄せる。
「ガラボロ」は警戒心の強い鳥みたいな動物、食べるとすごく美味らしい。
「ムフロス」はプラスチックみたいに見えるりんご味のくだもの。
「テリ」は緑色の体毛でゴリラみたいな姿でピンク色で人間みたいな顔を持つ。粗暴。
「ワコ」はアミやペドゥリートやビンカみたいなひと。
「スワマ」はクラト老人みたいなひと。
「スンボ」はワコと真逆の性質を持つひと。
こんな感じでしょうか?
この章で印象的だったのは、自分と違う価値観の人を責めがちだという事実を客観的に見られたということです。ペドゥリートやビンカが「ネクロファゴ」(死骸を食べる)に関して自分を正当化したり、相手を非難したりしている姿は滑稽に思えますが、実はココロの中でごく頻繁にやっていることです。それをアミが知らせようとしてくれています。アミの愛を感じる場面です。
また、「木に歌を歌ってあげると美味しくなる」という場面で、「木や植物」が意識を持っている、とアミが言っていました。これを信じるかどうかは自由ですが、意識があると思うと、すごく愛おしさが増します。この考え方でいると「伐採」や「切り花」に対する罪悪感が出る人もいるかもしれませんが、それは人間のためにその運命を受け入れていくれる木や植物への感謝に変えていきたいですね!
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