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【朗読】20)『もどってきたアミ』第2章 岩の上にある(?)ハートのマーク

エンリケ・バリオス著の『アミ小さな宇宙人』の朗読と個人的な感想です。






【文字起こし】(漢字表記も含め全て原文のままです)


第2章 岩の上にある(?)ハートのマーク


 もう日も落ちかけていたので、ビクトルは岩を見に行くのはやめてテントをはろうと主張した。でも、ぼくはなんとか彼を説得して、すぐに岩のところにむかうことにした。

 「しかたがないな。まっ、すぐ近くにいることだし……。でも暗くなりはじめているよ。すぐ夜になる」

 「だいじょうぶ、まだまだ明るいよ。はやく行こう。さあ」


 ぼくたちは車を岩へつづく小道にとめて、海にむかって歩きはじめた。だんだん暗くなってきて、大きな月がすがたをあらわして、あたりを照らしはじめた。"あの満月の夜"を思い出した。水面にキラキラと反射する光。入江のむこう側に火花をちらしたようにかがやいて見える温泉場。すべてがあのときとまったくおなじだった。


 感動で胸がときめき、歩調がはやまった。それにひきかえ、いとこのビクトルときたら、あきれるほどもたもたしていた。

 「暗すぎてよく見えないよ。足もともすべるし……」

 「一歩一歩しっかり歩けばいいんだよ」

 ぼくはずっと後方にいるビクトルにむかってさけんだ。

 「おーい。あしたにしようぜ……昼間に」

 「なに言ってんのさ。もう目とはなの先だよ」

 とつぜん、後方でなにか音がした。ビクトルになにかあったんだ。

 「ペドゥローーオ!」

 「ビクトル、どうしたの?」

 「水の中に落っこった。はやくきて、たすけてくれ――!」

 「ただ石の上を歩くだけのことさ。水の中じゃなくて」

 と言いながら、ビクトルのほうへむかった。

 「おれにはぜんぜん見分けがつかないよ。暗くてみんなまっ黒だ。手を貸してくれ」

 「そうやってなにも見えないって自分で決めつけてしまえば、そのとおりになってみんな闇にしか見えないよ……」

 「見てくれ、くつがずぶぬれだ。なんてこった!もうよそう。あしたにしようぜ」


 めざす岩までもうほんのちょっとだっていうのに、あしたまで待たなければならないなんて、あまりにもくやしすぎる。

 「でも、もうほとんどついたもどうぜんだよ」

 「ああ、でもこのあたりはよくすべるしあぶないよ。岩には苔だか海草だかがやたらといっぱいはえているし、潮も満ちてきている。すべって骨でも折るといけない。きょうはこのままもどって海岸にテントをはろう。おとなしくねて、あすの朝にでも見にこよう」

 「ビクトル、あぶない!波が来た。こっちの岩にとび乗って!」

 「エッ!波!アッ!」

 ジャボ―――ン!!

 こんどはくびまでズッポリと水につかってしまった。

30歳にもなっていないのに、ぼくのいとこときたらまったく年寄りみたいだ。

 砂浜にテントをはってビクトルが着がえをしているあいだ、ぼくはブツブツ文句を言いながら、たき火の用意をした。


 「まったく、ガキの言うとおりになんかするから、こんなことになるんだ……」

 ビクトルがぐちった。

 「まったく、年寄りはしょうがないや……」

 とぼくは言い返してやった。

 「安心して。もうかわいているよ。ビクトルはもうねてよ。そのあいだ、ぼくはちょっとひとりで岩まで行ってみるよ。すぐ帰ってくるから」

 「ぜったいダメだ。こんなにおそく。あそこでなにが起きるかわからない。もうねよう。すごくねむたくなってきた」

 ぼくにはとてもかんたんなことに思えたし、じっさいそうなんだ。それなのにおとなっていうのは、すべてのことを、おそろしく困難に、単なことをとてもふくざつに考えるという信じられないほどへんな美点がある……。

 「でも……」

 「だまってねな!」

 ぼくはしかたなく、彼の言うとおりにした。でもビクトルがねたあとに……。

 「わかったよ。ねよう。ねて時間でもつぶそう……」


 でも、ビクトルがねたら……。

 ぼくは長いあいだ、暗闇の中で獲物を待ちぶせるヘビのように待った。ずいぶんと長い時間がたったような気がする。やがてスヤスヤというね息が聞こえてきた。ビクトルはやっとねむりについたようだった。


 ぼくは注意深く音をたてないよう、そおっと寝袋の中からはい出した。テントの入口から頭が半分出かかったとき、とつぜんビクトルの手がぼくのうでをつかんだ。


 「どこへ行くんだ?」

 ビクトルが聞いた。

 「えーと、あのー、外、ト、トイレ、そうトイレ……」

 

 かんぺきな口実だ!いい考えがひらめいたもんだ。まさか、トイレに行くな、とはだれも言わないだろう。

 「わかった。でも、すぐにもどってくるんだぞ」

 「心配しないで。すぐにもどるから」

 彼はぼくの言うことをまに受けた……。


 テントの外に出るやいなや、ぼくは稲妻のような勢いで"ぼくの岩"にむかって走り出した。

 きみょうな力がぼくに乗りうつったような感じがした。ぼくはまるでウサギのように、石から石へととびはねるように進んだ。そして数秒後にはもう、あの岩の下にたどりついていた。


 感動で胸がいっぱいになった。岩はだをやさしくなでた。この瞬間をどれほど長くまち望んでいたことだろう!

 あとはただ岩をのぼりさえすれば、そしてハートのマークを確認しさえすればいい……。

 でも、ひょっとして……ひょっとしてなかったとしたら……?


 そううたがったとき、あのふしぎな力がぼくの中からきゅうに消えうせた。


 ぼくは、おとなのようにうたがいと恐怖で頭をいっぱいにして、ひどく苦労しながらのぼりはじめた。あちこちで足をすべらせながら……。でも、とうとうのぼりきった。てっぺんについたんだ!


 感動にひたりながらゆっくりと岩の上を歩きはじめた。暗くてマークの地点はまだ見えなかった。

 歓喜と不安のあいだを行き来しながら、そして、それをかみしめるように、胸をときめかせながら少しずつ近づいていった。


 ついにめざす地点にたどりついた。そして、すみずみまでたんねんにハートのマークをさがしまわった。しかし、なにも見つからなかった……。

 なかった! なかったんだ!


 「さいしょからなかったんだ。あれはみんなぼくの空想だったんだ。夢だったんだ……」

 ひどく落胆してつぶやいた。


 「ぼくは夢じゃないよ」

 と、ぼくの背中のほうから聞きなれた、なつかしい声がした。


 自分の耳をうたがいながら、おそるおそるゆっくりとふりかえった。

 目の前に小さな白い人影が立っていた。いつものようにほほえみを浮かべた、ぼくの大好きな"小さな宇宙人"がそこに立っていた。


 「アミ!」




【感想】

 わたしたち読者はアミと知り合ったあの岩の上に、円に囲まれた翼のはえたハートが刻まれているのを知っています。高い岩の上にあるから登るのは大変だけど、登りさえすれば誰でも見られるマークがあることを理解しています。なぜなら、『アミ 小さな宇宙人』の最後の章にそう書いてあるからです。


 うたがいの気持ちのあるぺドゥリートがそこに行って、アミと出会った証拠を見たいと懸命になっているのを、安心しながら読み進めていました。「がんばれ、ペドゥリート!必ずあるから、大丈夫!ビクトルが阻止しようとしてもめげずにがんばって!」という気持ちでいられました。


 それなのに無かったなんて!!!どういうこと???


 ペドゥリートのショックも感じるし、わたし自身も同じくらいの衝撃を受けました。(笑)


 だから無かったとわかって落ち込むペドゥリートに話しかけるアミが出てくるシーンでは、彼と同じくらいの勢いで「アミ!!!」と心の中で叫びました。

 こんなにドキドキしながら読めるなんて、本当にすっかりアミの世界に引き込まれているなぁと改めて感じました!


 




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