【朗読】『星の王子さま』(2)
- 学 心響
- 2 日前
- 読了時間: 5分
サン=テグジュペリ作『星の王子さま』の朗読と個人的な感想です。
【文字起こし】
(漢字表記も含め全て原文のままです)
2
ぼくは、そんなわけで、六年まえ、飛行機がサハラ砂漠でパンクするまで、親身になって話をするあいてが、まるきり見つからずに、ひとりきりで暮らしてきました。パンクというのは、飛行機のモーターが、どこか故障をおこしたのです。機関士も、乗客も、そばにいないので、ぼくは、むずかしい修理をひとりでやってのけようとしました。ぼくにとっては、生きるか死ぬかの問題でした。一週間の飲み水が、あるかないくらいでした。
そこで、はじめての日の晩、ぼくは、およそ人の住んでいるところから、千マイルもはなれた砂地で眠りました。難船したあげく、いかだに乗って、太平洋のまん中をただよっている人より、もっともっとひとりぼっちでした。すると、どうでしょう、おどろいたことに、夜があけると、へんな、小さな声がするので、ぼくは目をさましました。声は、こういっていました。
「ね……ヒツジの絵をかいて!」
「え?」
「ヒツジの絵をかいて…」

ぼくは、びっくりぎょうてんして、とびあがりました。なん度も目をこすりました。あたりを見まわしました。すると、とてもようすのかわったぼっちゃんが、まじめくさって、ぼくをじろじろ見ているのです。まえのページの絵をごらんなさい。これが、ぼくがあとになってかきあげた、一ばん上できの、そのぼっちゃんの肖像です。ほくの絵は、もちろん、実物とくらべると、月とスッポンです。でも、それは、ぼくのせいじゃありません。六つのとき、おとなの人たちに、絵かきで身を立てることを思いきらされたおかげで、ウワバミの内がわと外がわの絵をかくよりほかは、まるきり絵をかくことしなかったぼくなんですから。
そこで、ぼくは、おどろいたあまり、目をまんまるくして、ぼくの前にあらわれたぼっちゃんをながめました。くどいようですが、ぼくは、およそ人の住んでいるところから、千マイルもはなれているところにいたのです。だのに、ぼくのぼっちゃんは、道にまよっているようすもないし、つかれきっているようすもないし、おなかがへってたまらないようすもないし、のどがカラカラになっているようすもないし、こわくてたまらないようすもありません。どこからどう見ても、およそ人の住んでいるところから千マイルもはなれている砂漢のまん中で、とほうにくれている子どもとは、とても見えないのです。ぼくは、やっと口がきけるようになると、いいました。
「だけど……あんた、そこで、なにしてるの?」
すると、ぼっちゃんは、とてもだいじなことのように、たいそうゆっくり、くりかえしました。
「ね……ヒツジの絵をかいて……」
ふしぎなことも、あんまりふしぎすぎると、とてもいやとはいえないものです。人が住んでいる、どんなところからも、千マイルもはなれていて、それに、いつ死ぬかもしれないところで、ヒツジの絵をかくなんて、とてもばかばかしい気もしましたが、ぼくは、ポケットから、一まいの紙と、万年筆をとりだしました。が、そのときぼくは、地理と歴史と算数と文法だけしか勉強しなかったことを思いだしたのです。そこで、そのぼっちゃんに(すこし、むっとしながら)絵はかけない、といいました。すると、ぼっちゃんは、こう答えました。
「そんなこと、かまやしないよ。ヒツジの絵をかいて」
ぼくは、ヒツジの絵なんか、てんでかいたことがないので、ぼくにかける、例の二つの絵の片方をかいてみました。ウワバミの外がわです。すると、ぼっちゃんが、こういうので、ぼくは、あっけにとられてしまいました。
「ちがう、ちがう! ぼく、ウワバミにのまれてるゾウなんか、いやだよ。ウワバミって、とてもけんのんだろう、それに、ゾウなんて、場所ふさぎで、しょうがないじゃないか。ぼくんとこ、ちっぽけだから、ヒツジがほしいんだよ。ね、ヒツジの絵をかいて」
そこで、ぼくは、ヒツジの絵をかきました。

ぼっちゃんは、それをじっと見ていましたが、やがて、こういいました。
「だめ! このヒツジったら、病気で、いまにも死にそうじゃないか。かきなおしておくれよ」
ぼくは、かきなおしました。
ぼっちゃんは、さも大目に見てくれるようにやさしく、にっこりしました。
「そうだな……これ、あたりまえのヒツジじゃなくって、ツノが生えてるもの……」

そこで、ぼくは、またかきなおしました。
でも、それは、まえのとおなじように、やっぱり、ぼっちゃんの気にいりません。
「これ、ヨボヨボじゃないか。ぼく、長生きするヒツジがほしいんだよ」

ぼくは、もうがまんしきれなくなってきました。それに、モーターのとりはずしをいそいでいたので、大ざっぱにこんな絵をかきました。
そして、それをなげだすように、ぼっちゃんに見せました。
「こいつあ箱だよ。あんたのほしいヒツジ、その中にいるよ」

ぶっきらぼうにそういいましたが、見ると、ぼっちゃんの顔が、ぱっと明るくなったので、ぼくは、ひどくめんくらいました。
「うん、こんなのが、ぼく、ほしくてたまらなかったんだ。このヒツジ、たくさん草をたべる?」
「どうして?」
「だって、ぼくんとこ、ほんとにちっぽけなんだもの……」
「そんな心配、いらないよ。だから、ぼく、ほんのちっぽけなヒツジ、かいたんだ」
ぼっちゃんは、絵をのぞいて見ながらいいました。
「そんなにちっぽけじゃないな……おや!ねちゃったよ、このヒツジ……」
こうして、ぼくは、王子さまと知りあいになりました。
【感想】
『星の王子さま』の訳者は数名いらっしゃいますが、わたしはこの内藤濯(あろう)氏の昔風の言い回しがやっぱり一番だと思っています。「ぼっちゃん」という言い方は最近ほとんど聞かないですが、だからこそこの小説の歴史が感じられますし。他にもウワバミを「けんのん」だとか、象を「場所ふさぎ」だなんて、センスを感じます。内藤氏の言葉のチョイスは秀逸ですね!
ウワバミが象を飲み込んだ絵を瞬時に理解する王子さまに軽い衝撃を受けたとともに、とっても嬉しくなりました!軽い衝撃はきっとわたしは理解できないであろうことを軽々とやってのける王子さまがうらやましいからだと思います。でも、その直後にその感性を持っている人の存在が、なによりも嬉しく感じました!
さらに、描くヒツジを「病気で死にそう」とか、「よぼよぼ」とか、そう感じる王子さまがすごいな!とも思いました。そして、最終的に箱を描いたらその箱の中のヒツジは寝ちゃったなんて、こんな素敵なファンスティックなやりとりはないな!と思いました!

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