エンリケ・バリオス著の『アミ小さな宇宙人』の朗読と個人的な感想です。
【文字起こし】(漢字表記も含め全て原文のままです)
第六章 スーパーコンピューターと愛の度数について
ボンベイ上空をおおよそ百メートルほどの高度まで下降し、町の上空を散策しはじめた。
まるで映画か夢でも見ているようだった。白いターバンを頭に巻いた男や、ぼくの国の見なれた家とはぜんぜんちがうつくりの家々、そしてとくに通りを埋めつくしているおおぜいのひとたちが、ぼくの注意をひいた。ぼくの住んでいる都市では、中心街のラッシュ時でもこんなに多くのひとは見られない。あそこはどこもかしこもひと、ひと、ひとでいっぱいだった。あれはぼくにとってまったくの別世界だった。
表示ランプは消えている。
とつぜん、ぼくは“現実”にかえった。
「ぼくのおばあちゃんは!?」
「きみのおばあちゃんがどうかしたの?」
「もう昼だ。きっと起きて、ぼくがいないのを心配している……もう帰らなくちゃ」
アミにとってぼくはいつも笑いの種だった。
「ぺドゥリート。きみのおばあちゃんは、いまぐっすりとねむっているよ。むこうはいま、夜の十二時だ。ここは朝の十時。地球の反対側の世界だ」
「きのう?それともきょうの?」
とぼくは混乱して聞いた。
「あしたの!」 と言って、アミはおなかをかかえて笑った。
「心配は、まったく無用だよ。きみのおばあちゃんは、いつも何時ごろ、起きるの?」
「だいたい八時半ごろ……」
「だったらわれわれが時間をひきのばせるということを計算外にしても、まだ八時間半もある……」 「でも心配だ……ちょっと見てみたいんだけど」
「なにが見たいんだい。いったい?」
「おばあちゃんが目をさましているかどうかを……」
「じゃ、ここから見てみよう」
アミはある画面のスイッチをそうさした。
高い視点からとらえられた南アメリカの海岸線の映像があらわれた。そのあと、画面には下にむかって超スピードで急降下していくようすがうつった。すぐに入江、温泉場、海岸の家、屋根、おばあちゃんとつぎつぎに見えてきた。おばあちゃんは前とおなじポーズで口を半分開いたままねむっている。まるで目の前でねているようだ。信じがたいことだった。
「目をさましてしまう心配はなさそうだね」
とアミはやや皮肉っぽく言った。
「きみがこれ以上心配しないですむようにしてあげよう」
マイクの一種のようなものを手に取って、ぼくに静かにするようにと言った。
ボタンを押して「プシュ!」と音をたてた。 おばあちゃんはその音を聞き目をさました。立ちあがってダイニングルームのほうへむかった。おばあちゃんの足音や息まで聞こえてくる。半分空になったテーブルの上のぼくの皿を見てそれを台所におき、ぼくの寝室のほうへむかった。ドアをあけ電気をつけてぼくのベッドのほうを見た。すべてかんぺきだった。まるでぼくがそこにねているようだった。 しかし、ぼくにはわからなかったけど、なにかが気になったらしい。アミはすぐにそれに気がつき、マイクを口に近づけてね息をまねた。
おばあちゃんはそれを聞き、安心して電気を消しドアを閉めて自分の寝室のほうへひきあげていった。
「これで安心しただろう?」
「うん……でもとてもじられないね。おばあちゃんはむこうでねていて、ぼくたちはここで昼間だ……」
「地球人は、あまりにも距離と時間に制約されすぎて生きているからね……」
「それ、どういうこと?」
「きょう旅行に出て、きのう帰るということもできるんだ」
「まるで頭がおかしくなるような話だね……。アミ、こんどは中国に行ける?」
「もちろんだよ。中国のどこに行きたい?」
こんどは恥をかいたらいけないと、はっきりと確言をもって言った。
「東京!」
「じゃ、東京へ行こう。東京は、日本の首都だ」
アミは笑いたいのをおさえながら言った。
インドを、西から東へと横断し、ヒマラヤ山脈上空で円盤はとまった。
とつぜん、スクリーンに、みょうな記号があらわれた。
「指令が入っている」とアミが言った。
「“スーパーコンピューター”がどこかのだれかに、円盤を目撃させるようにと指示している」
「へー! それはおもしろいな。でも、どこのだれに?」
「わからない。とにかく、“コンピューター”の指示にしたがおう•••…もうついたよ」
瞬間移動システムを使ったのだ。ぼくたちは森林の上空五十メートルくらいのところに停止している。表示ランプは点灯している。それはぼくたちが視覚可能なことを示していた。
あたりは、一面、深い雪でおおわれていた。
「ああ、ここはアラスカだ」
アミが言った。
太陽がじょじょに近くの海に沈みはじめた。円盤は色を変えながら空中に大きな三角形の軌道を描きはじめた。
「どうして、そんなことするの?」とアミに聞いた。
「印象づけるためさ。あそこにいる人の注意を釘づけにするためにね」
アミはスクリーンをじっと見つめ、ぼくはまどガラスごしに彼のすがたを確認した。遠くの木々のあいだに、茶色の皮のコートを着て猟銃をもった男が見えた。とてもおどろいているようすだった。こちらにむけて銃をかまえた。ぼくはこわくなり、弾があたらないように思わず身をふせた……。
アミはぼくの不安におののいたようすを見て、おもしろがって言った。
「こわがらなくてもだいじょうぶだよ。この“UFO”は銃弾やそれ以上のものにも、じゅうぶんたえられるようにできているからね……」
ぼくたちは上昇して高い上空にとまり、たえずいくつもの閃光を発した。
「この男がこの光景を一生、忘れないようにする必要があるんだ」
目撃したことを記憶させるだけだったら、こんなにおどろかせなくても、ただ空を飛行するだけでじゅうぶんだと思ったので、ぼくはアミにそう言った。
「そうじゃない。いままで何千人ものひとがわれわれの円盤を目撃している。にもかかわらず、ろくにおぼえてすらいない。もし目撃の際に、日常の問題に頭をわずらわせていたとすれば、たとえわれわれを見たとしても、ほとんど目にも入らず、見えたとしても、とても高い確率ですぐに忘れてしまう。それは統計がはっきり示している」
「でもどうしてこの男が、ぼくたちの円盤を目撃する必要があるの?」
「それは、ぼくにもよくわからないけど、たぶん彼の証言は、別のある興味深いひととか、特別のひとに、あるいは、彼じしんにとって重要な意味をもつことになるのかもしれない。ちょっと、“センソ・メトロ(感覚計)”をあててみよう」
別のスクリーンにこの男がうつった。すると、ほとんど透明で胸の中心に黄金色の光が、とても美しくかがやいている。
「この光はいったいなんなの?」
「彼の中にある愛の量とでも……、いやいや少し厳密でないな。彼の精神における愛の強さの反映とでも言おうかな。またそれとどうじにそのひとの進歩度をもあらわしているんだ。彼のばあい、七五〇度ある」
「それはどういう意味なの?」
「とても興味深いな」
「どうして?」
「彼の進歩度は、地球人にしては、かなり高い水準に達しているんだ」
「進歩度?」
「けだものに近いか、“天使”に近いかの度合いのことだよ」
アミは熊に照準を合わせた。前とおなじように透明に見えたけど、胸の光はさっきの男よりずっと弱かった。
「二〇〇度だ」
とはっきり言った。
そのつぎに魚にあててみた。光はほんのわずかだった。
「五〇度だ。現在の地球人の平均は五五〇度で……」
「アミ、きみは何度なの?」
「ぼく?ぼくは七六〇度だ」
「あの猟師よりたった一〇度上なだけなの?」
この地球人とアミとの差がわずかなのには、とてもおどろいた。
「とうぜんだよ。われわれはほとんど似たような水準だよ」
「でもきみは地球人よりずっと進歩しているはずだよ」
「おなじ地球人でも三二〇度くらいから八五〇度くらいまでと、開きがあるんだ」
「ええ!?じゃ、なかにはきみより高い度数の地球人もいるの?」
「もちろんさ。ぼくの有利な点は、地球人の知らないある種のことを知っているということだ。でも地球にはとても貴重なひとがいる。教師、芸術家、看護士、消防士……」
「消防士!?」
「そうさ。だって他人のために自分のいのちをきけんにさらしてはたらくことは、とても高貴なことと思わないかい……」
「ああ……そう言われてみれば、たしかにそのとおりだね。でもぼくのおじさんは核科学者で、とても、貴重なひとのはずだよ……」
「たぶん、有名だろうね……きみのおじさんは核物理学のどの分野にたずさわっているの?」
「新しい兵器の開発にたずさわっている。超音波光線の……」
「もし神を言じずに兵器の開発にたずさわっているのだとしたら、かなり水準は低いと思うよ」
「えーっ?でも、ぼくのおじさんはとても博学なひとだよ!」
と抗議して言った。
「ペドゥリート。また、ものごとを混同しているね。きみのおじさんはたくさんの情報をもっている。でも、それがかならずしもインテリとはかぎらないんだ。賢者とはもっともかけはなれている。コンピューターは、ぼうだいなデータを所持できる。でもだからといってインテリというわけじゃないだろう。自分が落ちる穴を知らないで掘っている人間が賢者だと言えるかい?」
「ううん、でも……」
「武器はそれを賛美する人をいつか裏切るようになるんだよ……」
アミの言っていることは、ぼくをあまりなっとくさせなかった。でも彼のほうがずっと上なのははっきりしていた……。とにかくぼくは彼の言うことを信じるようにつとめた。 にもかかわらず頭の中は混乱したままだった。
ぼくにとっておじさんは英雄であり……そしてとてもインテリなんだ……。
「きみのおじさんは頭の中にすぐれた“コンピューター”をもっている。たんにそれだけのことだよ。おなじ言葉でも解釈のちがいが生じている。地球ではインテリとか賢者と言われているひとはたんに頭脳がすぐれているひとを意味している。それはわれわれのもっているうちのひとつの脳だ。しかし、われわれは脳をふたつもっているんだよ……」
「えっ!」
「ひとつは頭。これは言ってみれば“コンピューター”で地球人の知っている、ゆいいつのもの。でも胸にもうひとつ別の脳をもっているんだ。目には見えないけれどちゃんと存在しているんだ。こちらのほうが頭より重要で、あの男の胸にかがやいて見えた光のことだ。われわれにとって、ほんとうのインテリとか賢者とかいうのは、このふたつの脳の調和がとれているひとのことを言う。つまり頭の脳が胸の脳に奉仕するというかたちであって、多くの地球の“インテリ”のようにその反対ではないということだよ」
びっくりするようなことだったが、前よりずっとすっきり理解できてきた。
「じゃ胸の脳が頭の脳より発達しているひとはどうなの?」
「そういうひとは“善良なおバカさん”とでも言おうかな。きみの言う“悪いインテリ”にとって、だますのがとてもかんたんなひとたちなんだよ。“悪いインテリ”は、彼らによいことをしているように思わせておいて、結果的には人々を傷つけることをしているんだ……知性の発達は、情緒の発達と調和をもって進んでいくべきなんだ。こうやってのみ、インテリとか賢者というものはつくられていくんだ。こうやってのみ、胸の光は育っていくんだよ」
「アミ、ぼく、いったい何度くらいあるの?」
「それは言うことはできないね」
「どうして?」
「もし、度数が高ければ、たぶん、きみはうぬぼれるだろう……」
「ああ、そうか……」
「もし反対に、低けりゃ、とてもいやな気持ちになるよ…••」
「ああ……」
「高慢は光を消す……それは悪の種だ」
「よくわからない」
「謙虚にするよう心がけるべきなんだよ……。じゃ、もう行こう」
あっという間に、ぼくたちはヒマラヤ山脈に戻った。
【感想】
アミのスーパーコンピューターは積極的に人間にUFOを目撃させようとしていたなんて、驚きです。ましてや、どんな人に見せようとしているかは、スーパーコンピューターだけがわかっているということだなんて!また、見た人間のほとんどが忘れてしまうというのも納得です。目の錯覚や、新種の飛行機か、ドローンか、、、きっとそれらのどれかだろう、と考えて終わってしまうことが容易に予想されますから。。。
また、「愛の度数」という表現がとても素敵だな、と思いました。これはデヴィッド・ホーキンズ氏の書いた「パワーかフォースか」に出てくる「意識レベル」と同じこと表現したいのかも、とも思いました。地球人の平均が550というのも「意識レベル」と同じ感じだったからです。ただ、胸の光の強さと連動しているものだという発想はさらに真実だな、と感じました。人間が持つ「コア・スター」はまさにこの光のことですね。
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