【朗読】27)『もどってきたアミ』第9章 いよいよキア星へ
- 学 心響
- 7月20日
- 読了時間: 11分
エンリケ・バリオス著の『もどってきたアミ』の朗読と個人的な感想です。
【文字起こし】
(漢字表記も含め全て原文のままです)
第9章 いよいよキア星へ
ぼくたちの乗った円盤の外側が強烈にかがやきはじめた。およそ五百メートルくらい前方に貨物船の光が見えてきた。
「乗組員たちの顔を注意して見ていてごらん」
アミはスクリーンを指さして言った。
船員たちは、まるでばけ物でも見たかのような表情をして、デッキからこちらを見つめていた。
彼らのひとりが銃を手にとるのを見て、アミの視線になにかもの悲しいかげがよぎった。
「これが未開世界に住んでいる人間なんだ。攻撃的で暴力に満ち満ちている。自分たちの世界の生活がかこくなのは、地球と地球人が進化のいまだ低い段階にあるからなんだということがまったくわからず、宇宙のすべてが地球のようなところだと思いこんでいるんだ。でも、けっきょくはみんな一人ひとりが、自分の想像しうる世界の中に住んでいるんだからね……」
船員が発砲しはじめた。
もうこのときは恐怖を感じるかわりに、深い悲しみの念がぼくの胸にこみあげてきた。ただ奉仕するためだけに生きている兄弟たちに対して、あの男のなんという不当で攻撃的な態度……。
発砲はなおもつづけられ、ぼくの悲しみはいつしか怒りへと変わっていった。
「アミ、こんなひとたちを虫けらのように光線銃で焼き殺してしまいたいと思ったこと、いちどもない?」
アミは答える前に少し笑って、
「うん、前にも言ったように、ぼくの水準は司令官のようには高くない。ほんの数秒にしろ、ぼくの頭の中にそういった考えがよぎらないとは言えない……ぼくの中の動物としての未発達な部分がね。でもすぐにあまり進歩していない人間というのは、子どものようなものだということを思い出すよ。おもちゃの銃でおどしている子どもを許してあげるくらいのことはしてあげなくちゃね」
それを聞いてビンカはぼくに問いかけた。
「それどういうこと?よくわからないわ、わたし」
「とてもはっきりしたことだよ」
とぼくは言った。
「でも、わたしよくわからないわ。だって前の旅で、進歩した精神は子どものようだって言っていたのに、こんどは少ししか進歩していないひとのことを、子どものようだなんて言うんだもん……」
「おなじ“子ども”でもそのふたつの“子ども”のあいだには雲泥の差があるんだよ。わかる?」
とアミが言った。
「ぜんぜん」
「賢者はあまりしゃべらない。粗暴なひともあまりしゃべらない。おなじ“しゃべらない”でも両者にはとても大きな進歩の差があるだろう。わかる?」
「“子ども”という言葉は、たとえば気まぐれなひとや強情なひと、短気なひとやかんしゃくもちのひと、おくびょうなひとや他人を傷つけるようないたずらをするひと、などという意味に使われる。このばあいの“子ども”とは、少ししか進歩していないひとのことだ。
そしておなじ言葉がこんどは、善良なひと、せんさいなひと、善意をもったひとといった意味にも使われる。長い進歩や進化の結果、魂はそうした子どものように純粋になっていくんだよ」
「ああ、いま、はっきりわかったわ」
とビンカは言った。
「きみたちの本は、後者のひとのために書かれている。精神的な真実は、このとても健康的な子どもの感覚を通してのみとらえられるんだ。この精神をもっていないひと、つまり、“おとな”は、因習的な考えやみんなに受け入れられたことや、そのときどきに支配的な理論や流行や習慣にそれらが一致していないというだけの理由で、いともかんたんに拒絶してしまうんだ。こうして本にこめられている重大なメッセージの本質などまったく理解せずに終わってしまうんだよ」
ビンカもぼくもまったくチンプンカンプンといった顔つきでおたがいを見合った。
「いったい、なにが言いたいの?」
とぼくは聞いた。
「もっと先になったらわかることだよ。じゃ、これからキアへ行こう、キアへ!」
まどの外にいつもの白い霧があらわれた。
アミはイスのうしろ側にある戸だなのほうへなにか手びき書のようなものをさがしに行った。そして、スローモーションカメラでうつしたような、とてもゆっくりとしたふしぎな跳躍をした。
ぼくはびっくりして聞いた。
「それいったい、どうやってやるの!?」
「それってなにが?」
アミはとぼけたように言った。
「その跳躍だよ。まるで、宙に浮いてるような、前にもいちど海岸でやったようなやつさ……」
「ああ、よく見てて」
アミは目を閉じて意識を集中した。ゆっくりとイスの上を浮上しはじめた。上にあがったとき、とつぜん目を開け、ぼくたちにウインクした。そのとたん、ズシンとイスの上に落ちた。
「力とじょうだんは両立できないんだ」
と言いながらアミはからだを起こした。
「どうやってやるの?それ!ねぇ……」
ビンカは夢中になって聞いた。
「うーん、これ……どうやって説明したらいいのかなぁ……やりとげたいって熱望するんだよ。できるんだって実感することだよ。欲することはひとつの愛のかたちだし、愛は宇宙の最大の力だからね。そのうえ信じるひとには山でも動かせる(訳注:マタイによる福音書21章21節)。だれでもそんな力をもっているんだ。その力でね。見ててごらん」
イスから立ちあがるとアミはまどの近くまで行き、こっちを見てはずみをつけた。ゆっくりと空中を浮かびはじめ、そのままぼくたちのそばまできた。
「すごーい。信じられないわ!ね、教えて、お願い!」
とビンカはアミのうでをとった。
彼は笑って、
「とてもやさしいんだよ。意欲は力だ。欲すればどんなことでもできるんだ……」
さっそく、ふたりで挑戦してみた。でもほんのちょっとはねあがることしかできなかったので、ふたりで大笑いしてしまった。
「アミ、ぼくは以前海岸できみといっしょにとぶことができたっていうのに、いまはまったく不可能だよ。どうしてなの?」
「ああ、あの夜は手をにぎりながらやったろう。ぼくがきみにエネルギーを送ってあげたんだよ」
「エネルギー?でもどうやったらひとからひとへとエネルギーを送れるの?」
「もっと先になったら、いずれはきみたちも学校で習うようになるよ。文明世界でやっているのとおなじようにね。でもその前にまず、野獣のような殺し合いをどうしてもやめなくっちゃならない。いまのところ、さしあたっていちばん重要なことは、平和を手に入れることだ。でもその前に公正と統一を実現できないかぎり、平和は手に入らない。富んだ国と難しい国があるあいだは平和はありえない。たったひとつでも国境があるあいだは、そして、宗教にちがいがあるあいだは平和にはならない。力を手に入れるためにはたらき、苦しんているひとやこまっているひとに対してなにもしないのは、土台となる基礎を築かずに建物を建てるようなものだ。そして、もし、いつかそれらがみな解決したあとには、ぼくの敬愛する友人クスがするようなこともできるようになるんだよ」
「クスってだれ?」
「とてもゆかいなぼくの友だちさ。信じられないようなことがたくさんできるんだ……」
「どんな?」
「じゃ、ちょっと彼を呼んでみようか?知り合っておくのも悪くないからね」
「でも、どうやって?ラジオで?それとも電話で?」
「いや、マインドを通して呼んでみよう。そのほうがずっと早い……。おいで、床に三角形になってすわろう。ビンカはここ。ペドゥリートはここだ。そう。じゃいまから三人で彼に意識を集中しよう。目を閉じて、クスのことを頭に浮かべ、彼にここにくるように言おう」
ぼくたちはアミの言うとおりにした。
そして少ししてから、アミはぼくたちに、よく注意して見ているようにと言った。白い霧がぼくたちの前にたちこめてきて、うずを巻きはじめ、そのあとそれはひとのかたちへと変わっていった。ビンカはおどろいてにげ出そうとしたが、アミの笑い声を聞いて、やや落ちつきを取りもどした。
「だれかな?ぼくを呼んだのは」
とどこからともなくあらわれたひとが言った。白い服を着た若い男だった。ぼくはびっくりして、声も出なかった。
「地球からこのおんぼろ円盤までわざわざ出むいてこさせるからには、それなりに重大な理由があるんだろうね」
若い男はほほえみながらアミに言った。
「いや、ほんとうはね、クス、この子どもたちにどうやったら友だちを呼べるかを教えてやりたかっただけのことなんだよ」
「ああ、それなら重大な理由だ。子どもたちになにかを教えるということは、いつだってとても重大な理由だからね」
とクスはじょうだん半分のように言った。
「きみたちのちっちゃな頭には何百もの質問がいっぱいつまっているようだね。もう知っているようにぼくの名前はクス。“フルタイム”で地球の人々を非動物化する仕事に専念している。ぼくはこんなおんぼろの乗りものに乗らなくても宇宙を自由に行き来できるんだ。きみたちもちゃんといい子にしていたら、いつかぼくみたいになれるよ。いや、ぼくよりずっとすごくなれると思うよ。ぼくのように三次元の未開世界のような低い次元に奉仕しなければならないような罪なんか背負って苦しまないでね。ハッハッハッ――。きみたちはかろうじて文明化した、ときにはきみたちじしんでさえもほとんど住むのがたえられないような世界にいる。想像してごらん、四次元の世界からきているぼくのことを。まるで壊れたシュノーケルをつけたダイバーのようなものだよ」
「次元についてはまだほんの少ししか話してないんだよ、クス。彼らをこれ以上混乱させないでよ」
とアミがふざけて抗議した。
「わかっているよ。でも、そろそろ宇宙にはたくさんの住まいがあるってことを知っておく時期にきていると思うけどね……。きみたち、なにかびっくりするようなすばらしいことを見てみたいかい?」
ふたりともあっけにとられたまま思わずうなずいた。
「じゃ、Voila!」
とフランス語で言って、指を“パチッ"と鳴らし、とてもいいバラの香りのするけむりを出して消え去った。
「ほんとうにクスは特別だよ。ぼくの惑星がいくらわんぱく小僧の惑星だとしても、彼の惑星とくらべればまだまだ千年はおくれてる。ぼくなんかきまじめで、たいくつな部類に入っちゃうよ」
「いや十万年のおくれだよ」
と幸通のウサギ、そう、あのバックス・バニーがそうじゅう席のイスの背もたれの上にすわって、ほおを小きざみに動かしてニンジンを食べながら言った。
そうしてさいごにこうつけ足した。
「もし、きみがまじめでたいくつならまじめでたいくつ、それだけのことだよ。ぼくはもう行くよ、チャオ」
と言って、バニーはニンジンをぼくたちのほうに投げて消えうせた。ニンジンは宙に浮かびながらゆっくりと美しい花に変わった。
ビンカのひとみは、現実のおとぎ話を目のあたりにしてさらにかがやいていた。
「いったいどうしてこんなことができるの?」
「たんにを想像するだけだよ。でも、それを現実に投影できるようなつよい力が必要だけど」
「でも、この花は想像じゃないよ」
とデリケートなバラの香りを吸いこんでぼくは言った。
「それは物質化だよ。四次元の意識をもっているひとは、きみたちがとても言じられないようなことができるんだ。いつもおこたらぬ修練と信念、これさえ心がけていれば、すべては可能なんだよ……」
「どこにあるの?その四次元って」
とビンカが聞いた。
「どんなところにでもさ。ここにも、きみのへやの中にも、すべてのところにさ。場所じゃないんだ、意識の水準のことなんだよ。この水準に達しているひとは視覚可能・不可能になるのも自由自在、かべを突きぬけたり、自分のすがたかたちを変えたり……つまり別の法が支配するようになるんだよ」
「じゃ愛の法は関係していないの?」
「うわっ!なんてこと言い出すんだい!」
アミは動揺したようなふりをして言った。
「この宇宙の中に愛の法からのがれられるものは、なにひとつないよ。愛をうわまわるものはなにもないんだ。ほかのどんな法や力も、われわれが目に見ることのできるこの宇宙やそうでない宇宙も、三次元だろうと五千次元だろうと愛からのがれられるものはまったくない。
創造全体を支配しているのは、愛、つまり神なんだからね。別の法が彼らを支配しているっていうのは、たとえば、引力の法則や時間や空間に影響されないってことなんだ。別の水準の振動をもっているんだよ。それが“宇宙の創造”にかんぺきなかたちで従事しているわけだよ」
その説明はとてもきみょうに感じた。
「ぼくは神が宇宙をつくっているのかと思っていたよ……」
「そうだよ。でも、彼の創造物、つまりわれわれを通して神は宇宙をつくっているんだ。神が設計し、われわれが遂行するんだ。もし、神がすべてやってしまったとしたら、ずいぶんたいくつな話だよ……。さあいよいよついたよ、キアへようこそ」
【感想】
地球が未開世界であること、それを読むだけでも心が「ざわざわ」します。ただ、現在の地球では攻撃的になり、暴力という手段を取ったニュースがまだまだ日常的に多々あることも現実です。そんなに遠い世界のことだけではなくて、心の中で他人を批判したり、ジャッジメントすることが「争い」の始まりになることを、実はみんな知っています。知っているけど、「ざわざわ」は止められないんだもの、どうしたらいいの?わからない。となっているのが現状です。その現状を一旦、受け入れたいと思います。
「子ども」という表現を使っている場面がありました。確かに「子ども」には2つの性質を表す意味があり、その時々でどちらを使っているのかを正確に把握しないと意味が通じないことがあります。この部分でアミが言っているセリフをまとめるとこんな感じでしょうか。
子どもの意味①気まぐれ、強情、短気、癇癪もち、臆病、他人を傷つけるようないたずらをする人
子どもの意味②善良、繊細、善意を持った人
実際にわたしは②の意味の子どもらしい人に出会ったことがあります。その方々は、嬉しいときは本当に嬉しそうに笑うし、自分や誰かが傷ついたときはとても悲しみます。善良で繊細で、感情を隠そうとはしません。2歳くらいまでの子どもも本当にこのままですよね。「子どもっぽい」というとネガティブに受け取る場合が多いですが、②の意味の子どもらしい人が増える世の中になるといいですね!
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