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【朗読】28)『もどってきたアミ』第10章 太陽の師の存在

エンリケ・バリオス著の『もどってきたアミ』の朗読と個人的な感想です。




【文字起こし】

(漢字表記も含め全て原文のままです)


第10章 太陽の師の存在


 「ここは地球じゃないか」

 ぼくはやや幻滅して言った。まどから見えてきた風景はほかならぬ地球のそれだったからだ。少なくともさいしょはそう思った。

 ビンカがすぐに、ぼくのまちがいを正してくれた。

 「ここはキアよ。あそこに見えるのがルビニア砂漠」

 この海に面した砂漠を見て、ぼくはまさに北アフリカの海岸と勘ちがいしてしまったのだ。でも地球にはない赤道直下のふたつの大きな島が目に入ってきたとき、たしかに別の星にいることに気がついた。

 前回アミと旅したあとでかなり地理を勉強した。そのおかげで、すぐに自分でまちがいに気がついた。でもそれ以外は、海の色もたくさん浮かんでいる白いくもも森林も砂漠も地球そっくりだった。

 「ちょっと幻滅だなあ……」

 と少しじょうだん混じりに言った。

 「……ぼくは赤や黄色の海とか、青やオレンジ色をしたジャングルのある惑星を期待していたのに……」

 「おなじような進化過程にある世界は、ほとんどすべてとてもよく似ているんだ。おなじ法則がおなじような結果を生み出しているからね」

 アミが説明してくれた。

 

「ペドゥリート、でも似ているだけよ。すぐにわかるわ」

 とビンカが言った。

「われわれがキアにやってきた目的は、どうやったら愛を手に入れられるかをきみたちに教えることができるひとに会うためだ。スクリーンでさがしてみよう……ウーム……彼のコード番号はこれだ。ほら、ここにいるよ。おいで」

 スクリーンにとても古ぼけた掘っ立て小屋がうつった。人気のないさびしい丘の斜面に建てられたその小屋の軒下に、ゆりイスにすわったかなり年配の男のひとがあらわれた。彼はパイプをくわえておだやかにイスをゆらしながら、目の前にひろがる、いく層もの色調のみどりにおおわれた美しい谷をながめていた。

 ここがあきらかに地球ではないことを示す、いくつもの明瞭なちがいが見てとれた。

 まず、男はピンク色のかみ――といっても、それはもうほとんど白髪に近かったけれど――をしていた。ひげもおなじ色をしていた。無造作にのびたかみの毛のため耳は見えなかったけれど、たぶんビンカとおなじょうにその先がとがっているのだろう。灰色のマントを着ていて、なんとなくむかしの予言者のすがたを連想させた。彼のよこには“イヌ”?――はたしてそう呼べるのか?――がねむっていた。ネコのような顔と駝鳥のような長いくびをして、からだにはたくさんの毛がはえていた。

 低木の枝には二匹の……なんと言ったらいいんだろう?カナリアのような羽をもった二本足のトカゲのような“鳥”?•……がとまっていた。

 「たしかにここは地球じゃない」

 ぼくははっきりと確信をもってつぶやいた。

 その周辺の空にはワシのひなくらいの大きさの動物がたくさんとびまわっていた。魚か爬虫類のようなひふと大きなまるいつばさとエイのようなしっぽをもち、長い足をしていた。

 このきみょうな動物は近くの大きな沼にもぐったり、二本足で地上を歩きまわったり、鳥のように空をとぶことができた。なかには近くの木の枝にとまっているのもいた。とりわけショッキングだったのは、人間を思わせるその顔つきだった……。

 「まったく、へんてこな動物でいっぱいだね、ここ……」

 それを聞いたビンカはふんがいしたように言った。

 「へんてこですって?じゃ地球の動物はどうなのよ?」

 「べつに、少しもへんだとは思わないけど……」

 「へんじゃないって!?じゃ、あの“ひとみたいな顔をしてつばさのはえたの”はどうなの?」

 「“ひとみたいな顔をしてつばさのはえたの”だって?地球じゃいちばん人間に似ているのはサルだよ。でもサルにはつばさなんかはえていない。空をとべる動物にはみな羽が生えているんだよ」

 「でも、その“ひとみたいな顔をしてつばさのはえたの”は毛がはえていたわ、羽じゃなくてね」

 「それじゃ、とべないよ。毛の生えた動物で空をとべるのなんていないからね……」

 「でも、その悪魔みたいの、たしかに空をとべるし、毛もはえていたわ……その顔つきといったらばけ物そのものよ、身の毛がよだつようだったわよ!」

 「ほんとうに地球の動物のことを言っているの?地球には幸いなことにそんなへんてこな動物はいないけどね……」

 アミはだまってぼくたちのやりとりを楽しんでいた。

 「それだけじゃないわ。そのうえ、血を吸って生きているの」

 「ビンカ、いったいなんのことを言っているの?」

 そのとき、ぼくは彼女が言おうとしている動物にまったく心あたりがなかった。

 アミがぼくたちの会話に入ってきた。

 「バンパイヤ、吸血コウモリのことだよ」

 「まだわからないの?アミが言うにはその動物はまっ暗闇の中でもレーダーを使ってとぶことができ、扇風機の羽根のあいだをケガもせずにくぐりぬけることができるんだって。それが少しもへんじゃないって言うの?」

 

 なるほど、たしかにビンカの言うとおりだと思った。でもぼくは、そう言われるまでコウモリのことをいちどもへんだと思ったことはなかった。

 アミはスクリーンを消した。円盤はゆっくりと下降しはじめた。

 「信じられないようなことや、すばらしいことがいつもわれわれの目の前にはある。でもあまりに見なれてしまって、それにまったく気がつかなくなっているんだ……。

 それじゃ、これからさっきの老人に会いに行こう。きみたちはきっとなにか教えられることがあるからね」

 ビンカは希望に胸をときめかせて言った。

 「きっとすごい賢者にちがいないわ……」

 「賢者だって?あの山にこもったきりのじいさんが?とんでもない。あることについてはよくわかっているけれど、そのほかのことといったらほとんどわかっていない、ごくごくふつうのひとだよ」

 ビンカの表情が失望に変わった。

 「でも、わたしになにか教えられるんだったら、そのひと、わたしよりはるかに進歩してなくてはならないと思うわ」

 アミは笑って言った。

 「まったく典型的な未開人のごうまんさだね。じゃいいかい、もしも司令官の師がきみを弟子として認めたとするよ……」

 ビンカは赤面しながらも自分の言ったことを、なんとか正当化しようとした。

 「そういうことも言えるんじゃないかと思ったのよ……。アミがそのひとにはほとんどわかってないこともあるって言うから、わたしによく教えられないんじゃないかと思ってね……」

 「ビンカも、ペドゥリートもよく聞いて。いいかい、宇宙の教育システムっていうのは段階的につくられているんだよ。ある段階にいるひとがその上の段階にあがれるように手だすけできるのは、すぐ上の段階にいるひとたちだ。つまり、下の段階にいるひとは、すぐ上の段階にいるひとによってたすけられるんだよ。まだ自分が低いレベルにいるにもかかわらず、司令官のような高い次元の師や、いやそれどころか神じしんを要求して、自分よりは一段階、あるいはもっと上の段階にいるひとをへいきでけいべつするひとが少なくない」

 「そのとおりだよ、アミ。でも、ビンカの言うことも正しいと思うよ。だってそれほど高い段階にいない指導者っていうのは、多くのことを知らなすぎると思うけどね」

 「その指導者がかりにずっと上の段階のことはわからなくても、ずっと下の水準にいるひとにとって、それはどうでもいいことなんだ。自分より少しでも上にいるひとの教えてくれたことをきちんと消化することができれば、それでじゅうぶんなんだよ。まだ足し算も引き算も知らない生徒にとって、たとえその先生が高度な数学をよく知らなかったとしても、そんなことまったく問題にならないだろう」 

 こんどはアミの言うことが、ふたりともはっきり理解できた。

 「これから会うその友だちはきみたちの知らないことを知っている。どうやって愛を手に入れるかということをね。まずさいしょにそれから勉強することだ。そして、いつか司令官のような水準に達したときにはじめて、司令官の師のようなひとを師とすることができるんだよ」

 「その師ってだれ?」

 「地球のある太陽系の中でいちばん進化した魂だ。前の旅で話した太陽のひとたちのひとりだよ」

 「なんていう名前?」

 「ペドゥリート、名前にはとても気をつけなくっちゃいけないよ。それは混乱を引き起こするとだからね。いいかい、ある師はある地域ではとても崇められている。でも別のところでは別の師が崇められている。そして、それが崇教戦争を生み出すんだ。でも、われわれが求めているものは、そんなものではなくて平和と統一だ。そうだろう?」

 「うん、でもその中でだれかが本物であるはずだよ……」

 「すべて、みんな、本物だよ」

 「うーん、わかったよ。でもその中でもだれかが、いちばん偉大なはずだろう、ほかの師にくらべて……」

 「すべての太陽の光はみなおなじようにかがやいて闇を照らしている。みなおなじた光源から出てね」

 

その比較については理解できたような気がした。だけど、なんとなくうれしくなかった。ぼくは勝ちたかった。ほかの師をおさえてぼくの師がいちばん偉大だと、アミにはっきりと言ってほしかった。彼の口からそう聞きたかった。でも、彼はぼくのまちがいを正してくれた。

 「その偉大な存在は、きみの世界のための精神的な、霊的な長だ。あるとき、あるひとが彼の叡智により天啓を得る。そうするとそのひとは偉大な師に変貌する。なぜなら太陽の精神の教えを伝えるからだ。そうやってひとつの宗教が生まれる。

 何千年かたって人類はいくらか進歩する。別の教訓が必要になってくる。そして別のひとがおなじ精神によって天啓を得る。こうやって新しい師と新しい宗教が生まれる。

 でも、すべての宗教に霊感(インスピレーション)をあたえているのはおなじ精神なんだよ。また千年がすぎ、さらにつぎの千年がすぎ、あらたにその進歩と人類の必要に応じて、別の教訓をひろめるために別のひとが選ばれる。こうやって別の師と別の宗教が生まれる。そして、人々はその名前に混乱をきたし、宗教戦争をひき起こすまでにいたる。でも、それがすべて愛であるその偉大な精神と、愛によって道を照らすために送られてきた師を、どれほど深く傷つけるかということをまったく理解できないでいるんだ」

 「知らなかったよ、アミ。じゃ、その精神ってなんていう名前なの?」

 「名前、名前……ほんとうにこまった問題だよ。精神にかんしたことに身分証明書のようなものは存在しないんだ。精神の世界では、分類や分離といった想念は消滅してしまっているんだよ。ただひとが、かってに分類し、ふり分け、限界や境界をつくってしまうんだ。心の中に愛があるときには、宇宙はすべて一体となったひとつの大きな存在だっていうことに、いまに気がつくようになるよ……」

 「でもその師には、なにかしらの名前があるべきだよ……」

 アミは笑いをこらえきれずに言った。

 「わかったよ。どうしても名前がほしいんだね。じゃ太陽の師とでも言っておこう」

 「ああ、そのほうがずっとはっきりするよ。じゃ、その太陽の師がすべての偉大な師にインスピレーションをあたえているんだね」

 「そのとおりだよ、ペドゥリート。このことがはっきりわからないかぎり、地球に平和はありえないよ。宗教的な分裂は国境やイデオロギーの分裂とおなじように、あるいはそれ以上にとても危険なものなんだよ。宗教の意味が愛を実践することだということがはっきりと理解できないでいるかぎり、宗教や師の名をはり合ったところでなにも得るものなんかないんだ」

 「太陽の師は人間のかたちをしているの?」 

 「うん、神じゃないからね。たとえ神の意志にしたがって行動しているにしても。そしてその上には銀河系の精神的な、霊的な長がいるんだ。さらにその上にこの宇宙のすべての銀河系を統治している精神があるんだ」

 「神?」

 アミはぼくの声が聞こえないふりをした。

 「その上を四次元が統治して、その上に五次元……といったぐあいにつぎつぎにね」

 「で神は?」

 「神はいつもきみのハートの中にいるよ。きみは名前をつけるのが好きだからインティモ(心の奥底)とでも呼んだらいい……。じゃこれからキアへおりていこう」

 「おりるって、円盤でおりるの?それともぼくたちの足で円盤の外へおりるってこと?」

 少しワクワクして聞いた。だって、ぼくはまだいちどもじっさいに自分の足をつけて別世界を歩いたことがなかったからだ。

 「その両方ともしよう」

 「うわっ――――!すごい!」

 「ここはきみの惑星と“兄弟”にあたる世界だ。われわれの遺伝学の技師が、両方の世界におなじウイルスが存在できるようにしてある。だから、きみにもキアのひとにもまったく危険がないんだよ」


 数秒後にはあの掘っ立て小屋の近くについた。そうじゅう盤のランプは円盤が視覚不可能な状態にあることを示していた。

 まどから見おろすと、動物たちはもうぼくたちの存在を感じ取っていた。“イヌ”(?)は遠吠えのような声を出していたし、“トカゲ”(?)は恐怖を感じて、うずくまり、仲間どうしだき合っていた。空をとんでいたあの動物は沼の中にもぐってしまった。

 老人はパイプをぼくたちのほうにさし出して、ほほえみながらあいさつをしている。

 「彼は古い友だちなんだよ。ぼくがくるときはいつもこの地点に円盤を停止させるのを知っているんだ」

 「どうしてぼくたちが来たのがわかるの?円盤は下から見えないはずなのに……」

 「動物たちの反応によってだよ。もうなんども見て知っているんだ」

 「どこの国にいるの?わたしたち」

 とビンカが聞いた。

 「ウトナだよ」

 「じゃ、わたし、そのひとと話ができないわ。わたしたちと話す言葉がちがうもの……」

 アミはぼくにウインクして言った。

 「この女の子、ちょっとここが弱いんじゃない?」

 とアミは自分の頭を指さして言った。ぼくにはアミの言おうとしている意味がわからなかった。

 「ビンカはぼくたちが老人と会話できないって言っているんだよ……」

 「そのとおりじゃない。だっておなじ言葉を話さないんだから」

 アミはぼくたちふたりをまるで信じられないといった顔で見た。

 「これだよ……」

 と言って、アミはこめかみにひとさし指をつけてくるくるまわした。

 ぼくたちがバカだとでも言いたいのだろうか。ふたりともなにも反応しなかったので、アミはぼくたちのほうに近づいてきて、翻訳器を目の前にさし出して、

 「ほら、これだよ」

 と両方の惑星(ほし)の言葉で言った。

 やっと理解できた。

 ふたりとも自分たちのにぶさに気がついて笑い出してしまった。でもアミはとてもまじめな顔つきをよそおって言った。

 「このネクロファゴたちときたら、まったく理解がおそいんだから……」

 「ネクロファゴってどういう意味?」

 「死骸を食べるひとのことだよ」

 ビンカは心外だと言わんばかりに言った。

 「わたし、死骸なんか食べないわよ!」

 「でも死んだ動物の肉は食べるだろう?」

 「えっ!ああ……それなら……」

 「だから、きみはネクロファゴだよ。じゃ、行こう……」


 アミはぼくたちを出口のある小さなへやへつれていった。目のくらむような光がまたたいた。

 つぎの瞬間、ぼくたちは宙を浮いたままキアの地面にむかって下降していた。

 地球とおなじょうに、宇宙の基本法が愛であるということをまったく知らないひとたちが住むという惑星――キア、だから、そこはもちろん文明世界ではない。



 

【感想】

 アミが言う「太陽の師」って「天照大御神(あまてらすおおみかみ)」だ!と思った方も多いのではないでしょうか?


 地球にとってなくてはならない存在である「太陽」を崇めるということを地球上のいろいろな場所で行うことに何の違和感もありませんが、熱・太陽光・気温などなど、そういった物理的なことだけでなく、「精神的」にも太陽は「師」であることがわかり、深い納得感を得ています。


 今こそ、その精神的な意味でも「太陽の恵み」に気づき、歓び、感謝し、分かち合うのだと思います。それをすることが「宇宙の基本法が愛であることを知っている人たち」のとる行動なのかな?とも考えます。


 また、アミが「典型的な未開人のごうまん」と呼ぶことは耳が痛いなぁと思ってきいていました。確かにそれあるなぁ、、そしてそれが恥ずかしいことだとわかると正当化しようとするところも、わたしもビンカと一緒だな、と思って読んでいました。さらに「名前」という表面的なことが重要と捉えていることもどれかが「本物」であり、それ以外は「偽物」と捉えがちなところも、まだまだあるなぁと思いました。アミが言うとおり「すべて、みんな、本物」です。その意味をいかに深いところで理解できるようになるか、それをやってみたい、とワクワクしています。

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