エンリケ・バリオス著の『アミ小さな宇宙人』の朗読と個人的な感想です。
【文字起こし】(漢字表記も含め全て原文のままです)
第一章 墜落UFO
去年の夏のある日の午後が、はじまろうとしていた。
そこはほとんど毎年、おばあちゃんとバカンスに出かける海辺の温泉場で、その夏は小さな木造の家を借りることができた。家の中庭には松の木やユーカリの木がたくさんあり、庭のまわりには、色とりどりの花がたくさん咲いていた。家は海のすぐ遊くにあり、海にむかう小道に面していた。
もう、夏もおわりかけていたので、ひとの数もまばらだった。ぼくのおばあちゃんはいつも、このころ、バカンスに行くのが好きだった。そのほうがずっと静かだし、ずっと安あがりだとよく言っていた。
夕闇がせまっていた。
ぼくは人気のない海岸の高い岩の上にすわり、ひとり海をながめていた。
とつぜん、頭の上の空に赤い光が見えた。
さいしょは、照明弾かまつりのときなどによく見かける花火かなと思った。それは、火花をちらし、色を変えながら、だんだんとこちらのほうにむかっておりてきた。ずっと下まできたときに、大きさが小型飛行機かそれ以上あるので、照明弾でも花火でもないことがはっきりした。
海岸からおおよそ五十メートルくらい、ちょうどぼくのいる正面の海中に、それはなんの音もたてずに落ちた。ひょっとして飛行機事故の現場を目撃してしまったのではないかと思って、空を見あげてパラシュートをさがしたが、なにも見えなかった。あたりにはまったく人影もないし、海岸の静けさをかきみだすような物音ひとつしなかった。
ぼくはとてもこわくなってきて、走っておばあちゃんに知らせに行こうかと思った。でも思い直して少しようすを見ることにした。
なにも見えてこないのであきらめて帰ろうとしたとき、ちょうどそれが落ちたあたりのところになにか白く浮きあがったものが見えた。だれかが泳いでこっちにやってくる……。 きっと、たすかったパイロットだろう。岸までついたら、手を貸してやろう。
軽快に泳ぐようすから見て、たいしたケガではなさそうだ。
ずっと近づいてきたとき、それが子どもであることがわかった。岩にたどりつき、のぼりはじめる前に、とてもひとなつっこい目でぼくのほうを見あげた。たすかったことをとても幸運に感じているらしく、たいしたショックも受けてないようすなので、ぼくも少し安心した。
ぼくのところまでたどりつき、ぬれたかみの毛の水気をふりきってから、ニッコリとほほえんだので、ぼくもやっと平静にもどった。善良そうな子どもの顔をしていた。
ぼくのよこにすわり、深いため息をつくと、空に光をはなちはじめた星を、だまって見つめている。
年齢はぼくとおなじくらいか少し下で、背はほんの少しぼくより低かった。パイロットが着るような白い服は、防水がきいているらしく、もうぬれていなかった。くつ底のあつい白いブーツ、胸には、円の中に翼のはえたハートが描かれている金色の記章をつけている。腰には大きな美しいバックルのついた金色のベルト。両腰にはトランジスターラジオのようなものをつけていた。
いっしょにならんですわったまま、しばらく沈黙がつづいた。彼がなにも言ってこないので、ぼくのほうから、いったいなにが起きたのかたずねてみた。
彼は、
「不時着だよ」
と笑って答えた。
かなり、へんなアクセントで話すので、たぶん、どこか遠い外国からきたんだろう。
でも、とても感じがよく、大きなやさしい目をしていた。
「パイロットは、どうしたの?」
彼は子どもだったので、とうぜん、おとなのパイロットがいるはずだ。
「べつに異常ないよ。きみのすぐよこにすわっている」
「エッ!!」
とてもおどろいた。この子はぼくとおなじくらいの年で、飛行機がそうじゅうできる! すごい!きっと彼の両親は、大金もちだろう。
夜がせまってきて、はだざむくなってきた。彼はそれに気がついたらしく、ぼくに聞いた。
「さむいかい?」
「うん、ちょっと」
「とてもいい気温だよ」
と彼はほほえんで言った。
するとふしぎなことに、ぼくもさむさを少しも感じなくなった。
少したってから、これからどうするつもりなのか聞いてみた。
彼は空をながめたまま、
「任務を果たす」
と答えた。
彼はぼくのように夏休みを楽しんでいるというのではなく、なにか重要な使命をもっている特別な少年のような気がした。たぶん、なにか極秘の...。でも、それを聞く気にはとてもなれなかった。
「飛行機、なくして悲しくないの?」
「なくしてなんか、いないよ」
とわけのわからない答えをした。
「なくしてないって、だって、こわれたんじゃないの?」
「ううん」
「でも、いったいどうやって、海の中からひきあげて修理するの?それとも、それはちょっとムリかな」
「いや、ひきあげられるよ」
とぼくをやさしく観察するように見て言った。
「きみ、なんて名前?」
「ペドロ」
と答えたものの、なにか気に入らなくなってきた。どうしてぼくの質問に答えないんだ。
彼はぼくの不満にすぐ気がついたらしく、笑って言った。
「おこらないでペドゥリート(訳注:ペドロという名前の、小さいという意味や愛情をこめた言い方。例 アナ→アニィータ)、おこらないで・・・。年はいくつ?」
「もうすぐ十歳・・・きみは?」
すると、まるで赤んほうがくすぐったいときに笑うような笑い方をした。
ぼくにはできない飛行機のそうじゅうができるからって、なんだかぼくを見くだしているように感じた。なにか気に入らなかった。でも感じがよく、やさしそうなので、とても 本気でおこる気にはなれなかった。
彼は、
「きみが思っているよりもずっと上だよ」
と言ってベルトからトランジスターラジオのようなものを取り出した。それはポケット用の試算器の 一種で、スイッチを入れるとぼくの見たことのない記号が光ってあらわれた。
彼はなにかを計算してその答えを見て、笑って言った。
「いや、いや、言わないほうがいいだろう。きみはきっと信じないからね……」
やがてすっかり夜になり、空には美しい満月がのぼって、海上を照らしはじめた。月明かりの中で、ぼくは彼の顔をじっと見た。八歳以上には、どうしても見えなかった。にもかかわらず飛行機のパイロットだ...。やはり彼の言うようにもっと年上だろうか?ひょっとして、からだだけが小さいおとななんじゃないんだろうか?
とつぜん、彼がぼくにこう言った。
「宇宙人って、ほんとうにいると思う?」
じっさい、答えるのにしばらく時間がかかった。夜の星がひとみいっぱいに反射したようなキラキラした目でぼくをじっと見つめている。ふつうの子どもにしてはあまりに美しく見えた。火を吹いた飛行機、彼の出現、見たこともない、きみょうな記号のあらわれる計算器、彼のへんなアクセントや服装、そのうえ、子どもときている。ふつうの子どもに飛行機のそうじゅうなんかできっこない……。
「きみ、ほんとうに宇宙人なの?」
ぼくはおそるおそる聞いてみた。
「もしそうだとしたら••••・こわいかい?」
そのとき、はじめて彼が地球の外の世界から来ていることがわかった。少しおどろいた。 でも、彼はとてもあたたかいまなざしをしていた。
「じゃ、きみは悪者なの?」
とおずおずと聞いてみた。
彼は楽しそうに笑って言った。
「たぶん、きみのほうがほくより少し悪い子だよ」
「どうして?」
「だってきみは地球人だからね」
「じゃ、ほんとうにきみは宇宙人なの?」
「おどろかないでね」
とぼくを安心させるように言いながら、空の星を指さして、
「この宇宙はいのちで満ちあふれているんだよ。何百万、何千万もの宇宙の星にひとが住んでいるんだ……たくさんの善良なひとたちが住んでいるんだよ」
どういうわけか、彼の言葉は、きみょうな効果をもたらした。
彼の言ったとおり、ほんとうにぼくの目に、何百万、何千万もの宇宙の星の住人たちが“見えてきた”。もう、恐怖心はどこかへ行ってしまった。
彼がほかの星の人間だということを、なんのおどろきもなく、受け入れることに決めた。 とても友好的だし、悪意なんかまったくもってないように思えた。
「でも、どうしてぼくたち地球人のことを悪いひとだと言うの?」
彼はうっとりと空を見つめたまま言った。
「なんて美しいんだろう。地球から見た天空は……。この大気があの天空のかがやきや色を生み出しているんだ……」
こんどもぼくの質問を無視している。
また、なにかふゆかいな気分になってきた。それにぼくを悪い子だと思っている。大まちがいだ。ぼくはこう見えても、大きくなったら探検家になって、悪いひとをこらしめようと思っているんだ。
「あれがプレアデス…。すばらしい文明のある星だ」
「ここだって、みんながみんな悪いひとばかりじゃないよ……」
「あの星を見てごらん。いま見えているのは百万年前のものだ。あの星はいまはもう存在していないんだ…」
「地球だって、みんながみんな悪者じゃないって、さっきから言っているだろう。どうしてぼくたち地球のひとのことを、みな悪だなんて言うんだい?」
「そんなことは言ってないよ」
空を見つづけたまま目をかがやかせてこう言った。
「まるで奇跡だ……」
「さっき、言ったよ!!」
ぼくがあまりに大声で言ったので、彼はまるで夢からさめたように、ハッとわれに返った。
これじゃ、まるでぼくのいとことおなじだ。好きな歌手のプロマイドを見ているときといったら、ほんとうに夢中で話にならない。
彼はぼくをじっと見たけれど、少しもおこっているような感じではなかった。
「地球人はたいてい、ほかの星のひとほどには善良じゃないって、言いたかったんだよ」
「ほうら、やっぱり地球人は、この宇宙の中で最悪だと言っているじゃない」
すると、彼はぼくのかみをなでながら、やさしく笑って言った。
「そんなこと、言っていないよ」
そのときは、ほんとうにムッときた。頭をふって彼の手をはらいのけた。ぼくを、まるでずっと年下のバカみたいにあつかうのには、とてもがまんできなかった。これでも学校の成績はクラスでもトップグループのひとりだし、もう十歳になるんだ。十歳に!
「この地球がそんなに悪者ばかりなら、わざわざなにしに来たんだい、ここに?」
「海にうつった月をじっくり観察したことある?」
またまたぼくの言っていることを無視して、かってなことを言っている。
「わざわざぼくに、海に反射した月をよく見るように言いに来たのかい?」
「たぶん、そうかもしれない……。ぼくたちは宇宙に浮いているってことに気がついたことある?」
これを聞いて、もうはっきりとわかった。この子は気がふれているんだ。自分を宇宙人だと思いこんでいるんだ。だから、さっきからいろいろへんなことばかり言うんだ。
ぼくはもう家に帰りたくなった。彼のバカらしい空想を少しでも信じた自分がはずかしかった。ぼくをからかっていたんだ。
宇宙人だって…おまけにぼくはそれをすっかり信じた!自分で自分が情けなくなり、彼にも自分に対してもはらが立った。彼のはなづらに一発パンチをくらわしてやりたくな った。
「でも、どうして?ぼくのはな、そんなに不格好かな?…」
全身が凍ったようになった。ぞっとした。ぼくの考えていることがわかるんだ!おそるおそる彼の顔を見た。なにか勝ちほこったようにほほえんでいる。これはきっとなにかの偶然だと考えたかった。負けたくはなかった。ぼくのおどろきは知られたくない。
ひょっとすると、ほんとうかもしれない。
ひょっとしたら、人の心の中を読むことができる宇宙人かも……。でも、もういちどためしてみないことには……。
「いま、ぼくはなにを考えていると思う?」と言って、たんじょう日のケーキを想像した。
「いままでためしただけじゃ、まだじゅうぶんじゃなかった?」 一歩もゆずるつもりはなかった。
「ためしたって、なんのこと?」
彼は足を投げ出し、ひじを岩の上について、やさしく言った。
「ねえ、ペドゥリート、もっと別の現実ってものがあるんだよ。きみの知らないもっととずっとデリケートな世界がね。せんさいな知性に近づくための、せんさいな入口が……別のコミュニケーションというものがね……」
「なにが言いたいんだい?」
「いくつもの、ろうそくつけたやつ?……」
と彼はほほえんで言った。
はらに一発パンチをくらったような感じだった。泣きだしたい気分になった。
自分のおろかさに気がついた。ぼくは彼にあやまった。彼は少しも不快に思わなかったらしく、とりあおうともせずにただ笑っていただけだった。
もうこれからは、けっして彼をうたがわないと心にきめた。
【感想】
この広い宇宙、太陽系、銀河系、、、そこに地球にしか知的生命体が住んでいないと思うのは「傲慢」な気がするのはわたしだけでしょうか?
広い宇宙にいろいろな「宇宙存在」がいてもなんら不思議ではないと思います。
その「宇宙存在」が地球人を攻撃してくる存在なのか、地球人をサポートしようとしてくれている存在なのか、でも、全く印象は違ってきます。
心響学ではいつも「愛」と「怖れ」のどちらが基盤になっているかを一度考えましょう、としています。
これはやみくもに「善良な宇宙人しかいない」と信じることとは違います。
どんな宇宙人であるかはわからない、ただ、もし、自分が出会ったときには「感じる」ことはできるだろう、という信頼です。
ペドゥリートがアミを危険な存在ではない、と感じ取れたように。
また、ペドゥリートがアミが地球人のことを悪く言っていると思って腹を立てているシーンがありますね。あれは、ペドゥリートの「心の傷」が疼いています。
客観的に聴いていると「地球人は宇宙の中で最悪」だなんて一言も言っていないのがわかります。
それでも「受け取り方」はペドゥリートのものなので、ついイラっとしていますね。
自分にも大いに起こっていることなので、こうやって他人で気づかせてもらうことってありがたいな、と思いました。
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