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【朗読】22)『もどってきたアミ』第4章 宇宙のダンス

更新日:6月17日

エンリケ・バリオス著の『もどってきたアミ』の朗読と個人的な感想です。






【文字起こし】

(漢字表記も含め全て原文のままです)

第4章 宇宙のダンス


 円盤が軽く振動した。


 強烈な黄色い光がそうじゅう室の中をいっぱいに満たした。光は黄色からバラ色へ、さらにむらさき色へと変わり、明るい水色になった。さいごに目のくらむような白色光になったかと思うと、とつぜんパッと消えた。そして、たえず変化しつづける外からの美しい反射光だけが、内部を照らしていた。


 「まどの外を見てごらん」


 ぼくたちは立ちあがってまどべに近づいた。外の光景は、鳥はだが立つほどすばらしかった。さまざまな色の光をはなつずばぬけて大きい星の大集団が、天空いっぱい螺旋状にばらまかれていた。

 その一つひとつの光の断片が、ゆっくりと動きながら遠のいていった。それは七色の光をはなつけむりのうず巻きのようだった。恒星、彗星、惑星……、色とりどりのくもはまるで綿菓子のようにも、燃えているガスのようにも見えた。そして、まぶしい光の線が長くのびると、うずを描きながら天空に吸いこまれるように消えていくのが見えた。


 巨大な螺旋状のものが、まるで生きているかのようにどんどん大きくなってゆき、その中に点在する光が花火のようにパッと炸裂してはちって消えていった。


 「われわれはいま、銀河系、天の川の動きを見ているんだ。これからその動きがはなつ一つひとつの小片の音を聞いてみよう」


 アミはそうじゅう桿のボタンを押した。円盤の内部はちょっと言葉では説明できないような音でいっぱいになった。高音と低音が混じり合うブンブンと唸るような音や口笛のような音、そしてはげしい雷鳴がそれにつづいた。稲妻のような閃光は竪琴の音色を思わせた。


 そして、さいごには、それぞれの音が感動的なハーモニーを奏で、まるでコンサートをくりひろげているようになった。


 「銀河系はこんなふうに聞こえるんだよ。じゃ、こんどはスピードアップしてみよう」

 アミはゆっくりとボタンを押した。星の大集団がすごいはやさで動き出した。と同時に、どんどんひろがってゆく。


 ぼくには、銀河系全体が、はっきりした意識をもったひとつの生命体のように感じられてきた。それはまるで光りかがやく目なヒトデが、自分の奏でる音楽に合わせて、そのキラキラ光る触手を宇宙の四方にひろげておどっているかのようだった。

 そうか――。こうして動きをはやくして見ていくと、コンサートもダンスもちゃんとハーモニーやメロディーやリズムをもっているんだということが、はっきりとわかった……。


 「なんて美しいの!神って!」ビンカが感動してさけんだ。


 数滴のなみだが彼女の美しいひとみをぬらし、銀河系のはなつ色とりどりの光や、火花をちらしてキラキラかがやく星々の光が、そのひとみに反射して、彼女をいっそう美しく見せていた……。


 アミはうやうやしく言った。

 「いま、われわれは神の視点にかなり近いところにいる。でも、神は、われわれのようにたんに外からながめるのではなく、同時にすべての銀河系を踊りながら楽しんでいる。神じしんが何百万、何千万もの星雲に変化して、さらに、一つひとつの内部からながめているんだ。巨大な銀河系から、われわれやもっとずっと小さなものにまでー。愛によって、そのすばらしい精神を彼のすべての創造物といっしょに分かち合っているんだ」


 あまりにも信じがたい光景を前にして、すっかり感動したビンカは、とつぜんワッと泣きはじめた。ぼくも泣き出す寸前だった。彼女をなぐさめてやりたかった。ほくは彼女のかたに手をかけ、そっとだいた。彼女は頭をぼくのかたにもたせかけてきた。とてもデリケートな素敵なにおいがした。ぼくは、彼女の黄色いかわいい蝶のリボンをつけた、やわらかいかみの毛をなでた……。


 「きょうはもうこれでじゅうぶんだ。このへんにしておこう」

 とアミが中断した。

 「なにごとも度をこすのはよくない。たとえ、美しいものについてでもね。さあ、おいで」

 アミはぼくたちのうでを軽くつかんで、彼のとなりの席へ導いた。

 ぼくはビンカをはなしたくなかった……。いったいどうしたっていうんだろう。


 イスにすわると、ふたたびつよい光が室内を照らし出した。はたして、アミはこれ以上

ぼくがおどろき感動するようなものを見せてくれるつもりなのだろうか。きっと、あんなすごいものを見せられたあとでは、どんなものもしらじらと色褪せて見えるにちがいない。


 「心に愛があれば、そんなことはないよ。外を見てごらん」

 とアミが言った。


 ぼくたちは、また温泉場の上にいた。すべてが前と変わりなかった。岩、テント、月、光……ぼくは少しがっかりした。

 「銀河系の遠くの果てまで行って、もどってきたところといったら、またもとのところだ……ぼくはもっと遠い星に行きたかったんだ……」

 アミは笑って、

 「どこにも行ってなかったんだよ、さいしょから。ずっとここにいたんだ」

 「でもぼく、外から銀河系を見たよ!」

 「コンピューター化した映像で数兆年の動きを数分にちぢめて見ていたんだよ。ちょうど高速で早送りするビデオを見るようにね」

 「でも星はちゃんとあそこにあったよ!まどの外に」

 「われわれの円盤のまどはスクリーンの役目もするんだよ。映画とおなじようなものだけど、それよりずっとリアルに立体的に見えるんだ。きみたちはこの映像と現実とを区別することができないんだ。見てごらん」

 と言ってアミは計器盤をそうさした。

 すぐに、まとの外の光景が変わり、夜から昼になった。太陽が近くの海に沈もうとしている。森林がうつった。以前、見たことのあるところだ。

 「ペドゥリート、よく見てごらん」木々のあいだからひとりの男のすがたがあらわれた。

 「あ!あの狩人だ!」

 ぼくはおどろいて言った。

 前回の旅のとき、ぼくらは銀河系のまん中にある"スーパーコンピューター"の指示にしたがって、"目撃証拠"をのこすためにアラスカへ行った。"スーパーコンピューター"とはすべての円盤のそうさに干渉しているものだ。そして、あのとき、この男は"UF0"を目撃し、おどろいて銃をぼくたちのほうにむけた。いまもそのときとまったくおなじことが起こっていた。

 「これは録画なんだよ。すべて円盤のまどにうつった光景は録画されるようになっている。それもまったく現実とおなじ鮮明さで、いつでも好きなときに見ることができるんだ」

 ぼくにはそれが録画した映像だったなんてとても信じられなかった。木々も、あの男も、空もみんなすべてそこにあった。それなのにじっさいは、もうほとんど二年も前のことだったとは……。

 男がほくたちに銃をむけたとき、ぼくは思わず前のときとおなじょうに身をふせそうになったけれど、なんとか自分をおさえることができた。でもビンカときたら、ほんとうにビックリしてイスのうしろににげて身をかくした。アミもぼくも大笑いしてしまった。

 「ビンカ、これは録画だよ。ほら、見ていてごらん」

 アミはスイッチを切りかえた。また夜の海岸がうつった。それからまたすぐにアラスカにもどった。こんどは、あの狩人はまだぼくたちに気がつかないで山道をなにげなく歩いていた。とつぜんぼくたちを見つけ、攻撃しようとした。

 「こんどは巻きもどしてみよう」

 男が前をむいたままうしろのほうに歩きはじめた……。

 「ビンカ、おいで。見てごらん。とてもおもしろいよ。まるで喜劇みたいだ」

 彼女は、アミが映像の中の狩人と遊んでいるのを見にきた。


 「アミ、録画と現実とはどうやって区別できるの?」

 と、ぼくは聞いた。

 「生きているものはみなエネルギーを発しているから、さっき説明した感覚によってそれを感じ取ることができるんだよ。でも録画はそうじゃないんだ」


 また海岸にもどった。でも、こんどはまだ夜になっていない。

 「よく見てごらん」

 アミが言った。

 なんと、そこにぼくじしんがいた!ビクトルの車をおりたときのぼくの幸せな気分が、その表情からはっきりとうかがえた。とてもおどろいたのは、そこにいるぼくが、このぼくじしんを、つまり"UFO"のほうをいっしゅん見たことだ。あのとき、ぼくにはなにも見えなかったのに……。

 「いや、見えたんだよ。その発達しつつある感覚によってね。その内的な力の前には、われわれの視覚不可能な状態というのも、まったく意味をなさないんだ……」

 アミはまた、銀河系のダンスをうつしはじめた。

 「われわれだって小さな能力をもっているんだ。想像してごらん、いま見ているすばらしい存在がもっているものを……」

 ビンカは頭が混乱しているようだった。

 「銀河系は生きものじゃないわ」

 「じゃ、なんなの?」アミが笑って聞いた。

 「たくさんの星が集まったもの。でもいのちはないの」

 「いのちがない!?いのちがないだって!」

 とアミは、まるで度肝をぬかれたように二度くりかえしてさけんだ。

 「いいかい、もしきみの肝臓の一細胞がそこからぬけ出ることができ、きみに会ったとする、彼らの時間の尺度のほんのいっしゅんにおいてね。そうしたらきみのことを、核も細胞膜ももたないきみようで不活発なかたまりだと言うだろうよ。わかる?」

 「うん、たぶん……。それで?」

 「つまり、銀河系全体はひとつの大きな生命体であって、われわれは、そのきわめて小さなミクロ的な部分だということなんだよ。だからとうぜん、銀河系はわれわれよりもかぎりなく高い意識をもっていて、はるかにインテリな存在なんだよ」

 「インテリだって!」

 ずいぶん、へんな話だと思った。

 「ペドゥリート。もしきみのからだのある細胞が、きみの右手の小指のつめの一細胞にむかって、ペドゥリートのことをインテリだと言ったら、そう言われた小指のつめの一細も、いまのきみとおなじぐらいおどろくだろうよ。気の毒にもたんに死んだかたまりでしかないきみは、宇宙の中でもっとも重要な創造物だと思いこんでいる小指のつめの、1細胞に生命をあたえるためだけに生きている存在でしかない、とね」


 ぼくにはそのアミの説明が、なんだかよくわからなかったけれど、アミにつられて笑ってしまった。

 たぶん、人間が自分のことを宇宙でいちばん重要な創造物であると思いこんでいるように、小指のつめの細胞だっておなじことを考えているよ、といった意味なんだろう。

 アミはビンカにオフィルへの旅の録画を見せはじめた。オフィル人が自分のイメージしたものをスクリーンに投影している場面にきたとき、彼女は感嘆して言った。

 「アミ、あなたたちの科学の水準や知識って、ほんとうにすばらしいのね……」

 「きみたちの世界とくらべれば、たしかにそのとおりだよ。でも重要なのはそれよりも精神の水準だ。それがいちばんたいせつなものであって、それ以外のものはたんに手段であって目的じゃないんだよ。

 つまり、科学は人々のよろこびのために使うものなんだ。最高の幸せっていうのは精神的なものなんだよ。たとえば社会的成功とか、金銭とか、物質を手に入れることができたとしても、精神的なものに対してまったく無知で、そしてハートに愛がないとしたら、そのひとの人生は物乞いをしているひとよりもはるかにみじめだよ」

 「どうして?」

 「どうしてって、愛が幸福の泉だからさ」

 「そのとおりよ、アミ」

 と言ってビンカは、ぼくをちょっと見てから、はずかしそうにうつむいた。

 アミは状況をすぐに察して笑い出した。

 「ロマンスについてだけ言っているんじゃないんだ。愛の気持ちをもって生きること、いのちをあたえてくれた創造者にかんしゃし愛すること、人生や自然や呼吸している空気を愛することについて言っているんだよ。人生のさまざまなことを愛することだよ」

 アミがそう言ったとき、ぼくは心の底から同感した。彼の言葉の意味が、はっきりとぼくの心にしみこんだ。

 「愛の贈りものを手にしているときには、たとえ物質的な富が少なくても、いつも幸福なんだよ。もし愛だけ求めたとするなら、そのうえに、ほかのものも手に入れることができるだろう。でも物質的な富だけを求めようとしたら、たとえ求めたものを手に入れたとしても、幸福はけっして得られないよ。だって、幸福とは愛の果実なんだからね」

 ビンカはアミの言葉の意味がよくわかっているようだった。

 「幸福は愛によってのみ手に入れることができるんだわ」

 「そのとおりだ、ビンカ。幸福は愛の力で勝ち取るんだよ」アミはよろこんで言った。

 「じゃ、愛は?愛はどうやったら手に入るの?」とぼくは質問した。

 「いい質問だ、ペドゥリート。ビンカ、その答えを知っている?どうやったら愛を手に入れられるのか?」

 「たぶん、物質的なものじゃないとは思うけど……」

 「そのとおり。これからきみたちにとても興味深いひとを紹介するよ。ビンカ、きみの惑星キアに住んでいるひとだ。そのひとが、どうやったら愛を手に入れられるか、というその質問に答えてくれるよ」

 「うわー!」

 ぼくは感動して言った。

 でも、正直言ってぼくには、愛を手に入れる方法を知ることよりも、別の星をたずねられることのほうが、ずっとワクワクすることだった……そう思ったら、ひとつの疑問がわいてきた。

 「アミ、でもこれから見に行くのが、現実のことなのかそれとも録画なのか、どうしたらぼくに区別できるの?ひょっとしてぼくがオフィルで見たものもすべて録画だったんじゃないの?」

 「ほんとうにいつもあふれるような信頼感だね、ペドゥリート」

 とアミは皮肉めかして言った。

 ぼくは少しはずかしくなって言った。

 「だって・・」

 「信頼することを学ぶことだ。オフィルで見たことも、これから見ることも、すべて現実だよ。ぼくを信じることだね。ぼくは、ふだん、うそはつかないよ」

 「ぜったいに?」

 ビンカは、はっきりとした答えがほしかった。

 アミはひと言ではかんたんに答えられないので、もっとわかりやすい説明の仕方を探した。


 「ウーン、たとえば……いつも闇の中にいるひとに、たくさんの光を見せるのは、けっしてよいことじゃない……。目がくらんでしまって、まぶしくてなにも見えなくなってしまうからね。また、反対にいつも光の中にいるひとに極度の闇を見せるのもよくないことだ。死ぬほどショックを受けるからね」

 ビンカもぼくも、言っている意味がよくわからない、とアミに言った。

 「過度の闇と光はものを見るさまたげになるということさ。ときには、小さな子どもにコウノトリの話をするのも悪くはないんだ……」

 「コウノトリってなに?」

 とビンカが聞いた。

 「ルティースから赤んぼうをはこんでくる鳥だよ。キアの言い伝えの……」

 「でも、それは子どもだましのお話よ……」

 「もっと大きくなったら、ほんとうのことを話してあげられるよ。でもそれは子どもがてきとうな年齢になってから、はじめてはっきりと説明すべきことなんだ」

 この機会に、そのあたりの疑問をはっきりさせたいと思った。

 「そのことをいま、教えてよ。頭の中がなんだか混乱していて、はっきりわからないんだ」

 「わたしも知りたいわ」とビンカも大きな声をあげた。

 アミはぼくたちふたりを見てなみだが出るほど笑ったあとで言った。

 「ものごとにはすべて、それにふさわしい時機や年齢というものがある。代数を理解するにはまず、足し算、引き算をおぼえなくちゃね」

 ビンカは、少々不満げに抗議して言った。

 「わたしたち、足し算も引き算も知っているわよ」

 アミは、ますますおかしそうに笑って、

 「その足し算、引き算のことを言っているんじゃないんだよ」

 アミは、視線を上にそらして、なにかいい例はないかと考えはじめた。

 「じゃ、これはどうだろう。多次元における反動の螺旋理論を理解するには、その前に相対性理論をきちんと理解する必要がある」

 とアミは、ほんとうだかうそだかわからない、むずかしいことを、笑いながら言った。

 「それを理解するのに、どのあたりのレベルにいる?きみたちは?」

 ビンカもぼくもまったくチンプンカンプンで、ただ、ポカーンと口をあけたまま、おたがいに顔を見合わせた。そして思わずふたりとも吹き出してしまった。




【感想】

 この章で印象的な部分は3つあります。


 まず1つ目は、銀河系を実際に(数倍速で)見ると泣きたくなるくらい美しいということ。数兆年を数分に縮めてみると銀河系は生き物のように、ダンスしているように見えるということ。そしてそれは初めて見るような美しさで、心が震えるほどのものであること。その美しさは想像することしかできないけど、その美しさの中のひとつの構成要員であることは知っておきたいと思いました。

 

 そして、2つ目は自分自身という人間と小指の爪の一細胞との関係性について。私の小指の爪の一細胞が私を「死んだかたまり」だと思っているのは変だよね?ということ。自分自身は生きた存在であり、小指の爪の一細胞も等しく宇宙で一番重要な創造物であるということ。大きさや場所に関わらず、そのものの価値は等しくそこにある、ということ。大きさや値段でものごとの価値を決めるのに慣れている私たちは少し理解しづらい概念ではあるけれど、アミが一生懸命、銀河を使って説明しようとしてくれています。

 

 そして3つ目は「録画と現実」の区別は、生きているもののエネルギーを感じ取る「感覚」によってできるということ。その「感覚」とは神の視点に限りなく近い心に愛を持っている状態のこと。今、人間はその「感覚」が発達しつつあるということ。物質的な豊かさでは幸福は手に入れることができない、幸福は愛によってのみ手に入れることができるということ。精神の水準を上げることが全ての目的であって、科学の発達は一つの手段でしかないこと。


 これらを文字にして読むとよく聞く陳腐な内容に感じるかもしれませんが、物語として読むとアミの言葉はすっと入ってきます。それがアミがペドゥリートに「本を書いて」と意図したことでもあるのですけどね♪



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