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【朗読】23)『もどってきたアミ』第5章 気づかない本質的な欠点

更新日:6月23日

エンリケ・バリオス著の『もどってきたアミ』の朗読と個人的な感想です。






【文字起こし】(漢字表記も含め全て原文のままです)


第5章 気づかない本質的な欠点


 ぼくたちが乗った円盤は、キア星にむかっていた。

 円盤は光のようなおそいスピードで“飛行”するのではなく、たんに“位置する”だけ、つまりなんだかとてもむずかしい時間・空間の“収縮と屈曲”だとか“ゆがみ”だとかいう方法によって、いっしゅんのうちにどこにでも行くことができるのだと、アミは前回の旅で教えてくれた。

 ぼくたちがどこかに“位置”していると、いつも星はきまってのびたようになって、そのあとで白くかがやくもやがあらわれた。

 それがいま、まさに起こっていた。

 まどの外を見ながら、ぼくは光になれていないひとにたくさんの光を見せるのはよくないというアミの発言について考えていた。もちろんアミが、ぼくの考えていることをキャッチしているのは知っていたので、こう言った。

 「なんとなくはわかるけど、光になれているひとに闇を見せるのはよくない、こっちのほうはどうもよくわからない」

 それを聞いていたビンカが、

 「死ぬほどショックを受ける」

 不意に言ったので、ぼくはビックリした。

 「ビンカはそのことがわかるの?」

 「ううん……」

 「じゃ、どうして?」

 「ただ、さっきアミが言ったことをくりかえしただけよ。わたしもよくわからないわ。アミ、それどういう意味なの?」

 「うん。たとえば、ある種の悲惨な生活というものを知らないでいるひとには、きゅうに“闇”を見せないほうがいい。じょじょにいかないとね。たとえば死骸を見せることとか……」

 「でも、それはそれほどショックでもないわ」

 ビンカが、たくましい口調で言った。

 「じゃ、腐敗した死骸は?」

 「キャー!よ、よくわかったわ」

 「それと同時に、ひとの内面の闇をもさしているんだよ」

 アミはときどき、気をもたせるような言い方をする。

 「もうこのへんで、なぞめかした言い方はやめてはやく説明してよ」

 とアミにむかって言った。

 「うん。つまり、多くのひとが自分じしんのことをすばらしいひとだと思いこんでいるんだよ。自分のもっているいくつかの欠点を、まったく直視することができないでいる。その欠点は、ときにはとても重症だ。でも自分では気がつかないその欠点を、まさに他人の中にみいだすと、そのひとをひと一倍はげしく非難するということがいつも起こるんだよ。そしてとつぜんひとからその欠点を指摘されようものなら、死ぬほどひどいショックを受けるんだ。いつも自分を美しいと思いこんでいた“みにくい、幸せ者の小さなひと”の話を知っているかい?」

 「ううん、知らない」

 「それまでいちども鏡を見たことがなかったんだ。そして、はじめて鏡を見たときから悲劇がはじまったんだ……。わかるかい?」

 こんどはふたりともウンとうなずいた。

 「われわれを愛からひきはなしている、エゴという自分の中のみにくい部分には、それを支えてしばりつけている根があるんだ」

 「その根って?」

 「いちばん大きな本質的な欠点だよ。われわれにはいくつもの欠点があるけれど、その中でいちばん重症なやつだ。それががっちりとエゴを支えているんだ。ちょうど土にうまって外からは見えない木の根のように、自分で見つけるのはたやすいことじゃない。他人のほうがずっと見つけやすい。でも他人からそれを知らされると、自分を美しいと思いこんでいた“みにくい、幸せ者の小さなひと”とおなじように、われわれのかわいそうなエゴはその支えを失って、われわれは死ぬほどショックを受けるよ……」

 ぼくはどうもこの話になっとくできなかった。

 「なんでなの?もし、エゴがなくなったとしたら、もっとずっと幸せじゃない、純粋な愛にもより近づけるわけだし……」

 「まだひとりでは泳げないひとからいきなり“救命具”を取ってしまったら、たいへんなことになるよ!……」

 「またまた、なぞめいた言い方をして。それ、どういうことなの?」

 「あるていどまでの水準の人生において、エゴは一種の“救命具”のような保護者的な役目をしている。でももし、もっと上の水準に進歩したければ、その重い“救命具”つまりエゴのことだけど、それをいっしょにもっていくことはできないんだ。まず、ひとりで泳ぐことを学ばなければならない。いつか、二者択一しなければならない時機というものが、やってくるんだよ」

 「その“泳ぐことを学ぶ”ってどういう意味なの?」

 「宇宙の法にのっとって生きることを学ぶということだよ。もし愛とともに生きていけるなら、ほかにはなにも必要じゃない。でも、まだきみたちは愛をどうやって手に入れたらいいのかも知らないでいる。それだからこそ、これからキアに行く意味があるんだ」

 「アミはぼくの基本的な欠点を知っているの?」

 「もちろんだよ。マンバチャよりもみにくいやつをね」

 とアミは笑って答えた。

 「なんだって?」

 「マンバチャだよ。先史時代のとても醜悪な動物のことだ」

 ビンカは、かなり迷ったあげくに言った。

 「わたしもその醜悪な欠点をもっているの?」

 「もちろん。チャチャカ――これもおなじく先史時代のみにくい動物――のようなグロテスクな欠点をね。そうでなかったらビンカはキアにおいて使命をもってはたらいていないよ……」

 「えっ!!!わたしが使命をもっているって?その使命って?」

 「ぼくの本質的な欠点ってなんなの?」

 ふたりは同時に質問した。

 小さな宇宙人は赤んぼうのようなやわらかい笑いを見せて言った。

 「ふたりの質問にいっぺんには答えられないよ。まず欠点について、そのつぎにそれぞれがもっている使命について説明していこう」

 「使命?ぼくにもなにか使命があるの?」

 「これで質問が三つになったね。欠点については、いまここで言うわけにはいかない。なぜなら、予期しないあまりにもみにくい現実を知らされて、それにたえられるだけの用意ができていないから。きみたちはまだ“救命具”なしではひとりで泳げないんだ。だから二次的な欠点を少しずつ示していくことにしよう。これは、三人にとってそうとうデリケートな、しかもきつい仕事だ。ペドゥリート、前にきみのみにくい部分を指摘しただろう?」

 「ああ、あの“中傷”のことか」

 アミに非難されたことを思い出して、ぼくはふたたびふゆかいになった。

 アミはまた笑った。

 「いつも、おなじだよ、自己防衛の反応というのは……。“中傷”“不正”“侮辱”“非難”。

だけど、さいしょの一撃はすでにくわえてある。そのことをきみはもう少なくとも自覚している。エゴのひと枝はもう折られている。いちど欠点を見て受け入れられたら、あとはそれと闘うことができるようになる……。ときにはそれを受け入れるのに時間がかかるとしてもね」

 アミはぼくのようすを見てつづけた。

 「こうやってだんだんと基本的な欠点には近づいていける。でも同時にひとりで“泳ぐ”ことも学んでいかないといけないけど……」

 「ところで、使命のほうは?」

 ビンカはもう待ちきれないといった感じで質問を切り出した。

 ぼくはまだそのとき、アミの言うぼくの欠点やエゴについて、はっきりとはわからなかった。そして相変わらずアミがぼくを攻撃しているように思えて、とても不快だった。

 「ペドゥリート。ぼくがきみに言ったことは、きみだけでなくすべてのひとにあてはまることなんだよ」

 アミはぼくの考えていることをキャッチして言った。

 ビンカはなおもくりかえし言った。

 「じゃアミ、こんどは、使命のほうを教えて。わたしたちどんな使命をもっているの?」

 「きみたちは、ぼくの言ったとおりに本を書いただろう」

 「ええ」

 「うん」

 ビンカとぼくは同時に答えた。

 「エッ?きみも?」

 「じゃ、あなたも?」

 また、ふたりは同時に言った。

 「ふたりとも、ぼくと出会った体験を本に書いた」

 そう言ったあとで、アミはぼくたちふたりのおどろくようすをたしかめるように、見つめていた。

 ぼくは興味津々でビンカに聞いた。

 「きみの書いた本のタイトルは?」

 「アミ 小さな宇宙人」

 とビンカは答えた。

 「エッ!? それは盗作だ!」

 ぼくはおどろいて言った。アミはおなかをかかえて笑った。

 「どうして盗作なの?」

 ビンカはむじゃきな視線でぼくを見た。

 「だって、それはぼくの書いたぼくの本のタイトルだよ」

 「そう、でもなんて美しい偶然なんでしょう! で、あなたはなにについて書いたの?」

 「ええと、アミとの出会いとか、ぼくのおばあちゃんのこととか……」

 「わたしもアミとの出会いのお話。でもわたし、おばあちゃんはいないの。文明世界デバスタンへ行ったわ。それからルックナとフィルス。そして色彩の世界にも……」

 「静かに!」

 そうじゅう盤から高い音が発せられていた。赤い光がチカチカと点滅しはじめた。

 「赤警報だ。すばらしい!」

 アミがさけんだ。

 「どうして赤警報の鳴るのがすばらしいことなの?それどういう意味?」

 とビンカがちょっとおどろいて聞いた。

 「地震が近づいているんだ。ちょうどいいチャンスだ!」

 「地震だって?」

 ぼくはとても不安になった。

 「うん、地球でね。いま、地球の震動を減少させる作業をしているんだ。見学するいいチャンスだ。地球にもどろう。そのあとでキアに行こう」

 「じゃ、きみたち地震を防ぐこともできるっていうことなの?」

 ぼくは好奇心にかられて聞いた。

 「ときどき、しかもほんのいくつかの地震だけだよ。仲間の円盤がたくさん、地球を地震から守る仕事にたずさわっているんだ」

 「仲間って?」

 「“宇宙親交”の仲間だよ」

 アミはそうじゅう枠を動かしながら言った。

 ぼくは頭をかいて言った。

 「これはちょっとややこしいことになった」

 ビンカも同感というようにうなずいた。

 「こんどの二度目の旅はきみたちにとって一級上のレベルになるんだ。でも心配することないよ。少しずつ説明していこう。

 まずきみたちの使命についてだけれど、これから言うことは、もうとうぜんきみたちは知っておかなくちゃならないことだから言うけど、じつは、きみたちは、もともと自分たちの生まれた惑星の出身ではないんだ。ビンカ、きみはキアの出身ではない。そしてペドゥリート、きみは地球の出身ではないんだ」

 と言って、アミはぼくたちのおどろいた顔を楽しむかのように、足を組みかえて、イスにすわり直した。

 「そんなこと考えられないわ!わたしはキアに生まれて、ちゃんと戸籍もあるし、クローカおばさんはわたしのおしめを取りかえたって言ってたわ……」

 「ぼくだって地球に生まれたのはたしかだし、ぼくのおばあちゃんは……」

 アミは笑って、ぼくの言葉をさえぎった。

 「そのとおり。きみたちはそれぞれの惑星に生まれた。でも、本来は、その惑星の出身じゃないんだ」

 「えっ?でも、あるひとがあるところで生まれたら、そのひとはそこの出身になるんだよ」

 「かならずしもそうとは言えない。きみたちは未開世界に生まれた。でもきみたちの魂は“親交世界”からきているんだ。きみたちは自分の使命を果たすために、それぞれの惑星に生まれてきたんだよ……」





【感想】

 アミが言う「多くのひとが自分じしんのことをすばらしいひとだと思いこんでいるんだよ。」という部分にどきっとしました。わたしなりに言い換えると、「自分自身のダメさを知っているから、それが耐えられないから、自分をすばらしい人だと思いたがっている」となりますが。


 さらに、その欠点を他人から指摘されたらいたたまれないというのはその通りです。それは、確かに本当に辛いし、受け入れがたいものです。その状態のときにはまだ直視するタイミングではないのですね。そのタイミングは人によって違いますから、そのタイミングが来るまで待つことが必要です。「救命具」なしで泳げるようになってからでないと、「救命具」を手放すのは危険だ、ということ。この「救命具」とは心響学的に言うと、「心の傷」に伴ってできた「ネガティブな信念」となるのかな?と思っています。


 ビンカが使命を知りたがっていたように、自分の使命があるのであれば教えてほしい!と思う気持ちもよくわかります。一人一人使命は違いますし、自分の使命を知りたくてもなかなか分からなくてもどかしい気持ちはよくあります。さらに、生まれた惑星が「出身」というわけではない、という。。。ただ、これを読んでいるあなたも、実は地球の「出身」ではないかもしれませんね!



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